657 / 793
2章 バイト先で偶然出逢わない
2章19 5月4日 ④
しおりを挟む「――出せよこの野郎」
「ぁいてっ、け、蹴らないで……っ」
ゴスっと弥堂が膝で蹴ると、男は身体を縮めながら懐を探りだした。
「ちゃんと持ってきたんだろうな?」
「あ、あぁ……」
「つか、コイツ誰ッスか?」
弥堂がジロリと眼つきを強めて男の挙動を監視していると、暢気な調子でメロが尋ねてきた。
「こいつはウマジマだ。ウマジマ ナオトという」
「あん? ウマジマ?」
「い、いや、オレはウマジマじゃなくって馬島……」
「ふぅん……?」
ビクビクしながら訂正してくる面長の男を見て、メロはニヤリと笑った。
「クラァッ! ウマヅラこのヤロウ!」
「あいてっ!」
ズビシっと馬島の足に蹴りを入れる。
「アニキがウマヅラ言ってんじゃクラァ! 文句あんのかウマヅラァ!」
「言ってないが?」
「言ってねえだろウマヅラこらぁっ! それよりアニキがブツを出せ言うとるんじゃ! はよ出さんかいウマヅラこのヤロウッ!」
「な、なんなんだこのガキ……⁉」
ペシペシと女児キックを見舞ってくるメロに戸惑いながら、ウマヅラくんはペンケースのような物を取り出した。
「よこさんかいウマヅラァッ!」
「あっ――」
メロはそれを素早く奪うと、サッと弥堂のアニキに差し出す。
「アニキ! ジブンやったったッス! ウマヅラからカツアゲしたったッス!」
「うむ、ご苦労」
弥堂は適当に相手しながらケースを開けて中身を確認する。
「つーか、それなんなんッスか?」
メロは興味津々にピョンピョンとジャンプしながら弥堂の手元を覗き込み――
「ぅげっ⁉」
――ギョッとした。
弥堂の持つケースには、注射器が三本入っていた。
その見た目のマズさからブツの正体を想像してしまい、メロは顔色を悪くする。
そんな彼女の様子に構わずに、弥堂はウマヅラくんをギロっと睨んだ。
「おいウマヅラ。これしかねえのか? ナメてんのか」
「カ、カンベンしてくれ……! それだってめちゃくちゃヤベエ橋渡ってんだ」
「本当だろうな?」
「ほ、ほんとうだ……! オレみたいなランクの低い売人はそれ捌いてからじゃねえと次の分を回してもらえねえんだ……! ウソじゃねえ……っ!」
必死に弁解するウマヅラを見てメロはスッと真顔になると、弥堂の方へ“気をつけ”の姿勢で向き直る。
「……あの。弥堂のアニキ。ちょっとよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「それは……?」
「見りゃわかんだろ。ヤクだ」
「…………」
思った通りすぎる回答には最早返す言葉がない。
どこからどう見てもアウトすぎるこの状況にメロは目元を手で覆うと、「あちゃー」と天を仰いだ。
だがこのことを重く真面目に捉えると、刑に服す方向以外に解決の道はないので、悪魔らしくスパっと切り替えることにした。
「つか、これってこないだジブンが飲まされたヤツッスか?」
「そうだ」
「うえぇぇ……」
使い魔の契約時のことを思い出してメロは顔を顰める。
今のやりとりを聞いてウマヅラくんはギョッとした。
「ってことはウマヅラはヤクの売人なんッスね?」
「あぁ」
「カスッスね」
「そうだな。だがこのカスは可哀想なカスなんだ。カスホストだからちっとも売れなくってな。だからヤクもロクに女に売りつけることも出来ないカスなんだ」
「なんだぁー? ウマヅラァ、オマエも色々苦労してんだな? 元気出せよッス。カスでも生きてるんだもの」
「くっ……、ぬっ……、ぅぬぬっ……!」
身を襲う屈辱に、ウマヅラくんは歯を食いしばって耐えた。
そうして無抵抗でいるのをいいことにメロはどんどんと馴れ馴れしくする。
「なぁなぁ、ウマヅラー。オマエってホストなんか?」
「え? あ、あぁ……」
ワンチャン小学生の可能性もある見た目の子供に、非常に答えづらい質問をされたウマヅラくんはチラチラと推定保護者の顔色を窺いながら頷く。
「ちょっとチンコ見せろよウマヅラぁ」
「は……? えっ……⁉」
すると調子こいた女児にとんでもない要求をされて、ウマヅラくんはぶったまげた。
「ホストって女喰いまくってんだろ? ってことはチンコ最強だな? つーわけで、その最強チンコをジブンに見せてみろよッス」
「ガ、ガキがなに言って……、って、オイ! や、やめろ……! 脱がせようとするな……っ!」
無遠慮に手を伸ばしてベルトをカチャカチャしてくる女児から、ウマヅラくんは情けなく腰を引いて逃れようとする。
その様子を見ながら弥堂はうんざりとし、メロの首根っこを掴まえた。
「やめろ」
「あっ――⁉ は、離してくれッス! 後生ッス!」
「勝手な真似をするな。何故オマエは知らない男に会うとまずセクハラをするんだ」
「サキュバスッスから! ジブンサキュバスッスから! ジブン見てみたいんッス! ホストのチンコ!」
「ダメだ」
弥堂はペイっと女児を放り投げる。
そして動揺するウマヅラくんにフォローを入れた。
「すまなかったなウマヅラくん。ウチの若いモンが」
「わ、若いモンって、若すぎだろ……。正気か、アンタ……⁉」
何故か戦慄したような顔をされて弥堂は気分を害した。
しかし、こんなところでいつまでも突っ立っているわけにもいかない。
「おら。代金だ」
「え……?」
徐に怪しい茶封筒をウマヅラくんに押し付ける。
ウマヅラくんは弥堂の顔色を窺ってから封筒の中身を覗き、またもギョッとした。
中には数十万の金が入っていたからだ。
「い、いいんッスか……?」
「商品を受け取ったら対価を払う。当たり前のことだろう? それとも金はいらんのか?」
「い、いや……っ! へ、へへへ……っ、アーザッス!」
ウマヅラくんは下卑た笑みを漏らすと、勢いよく弥堂へ頭を下げた。
「あぁ。また次も頼むぞ」
「ッス! ザーッス!」
一方的に強請られるだけだと思い込んでいたウマヅラくんは安堵し、しかしすぐに表情を曇らせた。
「あ、あの、ヤクのことはいいんッスけど……」
「あ?」
「ひっ、ち、ちがうんッス! じ、じつは――」
「――口答えしてんじゃねえぞ! ウマヅラぁっ!」
「あいてっ⁉」
慌てて弁明をしようとしたが、横から飛んできたジャンピング女児キックを喰らって、ウマヅラくんは転んでしまう。
メロは尻もちをつくウマヅラくんに素早く近寄ると、ボリューミーなホストヘアーをガッと掴み上げた。
「テメーウマヅラコラァ! 誰に断って語尾に『ッス』を付けてんじゃあ⁉ 勝手なことすっとウチのアニキが許さんぞッ!」
「別に許すが?」
「アニキが許さなくてもジブンが許さねえッス! オマエその喋り方やめろ! ジブンと被ってんだよこのヤロウ!」
「い、いてえな、わ、わかったよ……!」
ウマヅラくんの髪を掴んだ手をブンブンと振って、メロカスは自分よりも立場が低そうな者にイキリ散らかした。
弥堂は溜息を吐いてメロを引き離す。
「そういうわけで、悪いなウマヅラくん。なんかこいつがうるさくてめんどくせえから、『ッス』は遠慮してもらってもいいか?」
「い、いや、ベツにオレ普段からこういう喋り方なわけじゃ……」
「なんだウマヅラこのヤロウ! チンコも出せねえカスホストに『ッス』は十年早いんじゃコラー!」
「お前よくその語尾つけ忘れてるだろうが」
「そんなことねえッス! ネコ妖精としてのアイデンティティなんッス!」
「わかった。それより、ウマヅラくん。何を言おうとした?」
「え? あ、あぁ……」
理解不能なチンピラコンビに戸惑いながら立ち上がり、ウマヅラくんは先ほど言いかけたことを口にする。
「その、ヤクを横流しすんのはいいんだ。ただ、次からは別の場所で……」
「何故だ?」
すぐに罠を警戒した弥堂はジロリと彼を視る。
「こ、ここ以外ならどこでもいい……! ここだけはオレ、ちょっと……」
「ここだと何が問題なんだ?」
「ほ、ほら、ここってよ……、前に自殺とかあったろ……? それで、オレ、ちょっと……」
「その魂ならもうここには残っていない。気にするな」
「え?」
不可解そうな顔をするウマヅラくんに説明をしようとし、やっぱり面倒だったので止めて弥堂は歩き出した。
「どうでもいい。着いて来い」
「あ、は、はい……」
「オラァ! ジブンが後ろで見張ってっからなぁ! 逃げんなよウマヅラぁ!」
「に、にげねえよ……っ」
弥堂はホストと女児を引き連れた3人PTで住宅街に侵入していく。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
異世界帰りのハーレム王
ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。
で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか?
異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕!
異世界帰りのハーレム王
朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる