無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生

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初めてのレベルアップ

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「ここ……どこだよ」

 翌日、勇者召喚されたあの部屋に連れてこられた俺は、中央に描かれた魔方陣の上に立たされた。
 そしてストルトスに何やらリュックの様なものを背負わされると、予想もしてなかった言葉を告げられたのである。

『貴方様を元の世界に送り返す方法が判明しました。今からその儀式を行います』

 胡散臭いものを感じつつも、これで元の世界に帰れるのならと一瞬でも思ってしまったのが間違いだった。
 俺はあの瞬間直ぐにでも魔方陣を飛び出して逃げるべきだったのだ。

『やれ』

 ストルトスの号令と共に彼の部下達が一斉に何やら呪文を唱え始めた。
 と同時に一瞬足下の魔方陣が光ったかと思うと――

「えっ」

 突然目の前の景色が狭く薄暗い室内から見知らぬ森の中の小道へ変ったのだった。

「もしかして本当に元の世界に戻ったのか? でもどこの森だろう。青木ヶ原樹海とか?」

 だったら例え元の世界に戻ったとしても生きて出られるだろうか。
 でも道もあるし、このまま進めば問題ないとは思うんだけど。

 ガサガサッ。

 森の奥へ続いてる小道を見ながらそんなことを考えていると、不意に脇の草むらが音を立てた。
 そして何かが飛び出してきたのだ。

「ひいっ」

 日本の森は比較的安全な動物しかいないとは言っても猪や熊に襲われたら死ぬ可能性はある。
 俺は思わず逃げだそうとしたが、飛び出してきた獣を見て足を止めざるを得なかった。

「角の生えた兎なんて日本にいたっけ?」

 なぜなら草むらから飛び出してきたのは日本どころか世界中にもいるはずのない一角ウサギだったからだ。

「ここって青木ヶ原樹海じゃ……無い?」

 混乱したまま一角ウサギを見つめていると、ウサギは跳びだしてきた勢いのまま道を横断し、反対側へ一目散に逃げて行く。

 俺がいたから驚いて逃げた?
 と思ったが、どうやらそれが全く違う理由だと言うことが直ぐに判明する。

 バキバキッ。

 ウサギが跳びだしてきた方向の森の中から、激しい音が聞こえてきた。
 俺はとっさにウサギが逃げ込んだ草むらに同じように飛び込むと身を伏せる。
 本能的な何かが訴えかけてくる。
 あの音の主はヤバイと。

 ガサガサガサッ。

『ブオゥ――ブオゥゥゥ』

 俺の耳に何者かの激しい息づかいが聞こえてきた。
 そしてそれはどんどんこちらに近づいてくる。

(ヤバイ。隠れるんじゃなく逃げるべきだったか)

 相手が野生の獣であったなら、いくら隠れても臭いかなにかで俺の場所は直ぐにバレてしまうだろう。
 しかし今更立ち上がって逃げてももう遅い。
 それ以前に足が震えて真面に走れそうに無い。

(ど、ど、どどうする。ここが日本じゃ無く異世界だとすると魔物ってヤツかも知れない)

 今の俺には武器は無い。
 唯一すがれそうなミストルティンには魔法灯しか覚えさせていない以上武器にはならないだろう。
 せめて剣か何か一つでもアドソープションしておけば良かったと思うが後の祭りだ。

「そういえばリュックに何か入ってるかも」

 近づいてくる息遣いに焦りながらも、俺は転送直前に背負わされたリュックを抱きかかえる様に前に回すと蓋を開ける。
 中に入っていたのはこぶし大の麻袋一つと手紙らしきもの、そして一本の古びた短剣。

(助かった、武器だ)

 俺は恐る恐る短剣を取り出してみる。
 剣の使い方なんてもちろん習ったことは無い。
 だからそれがあっても勝てるとは限らない。
 だけど無いよりはマシだ。

(って……なんだよこれ……あの爺さんふざけんなよ!)

 取り出した短剣を見て俺は一瞬前までの希望が崩れ、頭にはこんなものを入れたストルトスへの怒りが浮ぶ。
 なぜならその短剣は古びたなんてものではなく、錆が浮いている上に所々刃も欠けた酷い代物だったからであった。

『ガアアアアッ』

 ドンッ。

 しかし俺に選択肢は無い。
 酷い短剣に絶望と怒りを覚えたその時、一角ウサギを追ってきたであろうバケモノが遂に姿を現したのである。

(ば……バケモノだ)

 身の丈は二メートルくらいあるだろうか。
 短い足に球体に近い胴回り、その上に乗っているのは牙の生えた鬼の様な顔。
 体の割に小さなその頭には、バランスがおかしいほどの豚鼻と豆粒の様な目が付いている。

(もしかしてオークとかいうやつか?)

 そのバケモノは道に出ると、ドスドスと音を立てて歩き回りながら何かを――たぶんあの一角ウサギを探し始めた。
 当のウサギはとっくにどこかへ逃げ去っている。
 だけどこのままでは代わりに俺がバケモノの餌になってしまう。

(こうなったら一か八か、この短剣で……)

 俺は短剣を握りしめる。
 最悪不意を突いてこの短剣を足にでも突き刺せば逃げ切れるかも知れない。

(それか短剣を投げて、それにオークが気取られている内に逃げたほうがいいか)

 しかしそうすると手元から唯一の武器が無くなってしまう。
 オークがその手に引っかかってくれれば良いが、失敗すれば丸腰の俺だけが残されることになる。

(……そうだ!)

 ミストルティンだ。
 あの小枝に短剣をアブソープションさせれば、短剣を投げても代わりにミストルティンを変化させれば問題ない。

『グオ。グフォ』

 知能はそれほど高くないのだろう。
 オークは未だに道の真ん中で辺りを見回しているだけで動かない。

(よし。アブソープション!)

 俺は短剣にミストルティンを当てながらアブソープションを発動させた。
 途端に脳内に例の声が聞こえる。

『アイテム:短剣 アブソープション完了――EXPを8獲得――レベルが上がりました。新しく『経験取得』が追加されました。得られた知識と経験をマスターに転送いたします』

(やった! 棚ぼただけどレベルアップして何か新しい能力も手に入れたみたいだ)

 しかし『経験取得』って何だろう。
 そう思った俺の脳内にその答えが流れ込んできた。

「はははっ……こりゃ凄い。これならオーク相手でも勝てるぞ」

 俺の中に流れ込んできたのは吸収アブソープションした短剣と、それを操り戦った人の戦いの経験・・・・・である。

 使い古されボロボロになった短剣には、そうなるまで散々使われてきた理由がある。
 まっさらな新品の短剣と違って、それだけの経験を短剣自身が積んできているのだ。
 王都守備隊で使われて、古くなってから訓練用として下げ渡され、数多くの人の手によって使われた経験が。

「さて、それじゃあいっちょやってみますか」

 俺は左手にミストルティン、右手に短剣を握りしめながら身を潜めていた草むらを飛び出した。
 そして背中を向けているオークに向かって一気に駆け寄ると柔らかそうな脇腹に短剣を突き刺す。

「おらぁっ!」

 今まで剣なんて使ったことも無いのに、体が動かし方を覚えているかのように勝手に動いた。
 いや、実際に今の俺はミストルティンによって覚えたのだ。

『グガアアアアアアアアアアアアアアア』

 突然襲った激痛にオークが森中に響き渡りそうな叫び声を上げながら腕を振り回してくる。
 しかし俺はその動きを経験・・で予想していた。

 ぶんっ。

 勢いよく振り回される腕に少しでも当たっていればそれだけで致命傷だったろう。
 だが短剣をオークの腹に残したまま、既に俺はヤツの間合いから離れた場所にいる。

「ミストルティン、モードチェンジだ!」

 そして暴れるオークに注視しつつ、俺は左手の小枝ミストルティンを右手に握り直してから短剣の姿へ変えた。

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