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オーク、襲撃
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『グモォォォォ』
横腹に突き刺さった短剣を抜こうとその柄を掴んだオークだったが、無駄に力を込めすぎたのだろう。
ボロボロに使い古された短剣がその力に耐えきれず、腹の中に錆びた刃の部分だけ残して折れてしまった。
「無理矢理引き抜こうとしなくてよかった」
もし突き刺した後引き抜こうとしていたら同じように柄だけのこして外れ、勢い俺はひっくり返っていたかも知れない。
そうなっていたらオークの反撃で今頃挽肉にされていたに違いない。
「でもこれでアイツはもうさびてギザギザになった短剣を抜く手段は無くなったってことだな」
考えるだけでオークにとって最悪な状況だろう。
魔物に人間のような医学があるとは思えない。
「あの状態の刃を抜き出すのは難しいだろうなぁ」
もしかするとこの世界には治癒魔法みたいなのはあるかも知れないが。
それでもオークに出来るのは自然治癒くらいだろう。
「たぶんこのまま放置していてもアイツはもう助からないだろうけど、ここまで来たら倒して素材は回収しておきたいな」
俺の中に流れ込んできた知識が告げる。
少し前の俺なら生き物を倒して、さらにその体から素材を取ろうなんてことは思いもしなかったろう。
なんせ現代日本で普通に生きてきた俺にとって、捌いたことのある生き物なんて魚くらいのものだ。
猟師でもなんでもない以上、獣を捌くなんて経験を持っている人なんているわけがないせかいで生きてきたのである。
「なのに今なら普通にあのオークを倒した後にどうすればいいかもわかっちゃうんだよな」
しかもそれに対する忌避感も消えている。
四足歩行動物でもためらうのに二足歩行の化け物ですら今の俺なら普通に切り刻めるとわかってしまう。
「苦しみから解放してやる」
それどころか、脇腹の激痛に耐えながら迫り来るオークに憐憫すら感じてしまう。
俺がやったことなのに。
『グガアアアアアアアアアアッ』
オークはふらつきながらも俺の目の前までやってくると、その凶悪な両湾を高く掲げた。
知能が思ったより低いのか。
それとも既に痛みと怒りで理性が失われているのか。
「そんな大ぶりな攻撃が当たるわけ無いだろ」
両腕が振り下ろされるのを見上げながら俺は冷静にそれを僅かな動きで躱す。
そして地面から飛び散る土埃を避けつつ、その腕に足を掛けるとそのまま蹴って跳び上がる。
「頭を下げてくれて助かったよ」
両腕を地面に振り下ろしたせいで、自然とオークの頭は低くなる。
俺の狙いはその首筋だ。
「悪いね」
なにせ俺が今手にしているのはボロボロの短剣だ。
ミストルティンが姿を変えたものだとしても、強度も同じ程度にコピーされている可能性が高い。
そんなもので巨大な魔物の体を両断できるわけが無いのは自明の理。
「喰らえっ!!」
俺はその短い刃でも確実に息の根を止められるであろう急所を狙って一気にミストルティンを振り切った。
『ォォォォォガガガァァ』
切り裂いた首筋から血が吹き出る。
同時にオークの断末魔の叫びが森に木霊した。
俺はそのままオークの後ろに飛び降りると倒れてくる巨体を避けるように数メートル離れた場所まで走ってから振り向く。
「やったか!」
つい口から出てしまった言葉に「やべっ、フラグたてちゃったか?」と一瞬焦ったものの。
『オォォ……』
小さい最後の声と共にオークの巨体はそのまま後ろに向かって倒れ。
しばらく痙攣したあと完全に動かなくなった。
「や、やった。やったんだ俺」
いくら経験があったと言っても、心は普通の現代日本人である。
命の危機が去り、安心した途端に心の奥底から止められない恐怖と安堵感が湧き上がってきて。
「はぁ……」
そのまま天を見上げ大きく息を吐く。
目尻にうっすらと涙が浮かぶのを感じて慌ててそれを手で拭う。
「それにしても」
俺は知らずにいたいほどの力で握りしめていた短剣に目を向ける。
もしこのミストルティンが無ければ俺は今頃オークの餌になっていたかも知れない。
「変化するだけのアイテムかと思ったけど、まさかこんな力があるなんてね」
俺の頭の中に流れ込んできた短剣の持つ経験。
そのおかげで俺は初めて魔物と戦ったというのに勝つことが出来た。
これがただ単に吸収した短剣に変化するだけだったら、とてもでは無いがあんな化け物に戦いを挑むなんて出来なかったろう。
それだけでなく短剣自身に魔物と戦った経験があったのも大きい。
ただ単に訓練だけに使われていたものや新品で経験を持たない短剣だったらと思うと寒気がする。
「ストルトスの爺さんが嫌がらせに入れたものかも知れないけど逆に助かったな……っと、そういえば」
俺はリュックの中に何やら手紙らしきものが入っていたことを思い出した。
あれには何が書いてあるのだろうか。
草むらからリュックを拾いあげると中に入っている手紙を取り出した。
封筒に入っているわけでも無く、一枚の紙を三つに折っただけの簡単なそれを開く。
「えっと……文字は読めそうだな。言葉がわかるだけでもありがたいけど」
無能勇者と呼ばれた俺自身の唯一の転生特典である言語理解。
そのおかげで俺は手紙を読むことが出来た。
『無能であるお前の処遇は国外追放と決まった。しかし寛大な王の計らいによって最低限の路銀を用意した。ついでにちょうど訓練場に捨て置かれていた短剣も入れておいてやった。王と我々に感謝するがいい』
要約するとそんなふざけた内容で。
「ふざけんなっ!!」
俺はそう叫び、手紙を地面に叩き付けたのだった。
横腹に突き刺さった短剣を抜こうとその柄を掴んだオークだったが、無駄に力を込めすぎたのだろう。
ボロボロに使い古された短剣がその力に耐えきれず、腹の中に錆びた刃の部分だけ残して折れてしまった。
「無理矢理引き抜こうとしなくてよかった」
もし突き刺した後引き抜こうとしていたら同じように柄だけのこして外れ、勢い俺はひっくり返っていたかも知れない。
そうなっていたらオークの反撃で今頃挽肉にされていたに違いない。
「でもこれでアイツはもうさびてギザギザになった短剣を抜く手段は無くなったってことだな」
考えるだけでオークにとって最悪な状況だろう。
魔物に人間のような医学があるとは思えない。
「あの状態の刃を抜き出すのは難しいだろうなぁ」
もしかするとこの世界には治癒魔法みたいなのはあるかも知れないが。
それでもオークに出来るのは自然治癒くらいだろう。
「たぶんこのまま放置していてもアイツはもう助からないだろうけど、ここまで来たら倒して素材は回収しておきたいな」
俺の中に流れ込んできた知識が告げる。
少し前の俺なら生き物を倒して、さらにその体から素材を取ろうなんてことは思いもしなかったろう。
なんせ現代日本で普通に生きてきた俺にとって、捌いたことのある生き物なんて魚くらいのものだ。
猟師でもなんでもない以上、獣を捌くなんて経験を持っている人なんているわけがないせかいで生きてきたのである。
「なのに今なら普通にあのオークを倒した後にどうすればいいかもわかっちゃうんだよな」
しかもそれに対する忌避感も消えている。
四足歩行動物でもためらうのに二足歩行の化け物ですら今の俺なら普通に切り刻めるとわかってしまう。
「苦しみから解放してやる」
それどころか、脇腹の激痛に耐えながら迫り来るオークに憐憫すら感じてしまう。
俺がやったことなのに。
『グガアアアアアアアアアアッ』
オークはふらつきながらも俺の目の前までやってくると、その凶悪な両湾を高く掲げた。
知能が思ったより低いのか。
それとも既に痛みと怒りで理性が失われているのか。
「そんな大ぶりな攻撃が当たるわけ無いだろ」
両腕が振り下ろされるのを見上げながら俺は冷静にそれを僅かな動きで躱す。
そして地面から飛び散る土埃を避けつつ、その腕に足を掛けるとそのまま蹴って跳び上がる。
「頭を下げてくれて助かったよ」
両腕を地面に振り下ろしたせいで、自然とオークの頭は低くなる。
俺の狙いはその首筋だ。
「悪いね」
なにせ俺が今手にしているのはボロボロの短剣だ。
ミストルティンが姿を変えたものだとしても、強度も同じ程度にコピーされている可能性が高い。
そんなもので巨大な魔物の体を両断できるわけが無いのは自明の理。
「喰らえっ!!」
俺はその短い刃でも確実に息の根を止められるであろう急所を狙って一気にミストルティンを振り切った。
『ォォォォォガガガァァ』
切り裂いた首筋から血が吹き出る。
同時にオークの断末魔の叫びが森に木霊した。
俺はそのままオークの後ろに飛び降りると倒れてくる巨体を避けるように数メートル離れた場所まで走ってから振り向く。
「やったか!」
つい口から出てしまった言葉に「やべっ、フラグたてちゃったか?」と一瞬焦ったものの。
『オォォ……』
小さい最後の声と共にオークの巨体はそのまま後ろに向かって倒れ。
しばらく痙攣したあと完全に動かなくなった。
「や、やった。やったんだ俺」
いくら経験があったと言っても、心は普通の現代日本人である。
命の危機が去り、安心した途端に心の奥底から止められない恐怖と安堵感が湧き上がってきて。
「はぁ……」
そのまま天を見上げ大きく息を吐く。
目尻にうっすらと涙が浮かぶのを感じて慌ててそれを手で拭う。
「それにしても」
俺は知らずにいたいほどの力で握りしめていた短剣に目を向ける。
もしこのミストルティンが無ければ俺は今頃オークの餌になっていたかも知れない。
「変化するだけのアイテムかと思ったけど、まさかこんな力があるなんてね」
俺の頭の中に流れ込んできた短剣の持つ経験。
そのおかげで俺は初めて魔物と戦ったというのに勝つことが出来た。
これがただ単に吸収した短剣に変化するだけだったら、とてもでは無いがあんな化け物に戦いを挑むなんて出来なかったろう。
それだけでなく短剣自身に魔物と戦った経験があったのも大きい。
ただ単に訓練だけに使われていたものや新品で経験を持たない短剣だったらと思うと寒気がする。
「ストルトスの爺さんが嫌がらせに入れたものかも知れないけど逆に助かったな……っと、そういえば」
俺はリュックの中に何やら手紙らしきものが入っていたことを思い出した。
あれには何が書いてあるのだろうか。
草むらからリュックを拾いあげると中に入っている手紙を取り出した。
封筒に入っているわけでも無く、一枚の紙を三つに折っただけの簡単なそれを開く。
「えっと……文字は読めそうだな。言葉がわかるだけでもありがたいけど」
無能勇者と呼ばれた俺自身の唯一の転生特典である言語理解。
そのおかげで俺は手紙を読むことが出来た。
『無能であるお前の処遇は国外追放と決まった。しかし寛大な王の計らいによって最低限の路銀を用意した。ついでにちょうど訓練場に捨て置かれていた短剣も入れておいてやった。王と我々に感謝するがいい』
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俺はそう叫び、手紙を地面に叩き付けたのだった。
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