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第十一王子と、その守護者
知らぬ世界の闇の人
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『王様、は……世界で一番きれーな? 魔核、を持っていて悪いドラゴン、ドラゴン……を引き、ん?』
『引き寄せて王国を困らせている、でございます』
ほほう。
きっとこの本の王様はよっぽど綺麗な魔核を持っているんだな。あんな大きなドラゴンが欲しがるなんてお宝級だろう。どうしてドラゴンが魔核なんて欲しがるのか全然わかんないけど。
『だからドラゴンを倒す、ために。お供を連れて……旅に出ました!』
『はい。大変お上手でございます』
パタンと読んでいた絵本を閉じて表紙に描かれた城から出て行く王様の絵を撫でる。絵が中心となった絵本はオレにも読みやすくて結構楽しかった。まだ一巻のみだがサポートを貰いながらなんとか読み終えたのは感慨深い。
絵本を抱えて次! という期待を込めて一緒にソファーに座っていた信徒の方を見れば顔を隠した姿で静かに頭を下げてきた。
『申し訳ありません、黒き子よ……。次巻は神殿に来る子どもに貸し与えているようです。次に訪れていただける際には全巻揃えてお待ちしています』
『やだ、めっちゃ続き気になっちゃうやつ……。いいよ~子どもたちも神殿に遊びに来るんだ、なるほどなぁ』
まぁ今じゃオレも子どもなわけだけど。
謎のお爺ちゃんと出会い、暫くお爺ちゃんとお話しているとお爺ちゃんが席を外してしまった。入れ替わるように部屋に入って来たのは昼に出会う信徒とは違う信徒。
昼に会う信徒は、基本的には普通の人って感じだ。みんな穏やかで信徒の服を着た一般人。
しかし部屋に来た何人かの夜の信徒は違う。無駄なお喋りは一切なく、お爺ちゃんに何か言われても無言で頷くだけ。どこか冷たい印象を与えるのだ。選ばれた一人の信徒はずっと部屋の片隅に立っていただけだったけど……。
『もう寒くはないですか? やはりベッドに戻った方が良いのでは……』
盛大なるクシャミをした瞬間、片隅に立っていた信徒もドアの向こうに控えていたであろう他の信徒も一気に押し寄せて来たのが始まりだ。口を押さえながらも、やっぱり信徒は信徒なんだと大爆笑した。
そこからは彼女とも仲良くなったのだ。なんとなく声や物腰から女性……だろうと判断している。
『やです。眠くないですもん、何時間寝たと思うんですか……』
『約十時間お眠りになったと報告が入っております。幼い黒き子であれば許容される時間かと』
それが休日だったらねぇ……。
信徒に掛けてもらったブランケットを抱き、お行儀悪く足をバタつかせる。自分のしでかしてしまったことが許せなくて、やるせなくて。
『勝手にお仕事休んで、殿下にも怒られてしまいます……。その上、お泊まりの用意までしてもらって。そのための連絡もしてないですし……』
一体どんな罵倒が飛んで来るんだ?
ノルエフリンとも帰ったら一緒に遊ぼうと約束してたのに、破ってしまった。今頃彼は落ち込んだまま仕事をしているに違いない。
『黒き子には無理が祟っています。休息も睡眠も、貴方様のどの行動も誰に咎められるものでもありません。
どうかお身体を大切に……。貴方様の代わりなどこの世界のどこにもいないのです』
『前から気になってたんだけど、オレ……そこまで有難られる存在じゃないと思うんだけど?』
いつか本当に祀られそうで怖いんだけど?
しかし、信徒の反応は変わらず静かなものだった。綺麗で落ち着く……澄んだ声で彼女は語る。オレが横に置いたブランケットをすかさず拾い上げ、肩に掛けながら。
『黒を宿せた人間は、それが一つであれば奇跡。二つであれば必然。その存在によって運命すらも捻じ曲げることができる。
……滅びの運命すらも、変えられる。我々人間は魔物には遠く及びません。いつか必ず終わりの日は来るのです。それはもう決められた結末。
此処にいる多くの人間は一度終わりを迎えました。魔物に家族を殺された者。家を焼かれた者。村を滅ぼされた者。国を追われた者。国を失った者。明日をも見失った者……我々は、一度心を殺された』
黒い布で覆われた顔を上げた彼女と、目が合った気がした。
『貴方も、一度死んでいる』
疑いのない言葉。まるでオレの人生を見てきたような台詞を、遮る気は起きない。そんなオレの姿に何を思ったのか彼女はブランケットを掛けたオレの肩をグッと寄せた。
『それでも貴方は、誰よりも先に歩み出すのです。黒を宿せるのは偶然ではない。その資質が備わった人間にだけ。どんな悪夢が待ち構えようと、どんな悲惨な未来が起こるとしても、貴方さえいれば我々はまた歩き出せます。
絶望を退けるのは光ではない。絶望を更に塗り替える闇なのです。だから貴方は、私の光』
『光じゃないのに?』
『闇だから、光なのです』
哲学かよ、難しいよ。
難しい顔をしていたのがバレて、信徒が笑う。良い子良い子、と頭を撫でられさり気なく話を終わりにさせるらしい。
話を聞いたところで未だに彼女が何を伝えたいのかも、オレは大して凄くないことに変わりない。だってそれだと……いくら絶望させても聞き分けないバカな子みたいだ。
『オレがいれば、なんとか幸せになる……かなーってこと?』
『はい。とても幸福です』
そうか。
そうか、えへえへ。
なんだか胸が温かい。開いていた傷に薬が効いていくようにジワジワと。この世界でオレを求めてくれる彼女たちがいてくれるのは、救いだ。今はまだこの歪んだ繋がりが必要で、いつか……応えられる日が来ると良い。何年後になるかな……。
『おやおや、タタラ様。信徒たちと仲良くしていただき感謝を。突然席を外してしまって申し訳ありません』
『あ。お爺ちゃん』
扉を開いてにこやかに笑うお爺ちゃんに気を取られて一瞬目を離した間に隣に座っていた信徒が後ろに控えていた。早技すぎて全然気付かなかった……ジッと信徒を見つめていたら扉からもう一人入って来た。
ガン、と扉に何かを突っ返させてモタモタしつつ入って来たのはトワイシー殿だ。
『トワイシー殿!』
ソファーから立ち上がり、扉の近くまで駆け寄るとトワイシー殿がサッと体で何かを隠してしまった。好奇心からその体の向こうにあるものを覗けば、そこにはなんとオレの体なんてすっぽりと隠せそうなくらい巨大な双子盾があった。
『やれやれ、これだけ元気になれたのであれば安心ですね。悪戯小僧さん。おはようございます』
『うっ……その節は大変お世話になりました。お見苦しいものをお見せしてしまい、大変申し訳ありませんでした……』
見苦しかったであろう、しかも現在進行形だ。ワンピース一枚で守護魔導師としてオレを飾るものは何もない。彼の前にはただの貧相な子どもが一人いるだけ。
だけど彼は、丁寧な礼をとってから何もかも許すように笑いオレの手を取る。
『我々の不手際でとんだご迷惑をお掛けしました。王宮には既に連絡を入れました、本日はこちらでお休み下さい。
何も心配せず、何も怯えることはない。私は二つの大盾を操る騎士。今宵は貴方をこの命に代えてもお護り致します』
『大盾……』
大きく月が彫られた銀の大盾。それぞれ半月が描かれて綺麗に磨かれているが、長年愛用されているようで細かい傷もたくさんある。物珍しく見ていたためかトワイシー殿に持たせてもらえた。想像以上の重量に……何よりバランスが取り難い! 右に左にとフラつく体を信徒に支えられ、みんなに笑われた。
『トワイシーは風魔法で自在に盾を操ることが出来るのですよ。勿論自らの手で盾を構えることもありますが、魔法による変幻自在のそれは中々面白いものです。今度見せてもらうと良いでしょう』
『風魔法! トワイシー殿、風魔法が使えるんですね! あの大盾を操るなんて凄いです……』
風魔法か。見たことない魔法だ、是非とも見てみたい!
だけど、なんで……武器である盾なんて持ってたんだろう。もう夜中なのにどうして? ここでは夜でも訓練とかあるんだろうか。
『大した事はありませんよ。風魔法自体はそこまで珍しいものではありませんからね、タタラ様の個人魔法の方がよっぽど素晴らしい』
『……でも、オレの魔法は……』
水の中で漂う、光る糸。あの時の魔法は暴走したもの。オレの意思とは関係なしに発動した。思えば糸魔法が勝手に発動したのは今回が初めてのことではない。
『どうかされましたか?』
『……トワイシー殿。魔法が勝手に発動することは、あるんですか? 今回以外にも魔法が勝手に出たことがあって……。
オレの魔法、また勝手に暴走したら……』
もしも、そんなことが多発するなら。オレは……もしかしてもう……。
王子の側にいられないんだろうか。
『魔法が勝手に発動した? 今回のように暴走したのではなく?』
コクリと頷いた時、確かにトワイシー殿とお爺ちゃん……そして控えていた信徒、全ての人の動きが止まった。持っていた盾を返して再びソファーに座るように言われれば、座るオレの向かいにトワイシー殿が膝を折る。
少し部屋の温度が下がったような気がしながらも、目の前で話を始める彼の話に耳を傾けた。
『タタラ様……っ。
タタラ様、私と魔法についてお話しましょう』
『魔法について、ですか?』
突然どうしたんだ?
しかし、それを問い掛けるために声を出す気にはならなかった。泣きそうな顔でオレに語り掛けるトワイシー殿。ここの人たちはみんなオレの知らない話をしてくれる。
『魔法は、神からの授かりものです。神は我々を愛しているのです。だからこそ神は我々に相応しい、その人間の運命に見合うだけの魔法を与えて下さると信じられています。
強い魔法は険しい未来の暗示。しかし、魔法は唯一与えられた武器であり盾なのです。どうか怯えないで……貴方に与えられた魔法は、きっと貴方を守るために預けられたもの。その魔法だけは貴方を裏切ったりしません』
『武器であり、盾……』
確かに、今世で与えられた魔法はいつだってオレを助けてくれた相棒だ。最近ではオレだけではなく大切な人たちも護ってくれる。
なるほど。怯えて使ってはならないと、トワイシー殿はオレに伝えてくれているのか!
『魔法を信じるのです。魔核によって構築される魔法は、魔核と使用者の心の在り方に何よりも影響されます。勿論、魔核を抜かれれば死んでしまうものですが体から魔核を取り除いても維持できるほど魔核は頑丈なのです。体はすぐに崩れ始めてしまうでしょうが、そうならないための魔法ですから』
いつだったか王子が教えてくれた、心の在り方。そうか……やっぱりあれは大切なことだった。
ふと髪に手を伸ばしつつ、それがないことに気付いて動揺したところにすかさず信徒がトレーに載った糸の髪飾りを差し出してくれた。お礼を言って受け取ろうとしたところ、トワイシー殿によって髪を結ばれて髪飾りをしてもらった。
うんうん、やっぱり原点は大切だよな!
『いつもありがとうな……』
自分の魔核に等しいそれに触れて、心からそう呟いた。勿論これは魔核ではないけどオレにとってはそれと同等だ。
また一緒に頑張ってくれよ、相棒。
それからオレは信徒に食堂に案内され、簡単な食事を摂ってお風呂に入り再びお爺ちゃんの部屋で絵本を読んでいたところで記憶はない。グラグラ揺れる体を信徒によって抱き上げられた後、部屋に戻るまで彼女の背に乗り揺られていた。
『……無意識の魔法、それは……闘式。魔法における更なる向こう側の領域。そこに至るには途方もない研鑽の道か。或いは……』
そうだ、オレ……。
『……幼い内に死に至る程の恐怖を、魂に叩き込む。今より……更に幼い頃、か……』
彼女の名前を聞いてないんだった。
明日、聞かないと……。
.
『引き寄せて王国を困らせている、でございます』
ほほう。
きっとこの本の王様はよっぽど綺麗な魔核を持っているんだな。あんな大きなドラゴンが欲しがるなんてお宝級だろう。どうしてドラゴンが魔核なんて欲しがるのか全然わかんないけど。
『だからドラゴンを倒す、ために。お供を連れて……旅に出ました!』
『はい。大変お上手でございます』
パタンと読んでいた絵本を閉じて表紙に描かれた城から出て行く王様の絵を撫でる。絵が中心となった絵本はオレにも読みやすくて結構楽しかった。まだ一巻のみだがサポートを貰いながらなんとか読み終えたのは感慨深い。
絵本を抱えて次! という期待を込めて一緒にソファーに座っていた信徒の方を見れば顔を隠した姿で静かに頭を下げてきた。
『申し訳ありません、黒き子よ……。次巻は神殿に来る子どもに貸し与えているようです。次に訪れていただける際には全巻揃えてお待ちしています』
『やだ、めっちゃ続き気になっちゃうやつ……。いいよ~子どもたちも神殿に遊びに来るんだ、なるほどなぁ』
まぁ今じゃオレも子どもなわけだけど。
謎のお爺ちゃんと出会い、暫くお爺ちゃんとお話しているとお爺ちゃんが席を外してしまった。入れ替わるように部屋に入って来たのは昼に出会う信徒とは違う信徒。
昼に会う信徒は、基本的には普通の人って感じだ。みんな穏やかで信徒の服を着た一般人。
しかし部屋に来た何人かの夜の信徒は違う。無駄なお喋りは一切なく、お爺ちゃんに何か言われても無言で頷くだけ。どこか冷たい印象を与えるのだ。選ばれた一人の信徒はずっと部屋の片隅に立っていただけだったけど……。
『もう寒くはないですか? やはりベッドに戻った方が良いのでは……』
盛大なるクシャミをした瞬間、片隅に立っていた信徒もドアの向こうに控えていたであろう他の信徒も一気に押し寄せて来たのが始まりだ。口を押さえながらも、やっぱり信徒は信徒なんだと大爆笑した。
そこからは彼女とも仲良くなったのだ。なんとなく声や物腰から女性……だろうと判断している。
『やです。眠くないですもん、何時間寝たと思うんですか……』
『約十時間お眠りになったと報告が入っております。幼い黒き子であれば許容される時間かと』
それが休日だったらねぇ……。
信徒に掛けてもらったブランケットを抱き、お行儀悪く足をバタつかせる。自分のしでかしてしまったことが許せなくて、やるせなくて。
『勝手にお仕事休んで、殿下にも怒られてしまいます……。その上、お泊まりの用意までしてもらって。そのための連絡もしてないですし……』
一体どんな罵倒が飛んで来るんだ?
ノルエフリンとも帰ったら一緒に遊ぼうと約束してたのに、破ってしまった。今頃彼は落ち込んだまま仕事をしているに違いない。
『黒き子には無理が祟っています。休息も睡眠も、貴方様のどの行動も誰に咎められるものでもありません。
どうかお身体を大切に……。貴方様の代わりなどこの世界のどこにもいないのです』
『前から気になってたんだけど、オレ……そこまで有難られる存在じゃないと思うんだけど?』
いつか本当に祀られそうで怖いんだけど?
しかし、信徒の反応は変わらず静かなものだった。綺麗で落ち着く……澄んだ声で彼女は語る。オレが横に置いたブランケットをすかさず拾い上げ、肩に掛けながら。
『黒を宿せた人間は、それが一つであれば奇跡。二つであれば必然。その存在によって運命すらも捻じ曲げることができる。
……滅びの運命すらも、変えられる。我々人間は魔物には遠く及びません。いつか必ず終わりの日は来るのです。それはもう決められた結末。
此処にいる多くの人間は一度終わりを迎えました。魔物に家族を殺された者。家を焼かれた者。村を滅ぼされた者。国を追われた者。国を失った者。明日をも見失った者……我々は、一度心を殺された』
黒い布で覆われた顔を上げた彼女と、目が合った気がした。
『貴方も、一度死んでいる』
疑いのない言葉。まるでオレの人生を見てきたような台詞を、遮る気は起きない。そんなオレの姿に何を思ったのか彼女はブランケットを掛けたオレの肩をグッと寄せた。
『それでも貴方は、誰よりも先に歩み出すのです。黒を宿せるのは偶然ではない。その資質が備わった人間にだけ。どんな悪夢が待ち構えようと、どんな悲惨な未来が起こるとしても、貴方さえいれば我々はまた歩き出せます。
絶望を退けるのは光ではない。絶望を更に塗り替える闇なのです。だから貴方は、私の光』
『光じゃないのに?』
『闇だから、光なのです』
哲学かよ、難しいよ。
難しい顔をしていたのがバレて、信徒が笑う。良い子良い子、と頭を撫でられさり気なく話を終わりにさせるらしい。
話を聞いたところで未だに彼女が何を伝えたいのかも、オレは大して凄くないことに変わりない。だってそれだと……いくら絶望させても聞き分けないバカな子みたいだ。
『オレがいれば、なんとか幸せになる……かなーってこと?』
『はい。とても幸福です』
そうか。
そうか、えへえへ。
なんだか胸が温かい。開いていた傷に薬が効いていくようにジワジワと。この世界でオレを求めてくれる彼女たちがいてくれるのは、救いだ。今はまだこの歪んだ繋がりが必要で、いつか……応えられる日が来ると良い。何年後になるかな……。
『おやおや、タタラ様。信徒たちと仲良くしていただき感謝を。突然席を外してしまって申し訳ありません』
『あ。お爺ちゃん』
扉を開いてにこやかに笑うお爺ちゃんに気を取られて一瞬目を離した間に隣に座っていた信徒が後ろに控えていた。早技すぎて全然気付かなかった……ジッと信徒を見つめていたら扉からもう一人入って来た。
ガン、と扉に何かを突っ返させてモタモタしつつ入って来たのはトワイシー殿だ。
『トワイシー殿!』
ソファーから立ち上がり、扉の近くまで駆け寄るとトワイシー殿がサッと体で何かを隠してしまった。好奇心からその体の向こうにあるものを覗けば、そこにはなんとオレの体なんてすっぽりと隠せそうなくらい巨大な双子盾があった。
『やれやれ、これだけ元気になれたのであれば安心ですね。悪戯小僧さん。おはようございます』
『うっ……その節は大変お世話になりました。お見苦しいものをお見せしてしまい、大変申し訳ありませんでした……』
見苦しかったであろう、しかも現在進行形だ。ワンピース一枚で守護魔導師としてオレを飾るものは何もない。彼の前にはただの貧相な子どもが一人いるだけ。
だけど彼は、丁寧な礼をとってから何もかも許すように笑いオレの手を取る。
『我々の不手際でとんだご迷惑をお掛けしました。王宮には既に連絡を入れました、本日はこちらでお休み下さい。
何も心配せず、何も怯えることはない。私は二つの大盾を操る騎士。今宵は貴方をこの命に代えてもお護り致します』
『大盾……』
大きく月が彫られた銀の大盾。それぞれ半月が描かれて綺麗に磨かれているが、長年愛用されているようで細かい傷もたくさんある。物珍しく見ていたためかトワイシー殿に持たせてもらえた。想像以上の重量に……何よりバランスが取り難い! 右に左にとフラつく体を信徒に支えられ、みんなに笑われた。
『トワイシーは風魔法で自在に盾を操ることが出来るのですよ。勿論自らの手で盾を構えることもありますが、魔法による変幻自在のそれは中々面白いものです。今度見せてもらうと良いでしょう』
『風魔法! トワイシー殿、風魔法が使えるんですね! あの大盾を操るなんて凄いです……』
風魔法か。見たことない魔法だ、是非とも見てみたい!
だけど、なんで……武器である盾なんて持ってたんだろう。もう夜中なのにどうして? ここでは夜でも訓練とかあるんだろうか。
『大した事はありませんよ。風魔法自体はそこまで珍しいものではありませんからね、タタラ様の個人魔法の方がよっぽど素晴らしい』
『……でも、オレの魔法は……』
水の中で漂う、光る糸。あの時の魔法は暴走したもの。オレの意思とは関係なしに発動した。思えば糸魔法が勝手に発動したのは今回が初めてのことではない。
『どうかされましたか?』
『……トワイシー殿。魔法が勝手に発動することは、あるんですか? 今回以外にも魔法が勝手に出たことがあって……。
オレの魔法、また勝手に暴走したら……』
もしも、そんなことが多発するなら。オレは……もしかしてもう……。
王子の側にいられないんだろうか。
『魔法が勝手に発動した? 今回のように暴走したのではなく?』
コクリと頷いた時、確かにトワイシー殿とお爺ちゃん……そして控えていた信徒、全ての人の動きが止まった。持っていた盾を返して再びソファーに座るように言われれば、座るオレの向かいにトワイシー殿が膝を折る。
少し部屋の温度が下がったような気がしながらも、目の前で話を始める彼の話に耳を傾けた。
『タタラ様……っ。
タタラ様、私と魔法についてお話しましょう』
『魔法について、ですか?』
突然どうしたんだ?
しかし、それを問い掛けるために声を出す気にはならなかった。泣きそうな顔でオレに語り掛けるトワイシー殿。ここの人たちはみんなオレの知らない話をしてくれる。
『魔法は、神からの授かりものです。神は我々を愛しているのです。だからこそ神は我々に相応しい、その人間の運命に見合うだけの魔法を与えて下さると信じられています。
強い魔法は険しい未来の暗示。しかし、魔法は唯一与えられた武器であり盾なのです。どうか怯えないで……貴方に与えられた魔法は、きっと貴方を守るために預けられたもの。その魔法だけは貴方を裏切ったりしません』
『武器であり、盾……』
確かに、今世で与えられた魔法はいつだってオレを助けてくれた相棒だ。最近ではオレだけではなく大切な人たちも護ってくれる。
なるほど。怯えて使ってはならないと、トワイシー殿はオレに伝えてくれているのか!
『魔法を信じるのです。魔核によって構築される魔法は、魔核と使用者の心の在り方に何よりも影響されます。勿論、魔核を抜かれれば死んでしまうものですが体から魔核を取り除いても維持できるほど魔核は頑丈なのです。体はすぐに崩れ始めてしまうでしょうが、そうならないための魔法ですから』
いつだったか王子が教えてくれた、心の在り方。そうか……やっぱりあれは大切なことだった。
ふと髪に手を伸ばしつつ、それがないことに気付いて動揺したところにすかさず信徒がトレーに載った糸の髪飾りを差し出してくれた。お礼を言って受け取ろうとしたところ、トワイシー殿によって髪を結ばれて髪飾りをしてもらった。
うんうん、やっぱり原点は大切だよな!
『いつもありがとうな……』
自分の魔核に等しいそれに触れて、心からそう呟いた。勿論これは魔核ではないけどオレにとってはそれと同等だ。
また一緒に頑張ってくれよ、相棒。
それからオレは信徒に食堂に案内され、簡単な食事を摂ってお風呂に入り再びお爺ちゃんの部屋で絵本を読んでいたところで記憶はない。グラグラ揺れる体を信徒によって抱き上げられた後、部屋に戻るまで彼女の背に乗り揺られていた。
『……無意識の魔法、それは……闘式。魔法における更なる向こう側の領域。そこに至るには途方もない研鑽の道か。或いは……』
そうだ、オレ……。
『……幼い内に死に至る程の恐怖を、魂に叩き込む。今より……更に幼い頃、か……』
彼女の名前を聞いてないんだった。
明日、聞かないと……。
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