22 / 51
第十一王子と、その守護者
日輪を背負った男
しおりを挟む
夢を見た。
起きた時、部屋を見渡してそこが王宮ではないことに気が付いて酷く気落ちする。窓を完全に閉め切られた部屋は暗いがそろそろ日が昇る時間。すぐ側の椅子に畳まれた自分の服に袖を通して、やっと一息つく。体も魔力も問題ない。
『くっそー……なんだってあんな夢なんかっ』
夢には王子とオレが、仲良く何事か話し合っては笑っていた。会話の内容など全く覚えていないがこれが願望から来る夢だというなら、なんてお手軽な願いだろうか。
しかし、考えてみれば最近王子と二人で過ごした時間などあっただろうか?
『……いや? 確かにないな、ないぞ?』
リベラベンジに魔人に他の守護魔導師たちとの出会いなど、最近忙しかったし何よりノルエフリンが守護騎士として一緒になるようになってからは二人だけ、というのはなかった気がする。
以前は嫌でも一人しかいなかったのに、不思議なものだ。
『会いたい……』
ん?
ベッドに座りながら小首を傾げる。もう一度自分が言った言葉を振り返り、それがどういうことなのか理解して頬に手を当てた。
『な、ななな何を言ってんだオレは!? 一日しか会ってないくらいで何寂しがってんだ!!』
再度ベッドにて悶絶する。随分と絆されたものだ、最初のころなんか逃げる気満々だったのに。今ではたった一日離れただけでこの様である。
だけど……今日、帰れるのは素直に嬉しい。会えるのは……凄く嬉しい。
『寂しい、か……。オレ、寂しかったのか』
そうだ。ウサギは寂しくても死なないらしいが、人は寂しいと死ぬのだ。
受け入れてみれば随分と体が軽くなった気がする。自然と視界も開けて明るい。魔力が活性化しているのがわかる。たまには心の内と対話するのも悪くないものだ、開き直ったとも言うが。
『失礼します。タタラ様、お目覚めですか?』
『はーい。起きてまーす』
扉が開かれ、光りと共にトワイシー殿が入って来た。朝早いのに既に制服をキチンと着て身嗜みも完璧なのだから文句の付けようもない。ベッドから立ち上がり再び挨拶を交わすと、トワイシー殿はオレを上から下まで見下ろして意表を突かれたように目を丸くしていた。
『たった一夜で、ここまで心身共に回復されるとは。顔持ちも立派になられて』
そんなに変わったのだろうか?
特に何もと言いたいところだが、昨夜は大変貴重な体験をした。あの時間がなければオレは未だにどこか心に重いものを背負ったままだったに違いない。
『そうであれば、それはトワイシー殿たちが与えてくれたものの賜物でしょう。皆さんの優しさと思いやりで元気になれたのです……ありがとうございました、本当に』
特にトワイシー殿は騎士団での仕事もあるのにオレなんかの面倒まで見てくれるなんて、本当に良い人過ぎる。
その後もトワイシー殿は城での始業まで時間があるからと一緒に朝食を摂り、魔法談議にも花が咲いてたくさん話をした。気付けば神殿の門が開くまで後僅か。なんと王子がわざわざ迎えに来てくれるそうで、オレは中庭にてトワイシー殿と約束の時間を待っていた。
『え! 昨日、ハルジオン殿下たちが来てたんですか!?』
『ええ。日輪の騎士も共に。一悶着ありましてね、その時に言い逃れが出来ず殿下に私の記憶を開示したのです。
……申し訳ありません。見ないことにするとお約束したにも関わらず』
トワイシー殿の記憶を見たということは、あの場にいなかった王子にまで……まんまあの姿を見られたということだろう。これには項垂れる他ない。格好悪い姿を見られてしまってショボくれるオレにトワイシー殿は何度も謝ってくれた。
良いんだ……あれをしでかしたオレがそもそもの原因だもの。誰も悪くない、オレ以外は。
『クロポルド団長まで? 日の輪騎士団団長と月の宴騎士団団長の対決なんて、豪華ですね。……神殿が崩れたりしなくて本当に良かった』
『おやおや。あんな若造にはまだ負けるつもりはありませんよ。公式の場で決闘などしたことはありませんが、敗北する気はないので』
ニコニコと素敵な笑顔でそう言ったトワイシー殿の言葉に引っ掛かるものがある。
……わか、ぞう?
『あの……失礼を承知でお聞きしますが、トワイシー殿って何歳なんですか?』
『ふふっ、私にとってこの瞬間は至福の時なんです。準備はいいですか?
トワイシー・ペンタ・ロロクロウム、今年で五十六歳になります。因みに日の輪の坊やは確か三十六歳ですよ』
そりゃー……若造、だわ……。
『人類の神秘か……』
『おや。世界でも一二を争えるほどの神秘的な存在であるタタラ様にそう言っていただけるのは大変光栄です』
二十代で通用するよ、むしろそれ以上だなんて誰も思わないよ……。
艶々のお肌に痛みなんて微塵もないサラサラの銀髪、ふっくらした唇にキリッとした佇まい。まさかと思ってトワイシー殿の手を拝借すれば、古い傷跡や剣や盾を持ったせいで皮膚は硬いが全体的に白く若々しい。
魔力によって魔導師は老化すらも後退させるのか、末恐ろしや……。
『詐欺です、これは正真正銘の詐欺です!!』
だって貴方それはもうオレのお父さんくらいの年齢ってことじゃないですか!!
『何を仰いますか。私でコレなのですから、タタラ様はもっと凄いですよ。私がヨボヨボのお爺さんになっても貴方はまだその姿に近いままでしょう。余程無茶な魔法を使い続けなければね』
『やだ! トワイシー殿がそんな弱気なこと言うのは困ります、アストロイヤ様みたいに元気でいてください!』
爺とお呼び下さい、なんて言っていた昨夜のお爺ちゃんはなんとここの神殿長だった。知ってからはちゃんと名前でお呼びしてるのに、何故かお爺ちゃんと呼ぶ方が喜ぶのだ。全く意味がわからない。
木のベンチに座っていたところを、彼の膝にしがみ付いて必死に説得を試みる。変わらず優しい笑い声を上げながらオレの背中を撫でる彼は……やはり年齢を重ねているだけあって年下の世話に慣れてるらしい。そんな彼であればなんとなく、大丈夫だと思って気が緩む。
『……私には、昔……結婚を約束していた方がいました』
背中を撫でる手が、頭に移る。
『とても強い方でした。同じ騎士として、尊敬して止まないほどに。魔法の腕も立つ方で向かうところ敵なしと皆に言われるほどです。
タタラ様と同じくらい魔法にも恵まれた方で、私は彼が誇りだった』
『……トワイシー殿』
騎士団に、そんな凄い人がいることは……聞いたことがない。なんとなくその人がもう、いないことを察して彼の膝に突っ伏したままになる。
『魔人との戦闘で、亡くなったのです。当時の日の輪騎士団の団長で……生き残った彼が引き継いで団長になりました。魔人相手でも負けるとは思いませんでした、それほど強かったので。
……思うのです、貴方を見るたびに。生きていれば、丁度このくらいの子どもを授かっていたかもしれない。貴方は本当に察しが良くて我慢強い……彼にそっくりだ』
そっと膝から離れ、俯く彼の胸に収まった。すぐにすっぽりと体を包まれて近くに鼓動を感じる。悲しみに溢れた声。
そうだ、この世界じゃ男同士だって……。
『……勝手な妄想を押し付けてしまい、申し訳ありません。ですが……貴方までもが魔人に関わったと聞き、内心は穏やかではなかった。
貴方と関われば関わるほど、想いは溢れて必要以上に構ってしまいます。貴方は彼と違い……ちゃんと生き残って帰れたのに、違うと……わかっているのですが』
強く回された腕が、失いたくないと物語る。オレも……記憶の整わないまま転生してここに至るのだ。別れもなく前世で出会った人々と離れてここにいる……生き別れたようなもの。
折角時間によって気持ちを整理していたのに、思い出させてしまって……申し訳ない。
『オレは、絶対に負けませんよ』
好きな人と結ばれたのに、愛し合っていたのに。
『二度目はないと宣言しました。次に会う時には必ず一矢報いると決めたのです』
もぞもぞと彼の腕の中から抜け出すと、彼の膝から降りて立ち上がる。名残惜しそうに伸ばされた彼の手を取り、しっかり両手で握り締めてから額に向かって背伸びしてキスをした。
へっへっへ。この世界での額へのキスというのは主に親子間で行われるものなのだ。……まぁ恋人同士でもやる人はやるけども。
『オレは第十一王子ハルジオン殿下に忠誠を誓う唯一無二の糸魔法を扱う守護魔導師。
トワイシー・ペンタ・ロロクロウム騎士。二度と貴方に失う悲しみを与えないと誓います。オレは、魔人に負けない男になります』
晴れやかにそう言ってから、彼の手を離して背を向け走り出す。振り返ればベンチから立ち上がる彼に、手を振って別れを告げた。
そして……。
『えいや!』
『……オイ』
鳴り響く鐘の音。
開かれた門から優然と現れた彼に飛び付いた。あんなに醜態を見られたことで落ち込み、恥じていたにも関わらず姿を見れば何も考えずに体が動く。王子の胸でケタケタと笑って反応を楽しんでいれば、暫くしてようやく彼の手が頭に乗る。
それだけで、空だって飛べそうなくらい浮かれてしまうのだ。
『……お前は単純なくせに、抱えたものを隠すのが上手いらしい』
『失礼ですよ! いつだって頭の中はフル回転してますとも。あ。本も読めたんです、文系です!』
バカなことを言うなと言われ、手を引かれて神殿に背を向ける。
『守護者が世話になった。礼を言う』
『トワイシー殿ー!! 神殿長アストロイヤ様と、信徒の皆さんにも宜しく伝えてくださーい!』
しっかりと握られた手を目にしては、踊る胸を鎮めて緩む頬を叱咤しつつ……まだ小さい背中を見てまた頬がだらしなくなる。
負けないとも。この人の背中をこんなに近くで見れる今を、守るためにも……オレは戦うんだ。
『……どうか、あの子に大いなる加護がありますように』
階段の下に控えていた人物を見て、思わず足を止めてしまう。同じように足を止めた殿下が目を向けて、彼に声を掛けた。周りの人が遠巻きに見つめる中でピンと背を伸ばして辺りを警戒していた彼がこちらを向く。
その目が、合った時……本当に安心したように微笑みながら歩み出す。
しかし、
『待て待て待て!? ステイぃっ!!』
『タタラ様ーっ!!』
猪か、お前は!!
心の赴くまま、全力全身でこちらに突っ込んでくる姿を見ては堪らず叫んでしまう。それでも止まらず突進してくる様にもう覚悟を決めるしかないのかと膝に力を入れた時。
『バカか貴様。病み上がりの子どもに何をするのだ、愚か者』
『あーっ……タタラ様ぁ……』
横から王子に抱えられ、見事にノルエフリンからの猛攻を避けた。ちゃんと止まった彼に改めてオレが渡されると、プレゼントを貰った子どものように嬉しそうに破顔する。
クソぉ……イケメンめ……。
『よし。タタラも帰ったことだ。一時城に戻ることにする』
ノルエフリンに抱えられながら、引っ掛かる言葉を聞いた気がして首を傾げる。そんなオレに気付いた王子が腕を組んで言う。
『午前中はしっかり休め。……神殿の連中から、お前への息抜きが足りないと猛抗議を受けた。
体に問題がないようなら、午後からは出掛けるぞ。身体に障らぬよう近場だがな』
『……お出掛け?』
なんと!
『殿下も、一緒に?』
『当たり前だろう。僕もノルエフリンもいないのに、お前が楽しめるはずがない』
三人で、お出掛け。
考えたこともなかった……二人で王子に伴われるのは、用事がある時。守護が必要な時。
『だから、体をしっかり休めるようにな』
『はい!!』
.
起きた時、部屋を見渡してそこが王宮ではないことに気が付いて酷く気落ちする。窓を完全に閉め切られた部屋は暗いがそろそろ日が昇る時間。すぐ側の椅子に畳まれた自分の服に袖を通して、やっと一息つく。体も魔力も問題ない。
『くっそー……なんだってあんな夢なんかっ』
夢には王子とオレが、仲良く何事か話し合っては笑っていた。会話の内容など全く覚えていないがこれが願望から来る夢だというなら、なんてお手軽な願いだろうか。
しかし、考えてみれば最近王子と二人で過ごした時間などあっただろうか?
『……いや? 確かにないな、ないぞ?』
リベラベンジに魔人に他の守護魔導師たちとの出会いなど、最近忙しかったし何よりノルエフリンが守護騎士として一緒になるようになってからは二人だけ、というのはなかった気がする。
以前は嫌でも一人しかいなかったのに、不思議なものだ。
『会いたい……』
ん?
ベッドに座りながら小首を傾げる。もう一度自分が言った言葉を振り返り、それがどういうことなのか理解して頬に手を当てた。
『な、ななな何を言ってんだオレは!? 一日しか会ってないくらいで何寂しがってんだ!!』
再度ベッドにて悶絶する。随分と絆されたものだ、最初のころなんか逃げる気満々だったのに。今ではたった一日離れただけでこの様である。
だけど……今日、帰れるのは素直に嬉しい。会えるのは……凄く嬉しい。
『寂しい、か……。オレ、寂しかったのか』
そうだ。ウサギは寂しくても死なないらしいが、人は寂しいと死ぬのだ。
受け入れてみれば随分と体が軽くなった気がする。自然と視界も開けて明るい。魔力が活性化しているのがわかる。たまには心の内と対話するのも悪くないものだ、開き直ったとも言うが。
『失礼します。タタラ様、お目覚めですか?』
『はーい。起きてまーす』
扉が開かれ、光りと共にトワイシー殿が入って来た。朝早いのに既に制服をキチンと着て身嗜みも完璧なのだから文句の付けようもない。ベッドから立ち上がり再び挨拶を交わすと、トワイシー殿はオレを上から下まで見下ろして意表を突かれたように目を丸くしていた。
『たった一夜で、ここまで心身共に回復されるとは。顔持ちも立派になられて』
そんなに変わったのだろうか?
特に何もと言いたいところだが、昨夜は大変貴重な体験をした。あの時間がなければオレは未だにどこか心に重いものを背負ったままだったに違いない。
『そうであれば、それはトワイシー殿たちが与えてくれたものの賜物でしょう。皆さんの優しさと思いやりで元気になれたのです……ありがとうございました、本当に』
特にトワイシー殿は騎士団での仕事もあるのにオレなんかの面倒まで見てくれるなんて、本当に良い人過ぎる。
その後もトワイシー殿は城での始業まで時間があるからと一緒に朝食を摂り、魔法談議にも花が咲いてたくさん話をした。気付けば神殿の門が開くまで後僅か。なんと王子がわざわざ迎えに来てくれるそうで、オレは中庭にてトワイシー殿と約束の時間を待っていた。
『え! 昨日、ハルジオン殿下たちが来てたんですか!?』
『ええ。日輪の騎士も共に。一悶着ありましてね、その時に言い逃れが出来ず殿下に私の記憶を開示したのです。
……申し訳ありません。見ないことにするとお約束したにも関わらず』
トワイシー殿の記憶を見たということは、あの場にいなかった王子にまで……まんまあの姿を見られたということだろう。これには項垂れる他ない。格好悪い姿を見られてしまってショボくれるオレにトワイシー殿は何度も謝ってくれた。
良いんだ……あれをしでかしたオレがそもそもの原因だもの。誰も悪くない、オレ以外は。
『クロポルド団長まで? 日の輪騎士団団長と月の宴騎士団団長の対決なんて、豪華ですね。……神殿が崩れたりしなくて本当に良かった』
『おやおや。あんな若造にはまだ負けるつもりはありませんよ。公式の場で決闘などしたことはありませんが、敗北する気はないので』
ニコニコと素敵な笑顔でそう言ったトワイシー殿の言葉に引っ掛かるものがある。
……わか、ぞう?
『あの……失礼を承知でお聞きしますが、トワイシー殿って何歳なんですか?』
『ふふっ、私にとってこの瞬間は至福の時なんです。準備はいいですか?
トワイシー・ペンタ・ロロクロウム、今年で五十六歳になります。因みに日の輪の坊やは確か三十六歳ですよ』
そりゃー……若造、だわ……。
『人類の神秘か……』
『おや。世界でも一二を争えるほどの神秘的な存在であるタタラ様にそう言っていただけるのは大変光栄です』
二十代で通用するよ、むしろそれ以上だなんて誰も思わないよ……。
艶々のお肌に痛みなんて微塵もないサラサラの銀髪、ふっくらした唇にキリッとした佇まい。まさかと思ってトワイシー殿の手を拝借すれば、古い傷跡や剣や盾を持ったせいで皮膚は硬いが全体的に白く若々しい。
魔力によって魔導師は老化すらも後退させるのか、末恐ろしや……。
『詐欺です、これは正真正銘の詐欺です!!』
だって貴方それはもうオレのお父さんくらいの年齢ってことじゃないですか!!
『何を仰いますか。私でコレなのですから、タタラ様はもっと凄いですよ。私がヨボヨボのお爺さんになっても貴方はまだその姿に近いままでしょう。余程無茶な魔法を使い続けなければね』
『やだ! トワイシー殿がそんな弱気なこと言うのは困ります、アストロイヤ様みたいに元気でいてください!』
爺とお呼び下さい、なんて言っていた昨夜のお爺ちゃんはなんとここの神殿長だった。知ってからはちゃんと名前でお呼びしてるのに、何故かお爺ちゃんと呼ぶ方が喜ぶのだ。全く意味がわからない。
木のベンチに座っていたところを、彼の膝にしがみ付いて必死に説得を試みる。変わらず優しい笑い声を上げながらオレの背中を撫でる彼は……やはり年齢を重ねているだけあって年下の世話に慣れてるらしい。そんな彼であればなんとなく、大丈夫だと思って気が緩む。
『……私には、昔……結婚を約束していた方がいました』
背中を撫でる手が、頭に移る。
『とても強い方でした。同じ騎士として、尊敬して止まないほどに。魔法の腕も立つ方で向かうところ敵なしと皆に言われるほどです。
タタラ様と同じくらい魔法にも恵まれた方で、私は彼が誇りだった』
『……トワイシー殿』
騎士団に、そんな凄い人がいることは……聞いたことがない。なんとなくその人がもう、いないことを察して彼の膝に突っ伏したままになる。
『魔人との戦闘で、亡くなったのです。当時の日の輪騎士団の団長で……生き残った彼が引き継いで団長になりました。魔人相手でも負けるとは思いませんでした、それほど強かったので。
……思うのです、貴方を見るたびに。生きていれば、丁度このくらいの子どもを授かっていたかもしれない。貴方は本当に察しが良くて我慢強い……彼にそっくりだ』
そっと膝から離れ、俯く彼の胸に収まった。すぐにすっぽりと体を包まれて近くに鼓動を感じる。悲しみに溢れた声。
そうだ、この世界じゃ男同士だって……。
『……勝手な妄想を押し付けてしまい、申し訳ありません。ですが……貴方までもが魔人に関わったと聞き、内心は穏やかではなかった。
貴方と関われば関わるほど、想いは溢れて必要以上に構ってしまいます。貴方は彼と違い……ちゃんと生き残って帰れたのに、違うと……わかっているのですが』
強く回された腕が、失いたくないと物語る。オレも……記憶の整わないまま転生してここに至るのだ。別れもなく前世で出会った人々と離れてここにいる……生き別れたようなもの。
折角時間によって気持ちを整理していたのに、思い出させてしまって……申し訳ない。
『オレは、絶対に負けませんよ』
好きな人と結ばれたのに、愛し合っていたのに。
『二度目はないと宣言しました。次に会う時には必ず一矢報いると決めたのです』
もぞもぞと彼の腕の中から抜け出すと、彼の膝から降りて立ち上がる。名残惜しそうに伸ばされた彼の手を取り、しっかり両手で握り締めてから額に向かって背伸びしてキスをした。
へっへっへ。この世界での額へのキスというのは主に親子間で行われるものなのだ。……まぁ恋人同士でもやる人はやるけども。
『オレは第十一王子ハルジオン殿下に忠誠を誓う唯一無二の糸魔法を扱う守護魔導師。
トワイシー・ペンタ・ロロクロウム騎士。二度と貴方に失う悲しみを与えないと誓います。オレは、魔人に負けない男になります』
晴れやかにそう言ってから、彼の手を離して背を向け走り出す。振り返ればベンチから立ち上がる彼に、手を振って別れを告げた。
そして……。
『えいや!』
『……オイ』
鳴り響く鐘の音。
開かれた門から優然と現れた彼に飛び付いた。あんなに醜態を見られたことで落ち込み、恥じていたにも関わらず姿を見れば何も考えずに体が動く。王子の胸でケタケタと笑って反応を楽しんでいれば、暫くしてようやく彼の手が頭に乗る。
それだけで、空だって飛べそうなくらい浮かれてしまうのだ。
『……お前は単純なくせに、抱えたものを隠すのが上手いらしい』
『失礼ですよ! いつだって頭の中はフル回転してますとも。あ。本も読めたんです、文系です!』
バカなことを言うなと言われ、手を引かれて神殿に背を向ける。
『守護者が世話になった。礼を言う』
『トワイシー殿ー!! 神殿長アストロイヤ様と、信徒の皆さんにも宜しく伝えてくださーい!』
しっかりと握られた手を目にしては、踊る胸を鎮めて緩む頬を叱咤しつつ……まだ小さい背中を見てまた頬がだらしなくなる。
負けないとも。この人の背中をこんなに近くで見れる今を、守るためにも……オレは戦うんだ。
『……どうか、あの子に大いなる加護がありますように』
階段の下に控えていた人物を見て、思わず足を止めてしまう。同じように足を止めた殿下が目を向けて、彼に声を掛けた。周りの人が遠巻きに見つめる中でピンと背を伸ばして辺りを警戒していた彼がこちらを向く。
その目が、合った時……本当に安心したように微笑みながら歩み出す。
しかし、
『待て待て待て!? ステイぃっ!!』
『タタラ様ーっ!!』
猪か、お前は!!
心の赴くまま、全力全身でこちらに突っ込んでくる姿を見ては堪らず叫んでしまう。それでも止まらず突進してくる様にもう覚悟を決めるしかないのかと膝に力を入れた時。
『バカか貴様。病み上がりの子どもに何をするのだ、愚か者』
『あーっ……タタラ様ぁ……』
横から王子に抱えられ、見事にノルエフリンからの猛攻を避けた。ちゃんと止まった彼に改めてオレが渡されると、プレゼントを貰った子どものように嬉しそうに破顔する。
クソぉ……イケメンめ……。
『よし。タタラも帰ったことだ。一時城に戻ることにする』
ノルエフリンに抱えられながら、引っ掛かる言葉を聞いた気がして首を傾げる。そんなオレに気付いた王子が腕を組んで言う。
『午前中はしっかり休め。……神殿の連中から、お前への息抜きが足りないと猛抗議を受けた。
体に問題がないようなら、午後からは出掛けるぞ。身体に障らぬよう近場だがな』
『……お出掛け?』
なんと!
『殿下も、一緒に?』
『当たり前だろう。僕もノルエフリンもいないのに、お前が楽しめるはずがない』
三人で、お出掛け。
考えたこともなかった……二人で王子に伴われるのは、用事がある時。守護が必要な時。
『だから、体をしっかり休めるようにな』
『はい!!』
.
190
あなたにおすすめの小説
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
転生場所は嫌われ所
あぎ
BL
会社員の千鶴(ちずる)は、今日も今日とて残業で、疲れていた
そんな時、男子高校生が、きらりと光る穴へ吸い込まれたのを見た。
※
※
最近かなり頻繁に起こる、これを皆『ホワイトルーム現象』と読んでいた。
とある解析者が、『ホワイトルーム現象が起きた時、その場にいると私たちの住む現実世界から望む仮想世界へ行くことが出来ます。』と、発表したが、それ以降、ホワイトルーム現象は起きなくなった
※
※
そんな中、千鶴が見たのは何年も前に消息したはずのホワイトルーム現象。可愛らしい男の子が吸い込まれていて。
彼を助けたら、解析者の言う通りの異世界で。
16:00更新
時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~
なりた
BL
悪女リリア・エルレルトには秘密がある。
一つは男であること。
そして、ある一定の未来を知っていること。
エルレルト家の人形として生きてきたアルバートは義妹リリアの策略によって火炙りの刑に処された。
意識を失い目を開けると自称魔女(男)に膝枕されていて…?
魔女はアルバートに『時間を戻す』提案をし、彼はそれを受け入れるが…。
なんと目覚めたのは断罪される2か月前!?
引くに引けない時期に戻されたことを嘆くも、あの忌まわしきイベントを回避するために奔走する。
でも回避した先は変態おじ伯爵と婚姻⁉
まぁどうせ出ていくからいっか!
北方の堅物伯爵×行動力の塊系主人公(途中まで女性)
妹に婚約者を取られるなんてよくある話
龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。
そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。
結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。
さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。
家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。
いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。
*ご都合主義です
*更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m
モラトリアムは物書きライフを満喫します。
星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息
就職に失敗。
アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。
自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。
あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。
30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。
しかし……待てよ。
悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!?
☆
※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。
※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。
婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした
Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち
その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話
:注意:
作者は素人です
傍観者視点の話
人(?)×人
安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる