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第十一王子と、その守護者
枝分かれした道
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『財布を落としてしまった愚かな子は、来た道を戻って職務怠慢な兵士に財布が落ちていなかったか聞きました。何も知らない役に立たない騎士は、向こうで歌う吟遊詩人に聞いてみると良いと言い……』
『待って下さい!! 勝手に絵本の内容を書き換えないで下さいよ、どこが子ども向けなんです! 辛辣すぎますわ!』
愚かな子は、坊や。
職務怠慢な騎士は、眠そうな兵士。
何も知らない役に立たない騎士は、立っていた騎士。
先に話を読み進めて脳内の罵倒が全て名前へと変換されている。そう、オレは城に戻って王子のクソ高級なベッドに寝かされると隣に絵本を持った王子が腰掛け読み聞かせをしてもらっていた。
頼んではいない。
『あまりにも使えない騎士に鈍臭い子どもだったので、ついな……』
『絵本なんだから良いんですよ!?』
こんな教育に悪そうな絵本があってなるものか。ジト目で王子を見れば、絵本を読むのは諦めたようでベッドの空いたスペースに放る。次にトン、とオレのお腹ら辺を布団越しに叩いて一言。
『寝ろ』
『無茶言う』
こんなに騒いで、しかも外から日輪の光までギラギラと入り込んでいるのにどう寝ろというのか。やれやれと肩まで布団を掴んで引っ張った時にあることに気付いてしまった。
スンスンスン。スンスンスン。
『……考えてみれば寝かしつけなど未経験であった。読み聞かせに、ベッドを温める……他にはどうしたら良いものか』
一定のリズムで叩かれ、すぐ隣からは安心する声が聞こえる。そして……ベッドからはとても良い匂いがするのだ。どんどん重くなる瞼に耐え切れず、隣にいる温もりを逃さないよう掴んでから意識を落とした。
『失礼します。
……あ。申し訳ありません、すぐ退室します』
『待て。寝かしつけには他に何が有効なんだ。そもそも本当にコレは寝るのか?』
心地良いから、ずっと喋っててくれないかなぁ……。
『そうですねぇ。一番有効なのは、恐らく殿下自身なのかもしれませんねぇ……』
『貴様は本当にタタラがいるとポンコツだな』
その後、既に眠ってしまったオレに気付いた王子が服の裾を握られていたためにずっと隣で読書に勤しんでいたと聞いた時は穴に入って冬を越したい気分だった。
いつもの真っ黒な衣装とは違う、白いシャツに山吹色のベスト。黒いハーフパンツに黒いブーツ。しかし髪にはいつもの髪飾りに鈴がある。珍しく鈴を鳴らしながら走り、後ろから来る彼らを呼ぶ。
『おそーい!』
『走るな。僕は絶対に走らない』
お忍びだー!! お出掛けだー!!
しかし仕事だー!!
『お前が隣にいれば問題ないのだ。だから勝手に走って行くな。お前がこの距離で対処出来ない事態などそうは起こるまい』
『ある程度の監視も付けておりますので、ご安心を。私は少し遠くから……』
『ノルエフリンも早く!』
王都バラツィア。城下は今日も今日とて賑やかだ。店も人も、種族すらも。ここには多くのものが集まるのだ。そしてそれはどれも素晴らしく、新しいものが多い。
困ったように笑うノルエフリンに首からお財布を掛けられ、思わずそれを握って振ってみる。ジャラジャラと良い音を鳴らすそれに悪い顔をしたくなるのは仕方ないのだ。
これは、今までのオレの給料だ。
『心配ですね……。金銭感覚の狂った殿下とまだ世間知らずさんな田舎者、どうにも破産する未来しか見えないのですが』
なんて失礼なんだ、王子と一緒にするな!
そんな意味合いを込めてノルエフリンを睨んでいたのに、隣にいる王子も同じような顔をしている。お互い、え? みたいな顔して二人で見つめ合っていればノルエフリンが片手で顔を隠しながら爆笑している。
上等だよ、先輩バカにしやがって……。
『ふん。可愛くない後輩には何も買ってあげないからな。地竜やメイドさんたちにだけ何か買うんだ!』
『え……私にも何か下さるのですか? 大変です、今すぐ保存魔法を覚えなければっ!!』
それ空間魔法の応用じゃん。お前無理だよ。
『茶番はそこまでにしろ、貴様ら。無駄な時間を使うとすぐに魔の差しが出る……既に午後だということを忘れるなよ』
『そうだ! 早く行かなくちゃ!』
いつもの豪華絢爛でも、黒い衣装でもない王子の白いシャツを通した手を取り歩き出す。後ろにいるノルエフリンも私服に着替えているが腰には剣がある。周りから見れば少し裕福な家庭の坊ちゃんと付き人のオレ、そして護衛のノルエフリンといった感じに見えるだろうか。
黙っていれば美少年な王子と、還り者であるノルエフリンの容姿でビシビシと視線が送られてくるがこういうのは気にしないのが一番。特にオレはこの中では一番普通だから。
『あらあら! お兄さんとお出掛けかい、坊ちゃん。美味しいキャシャのおやつだよ! お一ついかがかね?』
『キャシャ!!』
出店から声を掛けてくれた、奥さんの口から出た知ってる単語に弾けるように反応して王子の手を引く。行きたいという意思を込めてクンクン、と引けば仕方なしというように歩き出してくれた。
……お兄さんと、坊ちゃん……?
『うまそー……』
真っ赤なキャシャがジャムにされ、クッキーに挟まれている。味見しな、と奥さんに差し出された一枚を齧ればいつものジュースとは違う甘さが凝縮されたジャムと硬めなクッキーがいいバランスで美味しい。
これは是非、キャシャのジュースのお供にしたい一品だ!
『何枚入りですか?』
『一枚から売ってるから好きな数をいくらでも包んであげるよ。大人数にお土産にしたいなら大袋入りを勧めるね』
じゃあ、これは城のみんなへのお土産だな。
『大袋入りを二つ下さい! あと、十枚入りを三つ下さい』
『おお、毎度あり~。たくさん買ってくれてありがとうね。今度来たらオマケしてあげるよ』
帰りがけにまた一枚クッキーを貰って店から離れると、最初の店で随分と荷物を作ってしまった。帰りに買えば良かったと左手にズッシリとあるクッキーたちを見ていれば、横からヒョイと取られてしまう。
『さぁ。まだまだ始まったばかりですよ、荷物持ちはいくらでもいるので心配なさらず』
オレがかなり重い思いをしていた袋いっぱいのクッキーを、指一本で持つノルエフリンの姿に改めて感嘆の声を上げる。
流石ノルエフリン!!
『ほら。次はどこに行きたいのだ』
『あっちです!』
休日に着るための服に、お風呂に浮かべる好きな花。オレでも読める簡単な絵本の数々。ノルエフリンと王子のためのお土産は、あまりピンと来るものがなかったから良さそうな紅茶に。数が増えて来て心配するも、ノルエフリンがどこからか取り出した風呂敷を広げると荷物を一つにまとめて再び片手で難なく持ち上げてしまう。
出来る男だ……。
『……あ』
そこは、随分と高級な造りをした店だった。ちゃんとした建物にガラス張りのケース。そこには魔法でしっかりと防御が重ねられている。その向こうにある、可愛らしいぬいぐるみたちを守るために。
『入るか?』
『い、いえ! 大丈夫です……次は王子の行きたい店に行きましょう!』
くそぉ、フワフワの誘惑がオレを惑わす!
悟られぬようにその場を切り抜け、少し休むために喫茶店にも寄った。同じように買い物や用事を済ませるたくさんの人々を観察しつつ、王宮ではあまり出ない趣向を凝らしたデザートを堪能した。
こんな仕事があって堪るか……しかし、こんな仕事ならいつでもウェルカム。
美味い美味いとご機嫌で食べ進める中……向かいに座る王子は、どこか心ここに在らずといった感じで店の外を見ていた。連れ回してしまったから疲れてしまったのかもしれないと思い時計を見れば、もう三時間ほど経っている。
そりゃ疲れるわな。
『殿下、そろそろ帰りましょうか』
『……もう良いのか。そうだな、では最後に一つだけ寄る場所がある』
王子に手を引かれて向かう場所に行く途中、段々と周りの人の感じが変わっていく。今までは普通に買い物やら街で働く人……そう、普通だった。
しかし辺りは鎧や杖、剣に盾を持った……武装した人たちがたくさんいるのだ。
『……王子?』
やがて辿り着いた先には、巨大な建造物が建っていた。頑丈そうな石造りに垂れ下がる国旗。歴史を感じる古さだがボロいとかは全然ない。手入れされたその建物に掲げられた看板は、オレでも読めた。
『バーリカリーナ王国ギルド……バトロノーツ』
そう。
そこは、王国公認の第一ギルドであるバーリカリーナ一推しの魔法ギルド。
バトロノーツ・ギルド。
『これからはお前に週二回以上はギルドに通ってもらうことになる。丁度守護騎士も出来たことだ』
……は?
何を、何を言ってるんだ……?
『お前には魔力の消費が足りていないそうだ。ギルドで適度に働き、魔法をどんどん使って来い。金も稼げて一石二鳥だな』
ペラペラ喋る王子を、振り返って見ることが出来ない。
どうして?
どうして?
オレの魔法は、王子を護るためのものじゃないのかよ……?
『……お前の解雇の日が決まった』
なら、どうして
『ここで学ぶことは多いだろう。僕の元から去っても冒険者として今から動き出すのも悪くはない。
僕は結婚に向けての準備等で忙しくなる。護衛はそうは要らないのだ、だからお前はここで働いて魔力をしっかり安定させるように』
どう、してっ……!
『ノルエフリンも承知している』
目を向けた騎士は、深く頭を下げたまま。わかってる。どれだけ抗議したって所詮は王子と騎士、そんなの敵うはずない。
眼前の建物が、まるで牢獄のように見える。
『……わかったのなら返事をしろ』
『畏まりました』
どうして、最後まで一緒にいさせてくれないんだ。
帰り道は誰も何も話さなかった。行きはあんなにも明るく何もかもが輝いて見えたのに、今はまるでこの世の終わりにでも立っているように。何度も足取りが遅くなるオレを気遣うようにノルエフリンが立ち止まり、おぶろうとしてくれるのを断る。
きっと先程までのテンションのオレであれば、喜んで彼の背に飛び乗っただろう。
王子は最後まで、オレと目を合わさなかった。
『えぇー? 私たちにまでお土産くれるんですか、タタラ君』
『すぐに他の者たちにも配って来ますね!』
王子の守護をノルエフリンに任せ、オレはお土産のクッキーをみんなに配りに使用人用食堂に行った。若い女性陣は凄く喜んでくれて、子どもがいる女性陣たちは子どもにあげても良いかと聞くのでたくさんあるから持って行って良いよと伝えれば、こちらもとても喜んでくれた。執事の皆さんにも配っていればお礼にお茶を用意してもらい、カップに入れた紅茶を持ちながらボーっと座っている。
『なにショボくれてんだ』
『りょうりちょー……』
久しぶりに会ったストロガン料理長。帰ってからずっと複雑に絡む心境……誰かに打ち明ければ少しは楽になるかと思い、彼に今日のことを話した。
『なんだそれ普通にムカつくな』
『でしょ!?』
椅子を持って来て話を聞いていた料理長がそう言えば、オレは待ってましたと言わんばかりに立ち上がった。
『だってよ、テメェは守護者なんだろ? そりゃギルドなんかにやられちゃ堪んねーよ。魔法使えるからってそりゃ横暴だわ』
『でしょでしょ!?』
熱くなってまいりました!!
『だから。怒れ。
だけど、それ以上に丁寧な仕事をしてやれ。見返してやるんだよ。自分は、ギルドでの仕事だって出来るって証明しろ。
手放したあのオウジサマを悔しがらせるくらい、良い働きをして来い。帰って来たら毎日美味いもん食わしてやるからよ』
怒る?
包丁や火傷で鍛えられた手が、ペチペチと頬に当てられる。
そうか。オレは、怒っていいのか!
『やる!
やってやるわ、見返してやる!!』
『おーおー。その意気だ、頑張れよ若者~』
やってやる、やってやるんだ!!
オレは! アイツを必ず、後悔させたる!!
.
『待って下さい!! 勝手に絵本の内容を書き換えないで下さいよ、どこが子ども向けなんです! 辛辣すぎますわ!』
愚かな子は、坊や。
職務怠慢な騎士は、眠そうな兵士。
何も知らない役に立たない騎士は、立っていた騎士。
先に話を読み進めて脳内の罵倒が全て名前へと変換されている。そう、オレは城に戻って王子のクソ高級なベッドに寝かされると隣に絵本を持った王子が腰掛け読み聞かせをしてもらっていた。
頼んではいない。
『あまりにも使えない騎士に鈍臭い子どもだったので、ついな……』
『絵本なんだから良いんですよ!?』
こんな教育に悪そうな絵本があってなるものか。ジト目で王子を見れば、絵本を読むのは諦めたようでベッドの空いたスペースに放る。次にトン、とオレのお腹ら辺を布団越しに叩いて一言。
『寝ろ』
『無茶言う』
こんなに騒いで、しかも外から日輪の光までギラギラと入り込んでいるのにどう寝ろというのか。やれやれと肩まで布団を掴んで引っ張った時にあることに気付いてしまった。
スンスンスン。スンスンスン。
『……考えてみれば寝かしつけなど未経験であった。読み聞かせに、ベッドを温める……他にはどうしたら良いものか』
一定のリズムで叩かれ、すぐ隣からは安心する声が聞こえる。そして……ベッドからはとても良い匂いがするのだ。どんどん重くなる瞼に耐え切れず、隣にいる温もりを逃さないよう掴んでから意識を落とした。
『失礼します。
……あ。申し訳ありません、すぐ退室します』
『待て。寝かしつけには他に何が有効なんだ。そもそも本当にコレは寝るのか?』
心地良いから、ずっと喋っててくれないかなぁ……。
『そうですねぇ。一番有効なのは、恐らく殿下自身なのかもしれませんねぇ……』
『貴様は本当にタタラがいるとポンコツだな』
その後、既に眠ってしまったオレに気付いた王子が服の裾を握られていたためにずっと隣で読書に勤しんでいたと聞いた時は穴に入って冬を越したい気分だった。
いつもの真っ黒な衣装とは違う、白いシャツに山吹色のベスト。黒いハーフパンツに黒いブーツ。しかし髪にはいつもの髪飾りに鈴がある。珍しく鈴を鳴らしながら走り、後ろから来る彼らを呼ぶ。
『おそーい!』
『走るな。僕は絶対に走らない』
お忍びだー!! お出掛けだー!!
しかし仕事だー!!
『お前が隣にいれば問題ないのだ。だから勝手に走って行くな。お前がこの距離で対処出来ない事態などそうは起こるまい』
『ある程度の監視も付けておりますので、ご安心を。私は少し遠くから……』
『ノルエフリンも早く!』
王都バラツィア。城下は今日も今日とて賑やかだ。店も人も、種族すらも。ここには多くのものが集まるのだ。そしてそれはどれも素晴らしく、新しいものが多い。
困ったように笑うノルエフリンに首からお財布を掛けられ、思わずそれを握って振ってみる。ジャラジャラと良い音を鳴らすそれに悪い顔をしたくなるのは仕方ないのだ。
これは、今までのオレの給料だ。
『心配ですね……。金銭感覚の狂った殿下とまだ世間知らずさんな田舎者、どうにも破産する未来しか見えないのですが』
なんて失礼なんだ、王子と一緒にするな!
そんな意味合いを込めてノルエフリンを睨んでいたのに、隣にいる王子も同じような顔をしている。お互い、え? みたいな顔して二人で見つめ合っていればノルエフリンが片手で顔を隠しながら爆笑している。
上等だよ、先輩バカにしやがって……。
『ふん。可愛くない後輩には何も買ってあげないからな。地竜やメイドさんたちにだけ何か買うんだ!』
『え……私にも何か下さるのですか? 大変です、今すぐ保存魔法を覚えなければっ!!』
それ空間魔法の応用じゃん。お前無理だよ。
『茶番はそこまでにしろ、貴様ら。無駄な時間を使うとすぐに魔の差しが出る……既に午後だということを忘れるなよ』
『そうだ! 早く行かなくちゃ!』
いつもの豪華絢爛でも、黒い衣装でもない王子の白いシャツを通した手を取り歩き出す。後ろにいるノルエフリンも私服に着替えているが腰には剣がある。周りから見れば少し裕福な家庭の坊ちゃんと付き人のオレ、そして護衛のノルエフリンといった感じに見えるだろうか。
黙っていれば美少年な王子と、還り者であるノルエフリンの容姿でビシビシと視線が送られてくるがこういうのは気にしないのが一番。特にオレはこの中では一番普通だから。
『あらあら! お兄さんとお出掛けかい、坊ちゃん。美味しいキャシャのおやつだよ! お一ついかがかね?』
『キャシャ!!』
出店から声を掛けてくれた、奥さんの口から出た知ってる単語に弾けるように反応して王子の手を引く。行きたいという意思を込めてクンクン、と引けば仕方なしというように歩き出してくれた。
……お兄さんと、坊ちゃん……?
『うまそー……』
真っ赤なキャシャがジャムにされ、クッキーに挟まれている。味見しな、と奥さんに差し出された一枚を齧ればいつものジュースとは違う甘さが凝縮されたジャムと硬めなクッキーがいいバランスで美味しい。
これは是非、キャシャのジュースのお供にしたい一品だ!
『何枚入りですか?』
『一枚から売ってるから好きな数をいくらでも包んであげるよ。大人数にお土産にしたいなら大袋入りを勧めるね』
じゃあ、これは城のみんなへのお土産だな。
『大袋入りを二つ下さい! あと、十枚入りを三つ下さい』
『おお、毎度あり~。たくさん買ってくれてありがとうね。今度来たらオマケしてあげるよ』
帰りがけにまた一枚クッキーを貰って店から離れると、最初の店で随分と荷物を作ってしまった。帰りに買えば良かったと左手にズッシリとあるクッキーたちを見ていれば、横からヒョイと取られてしまう。
『さぁ。まだまだ始まったばかりですよ、荷物持ちはいくらでもいるので心配なさらず』
オレがかなり重い思いをしていた袋いっぱいのクッキーを、指一本で持つノルエフリンの姿に改めて感嘆の声を上げる。
流石ノルエフリン!!
『ほら。次はどこに行きたいのだ』
『あっちです!』
休日に着るための服に、お風呂に浮かべる好きな花。オレでも読める簡単な絵本の数々。ノルエフリンと王子のためのお土産は、あまりピンと来るものがなかったから良さそうな紅茶に。数が増えて来て心配するも、ノルエフリンがどこからか取り出した風呂敷を広げると荷物を一つにまとめて再び片手で難なく持ち上げてしまう。
出来る男だ……。
『……あ』
そこは、随分と高級な造りをした店だった。ちゃんとした建物にガラス張りのケース。そこには魔法でしっかりと防御が重ねられている。その向こうにある、可愛らしいぬいぐるみたちを守るために。
『入るか?』
『い、いえ! 大丈夫です……次は王子の行きたい店に行きましょう!』
くそぉ、フワフワの誘惑がオレを惑わす!
悟られぬようにその場を切り抜け、少し休むために喫茶店にも寄った。同じように買い物や用事を済ませるたくさんの人々を観察しつつ、王宮ではあまり出ない趣向を凝らしたデザートを堪能した。
こんな仕事があって堪るか……しかし、こんな仕事ならいつでもウェルカム。
美味い美味いとご機嫌で食べ進める中……向かいに座る王子は、どこか心ここに在らずといった感じで店の外を見ていた。連れ回してしまったから疲れてしまったのかもしれないと思い時計を見れば、もう三時間ほど経っている。
そりゃ疲れるわな。
『殿下、そろそろ帰りましょうか』
『……もう良いのか。そうだな、では最後に一つだけ寄る場所がある』
王子に手を引かれて向かう場所に行く途中、段々と周りの人の感じが変わっていく。今までは普通に買い物やら街で働く人……そう、普通だった。
しかし辺りは鎧や杖、剣に盾を持った……武装した人たちがたくさんいるのだ。
『……王子?』
やがて辿り着いた先には、巨大な建造物が建っていた。頑丈そうな石造りに垂れ下がる国旗。歴史を感じる古さだがボロいとかは全然ない。手入れされたその建物に掲げられた看板は、オレでも読めた。
『バーリカリーナ王国ギルド……バトロノーツ』
そう。
そこは、王国公認の第一ギルドであるバーリカリーナ一推しの魔法ギルド。
バトロノーツ・ギルド。
『これからはお前に週二回以上はギルドに通ってもらうことになる。丁度守護騎士も出来たことだ』
……は?
何を、何を言ってるんだ……?
『お前には魔力の消費が足りていないそうだ。ギルドで適度に働き、魔法をどんどん使って来い。金も稼げて一石二鳥だな』
ペラペラ喋る王子を、振り返って見ることが出来ない。
どうして?
どうして?
オレの魔法は、王子を護るためのものじゃないのかよ……?
『……お前の解雇の日が決まった』
なら、どうして
『ここで学ぶことは多いだろう。僕の元から去っても冒険者として今から動き出すのも悪くはない。
僕は結婚に向けての準備等で忙しくなる。護衛はそうは要らないのだ、だからお前はここで働いて魔力をしっかり安定させるように』
どう、してっ……!
『ノルエフリンも承知している』
目を向けた騎士は、深く頭を下げたまま。わかってる。どれだけ抗議したって所詮は王子と騎士、そんなの敵うはずない。
眼前の建物が、まるで牢獄のように見える。
『……わかったのなら返事をしろ』
『畏まりました』
どうして、最後まで一緒にいさせてくれないんだ。
帰り道は誰も何も話さなかった。行きはあんなにも明るく何もかもが輝いて見えたのに、今はまるでこの世の終わりにでも立っているように。何度も足取りが遅くなるオレを気遣うようにノルエフリンが立ち止まり、おぶろうとしてくれるのを断る。
きっと先程までのテンションのオレであれば、喜んで彼の背に飛び乗っただろう。
王子は最後まで、オレと目を合わさなかった。
『えぇー? 私たちにまでお土産くれるんですか、タタラ君』
『すぐに他の者たちにも配って来ますね!』
王子の守護をノルエフリンに任せ、オレはお土産のクッキーをみんなに配りに使用人用食堂に行った。若い女性陣は凄く喜んでくれて、子どもがいる女性陣たちは子どもにあげても良いかと聞くのでたくさんあるから持って行って良いよと伝えれば、こちらもとても喜んでくれた。執事の皆さんにも配っていればお礼にお茶を用意してもらい、カップに入れた紅茶を持ちながらボーっと座っている。
『なにショボくれてんだ』
『りょうりちょー……』
久しぶりに会ったストロガン料理長。帰ってからずっと複雑に絡む心境……誰かに打ち明ければ少しは楽になるかと思い、彼に今日のことを話した。
『なんだそれ普通にムカつくな』
『でしょ!?』
椅子を持って来て話を聞いていた料理長がそう言えば、オレは待ってましたと言わんばかりに立ち上がった。
『だってよ、テメェは守護者なんだろ? そりゃギルドなんかにやられちゃ堪んねーよ。魔法使えるからってそりゃ横暴だわ』
『でしょでしょ!?』
熱くなってまいりました!!
『だから。怒れ。
だけど、それ以上に丁寧な仕事をしてやれ。見返してやるんだよ。自分は、ギルドでの仕事だって出来るって証明しろ。
手放したあのオウジサマを悔しがらせるくらい、良い働きをして来い。帰って来たら毎日美味いもん食わしてやるからよ』
怒る?
包丁や火傷で鍛えられた手が、ペチペチと頬に当てられる。
そうか。オレは、怒っていいのか!
『やる!
やってやるわ、見返してやる!!』
『おーおー。その意気だ、頑張れよ若者~』
やってやる、やってやるんだ!!
オレは! アイツを必ず、後悔させたる!!
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