マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう

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第十一王子と、その守護者

守護者たる者

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 ギルドとは、冒険者と依頼主を結ぶ仲介役である。ギルドには常に職員が常駐して一日中その窓口を開けている。中でも王国公認のギルドには凄腕の冒険者だけでなく、王族の守護者たちが集まるのが大きな特徴だろう。従ってそのレベルは高く、入れたとしても生き残って行くのは過酷であり新人は容赦なくふるい落とされる。


 クエストボードにはいくつか種類があって、バトロノーツでは主に三つ。


 一つは、バトルボード。主に魔物や犯罪者との戦闘を主軸に依頼が発行され、ギルドの花形と言っても過言ではない。ダンジョンへの捜索依頼や護衛の依頼もここに該当する。


 二つ、スローボード。これは命の危険は殆どない謂わばお手伝いに似た依頼が多い。しかし魔法に頼らなければならないものや街の住人による依頼が多いので常にクエストを取り合うバトルボードとは違い数には困らない。


 三つ、ハードボード。これは緊急性のあるクエストが内容に関わらず張り出される。どうしても人数が集まらなければギルド長による選別が行われ、強制的にクエストに連れて行かれる可能性もある。


『よーしよし。行ってくるな』


『ギャァ……』


『ンギャァ……』


 昨日買った果物を与え、その背を降りればなんとも悲しそうな声でオレを引き止める地竜たち。オレの不安を感じ取ってしまったのか背中のリボンをガジガジ噛んで行かないで、と訴え始める。


 そう。オレは早速ギルドへ行くよう朝っぱらから命令されてしまい、直したての正装を押し付けられ部屋を閉め出されてしまったのだ。


『こーら。オレの正装を噛むなよー、ベタベタになっちゃうだろ?

 ……心配してくれて、ありがとうな』


 つぶらな瞳が、朝方見たノルエフリンのものと被って見えた。追い出されるオレを最後まで心配そうに目で追っていた。


 ……そう、向こうはノルエフリンがいるから大丈夫。そもそも城からも滅多に出る用事はないようだし。むしろオレがちゃんとしないと!


『タタラ様、こちらを』


『ん?』


 新しく雇われた御者の青年に呼び止められ、地竜から離れて降りて来た青年の元に行く。因みにオレは竜車で来たにも関わらず地竜の背に乗っていたわけだ。今日は何故か彼らが譲らなかった……。


 帽子を脱いで斜めに掛けた鞄から小さな包みを出し、オレに差し出す。


『料理長からお預かりしました! 頑張って来い、と仰っていました! 自分も応援しております。帰りは任せて下さい!』


『料理長が、わざわざ? ってことは……』

 
 包みの中はお弁当だった。この人生における初弁当にすっかりテンションは上がる。彼のことだ、オレの好物を詰めてくれているに違いない!


『ありがとう! 頑張るわ……。でも、帰りのお迎えはいらないかな。帰りは城に向かって真っ直ぐ戻れば良いだけだから』


 ぶっちゃけ今日も一人で来れたのだが、初日に守護魔導師が一人で来るのは体裁的に宜しくないということで執事たちに止められた。


 ションボリして手を振る御者と、いつまでも悲しげにこちらを見つめる地竜たちに手を振って再度、ギルドへと足を向ける。


 さぁ。オレの楽しい復讐劇の始まりだ!


『ほほう? なるほど、これがギルド』


 一時は牢獄なんて呼んでしまったが、ギルド内は至ってシンプルなものだ。一階には大きなクエストボードが三枚デカデカと設置され、入って左側には受け付け窓口。右側には報酬窓口。二階もあるようだが、二階はギルド員たちの交流のための場所らしい。


 扉を開けて入った瞬間、誰もがオレを目にした途端に物珍しそうにジロジロと見たが……。


 チリンッ……。


『第十一王子ハルジオン・常世・バーリカリーナ殿下の守護魔導師タタラでございます。今日からこちらのギルドでお世話になりますので、宜しくお願いします』


 真っ黒な容姿に、真っ黒な衣服。年齢より小さく見える小さな体。しかしそれを全て忘れさせるような凛とした佇まい。不安なんて一切見せない、前しか映らないような瞳を。


 一礼してから歩き出せば周りのポカンとした人々を追い越して受け付け窓口へと向かう。走り出してしまいそうな気持ちをなんとか抑え込んだ。


 ひぇーっ、恥ずかしいなぁ。


『おはようございます。ギルドに登録したいのですが、こちらで出来ますか?』


『うっす。こちらでお手続きしまっす』


 こちらの緊張が吹き飛ぶくらいの気の抜けた声に、毒気が抜かれてしまうほどだった。茶色と金色の混じった髪に、紫色の猫目。オレと目を合わせずに黙々と書類を出す彼に倣ってオレも用意していた用紙を提出する。


『問題ありません。ギルド階級について説明は必要でしょうか』


『階級……? お願いします』


『うっす。

 ギルド階級は世界共通。一番下は十等級で九・八・七・六・五・四・三・二・一等級となりその上には上級、更に上は最上位の全等級があります。

 タタラ様は個人魔法使いとして十等級から。一等級からは国からその実力を保証され、証として二つ名が与えられます。階級にあったクエストを持ってこちらに提出して下さい』


 なるほど……。


 例え王宮仕えの守護魔導師だとしても、問答無用で下っ端からやれってことだな。平等で良いじゃないか。実力で一番下から頑張ってやらぁ!


『わかりました。あちらのクエストボードで十等級のものから受けられるんですね。

 ありがとうございました、早速見てきます』


『……ん? う、うっす……ごゆっくり』


 どこか困惑する受付さんにお礼を言って見事にギルド員となったオレはクエストボードへと小走りに向かう。大きな三枚のボード。少し考えてから真ん中にある大量のクエストが張り出されたスローボードの前に立った。


 何故なら、バトルボードの前にはたくさんの冒険者たちが集っていてとてもクエストボードは見えそうにないから。


『凄い人気っぷりだ……。まぁ下手に戦いに行くのは危険そうだし、王都で出来る仕事から始めた方が良いよな』


 バトルボードのクエストはどんどん減るが、スローボードのクエストははみ出しそうなくらいたくさんある。いつかの黒板よりも大きなクエストボードに、古そうな紙から端には新しい紙。近付いて見ればどれも十等級どころか、階級不問というものばかり。ただし、依頼内容を熟せる力がある者のみを呼び込むもの。


 魔法があれば、大抵のことは大丈夫そうだが。


『まずは役に立てそうでオレに出来るような……』


 一枚の可愛らしい紙に書かれたクエストが目に入る。上に重ねられた紙を少し退かしてそれの内容を確認してみた。


【依頼内容:店の清掃。

 王都にある服屋・花色の仕立て屋の復旧及び清掃の手伝い。大人数、又は魔法による作業向上の場合は報酬上乗せ。

 階級:不問 報酬:銀色貨幣十枚

 依頼主:ビローデア・イーフィ】


『掃除の依頼か。これなら、オレでも出来るかな……糸魔法で役に立てると良いけど』


 少しだけ躊躇いながら、しかし覚悟を決めてそのクエストを剥がした。一度剥がしたクエストは必ず受けるもの、と書かれた注意書きを心に刻んで先程の受け付け窓口へ並ぶ。


 順番が来てクエストを見て、オレの階級書を確認した青年が驚いたようにクエストとオレを交互に見比べる。


『このクエストを受けたいです!』


『……あ、え? これで良いんすか? これはスローボードにあったクエストで……守護魔導師様が受けるようなものではないと思うのですが……』


『まだ新人ですし。バトルボードのクエストは少し慣れてからにしようかと。これでも城ではメイドさんたちに混じって掃除なんかもしてたから、お役に立てると思うんです!』


 なんなら洗濯はコーリーに。料理はたまにストロガン料理長から教えてもらってるとも!


 えへん、と胸を張れば青年や近くにいた冒険者たちが呆然としている。青年が判子を押したクエストを持ち、裏に書かれた地図を頼りに走り出す。


『では! 行ってきまーす』


 ギルドを出れば、糸を出して空を行く。翔んではまた新しく糸を建物に括り付けて。途中で弁当がぐちゃぐちゃにならないように慎重に持ちながら地図を確認して目的の店へと降り立つ。


 そこは、中々酷い有様の店だった。


『おーこりゃ、中々……うん。酷いな!』


 看板は傾き、水浸しの地面。店には何故か土がこびり付いているのだ。勿論この店だけ。元は綺麗な店構えだったのだろう、そこまで汚れに年季を感じないのだ。


 と吊るされたプレートを無視して店に入れば暗い店内に一人だけ。奥に人影がある。


『突然申し訳ありません、バトロノーツ・ギルドから来た魔導師です。依頼を受けて来たのですがっ』


『……あらやだ。本当に来たわっ……』


 派手だった。


 それはまるで、出会った当初の王子を彷彿とさせるほどのギンギラさ。赤と金色の髪をオールバックにし体にピッタリとフィットしたスーツ。しかも色は真っ白。靴は金色のパンプス。高身長にスラっとした体型が見事にそれらをきこなしているのがまた驚きだ。


 そして極め付けには化粧。バッチリメイクの、バリバリの……。


『ギルドから連絡が来たけど、まさか魔導師が来るなんて驚きだわ……。精々駆け出しの新米ちゃんが来てくれるもんかなぁ、なんて思ってたしぃ?』


『タ、タタラと申します! 魔導師ではありますが新人です。精一杯頑張ります』


『やっだぁ! 可愛いじゃなぁい!』


 オカマさんであった。


 それからオレはビローデアさんから依頼内容を改めて聞いた。それはまず、この店の現状に至るまでの経緯でもある。


『困ったことに、犯罪者集団の仲違いに巻き込まれたみたいでね。店のすぐ近くで魔法を使った戦闘があってこっちは完全に被害者よ。だけど王都に店を構えたばかりで保険とかまだ入ってなくてね……まさかこんなに早く厄介ごとに巻き込まれるなんて。

 だから店は自分たちで直すしかなくて……おまけに、戦闘には止めようとした店員まで巻き添えに。命に別状はないけど、この通りワタシ一人だけってわけ』


『なるほど……、それでギルドに』


 水魔法と、土魔法。組み合わさると厄介な属性だ。店内にも水が入ってまだ引いていないし、それによって運び込まれた土が泥となって更に汚れが悪化しているのだ。ある程度の掃除はされているが店主であるビローデアさんだけでは限界がある。


 汚れは家具やカーペットにまで至っていて、被害額も相当だろう。


『わかりました。では、早速始めましょう。掃除道具などはありますか? なければ調達してきます』


『ああ、それは周辺のお店なんかから借りて来てるわよ。周辺にもご迷惑だし早く片さなきゃね……』


 重い溜息を吐くビローデアさんの手が、汚れていることに気付く。よく見れば化粧は結構崩れているし髪も乱れている……しかし、服は汚れていない。


 そうか。オレが来るから……急いで着替えてくれたのか。


『……ええ。早く済ませて、お店を再開出来る様にしましょう。

 ということで、ビローデアさんは少し外で休んでいて下さい。少し危ないので!』


『……は? え!? ちょ、ちょっと!?』


 オレがギルドに登録した理由はいくつかある。その中でも特に重要なのが魔法をよりたくさん使用すること。つまりどんどん魔法を出して、どんどん魔力を消費するのだ。


 ビローデアさんを外に出し、オレはから糸を出す。


 オレはなんと、指だけでなく何もない空間から糸を出すことに成功したのだ! つまりもう最悪の場合には足を出して糸を出すことも必要ない。


 これは手を出さないための処置だ。


『糸魔法 ……うーん、えっと……』


 腕を組んで、考える。


 考えて、考えて、ふと目に入ったマネキンに良い魔法を思い付いた。


『糸魔法! 操り人形の宴マリオネット・パレード


 雑巾を持って床を磨くマネキン。土で汚れた窓を拭くマネキン。使えない家具を外に放る、オレの糸。洗ったカーテンを糸で繋いで日輪と風の力によって乾かす。


 そして全てを操る糸に、魔力を注ぐオレ。


『宴っていうより、大掃除の間違いかな……カッコイイ名前の方が良いし宴でいいか!』



 まだまだ大掃除はこれからだ!!





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