54 / 125
募るもの
【七】決断
しおりを挟む
――――――――『俺…優士から離れたい…』――――――――。
◇
帰りの車の中で、瑞樹はずっと考えていた。
優士の怪我の経緯は、避難場所にて、高梨が皆に話していた。
その話は隊員達だけで無く、村人達も聞いていた。恐らくは、加藤少年やその家族が村八分に遭わない様にとの配慮だろう。
まず最初に、高梨は刀の管理の不十分さを謝罪した。
それから、加藤少年を庇って、優士が妖に傷を負わされた事等を話し始めた。
傷の具合は、命に係る物では無い事。
そこに星が駆け付けて、津山を背負ったまま飛び膝蹴りを喰らわせた事。これにはそれぞれが頭を抱えたり、遠い目をしていた。村人達は、目を剥いていたが、加藤少年は目をキラキラさせて頷いていた。天野に至っては、遥か彼方を見ながら『背負わされていたのが俺だったら、妖目掛けて投げられていたかもな~』と、呟いていた。
いや、まさかと瑞樹は思ったが、隊員の皆は、一様に頷いていた。村人達はドン引いていた。
刀を持ち出した加藤少年の行動は褒められた物では無いが、妖から逃げる為に必死だった事。
そのお蔭で、自分達が間に合った事。
だから、もしも万が一、妖に遭遇したら諦めずに生きる為の行動をして欲しいと、高梨は深く頭を下げた。
その言葉に、瑞樹の胸がちくりと痛んだ。
(…生きる為…)
話を聞きながら、瑞樹はぎゅっと胸元を掴む。
(…俺は…何も出来なかった…。今回も、ただ見ているだけで…)
これまでの事だって、自分は何も出来なかった。
加藤少年の様に、逃げる為に、生きる為に、何かを出来なかった。
『現場で生き残るのは、恐怖心を忘れない奴だ』
何時だったか、高梨がそう言った事があった。
それは、こう云う事だったのだろうか。
動けないくせに、妖を倒す気持ちばかりが逸って。
苦しくて辛いのに、逃げようともしないで。
身体が動かないから、なんて理由を付けて。
それは、ただ、動きたくないだけ…。
弱いくせに、強いフリをしているだけ…。
…周りに…優士に守られてばかりで。
自分は、何をしているんだろう?
加藤少年は『怖かった』と言っていたと、高梨が言っていた。
『俺達は捕食される弱者なんだ。怖くて当然だ』
そう、それは当然の反応なのだ。
『臆病』だと口にしたのは誰だった?
生きる為に、死への恐怖を忘れない。
それの何処が臆病だと言うのだろうか?
臆病なのは、死への恐怖を感じずにただ、動けないでいる自分だ。
『俺も怖いぞっ! 死んだらみくちゃんに怒られるからな!』
とは天野の言葉で、張り詰めていた空気が一気に霧散したのは言うまでもない。
(…俺は…妖に対する恐怖より…死に対する恐怖より…あの日蝕の日に…何も出来なかった自分を認める事が…怖いんだ…)
ただ、母に守られていた自分。
瑞樹を不安にさせないように、怖がらせないように、声を痛みを殺していた瑞樹の母。
そんな母の姿が辛くて、苦しくて、痛くて。
どうしようも無い事だったと父は言った。
自惚れるなとも言われた。
だけど、何も出来ずとも、一言。
ただ、泣いて喚くだけでは無く。
ただ、守られるだけでは無く。
あの腕の中で、母に一言『大丈夫だよ』と、無理にでも笑ってあげる事が出来たのなら。母を安心させてやれたのなら。
そうしたのなら、今のこんな弱い自分は居なかったのかも知れない。
あの日蝕の日の事を思えば、この身はやはり竦むけれど。
それは、ただ、自分の弱さから逃げているから…。
…情けない自分から、逃げているから…。
守られるのは…当たり前の事なんかじゃない…。
…逃げていないで、自分の弱さを認めないと駄目なんだ…。
そうしないと、何も変わらない…。
ただ、守られているだけ…。
どれだけ情けなくても、どれだけみっともなくても。
何も出来ないなんて、嫌だ。
ただ、見ているだけなんて、嫌だ。
あの日、星の動きに見惚れていたのは何故だ?
それは、そこに強さがあったからだ。
力だけじゃない。
力があるから強いんじゃない。
それに見合う、心の強さがあるからだ。
加藤少年だって、きっと、そう。
加藤少年は、強い。
あんな目に遭ったのに、隊員達を責めたりせずに優士の心配をし、反省の色も見せている。
中には居るのだ。
『持ち出せる処に武器があるのが悪い』
と、己の非を認めない者が。
きっと、今回の事を教訓に強くなって行くだろう。心も、身体も。
(…俺も…強くなりたい…)
空が白んじて来るまで、瑞樹は唇を噛み締め、胸元を握り締め続けていた。
◇
そんな思いを抱えたまま帰って来れば、優士の病室には何故か杜川が居て。
そこからは、何が何やら解らないままに流されて。
漸く愉快な大人達が消えた処で、瑞樹はそれを口にした。
「…俺…優士から離れたい…」
◇
帰りの車の中で、瑞樹はずっと考えていた。
優士の怪我の経緯は、避難場所にて、高梨が皆に話していた。
その話は隊員達だけで無く、村人達も聞いていた。恐らくは、加藤少年やその家族が村八分に遭わない様にとの配慮だろう。
まず最初に、高梨は刀の管理の不十分さを謝罪した。
それから、加藤少年を庇って、優士が妖に傷を負わされた事等を話し始めた。
傷の具合は、命に係る物では無い事。
そこに星が駆け付けて、津山を背負ったまま飛び膝蹴りを喰らわせた事。これにはそれぞれが頭を抱えたり、遠い目をしていた。村人達は、目を剥いていたが、加藤少年は目をキラキラさせて頷いていた。天野に至っては、遥か彼方を見ながら『背負わされていたのが俺だったら、妖目掛けて投げられていたかもな~』と、呟いていた。
いや、まさかと瑞樹は思ったが、隊員の皆は、一様に頷いていた。村人達はドン引いていた。
刀を持ち出した加藤少年の行動は褒められた物では無いが、妖から逃げる為に必死だった事。
そのお蔭で、自分達が間に合った事。
だから、もしも万が一、妖に遭遇したら諦めずに生きる為の行動をして欲しいと、高梨は深く頭を下げた。
その言葉に、瑞樹の胸がちくりと痛んだ。
(…生きる為…)
話を聞きながら、瑞樹はぎゅっと胸元を掴む。
(…俺は…何も出来なかった…。今回も、ただ見ているだけで…)
これまでの事だって、自分は何も出来なかった。
加藤少年の様に、逃げる為に、生きる為に、何かを出来なかった。
『現場で生き残るのは、恐怖心を忘れない奴だ』
何時だったか、高梨がそう言った事があった。
それは、こう云う事だったのだろうか。
動けないくせに、妖を倒す気持ちばかりが逸って。
苦しくて辛いのに、逃げようともしないで。
身体が動かないから、なんて理由を付けて。
それは、ただ、動きたくないだけ…。
弱いくせに、強いフリをしているだけ…。
…周りに…優士に守られてばかりで。
自分は、何をしているんだろう?
加藤少年は『怖かった』と言っていたと、高梨が言っていた。
『俺達は捕食される弱者なんだ。怖くて当然だ』
そう、それは当然の反応なのだ。
『臆病』だと口にしたのは誰だった?
生きる為に、死への恐怖を忘れない。
それの何処が臆病だと言うのだろうか?
臆病なのは、死への恐怖を感じずにただ、動けないでいる自分だ。
『俺も怖いぞっ! 死んだらみくちゃんに怒られるからな!』
とは天野の言葉で、張り詰めていた空気が一気に霧散したのは言うまでもない。
(…俺は…妖に対する恐怖より…死に対する恐怖より…あの日蝕の日に…何も出来なかった自分を認める事が…怖いんだ…)
ただ、母に守られていた自分。
瑞樹を不安にさせないように、怖がらせないように、声を痛みを殺していた瑞樹の母。
そんな母の姿が辛くて、苦しくて、痛くて。
どうしようも無い事だったと父は言った。
自惚れるなとも言われた。
だけど、何も出来ずとも、一言。
ただ、泣いて喚くだけでは無く。
ただ、守られるだけでは無く。
あの腕の中で、母に一言『大丈夫だよ』と、無理にでも笑ってあげる事が出来たのなら。母を安心させてやれたのなら。
そうしたのなら、今のこんな弱い自分は居なかったのかも知れない。
あの日蝕の日の事を思えば、この身はやはり竦むけれど。
それは、ただ、自分の弱さから逃げているから…。
…情けない自分から、逃げているから…。
守られるのは…当たり前の事なんかじゃない…。
…逃げていないで、自分の弱さを認めないと駄目なんだ…。
そうしないと、何も変わらない…。
ただ、守られているだけ…。
どれだけ情けなくても、どれだけみっともなくても。
何も出来ないなんて、嫌だ。
ただ、見ているだけなんて、嫌だ。
あの日、星の動きに見惚れていたのは何故だ?
それは、そこに強さがあったからだ。
力だけじゃない。
力があるから強いんじゃない。
それに見合う、心の強さがあるからだ。
加藤少年だって、きっと、そう。
加藤少年は、強い。
あんな目に遭ったのに、隊員達を責めたりせずに優士の心配をし、反省の色も見せている。
中には居るのだ。
『持ち出せる処に武器があるのが悪い』
と、己の非を認めない者が。
きっと、今回の事を教訓に強くなって行くだろう。心も、身体も。
(…俺も…強くなりたい…)
空が白んじて来るまで、瑞樹は唇を噛み締め、胸元を握り締め続けていた。
◇
そんな思いを抱えたまま帰って来れば、優士の病室には何故か杜川が居て。
そこからは、何が何やら解らないままに流されて。
漸く愉快な大人達が消えた処で、瑞樹はそれを口にした。
「…俺…優士から離れたい…」
0
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
身代わりの出来損ない令息ですが冷酷無比な次期公爵閣下に「離さない」と極上の愛で溶かされています~今更戻ってこいと言われてももう遅いです〜
たら昆布
BL
冷酷無比な死神公爵 × 虐げられた身代わり令息
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる