寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

文字の大きさ
91 / 125
番外編・祭

特別任務【十五】

しおりを挟む
「…戸を閉めないのか」

 背後から掛かった声に、瑞樹みずきは振り返る。

「ん? だって、閉めたら大変な事になるだろ? 換気しないと」

 用意された火鉢には煉炭が使われている。これらから発生するガスは有害な物だと、瑞樹でも知っていた。また、修繕したとは云え隙間はある物で。そこから冷たい風が入り込んで来ていた。だから、部屋の出入口の引き戸を完全には閉めず、煙が逃げやすい様にと、足一つ分の隙間を空けて戸を閉めたのだが、それがどうやら優士ゆうじには不服だったらしい。敷いた布団の上で、首にある白い襟巻を弄りながら、優士は何処か拗ねた様な目で瑞樹を見ていた。
 瑞樹と優士は同室となった。他は天野とみく、瑠璃子るりこ義之よしゆきせい月兎つきと、杜川と須藤と中山、高梨と雪緒ゆきお、因みに義之が来た為に、瑠璃子と同室となる予定だった亜矢あやは一人だ。その他は適当に。囲炉裏の間で呑んで、雑魚寝する者達も居る様だった。
 風呂に入る前に部屋割りを決めたのだが、星と月兎が煩かった『親父殿と川の字になって寝る!!』と。
 それに須藤が『お前ら幾つだ! えいみっつぁんは、俺と呑むんだよっ!』と、怒鳴り対抗したりしていた。『まあ、星達とは何時も寝ているからね。たまには親父同士も良いね』と杜川が口にした事で収まったが。

「…それは、そうだが…二人なんだぞ…」

「うん? 何時も二人だろ? ランタン消すぞ。隙間から廊下にあるランタンの灯りが入って来るから、真っ暗にはならないよな」

 優士が僅かに顔を俯かせて、仄かに金平糖を滲ませたが、瑞樹には届かなかった様で、彼は部屋に用意されていた卓袱台の上に置いてあるランタンに手を伸ばして、その灯火を消した。瑞樹が口にした様に、廊下にあるランタンから差し込む灯りで、真っ暗闇になる事は無かったが。
 だが、物の輪郭が解る程度で、顔の表情等は解らない。

「…お前は何とも思わなかったのか…」

 いそいそと並べて敷いてある布団に潜り込み、身体を横たえた瑞樹を恨みがましい目で優士は見るが、そんな物は、当然瑞樹には伝わっていない。

「何が? お前も横になれよ」

「…雪緒さんの話だ…」

 全然解らないと云う様な瑞樹の声音に、優士は軽く息を吐いてから、身体を横たえ、肩まで布団を掛けた。

「あっ…お、おお…」

 もぞもぞと布団の中で瑞樹が動く。流石の瑞樹も、風呂での雪緒の様子に思う処があったらしい。それを知る事が出来て良かった、と、優士は軽く口元を緩めた。

「…そ、その、さ…」

「うん?」

 布団の中で何をしているのか、とにかくもぞもぞと動きながら、瑞樹は話す。
 布団の中で見えないが、瑞樹はただ己の胸を掻き毟っていた。

「ふ、風呂…っ…! 俺も、お前の背中を洗ったり、頭を洗いたいと思った…っ…!」

 持参した枕に顔を埋めて話す瑞樹に、優士は思わず飛び掛かりそうになったが、自制した。まあ、戸が開いて無ければ、間違い無く襲っていただろうが。

「…洗えば良かったのに」

 瑞樹が言いたい事は解る。解るが、優士は敢えてはぐらかしてみせた。
 洗いたいのは、背中だけか? と。

「…う、や…な、何か、は、恥ずかしい…」

 優士と一緒に風呂に入るのは、幼い頃以来で。
 今は、あの頃とは何もかもが違うのだ。
 身体だって、心だって変化した。
 あの頃は、ただの幼馴染みだったが、今はそれに"恋人"と云う代名詞が付くのだ。
 その恋人の身体に、人前で触れるだなんて事は瑞樹には出来そうにない。

「雪緒さんは、星先輩に楽しそうに洗われていたけどな?」

「そ、それは親友だからだろ! こっ、こここ恋人だったらあんな風には出来ないぞ!」

 がばりと枕から顔を上げる瑞樹の方へと、身体の向きを変えて優士は少しだけ目を細めた。

「…へえ…? どんな風に洗うつもりだ?」

 戸の隙間から入り込む灯りだけでは、瑞樹の顔色までは解らないが。
 並べて敷いた布団だ。手を伸ばせば触れる距離だ。真っ暗闇では無いから、目が慣れて来れば、その表情は朧気ながらも解る様になる。
 困った様に眉を下げる瑞樹の顔が優士には見えていた。その顔はきっと赤いのだろう。

「ど…どんな…って…! こ、今度洗ってやるからそれでいいだろ! 明日、朝は今日探索した処を皆で見るって言ってたし、寝るぞ!!」

 ぶっきらぼうに瑞樹は言って、頭から布団を被ってしまった。そんな瑞樹に優士は苦笑するしかない。

「そうだな、おやすみ」

「おお!」

 からかうのはここまでにして置くか、と就寝の挨拶をすれば、やはりぶっきらぼうな返答が帰って来た。だが、これで良いと優士も身体を天井へと向けて、それを見る。
 帰ったら、早速一緒に風呂に入って貰おうと思いながら優士は目を閉じた。緩く開いた口は閉じられそうになかったが。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...