90 / 125
番外編・祭
特別任務【十四】※
しおりを挟む
見上げていた首を戻して、須藤は隣に座る杜川に呟く様に尋ねた。
「…例の件は解ったのかい?」
須藤の問いに、杜川は軽く肩を震わせた後に静かに目を細めて、小さく笑った。
「…ふ…。…妖の寿命は長くてね…。…私が生きている内に答えは出ないだろうね…」
「…そうかい…」
何処か寂しそうに笑う杜川に、須藤は軽く肩を竦めてから、まだ湯気の立つ茶を啜った。
「…星も月兎もみく君も…皆、言うのだよ…。…残る物が無くても良いって。…生きて、ここに居た事は変わらないって…笑うのだよ…」
「…そうかい…」
それは、瑞樹と優士、亜矢が知らない事だ。
妖の中には、人の姿を取る事が出来る物が居る。全身を覆う黒い毛も、鋭い爪も牙も、そして、妖の特徴である、赤い眼も失くして、人の姿になる事が出来る。そうして、人として生きているのが、星や月兎、みくである。
杜川と須藤が話したのは、その妖の最期だ。妖が死ぬ時は何も残らない。何も残さない。塵となり崩れて行く。その塵も、空気に溶ける様にして消えて行くのだ。それは、人の姿になっても同じなのか? と。
杜川が山を買い里を作ったのは、共存の目的もあるが、人となった妖の最期を見る為でもあった。人になって人と暮らし、人の中で逝けるのなら、それは幸せだろうと。しかし、妖は人として逝けるのだろうか? と。妖であった事を告白し、人と結ばれた者も居る。だが、最期はどうなるのだろうかと、残る物が無いのかと。その亡骸を弔う事は出来ないのか、と。最愛に何も残せないのか、と。
「…まあ…どの道、俺達だって似た様なもんさ。焼かれて埋められて終わりだ」
「…そうなるまでの過程があるだろう。無粋だね、君は」
「オヤジに浪漫とか求めちゃあいけねえぜ。…冷え込んで来たな。火鉢を持って来るわ」
「あ、待ち…」
杜川は須藤を引き留めようとしたが、須藤は足を止める事無く、飄々と歩いて行ってしまった。
夜空を見上げて、軽く肩を竦めて溜め息を零してから、杜川は伐採されて重ねられていた丸太の方へと顔を向けた。
「…雪緒君に怒られるよ?」
「…失礼…」
杜川が目を細めて頬を緩めれば、その丸太の陰から罰の悪そうな顔をした高梨が現れた。
パチパチと音を立てて燃える篝火の炎に照らされて浮かぶ影が揺れているのは、僅かに吹く風のせいか、それとも。
「…今の話は…」
「…うん? 君も妖の最期は知っているだろう? そう云う事だよ」
高梨が何時から居て、何処から話を聞いていたのかは解らない。が、彼の苦い物を噛み潰した様な表情を見て、杜川は目を伏せてそう呟いた。
「…星も…月兎も…みくも…」
それは、高梨も何度も目にして来た事だ。だが、人となった妖の最期の事等、考えた事は無かった。完全に人にしか見えないのに、最期は妖と同じ様に消えると? 骨も残さずに。その事に、高梨はただ愕然とするしか無かった。そして、それを彼らが受け入れていると云う事にも。何を言えば良いのか、思考は動かずにその事実に止まったままだ。
「…それ、暖かそうだね?」
「は…? あ、これは雪緒が…外へ行くのなら巻いて行けと…」
呆然と目の前で立ち尽くす高梨の首にある物を指差して、杜川は微笑む。
高梨の首にある、深い赤い色の襟巻きは雪緒が編んだ物だ。ここへ来るまでの間、揺れる車の中で『高梨、酔うから』と、義之が止めていたが『せっかくの機会なのです。お戻りになられてからと思いましたが、それではサンタクロース様にはなれません』と、必死に編んでいたのだ。本当に彼は幾つになっても変わらずに可愛いものだと、口元を緩ませたら高梨から睨まれた。
「…っほん。…まあ、実際に確認した訳ではないから、違うのかも知れないがね…。…だが、神隠しとしか言いようのない失踪をした者達が居る…それは恐らく…」
朱雀とて、人の姿になった妖の総てを把握している訳では無い。みくは高梨と天野の前で、妖から人になった。星は高梨の家で盗みを働いて、みくに見つかり捕まった。こんな事例等、そうそうある物では無い。こうしている今も、この寒空の下で、誰に知られる事無く消えて行く元妖が居るのかも知れない。
「…さて。君のこれは命令違反だね? 休めと私は言った筈だがね?」
「は、え!?」
それまで、何処か悲壮感を漂わせていた筈の、杜川の鋭い指摘に高梨は慌てた。
「そんな君にはお仕置きが必要だね? なあに、眠れるまで私の相手をしてくれるだけでいいさ。それで、明日、君が使い物にならなくても私のせいではない。命令を守らない君が悪いのだよ? 動けないと云う醜態を晒したりはしまいね?」
杜川は腰を浮かせながら、足元に寝かせて置いた刀を手に取る。朱雀の一員であるから、刀を持つ事は禁止されていない。車を借りる時に五十嵐に許可も貰ったし、この刀を用意したのは五十嵐本人だ。そして、これは長年杜川が愛用していた刀だった。
「…っ、しっ、失礼します…っ…!!」
笑みの形に目は細められては居るが、そこに暖かな温度は感じられない。
高梨は額に僅かな汗を滲ませると、喉を詰まらせながらもそう言って、そこから駆け出した。
「ぅおっとおっ!?」
「すまんっ!!」
その時、火鉢を抱えて歩く須藤にぶつかりそうになったが、高梨は間一髪で躱して駆けて行った。
「何だい何だい、まあた虐めたのか?」
「酷いね、私を何だと思っているのだね?」
足元に刀を置き、再び腰を下ろしながら杜川はにやけながら自分を見る須藤に、軽く唇を尖らせ拗ねて見せた。
「んあ? まあまあ甥っ子を可愛がるオヤジ、かな? って、いい加減熱い熱いっ!! んじゃあ、酒とツマミ取って来るわ!」
火鉢を杜川の前に置いたと思ったら、須藤はまた建物の方へと踵を返して行った。どうやら須藤は杜川と呑むつもりらしい。
「やれやれ…」
と、杜川は須藤の背中を見送りながら、また夜空を見上げた。
「…例の件は解ったのかい?」
須藤の問いに、杜川は軽く肩を震わせた後に静かに目を細めて、小さく笑った。
「…ふ…。…妖の寿命は長くてね…。…私が生きている内に答えは出ないだろうね…」
「…そうかい…」
何処か寂しそうに笑う杜川に、須藤は軽く肩を竦めてから、まだ湯気の立つ茶を啜った。
「…星も月兎もみく君も…皆、言うのだよ…。…残る物が無くても良いって。…生きて、ここに居た事は変わらないって…笑うのだよ…」
「…そうかい…」
それは、瑞樹と優士、亜矢が知らない事だ。
妖の中には、人の姿を取る事が出来る物が居る。全身を覆う黒い毛も、鋭い爪も牙も、そして、妖の特徴である、赤い眼も失くして、人の姿になる事が出来る。そうして、人として生きているのが、星や月兎、みくである。
杜川と須藤が話したのは、その妖の最期だ。妖が死ぬ時は何も残らない。何も残さない。塵となり崩れて行く。その塵も、空気に溶ける様にして消えて行くのだ。それは、人の姿になっても同じなのか? と。
杜川が山を買い里を作ったのは、共存の目的もあるが、人となった妖の最期を見る為でもあった。人になって人と暮らし、人の中で逝けるのなら、それは幸せだろうと。しかし、妖は人として逝けるのだろうか? と。妖であった事を告白し、人と結ばれた者も居る。だが、最期はどうなるのだろうかと、残る物が無いのかと。その亡骸を弔う事は出来ないのか、と。最愛に何も残せないのか、と。
「…まあ…どの道、俺達だって似た様なもんさ。焼かれて埋められて終わりだ」
「…そうなるまでの過程があるだろう。無粋だね、君は」
「オヤジに浪漫とか求めちゃあいけねえぜ。…冷え込んで来たな。火鉢を持って来るわ」
「あ、待ち…」
杜川は須藤を引き留めようとしたが、須藤は足を止める事無く、飄々と歩いて行ってしまった。
夜空を見上げて、軽く肩を竦めて溜め息を零してから、杜川は伐採されて重ねられていた丸太の方へと顔を向けた。
「…雪緒君に怒られるよ?」
「…失礼…」
杜川が目を細めて頬を緩めれば、その丸太の陰から罰の悪そうな顔をした高梨が現れた。
パチパチと音を立てて燃える篝火の炎に照らされて浮かぶ影が揺れているのは、僅かに吹く風のせいか、それとも。
「…今の話は…」
「…うん? 君も妖の最期は知っているだろう? そう云う事だよ」
高梨が何時から居て、何処から話を聞いていたのかは解らない。が、彼の苦い物を噛み潰した様な表情を見て、杜川は目を伏せてそう呟いた。
「…星も…月兎も…みくも…」
それは、高梨も何度も目にして来た事だ。だが、人となった妖の最期の事等、考えた事は無かった。完全に人にしか見えないのに、最期は妖と同じ様に消えると? 骨も残さずに。その事に、高梨はただ愕然とするしか無かった。そして、それを彼らが受け入れていると云う事にも。何を言えば良いのか、思考は動かずにその事実に止まったままだ。
「…それ、暖かそうだね?」
「は…? あ、これは雪緒が…外へ行くのなら巻いて行けと…」
呆然と目の前で立ち尽くす高梨の首にある物を指差して、杜川は微笑む。
高梨の首にある、深い赤い色の襟巻きは雪緒が編んだ物だ。ここへ来るまでの間、揺れる車の中で『高梨、酔うから』と、義之が止めていたが『せっかくの機会なのです。お戻りになられてからと思いましたが、それではサンタクロース様にはなれません』と、必死に編んでいたのだ。本当に彼は幾つになっても変わらずに可愛いものだと、口元を緩ませたら高梨から睨まれた。
「…っほん。…まあ、実際に確認した訳ではないから、違うのかも知れないがね…。…だが、神隠しとしか言いようのない失踪をした者達が居る…それは恐らく…」
朱雀とて、人の姿になった妖の総てを把握している訳では無い。みくは高梨と天野の前で、妖から人になった。星は高梨の家で盗みを働いて、みくに見つかり捕まった。こんな事例等、そうそうある物では無い。こうしている今も、この寒空の下で、誰に知られる事無く消えて行く元妖が居るのかも知れない。
「…さて。君のこれは命令違反だね? 休めと私は言った筈だがね?」
「は、え!?」
それまで、何処か悲壮感を漂わせていた筈の、杜川の鋭い指摘に高梨は慌てた。
「そんな君にはお仕置きが必要だね? なあに、眠れるまで私の相手をしてくれるだけでいいさ。それで、明日、君が使い物にならなくても私のせいではない。命令を守らない君が悪いのだよ? 動けないと云う醜態を晒したりはしまいね?」
杜川は腰を浮かせながら、足元に寝かせて置いた刀を手に取る。朱雀の一員であるから、刀を持つ事は禁止されていない。車を借りる時に五十嵐に許可も貰ったし、この刀を用意したのは五十嵐本人だ。そして、これは長年杜川が愛用していた刀だった。
「…っ、しっ、失礼します…っ…!!」
笑みの形に目は細められては居るが、そこに暖かな温度は感じられない。
高梨は額に僅かな汗を滲ませると、喉を詰まらせながらもそう言って、そこから駆け出した。
「ぅおっとおっ!?」
「すまんっ!!」
その時、火鉢を抱えて歩く須藤にぶつかりそうになったが、高梨は間一髪で躱して駆けて行った。
「何だい何だい、まあた虐めたのか?」
「酷いね、私を何だと思っているのだね?」
足元に刀を置き、再び腰を下ろしながら杜川はにやけながら自分を見る須藤に、軽く唇を尖らせ拗ねて見せた。
「んあ? まあまあ甥っ子を可愛がるオヤジ、かな? って、いい加減熱い熱いっ!! んじゃあ、酒とツマミ取って来るわ!」
火鉢を杜川の前に置いたと思ったら、須藤はまた建物の方へと踵を返して行った。どうやら須藤は杜川と呑むつもりらしい。
「やれやれ…」
と、杜川は須藤の背中を見送りながら、また夜空を見上げた。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
仮面の王子と優雅な従者
emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。
平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。
おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。
しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。
これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる