寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

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番外編・祭

特別任務【十五】

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「…戸を閉めないのか」

 背後から掛かった声に、瑞樹みずきは振り返る。

「ん? だって、閉めたら大変な事になるだろ? 換気しないと」

 用意された火鉢には煉炭が使われている。これらから発生するガスは有害な物だと、瑞樹でも知っていた。また、修繕したとは云え隙間はある物で。そこから冷たい風が入り込んで来ていた。だから、部屋の出入口の引き戸を完全には閉めず、煙が逃げやすい様にと、足一つ分の隙間を空けて戸を閉めたのだが、それがどうやら優士ゆうじには不服だったらしい。敷いた布団の上で、首にある白い襟巻を弄りながら、優士は何処か拗ねた様な目で瑞樹を見ていた。
 瑞樹と優士は同室となった。他は天野とみく、瑠璃子るりこ義之よしゆきせい月兎つきと、杜川と須藤と中山、高梨と雪緒ゆきお、因みに義之が来た為に、瑠璃子と同室となる予定だった亜矢あやは一人だ。その他は適当に。囲炉裏の間で呑んで、雑魚寝する者達も居る様だった。
 風呂に入る前に部屋割りを決めたのだが、星と月兎が煩かった『親父殿と川の字になって寝る!!』と。
 それに須藤が『お前ら幾つだ! えいみっつぁんは、俺と呑むんだよっ!』と、怒鳴り対抗したりしていた。『まあ、星達とは何時も寝ているからね。たまには親父同士も良いね』と杜川が口にした事で収まったが。

「…それは、そうだが…二人なんだぞ…」

「うん? 何時も二人だろ? ランタン消すぞ。隙間から廊下にあるランタンの灯りが入って来るから、真っ暗にはならないよな」

 優士が僅かに顔を俯かせて、仄かに金平糖を滲ませたが、瑞樹には届かなかった様で、彼は部屋に用意されていた卓袱台の上に置いてあるランタンに手を伸ばして、その灯火を消した。瑞樹が口にした様に、廊下にあるランタンから差し込む灯りで、真っ暗闇になる事は無かったが。
 だが、物の輪郭が解る程度で、顔の表情等は解らない。

「…お前は何とも思わなかったのか…」

 いそいそと並べて敷いてある布団に潜り込み、身体を横たえた瑞樹を恨みがましい目で優士は見るが、そんな物は、当然瑞樹には伝わっていない。

「何が? お前も横になれよ」

「…雪緒さんの話だ…」

 全然解らないと云う様な瑞樹の声音に、優士は軽く息を吐いてから、身体を横たえ、肩まで布団を掛けた。

「あっ…お、おお…」

 もぞもぞと布団の中で瑞樹が動く。流石の瑞樹も、風呂での雪緒の様子に思う処があったらしい。それを知る事が出来て良かった、と、優士は軽く口元を緩めた。

「…そ、その、さ…」

「うん?」

 布団の中で何をしているのか、とにかくもぞもぞと動きながら、瑞樹は話す。
 布団の中で見えないが、瑞樹はただ己の胸を掻き毟っていた。

「ふ、風呂…っ…! 俺も、お前の背中を洗ったり、頭を洗いたいと思った…っ…!」

 持参した枕に顔を埋めて話す瑞樹に、優士は思わず飛び掛かりそうになったが、自制した。まあ、戸が開いて無ければ、間違い無く襲っていただろうが。

「…洗えば良かったのに」

 瑞樹が言いたい事は解る。解るが、優士は敢えてはぐらかしてみせた。
 洗いたいのは、背中だけか? と。

「…う、や…な、何か、は、恥ずかしい…」

 優士と一緒に風呂に入るのは、幼い頃以来で。
 今は、あの頃とは何もかもが違うのだ。
 身体だって、心だって変化した。
 あの頃は、ただの幼馴染みだったが、今はそれに"恋人"と云う代名詞が付くのだ。
 その恋人の身体に、人前で触れるだなんて事は瑞樹には出来そうにない。

「雪緒さんは、星先輩に楽しそうに洗われていたけどな?」

「そ、それは親友だからだろ! こっ、こここ恋人だったらあんな風には出来ないぞ!」

 がばりと枕から顔を上げる瑞樹の方へと、身体の向きを変えて優士は少しだけ目を細めた。

「…へえ…? どんな風に洗うつもりだ?」

 戸の隙間から入り込む灯りだけでは、瑞樹の顔色までは解らないが。
 並べて敷いた布団だ。手を伸ばせば触れる距離だ。真っ暗闇では無いから、目が慣れて来れば、その表情は朧気ながらも解る様になる。
 困った様に眉を下げる瑞樹の顔が優士には見えていた。その顔はきっと赤いのだろう。

「ど…どんな…って…! こ、今度洗ってやるからそれでいいだろ! 明日、朝は今日探索した処を皆で見るって言ってたし、寝るぞ!!」

 ぶっきらぼうに瑞樹は言って、頭から布団を被ってしまった。そんな瑞樹に優士は苦笑するしかない。

「そうだな、おやすみ」

「おお!」

 からかうのはここまでにして置くか、と就寝の挨拶をすれば、やはりぶっきらぼうな返答が帰って来た。だが、これで良いと優士も身体を天井へと向けて、それを見る。
 帰ったら、早速一緒に風呂に入って貰おうと思いながら優士は目を閉じた。緩く開いた口は閉じられそうになかったが。
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