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番外編・祭
特別任務【十八】
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それぞれがそれぞれの後輩に頭を悩ませていたり、待機組が皆の無事を願いながら、ぬくぬくと暖を取ったりしている中で、一人だけで悠々と妖と対峙している者が居た。
「こんにゃろめ!」
『ア"ア"ア"ァ"ッ"』
今、正に、妖の脳天に飛び膝蹴りをくらわした星である。
「ん! お前も違うな!」
頭を蹴られ、体勢を崩した四つ脚の妖の眼へと刀を突き刺しながら星が言う。
昨日も山を駆け巡り、何体かの妖と遭遇したが、そのどれも星の"勧誘"には応えてくれなかった。この夜に出会う妖の中には、応えてくれる物が居るかも知れないと期待していたが、期待外れだった様だと、星は崩れて行く妖から刀を抜き、肩を落とした。
見極めて来いと杜川は口にした。それは、己の力量だけでは無く、その妖が良い物なのか悪い物なのか、それらを指していると星は思った。それも対峙した瞬間に、だ。
「難しいんだなあ…」
馬の尻尾にした髪を揺らしながら、星は山の中を駆ける。
「つきとの時や、あん時みたいなのばかりだと楽なんだけどな」
あの時とは、未だ天野が瑞樹と優士を連れていた時の廃屋巡りの事だ。
敵意も殺意も無く、ただ怯えてくれているのなら解り易くて有難いのだが、そう云った物ばかりでは無いのが現実と云う物だ。だから、星は取り敢えず蹴るなり殴るなりして、相手の反応を見る事にしていた。殺意を持って反撃して来るなら、倒す。殺意が無ければ、里へ勧誘する。それが星のやり方だ。
「親父殿や、ゆかりんたいちょには簡単なんだろけどな。ま、いっか、おいらバカだし!」
それで終わらすなと言いたい処だが、これが星なのだから仕方が無い。
馬鹿だ馬鹿だと言われる星だが、朱雀の入隊試験の座学の成績は一番だったのだ。これでも。ただ、星本人がそれを見せようとはしないだけなのだ…多分。
猫の様な目を細めて星は駆ける。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たると思いながら。
◇
「うわっ!?」
割り当てられた範囲の探索もこの辺りで終わりかと、瑞樹の気が緩んだ時、いきなりそれがやって来た。
高梨と瑞樹が通り過ぎた木々の合間から、それはいきなり現れた。突如として湧き出た気配に、高梨が咄嗟に身を翻し、左腕を使い、一歩遅れて歩いていた瑞樹を突き飛ばし、右手では鞘に収められていた刀を抜く。
「ちっ!!」
胸に目掛けて振り下ろされた黒い爪を、高梨は間一髪、刀で受け止めた。
「橘!」
「は、はいっ!?」
その爪を押し返しながら高梨は叫ぶ。
「お前、倒れる時に目を閉じただろう! 命が係っている時に目を閉じるな! 死ぬぞ!!」
「はっ、あっ、すみませんっ!!」
この人は後ろにも目が付いているのかと思いながら、瑞樹は尻もちを付いていた腰を浮かせ、返事を返す。その間にも高梨は刀を揮い、妖の眼に刃を突き立てていた。
「謝るのは俺にでは無い。お前の無事を信じている奴らにだ」
「あ…」
(…何やってるんだろ、俺…)
黒い塵となり崩れて行く妖を見ながら、静かに高梨が放つ言葉に瑞樹は項垂れる。
目を閉じれば、現状の確認が出来なくなってしまう。
それが本能から起こる条件反射だとしても、それは命を守る事を放棄したのと同じ事だ。
高梨は言っていたではないか。
『生きる為の行動をして欲しい』と。
『諦めないで欲しい』と。
(…それなのに、俺…。…忘れてないのに…あの時の胸の痛さを…)
「…だが、まあ、動けるのは良い事だ。本当に克服しつつある訳だ。良くやったな」
カサリと地面に落ちている落ち葉を踏む音が聞こえたと思ったら、直ぐ傍で高梨の声がして、くしゃりと頭を撫でられた。顔を上げれば、優しく目を細めて笑う高梨の顔があって、それが父の仕草の様に思えて、瑞樹はまたポロリと零してしまった。
「…父さん…」
「お前の親父になった覚えは無いっ!!」
二年前の動けない瑞樹を目の当たりにしていたからこそ、咄嗟に立ち上がったその動きを嬉しく思い、心から出た労いの言葉だったのだが、僅かに目に涙を浮かべて自分を見上げて来るその様は、親に慰められ褒められて喜ぶ子の様に見えて、高梨は顔を赤くして怒鳴り声をあげた。
◇
「お疲れ様。君達が最後だね。身体が冷えたろう? 温泉に入って温まって来なさい。囲炉裏の間にお握りと豚汁が用意してあるよ」
予定の範囲の索敵を終えた事、これ以上は深追いになる事、こんな人里から離れた場所でも、姿を消して襲って来る妖が居る事を知れたと、保養所に戻って来た高梨と瑞樹を出迎えたのは、隊服の上にもこもこの半纏を纏い、首には、狐の尻尾の様な柔らかそうで暖かそうな襟巻きを巻き着けた杜川一人だった。
「ゆ…他の皆は?」
雪緒と言い掛けて、高梨は慌てて言い直した。
そんな高梨の様子に、杜川はふっと瞳を和らげる。
「うん。半数ぐらい戻って来た処で、みくくんと中に入って貰ったよ。豚汁の追加に、お握りの用意が終わったら、温泉に入って休む様に言ってあるから、今頃は温泉に居ると思うよ? 月兎はつい先刻、星が戻って来て二人で温泉に直行したね。須藤君と中山君も、その後に続いたね。ほら、陽が昇って来たら私は戻るから。それまで休んでいなさい」
未だ未だ空には星が輝いている。
その星空を見上げながら語る杜川に、高梨は自分もそれまで残ると言おうとしたが、それを口にすれば、また難癖を付けられるかも知れないと思い、その言葉を飲み込んだ。
「お心遣い感謝します。行くぞ、橘」
「あっ、はい! あ、あの、ありがとうございます!」
杜川に頭を下げて、高梨が建物の入口へと歩き出す。その後に続く瑞樹が慌ててぺこりと頭を下げる姿に、杜川は「うん」と、口元を緩ませて二人を見送った。
――――――――――――――――――――――――
体調不良により、ムーンに追い付いてしまいました(;´Д`)
奇数日の更新でしたが、これから先は不定期になりますm(__)m
「こんにゃろめ!」
『ア"ア"ア"ァ"ッ"』
今、正に、妖の脳天に飛び膝蹴りをくらわした星である。
「ん! お前も違うな!」
頭を蹴られ、体勢を崩した四つ脚の妖の眼へと刀を突き刺しながら星が言う。
昨日も山を駆け巡り、何体かの妖と遭遇したが、そのどれも星の"勧誘"には応えてくれなかった。この夜に出会う妖の中には、応えてくれる物が居るかも知れないと期待していたが、期待外れだった様だと、星は崩れて行く妖から刀を抜き、肩を落とした。
見極めて来いと杜川は口にした。それは、己の力量だけでは無く、その妖が良い物なのか悪い物なのか、それらを指していると星は思った。それも対峙した瞬間に、だ。
「難しいんだなあ…」
馬の尻尾にした髪を揺らしながら、星は山の中を駆ける。
「つきとの時や、あん時みたいなのばかりだと楽なんだけどな」
あの時とは、未だ天野が瑞樹と優士を連れていた時の廃屋巡りの事だ。
敵意も殺意も無く、ただ怯えてくれているのなら解り易くて有難いのだが、そう云った物ばかりでは無いのが現実と云う物だ。だから、星は取り敢えず蹴るなり殴るなりして、相手の反応を見る事にしていた。殺意を持って反撃して来るなら、倒す。殺意が無ければ、里へ勧誘する。それが星のやり方だ。
「親父殿や、ゆかりんたいちょには簡単なんだろけどな。ま、いっか、おいらバカだし!」
それで終わらすなと言いたい処だが、これが星なのだから仕方が無い。
馬鹿だ馬鹿だと言われる星だが、朱雀の入隊試験の座学の成績は一番だったのだ。これでも。ただ、星本人がそれを見せようとはしないだけなのだ…多分。
猫の様な目を細めて星は駆ける。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たると思いながら。
◇
「うわっ!?」
割り当てられた範囲の探索もこの辺りで終わりかと、瑞樹の気が緩んだ時、いきなりそれがやって来た。
高梨と瑞樹が通り過ぎた木々の合間から、それはいきなり現れた。突如として湧き出た気配に、高梨が咄嗟に身を翻し、左腕を使い、一歩遅れて歩いていた瑞樹を突き飛ばし、右手では鞘に収められていた刀を抜く。
「ちっ!!」
胸に目掛けて振り下ろされた黒い爪を、高梨は間一髪、刀で受け止めた。
「橘!」
「は、はいっ!?」
その爪を押し返しながら高梨は叫ぶ。
「お前、倒れる時に目を閉じただろう! 命が係っている時に目を閉じるな! 死ぬぞ!!」
「はっ、あっ、すみませんっ!!」
この人は後ろにも目が付いているのかと思いながら、瑞樹は尻もちを付いていた腰を浮かせ、返事を返す。その間にも高梨は刀を揮い、妖の眼に刃を突き立てていた。
「謝るのは俺にでは無い。お前の無事を信じている奴らにだ」
「あ…」
(…何やってるんだろ、俺…)
黒い塵となり崩れて行く妖を見ながら、静かに高梨が放つ言葉に瑞樹は項垂れる。
目を閉じれば、現状の確認が出来なくなってしまう。
それが本能から起こる条件反射だとしても、それは命を守る事を放棄したのと同じ事だ。
高梨は言っていたではないか。
『生きる為の行動をして欲しい』と。
『諦めないで欲しい』と。
(…それなのに、俺…。…忘れてないのに…あの時の胸の痛さを…)
「…だが、まあ、動けるのは良い事だ。本当に克服しつつある訳だ。良くやったな」
カサリと地面に落ちている落ち葉を踏む音が聞こえたと思ったら、直ぐ傍で高梨の声がして、くしゃりと頭を撫でられた。顔を上げれば、優しく目を細めて笑う高梨の顔があって、それが父の仕草の様に思えて、瑞樹はまたポロリと零してしまった。
「…父さん…」
「お前の親父になった覚えは無いっ!!」
二年前の動けない瑞樹を目の当たりにしていたからこそ、咄嗟に立ち上がったその動きを嬉しく思い、心から出た労いの言葉だったのだが、僅かに目に涙を浮かべて自分を見上げて来るその様は、親に慰められ褒められて喜ぶ子の様に見えて、高梨は顔を赤くして怒鳴り声をあげた。
◇
「お疲れ様。君達が最後だね。身体が冷えたろう? 温泉に入って温まって来なさい。囲炉裏の間にお握りと豚汁が用意してあるよ」
予定の範囲の索敵を終えた事、これ以上は深追いになる事、こんな人里から離れた場所でも、姿を消して襲って来る妖が居る事を知れたと、保養所に戻って来た高梨と瑞樹を出迎えたのは、隊服の上にもこもこの半纏を纏い、首には、狐の尻尾の様な柔らかそうで暖かそうな襟巻きを巻き着けた杜川一人だった。
「ゆ…他の皆は?」
雪緒と言い掛けて、高梨は慌てて言い直した。
そんな高梨の様子に、杜川はふっと瞳を和らげる。
「うん。半数ぐらい戻って来た処で、みくくんと中に入って貰ったよ。豚汁の追加に、お握りの用意が終わったら、温泉に入って休む様に言ってあるから、今頃は温泉に居ると思うよ? 月兎はつい先刻、星が戻って来て二人で温泉に直行したね。須藤君と中山君も、その後に続いたね。ほら、陽が昇って来たら私は戻るから。それまで休んでいなさい」
未だ未だ空には星が輝いている。
その星空を見上げながら語る杜川に、高梨は自分もそれまで残ると言おうとしたが、それを口にすれば、また難癖を付けられるかも知れないと思い、その言葉を飲み込んだ。
「お心遣い感謝します。行くぞ、橘」
「あっ、はい! あ、あの、ありがとうございます!」
杜川に頭を下げて、高梨が建物の入口へと歩き出す。その後に続く瑞樹が慌ててぺこりと頭を下げる姿に、杜川は「うん」と、口元を緩ませて二人を見送った。
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体調不良により、ムーンに追い付いてしまいました(;´Д`)
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