93 / 125
番外編・祭
特別任務【十七】
しおりを挟む
同時刻。
高梨が、杜川に対してむすりとしていた頃、瑠璃子は遠い目をしながら、妖の眼を貫いていた。
(…せんせぇ、助けて…)
「菅原先輩は、動きがとてもしなやかで、動作一つどれを取っても無駄が無い。そう云った動きは、やはり日々の生活の中で鍛え上げられた動きなのですか? 刀を握る指も、しなやかで美しく…」
照れ臭いが褒められるのは嬉しい。
これらは、小さい頃から祖母に躾けられて来た事だ。薙刀も祖母から教わった物だ。大好きな祖母から教えられた物だし、瑠璃子はそれを誇りに思っている。
しかし。
しかしだ。
優士と共に行動を開始してから、ずっとこの調子なのだ。流石に遠い目もしたくなる。
「…………楠君…あの…流石にね、言い過ぎだと思うの…。…おだてても何も出ないよ…?」
近くに妖の気配が無いのを確認し、瑠璃子は手にしていた刀を鞘に収めて、その右手で額を押さえた。
褒めそやすのならば、もう少し声にそれなりの感情が籠もる筈だ。だが、しかし。優士の声音は通常運転の塩だし、今、目にしている優士の表情も見事な塩だ。これで褒め言葉を口にされても、正直褒められた気はしないし、何か裏があるのでは? と、思ってしまう。
「そうですか。残念です。気分を向上させれば、簡単に話を聞き出せるかと思ったのですが…」
拳にした手を顎にあてて何やらブツブツと呟く優士を見て、瑠璃子はスンッと半眼になった。
一体、何を聞き出そうと云うのか。
おだてて上げて置かないと聞けない話なのか。
それは、恐らく碌な話ではないのだろう。
そんな思いが、一瞬にして瑠璃子の脳裏を巡る。
「さ、もう少し奥に行こうか。今度は楠君の動きを見せてね」
嫌な予感しかしないと、瑠璃子はこの寒さの中で白くなる息を吐きながら、笑顔で数歩後ろに立つ優士を振り返ったが。
「瑞樹を褥へと誘うのに、良い方法がないか教えて貰おうかと。共に風呂に入る許可は得たので、そこからの流れをどうすべきか考えているのですが、瑞樹に逃げられる未来しか浮かばなくて」
その瑠璃子の笑顔は、優士の塩な声と塩な表情で、瞬く間に崩れ去った。
「埋めても良いかなあっ!?」
亜矢が時々、優士を土中に埋めたいと口にしているのを聞いて、そんな事を口にしたら駄目だよ。と、瑠璃子は常々言って来たが、それを後悔していた。と云うか、今なら亜矢の気持ちが解る。この男をこの山の中に埋めてしまいたいと、瑠璃子は思った。
何故、それを自分に聞くのかと、頭を抱えたくなった。それを聞く為に、自分と組むのを希望したのかと、解りたくもないのに、解ってしまった。
この組合せを希望したのは優士だった。高梨は天野と組ませるつもりだったし、天野もその気でいた。が。
『天野副隊長の様な力技は、自分には向きません。最小の動きで、華麗に確実に妖を倒す、菅原先輩と行動をしたい』
と、優士が口にし、瑠璃子もそれに気分を良くして、任せてと胸を叩いた。叩かなければ良かったと、今は猛烈に後悔している。
天野に『参考にするのは構わないが、自分達らしく行けば良い』と、諭された優士だったし、それは勿論理解した。理解したつもりだ。だが、しかし。見聞は広めておいて損は無いだろうと優士は思ったのだ。いつ何時かは解らないが、それが役に立つ時が来る筈だ。それに、瑠璃子は女性だ。それは即ち、受け入れる側であると云う事だ。ならば、瑠璃子の意見を聞いておいても損は無いだろう。願わくば雪緒の意見も聞きたい処だが、それには高梨が邪魔過ぎた。
そんな訳で、先の発言に至る訳なのだが、そんな優士の心の動き等知らない瑠璃子は、ただただ、優士をどう埋めてやろうかと頭を悩ませていた。
因みに、瑠璃子と組む予定だった亜矢は天野と動いていて、こちらもこちらで天野を悩ませていた。
『杜川のおじ様の好みは?』
と。
己の父よりも歳上の杜川に、亜矢は惚れてしまっていたのだ。
瑞樹に優士、そして亜矢。二年前に高梨隊に配属された三人は、中々に先輩達を悩ませるのが趣味らしいと、天野は遠い目をしながら思った。
◇
そんな風にして、それぞれがそれぞれの先輩達を悩ませている事等知らない待機組はと云うと、篝火に囲まれたテントの下で簡易テーブルを囲み、これまた折り畳み式の簡易椅子に座り、雪緒やみく、月兎が作った豚汁に舌鼓を打っていた。
「うん、温まるね」
「俺ぁ、酒が呑みてぇな」
「今は勤務中です。明日にして下さい」
「雪兄様は、もっと食べた方が良いです」
「僕はこれで十分ですよ」
「誰も戻って来ないねぇ~。腹空かないのかねぇ~?」
それぞれの足元には火鉢があり、皆、毛布を膝に掛け、その上には湯たんぽを乗せ、更にはしっかりと半纏も羽織っていた。緊張感等欠片も見られないその様は、まるでかまくらの中でゆったりとした時間を過ごして居る様に見えた。
高梨が、杜川に対してむすりとしていた頃、瑠璃子は遠い目をしながら、妖の眼を貫いていた。
(…せんせぇ、助けて…)
「菅原先輩は、動きがとてもしなやかで、動作一つどれを取っても無駄が無い。そう云った動きは、やはり日々の生活の中で鍛え上げられた動きなのですか? 刀を握る指も、しなやかで美しく…」
照れ臭いが褒められるのは嬉しい。
これらは、小さい頃から祖母に躾けられて来た事だ。薙刀も祖母から教わった物だ。大好きな祖母から教えられた物だし、瑠璃子はそれを誇りに思っている。
しかし。
しかしだ。
優士と共に行動を開始してから、ずっとこの調子なのだ。流石に遠い目もしたくなる。
「…………楠君…あの…流石にね、言い過ぎだと思うの…。…おだてても何も出ないよ…?」
近くに妖の気配が無いのを確認し、瑠璃子は手にしていた刀を鞘に収めて、その右手で額を押さえた。
褒めそやすのならば、もう少し声にそれなりの感情が籠もる筈だ。だが、しかし。優士の声音は通常運転の塩だし、今、目にしている優士の表情も見事な塩だ。これで褒め言葉を口にされても、正直褒められた気はしないし、何か裏があるのでは? と、思ってしまう。
「そうですか。残念です。気分を向上させれば、簡単に話を聞き出せるかと思ったのですが…」
拳にした手を顎にあてて何やらブツブツと呟く優士を見て、瑠璃子はスンッと半眼になった。
一体、何を聞き出そうと云うのか。
おだてて上げて置かないと聞けない話なのか。
それは、恐らく碌な話ではないのだろう。
そんな思いが、一瞬にして瑠璃子の脳裏を巡る。
「さ、もう少し奥に行こうか。今度は楠君の動きを見せてね」
嫌な予感しかしないと、瑠璃子はこの寒さの中で白くなる息を吐きながら、笑顔で数歩後ろに立つ優士を振り返ったが。
「瑞樹を褥へと誘うのに、良い方法がないか教えて貰おうかと。共に風呂に入る許可は得たので、そこからの流れをどうすべきか考えているのですが、瑞樹に逃げられる未来しか浮かばなくて」
その瑠璃子の笑顔は、優士の塩な声と塩な表情で、瞬く間に崩れ去った。
「埋めても良いかなあっ!?」
亜矢が時々、優士を土中に埋めたいと口にしているのを聞いて、そんな事を口にしたら駄目だよ。と、瑠璃子は常々言って来たが、それを後悔していた。と云うか、今なら亜矢の気持ちが解る。この男をこの山の中に埋めてしまいたいと、瑠璃子は思った。
何故、それを自分に聞くのかと、頭を抱えたくなった。それを聞く為に、自分と組むのを希望したのかと、解りたくもないのに、解ってしまった。
この組合せを希望したのは優士だった。高梨は天野と組ませるつもりだったし、天野もその気でいた。が。
『天野副隊長の様な力技は、自分には向きません。最小の動きで、華麗に確実に妖を倒す、菅原先輩と行動をしたい』
と、優士が口にし、瑠璃子もそれに気分を良くして、任せてと胸を叩いた。叩かなければ良かったと、今は猛烈に後悔している。
天野に『参考にするのは構わないが、自分達らしく行けば良い』と、諭された優士だったし、それは勿論理解した。理解したつもりだ。だが、しかし。見聞は広めておいて損は無いだろうと優士は思ったのだ。いつ何時かは解らないが、それが役に立つ時が来る筈だ。それに、瑠璃子は女性だ。それは即ち、受け入れる側であると云う事だ。ならば、瑠璃子の意見を聞いておいても損は無いだろう。願わくば雪緒の意見も聞きたい処だが、それには高梨が邪魔過ぎた。
そんな訳で、先の発言に至る訳なのだが、そんな優士の心の動き等知らない瑠璃子は、ただただ、優士をどう埋めてやろうかと頭を悩ませていた。
因みに、瑠璃子と組む予定だった亜矢は天野と動いていて、こちらもこちらで天野を悩ませていた。
『杜川のおじ様の好みは?』
と。
己の父よりも歳上の杜川に、亜矢は惚れてしまっていたのだ。
瑞樹に優士、そして亜矢。二年前に高梨隊に配属された三人は、中々に先輩達を悩ませるのが趣味らしいと、天野は遠い目をしながら思った。
◇
そんな風にして、それぞれがそれぞれの先輩達を悩ませている事等知らない待機組はと云うと、篝火に囲まれたテントの下で簡易テーブルを囲み、これまた折り畳み式の簡易椅子に座り、雪緒やみく、月兎が作った豚汁に舌鼓を打っていた。
「うん、温まるね」
「俺ぁ、酒が呑みてぇな」
「今は勤務中です。明日にして下さい」
「雪兄様は、もっと食べた方が良いです」
「僕はこれで十分ですよ」
「誰も戻って来ないねぇ~。腹空かないのかねぇ~?」
それぞれの足元には火鉢があり、皆、毛布を膝に掛け、その上には湯たんぽを乗せ、更にはしっかりと半纏も羽織っていた。緊張感等欠片も見られないその様は、まるでかまくらの中でゆったりとした時間を過ごして居る様に見えた。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
仮面の王子と優雅な従者
emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。
平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。
おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。
しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。
これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる