寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

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番外編・祭

特別任務【十七】

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 同時刻。
 高梨が、杜川に対してむすりとしていた頃、瑠璃子るりこは遠い目をしながら、あやかしまなこを貫いていた。

(…せんせぇ、助けて…)

「菅原先輩は、動きがとてもしなやかで、動作一つどれを取っても無駄が無い。そう云った動きは、やはり日々の生活の中で鍛え上げられた動きなのですか? 刀を握る指も、しなやかで美しく…」

 照れ臭いが褒められるのは嬉しい。
 これらは、小さい頃から祖母に躾けられて来た事だ。薙刀も祖母から教わった物だ。大好きな祖母から教えられた物だし、瑠璃子はそれを誇りに思っている。
 しかし。
 しかしだ。
 優士ゆうじと共に行動を開始してから、ずっとこの調子なのだ。流石に遠い目もしたくなる。

「…………楠君…あの…流石にね、言い過ぎだと思うの…。…おだてても何も出ないよ…?」

 近くに妖の気配が無いのを確認し、瑠璃子は手にしていた刀を鞘に収めて、その右手で額を押さえた。
 褒めそやすのならば、もう少し声にそれなりの感情が籠もる筈だ。だが、しかし。優士の声音は通常運転の塩だし、今、目にしている優士の表情も見事な塩だ。これで褒め言葉を口にされても、正直褒められた気はしないし、何か裏があるのでは? と、思ってしまう。

「そうですか。残念です。気分を向上させれば、簡単に話を聞き出せるかと思ったのですが…」

 拳にした手を顎にあてて何やらブツブツと呟く優士を見て、瑠璃子はスンッと半眼になった。
 一体、何を聞き出そうと云うのか。
 おだてて上げて置かないと聞けない話なのか。
 それは、恐らく碌な話ではないのだろう。
 そんな思いが、一瞬にして瑠璃子の脳裏を巡る。

「さ、もう少し奥に行こうか。今度は楠君の動きを見せてね」

 嫌な予感しかしないと、瑠璃子はこの寒さの中で白くなる息を吐きながら、笑顔で数歩後ろに立つ優士を振り返ったが。

瑞樹みずきを褥へと誘うのに、良い方法がないか教えて貰おうかと。共に風呂に入る許可は得たので、そこからの流れをどうすべきか考えているのですが、瑞樹に逃げられる未来しか浮かばなくて」

 その瑠璃子の笑顔は、優士の塩な声と塩な表情で、瞬く間に崩れ去った。

「埋めても良いかなあっ!?」

 亜矢あやが時々、優士を土中に埋めたいと口にしているのを聞いて、そんな事を口にしたら駄目だよ。と、瑠璃子は常々言って来たが、それを後悔していた。と云うか、今なら亜矢の気持ちが解る。この男をこの山の中に埋めてしまいたいと、瑠璃子は思った。
 何故、それを自分に聞くのかと、頭を抱えたくなった。それを聞く為に、自分と組むのを希望したのかと、解りたくもないのに、解ってしまった。
 この組合せを希望したのは優士だった。高梨は天野と組ませるつもりだったし、天野もその気でいた。が。

『天野副隊長の様な力技は、自分には向きません。最小の動きで、華麗に確実に妖を倒す、菅原先輩と行動をしたい』

 と、優士が口にし、瑠璃子もそれに気分を良くして、任せてと胸を叩いた。叩かなければ良かったと、今は猛烈に後悔している。
 天野に『参考にするのは構わないが、自分達らしく行けば良い』と、諭された優士だったし、それは勿論理解した。理解したつもりだ。だが、しかし。見聞は広めておいて損は無いだろうと優士は思ったのだ。いつ何時なんどきかは解らないが、それが役に立つ時が来る筈だ。それに、瑠璃子は女性だ。それは即ち、受け入れる側であると云う事だ。ならば、瑠璃子の意見を聞いておいても損は無いだろう。願わくば雪緒ゆきおの意見も聞きたい処だが、それには高梨が邪魔過ぎた。
 そんな訳で、先の発言に至る訳なのだが、そんな優士の心の動き等知らない瑠璃子は、ただただ、優士をどう埋めてやろうかと頭を悩ませていた。
 因みに、瑠璃子と組む予定だった亜矢は天野と動いていて、こちらもこちらで天野を悩ませていた。

『杜川のおじ様の好みは?』

 と。
 己の父よりも歳上の杜川に、亜矢は惚れてしまっていたのだ。
 瑞樹に優士、そして亜矢。二年前に高梨隊に配属された三人は、中々に先輩達を悩ませるのが趣味らしいと、天野は遠い目をしながら思った。

 ◇

 そんな風にして、それぞれがそれぞれの先輩達を悩ませている事等知らない待機組はと云うと、篝火に囲まれたテントの下で簡易テーブルを囲み、これまた折り畳み式の簡易椅子に座り、雪緒やみく、月兎つきとが作った豚汁に舌鼓を打っていた。

「うん、温まるね」 

「俺ぁ、酒が呑みてぇな」

「今は勤務中です。明日にして下さい」

「雪兄様は、もっと食べた方が良いです」

「僕はこれで十分ですよ」

「誰も戻って来ないねぇ~。腹空かないのかねぇ~?」

 それぞれの足元には火鉢があり、皆、毛布を膝に掛け、その上には湯たんぽを乗せ、更にはしっかりと半纏も羽織っていた。緊張感等欠片も見られないそのさまは、まるでかまくらの中でゆったりとした時間を過ごして居る様に見えた。
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