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やがて
【二】旦那様とおにぎり
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『緒は結ぶ物よ。ゆき君の名前にある"緒"は、結ぶ物よ。ゆき君と私達の縁を、あの人が引き寄せて、そして結んでくれたの。私達には、ゆかりがあったのよ』
――――――――…だから、ゆき君が、雪の様に消える事は無いの…――――――――。
それは、何時の事でしたでしょうか。
静かな雪の降る日でした。
それを縁側の戸を拭きながら見ていました。
奥様の言葉を聞きながら。
お外は薄暗くかなりの寒さです。
ですが、ここはぽかぽかと、とても温かいです。
不思議です。
僕なんかが、この様に温かな場所に居て良いのでしょうか?
これまでは、この様な日の夜は寒くて寒くて、眠れなくて、震えながら綿のはみ出たお布団に包まっていましたのに。
隙間のある窓や、壁から入り込む風や雪がとても冷たくて、凍えそうになっていましたのに。
雪は嫌いだと。
早く春になれば良いのにと。
そうして過ごして来ましたのに。
今、これ程に温かいだなんて信じられません。
何故、この様に温かいのでしょう?
何故、僕はここに居るのでしょう?
ぽかぽかと、優しく温かい場所に…――――――――。
◇
「…は…え…?」
目を開けたら、見知らぬ天井が見えました。
無機質な、こんくりいとの天井が。
「…ふえ…?」
ぼうっとしたままの頭で身体を起こしましたら。
「…寝惚けてるのか?」
静かな、ですが、何処かおかしそうな旦那様の声が聞こえて来ました。
「…ふえぇ…と…」
まだ、ぼうっとしたままの頭で状況を確認します。
僕は、何故かべっどの上に居ます。
顔を横へと向けましたら、五歩程も歩いた直ぐ側に、べっどがありまして、そこに旦那様が居ました。横になったまま、顔だけをこちらへと向けて。
「あ」
ああ!
そうです!
ここは、病院です。
お怪我をされた旦那様が運ばれまして、そうして僕はずっと寝ずにお傍に居たのです。
「目が覚めたか?」
「も、申し訳ございません! 僕は、万全では無い旦那様を差し置いて、何て無礼な事を…っ…!!」
慌ててべっどから降りまして、床に並べてありました草履に足を通して旦那様の眠るべっどへと寄ります。
「も、もう夕暮れ時ですか!? 今直ぐ夕餉のお支度を…っ…!!」
「いや、落ち着け。相楽が握り飯を置いて行ったから、それを食って落ち着け」
「ふわああああ!? え、何時の間にですか!? それより、僕は何時の間にべっどへ!? ああ、お茶を、何かお飲み物を…っ…!!」
「だから、落ち着け…つっ…!」
旦那様が身体を起こして、そのお顔を歪めました。
恐らく、お怪我の痛みが走ったのでしょう。
「ってて…。あのな、お前、話してる途中で、倒れる様に眠ったんだ。ベッドへは、相楽が運んだ。後で礼を言って置くんだな」
「ふええ!? 僕は何と云う事をっ…!!」
「雪緒、顔をもっとこちらへ寄越せ」
「ふえ? …ふが…?」
呼ばれまして、べっどへ手を置いて身を乗り出して、顔を旦那様の方へと近付けましたら、鼻を摘ままれてしまいました。何故でしょう? でも、嬉しいです。
「…全く…。寝惚けるお前も珍しいと思ったが…騒々しくてかなわんな。ここは病院だ。幾ら個室でも大人しくしとけ。解ったな?」
「ふぁい…」
鼻を摘ままれたまま、僕は頷きました。
そうしましたら、お腹がぐうっと鳴りました。
「…っふ…。ほら、腹の虫が鳴いてるぞ? そこの握り飯を食っとけ」
旦那様が、僕の鼻から手を離して、おかしそうに目を細めて笑います。
自由な左手で示すその先には、移動式の長細い机がありまして、その上には、おにぎりの乗ったお皿が置かれていました。
「あ、いえ。旦那様…」
「俺には、不味い飯が出るらしい。相楽が言ってた。だから、お前はそれを食え」
「そ、それでしたら、そのご用意が出来てから…」
「お前な。昨日から何も食ってないんだろう。相楽から聞いた。眠っても居ないって。俺の心配をするなら、まずは飯を食ってからにしろ」
おかしそうに細められていた目は、鋭い物へと変わりました。
旦那様の言う事ももっともですので、僕は机の側へと行きまして、おにぎりを一つ手に取りまして、べっどの脇にあります丸椅子へと腰掛けました。
「…お先に失礼します…」
「ん」
大きなおにぎりを両手で持って、口へと運びます。
海苔はしなしなになっていますね。
一口齧りましたら、ぱりぽりと、それなりに歯応えのある沢庵の味がしました。更に食べ進めましたら、梅干しが出て来ました。これは、びっくりです。梅干しがあった周りのご飯は、ほんのりと赤く色付いていました。紫蘇の色でしょうね。
黙々と食べて居ましたら、ふと視線を感じました。
おにぎりを見ていました目を上げますと、旦那様がじっと僕を見ていました。
口の中にある物を飲み込みまして、僕は口を開きます。
「どうかされましたか? あ、お食べになりますか?」
そう言いまして、おにぎりを取りに行こうと椅子から立ち上がろうとしましたら、旦那様がふっと息を吐く様に軽く笑いました。
「…いや…。初めて会った時の事を思い出していた。握り飯を握っていたなって。で、今と同じ事を言っていたなと」
…あ…。
「…そうですね…。天野様に抱えられて、避難場所へと連れて行かれたのでした。お役人様が、おにぎりを握ってらしたので、僕もお手伝いしなければと…」
そうして、握って居ましたら、旦那様が…。
「そうだな。思えば、あの時から、お前は大人しくしてない奴だったんだな」
「ふへ!?」
お役人様方が守って下さったから、村の皆は無事でしたのに。
それですのに、皆は感謝もそこそこに、夕餉の途中でしたとか、寒いですとか、喉が渇きましたとか文句を言い始めました。
ですので、お役人の方々が毛布をお配りしたり、炊き出しの支度を始めたのを見まして、僕も、何か出来る事を、と、そう思いました。
それを、大人しくしていないと言われてしまうなんて…。僕がした事は迷惑でしか無かったのでしょうか…。…確かに、お手伝いをと口にした時、皆様は困惑していた様に見えました…。
「解ってる。お前の事だからな。ただ、ぼけっとなんて出来無かったんだろうよ。まあ、それが俺達の仕事だし、お前が気にする必要は無いが…だが…口先だけの感謝よりは、余程嬉しいな。あの時の皆、お前の事を褒めていたぞ」
「ふわわ…」
そう目を細めて笑う旦那様が、とても眩しく見えて、僕は慌てて食べ掛けていたおにぎりを頬張りました。
そうして、気付きました。
あの日の事を、こうして話すのは初めてです。
――――――――…思い出すな等と言わないで下さい…――――――――。
僕が、そう言ったから…大切な日だと言ったからでしょうか…?
だから…こうして話して下さったのでしょうか…?
お優しい声でした…。
どうしましょう…凄く…物凄く嬉しいです…。
口が緩んで、上手くおにぎりを食べられません。
本当に…僕はどうしてしまったのでしょう…?
「…その…お前…眠りに落ちる前に…何て言ったか…覚えている、か?」
「むぐ…っ…!」
何故だか言い淀みます旦那様の言葉に、おにぎりに噛み付いたまま、僕は固まってしまいました。
「…あ、いや…。…その…二度は言わなくて良い…。…お前が…どう思っているのか…まあ…解った…だが…その、な…?」
「ふええええぇっ! 申し訳ございません! 恥ずかしい事を…甘えた事を言いました…っ…! 鼻を摘ままれて嬉しい等と…っ…!!」
旦那様がお目覚めになられて、嬉しくて嬉しくて。また、旦那様の事を嫌っている等と云われて悲しくて。自分でも何を口走ってしまったのか、正直覚えていないのですが、鼻を摘まんで欲しいと言ったのは覚えています。
「…ん…?」
旦那様が疑問の声を上げますが、僕はそれに構わずにただ自分の言いたい事を口にします。
「どうか、お忘れに…っ…!!」
「あ、いや…それだけしか…覚えていないのか…?」
その言葉に、僕の頭は爆発しそうになりました。
「ふえっ!? ふわわわわ、も、もしかしましたら、頭を撫でられたいとかも、言いましたか!?」
もう、もう、頭の中はぐちゃぐちゃです。
その様な事まで口にしてしまっていただなんて。
「…は…?」
旦那様の呆けた様な声が聞こえましたが、僕の口から零れる言葉は止まりません。
「あああああああた、頭、撫でられるのは、うれ、嬉しいのですが、な、慣れてませんので、は、恥ずかしいので、出来ましたら事前に告知を戴けたら嬉し…あ、いえ、申し訳ございません! 僕なんかが、この様な事を…っ…!!」
「…あ、いや…。…頭…触られるのは…嫌では無い、のか?」
その戸惑った様な声は、何処か嬉しさも滲んでいる様に聞こえました。
「ふわっ!? 滅相もございませんっ! 仮にそうだとしたなら、髪を切って下さると言われて、あれ程浮かれたりは致しませんっ!!」
「そ、そうか…」
ふえええええっ!!
僕は、もう、何を言っているのでしょうか!?
もう、もう、心臓がばくばくと言っています。
このままでは、壊れてしまいます。
おかしいです。
これこそ、病です。
病と云えば、相楽様です。
助けて下さい、相楽様!!
「…まあ…それなら…」
ぽふっと、僕の頭に旦那様の手が置かれました。
「…落ち着け、な?」
ふっと、旦那様が苦笑されました。
「お前を責めている訳では無い。そんなに混乱しなくて良い」
「…は、い…」
そう言いながら、ゆっくりと頭を撫でてくれます。
何故だか、それが、気持ち良いです。
そのせいか、心臓の動悸が治まって来ました。
不思議です。
旦那様はお医者様でもあるのでしょうか?
気持ちが良くて、何故だか、くすぐったくもありまして。
それでも、まだ、そうしていて欲しくて。
…ああ、僕は何て欲張りなのでしょう。
自分が、こんなに欲張りだなんて知りませんでした。
「う~ん…。紫君のご飯持って来たんだけど~。僕、お邪魔かなあ~?」
「ふえええええぇぇえっ!?」
出入口の方から聞こえました相楽様の、何処か呆れた様な声に、文字通り僕は飛び上がりました。
――――――――…だから、ゆき君が、雪の様に消える事は無いの…――――――――。
それは、何時の事でしたでしょうか。
静かな雪の降る日でした。
それを縁側の戸を拭きながら見ていました。
奥様の言葉を聞きながら。
お外は薄暗くかなりの寒さです。
ですが、ここはぽかぽかと、とても温かいです。
不思議です。
僕なんかが、この様に温かな場所に居て良いのでしょうか?
これまでは、この様な日の夜は寒くて寒くて、眠れなくて、震えながら綿のはみ出たお布団に包まっていましたのに。
隙間のある窓や、壁から入り込む風や雪がとても冷たくて、凍えそうになっていましたのに。
雪は嫌いだと。
早く春になれば良いのにと。
そうして過ごして来ましたのに。
今、これ程に温かいだなんて信じられません。
何故、この様に温かいのでしょう?
何故、僕はここに居るのでしょう?
ぽかぽかと、優しく温かい場所に…――――――――。
◇
「…は…え…?」
目を開けたら、見知らぬ天井が見えました。
無機質な、こんくりいとの天井が。
「…ふえ…?」
ぼうっとしたままの頭で身体を起こしましたら。
「…寝惚けてるのか?」
静かな、ですが、何処かおかしそうな旦那様の声が聞こえて来ました。
「…ふえぇ…と…」
まだ、ぼうっとしたままの頭で状況を確認します。
僕は、何故かべっどの上に居ます。
顔を横へと向けましたら、五歩程も歩いた直ぐ側に、べっどがありまして、そこに旦那様が居ました。横になったまま、顔だけをこちらへと向けて。
「あ」
ああ!
そうです!
ここは、病院です。
お怪我をされた旦那様が運ばれまして、そうして僕はずっと寝ずにお傍に居たのです。
「目が覚めたか?」
「も、申し訳ございません! 僕は、万全では無い旦那様を差し置いて、何て無礼な事を…っ…!!」
慌ててべっどから降りまして、床に並べてありました草履に足を通して旦那様の眠るべっどへと寄ります。
「も、もう夕暮れ時ですか!? 今直ぐ夕餉のお支度を…っ…!!」
「いや、落ち着け。相楽が握り飯を置いて行ったから、それを食って落ち着け」
「ふわああああ!? え、何時の間にですか!? それより、僕は何時の間にべっどへ!? ああ、お茶を、何かお飲み物を…っ…!!」
「だから、落ち着け…つっ…!」
旦那様が身体を起こして、そのお顔を歪めました。
恐らく、お怪我の痛みが走ったのでしょう。
「ってて…。あのな、お前、話してる途中で、倒れる様に眠ったんだ。ベッドへは、相楽が運んだ。後で礼を言って置くんだな」
「ふええ!? 僕は何と云う事をっ…!!」
「雪緒、顔をもっとこちらへ寄越せ」
「ふえ? …ふが…?」
呼ばれまして、べっどへ手を置いて身を乗り出して、顔を旦那様の方へと近付けましたら、鼻を摘ままれてしまいました。何故でしょう? でも、嬉しいです。
「…全く…。寝惚けるお前も珍しいと思ったが…騒々しくてかなわんな。ここは病院だ。幾ら個室でも大人しくしとけ。解ったな?」
「ふぁい…」
鼻を摘ままれたまま、僕は頷きました。
そうしましたら、お腹がぐうっと鳴りました。
「…っふ…。ほら、腹の虫が鳴いてるぞ? そこの握り飯を食っとけ」
旦那様が、僕の鼻から手を離して、おかしそうに目を細めて笑います。
自由な左手で示すその先には、移動式の長細い机がありまして、その上には、おにぎりの乗ったお皿が置かれていました。
「あ、いえ。旦那様…」
「俺には、不味い飯が出るらしい。相楽が言ってた。だから、お前はそれを食え」
「そ、それでしたら、そのご用意が出来てから…」
「お前な。昨日から何も食ってないんだろう。相楽から聞いた。眠っても居ないって。俺の心配をするなら、まずは飯を食ってからにしろ」
おかしそうに細められていた目は、鋭い物へと変わりました。
旦那様の言う事ももっともですので、僕は机の側へと行きまして、おにぎりを一つ手に取りまして、べっどの脇にあります丸椅子へと腰掛けました。
「…お先に失礼します…」
「ん」
大きなおにぎりを両手で持って、口へと運びます。
海苔はしなしなになっていますね。
一口齧りましたら、ぱりぽりと、それなりに歯応えのある沢庵の味がしました。更に食べ進めましたら、梅干しが出て来ました。これは、びっくりです。梅干しがあった周りのご飯は、ほんのりと赤く色付いていました。紫蘇の色でしょうね。
黙々と食べて居ましたら、ふと視線を感じました。
おにぎりを見ていました目を上げますと、旦那様がじっと僕を見ていました。
口の中にある物を飲み込みまして、僕は口を開きます。
「どうかされましたか? あ、お食べになりますか?」
そう言いまして、おにぎりを取りに行こうと椅子から立ち上がろうとしましたら、旦那様がふっと息を吐く様に軽く笑いました。
「…いや…。初めて会った時の事を思い出していた。握り飯を握っていたなって。で、今と同じ事を言っていたなと」
…あ…。
「…そうですね…。天野様に抱えられて、避難場所へと連れて行かれたのでした。お役人様が、おにぎりを握ってらしたので、僕もお手伝いしなければと…」
そうして、握って居ましたら、旦那様が…。
「そうだな。思えば、あの時から、お前は大人しくしてない奴だったんだな」
「ふへ!?」
お役人様方が守って下さったから、村の皆は無事でしたのに。
それですのに、皆は感謝もそこそこに、夕餉の途中でしたとか、寒いですとか、喉が渇きましたとか文句を言い始めました。
ですので、お役人の方々が毛布をお配りしたり、炊き出しの支度を始めたのを見まして、僕も、何か出来る事を、と、そう思いました。
それを、大人しくしていないと言われてしまうなんて…。僕がした事は迷惑でしか無かったのでしょうか…。…確かに、お手伝いをと口にした時、皆様は困惑していた様に見えました…。
「解ってる。お前の事だからな。ただ、ぼけっとなんて出来無かったんだろうよ。まあ、それが俺達の仕事だし、お前が気にする必要は無いが…だが…口先だけの感謝よりは、余程嬉しいな。あの時の皆、お前の事を褒めていたぞ」
「ふわわ…」
そう目を細めて笑う旦那様が、とても眩しく見えて、僕は慌てて食べ掛けていたおにぎりを頬張りました。
そうして、気付きました。
あの日の事を、こうして話すのは初めてです。
――――――――…思い出すな等と言わないで下さい…――――――――。
僕が、そう言ったから…大切な日だと言ったからでしょうか…?
だから…こうして話して下さったのでしょうか…?
お優しい声でした…。
どうしましょう…凄く…物凄く嬉しいです…。
口が緩んで、上手くおにぎりを食べられません。
本当に…僕はどうしてしまったのでしょう…?
「…その…お前…眠りに落ちる前に…何て言ったか…覚えている、か?」
「むぐ…っ…!」
何故だか言い淀みます旦那様の言葉に、おにぎりに噛み付いたまま、僕は固まってしまいました。
「…あ、いや…。…その…二度は言わなくて良い…。…お前が…どう思っているのか…まあ…解った…だが…その、な…?」
「ふええええぇっ! 申し訳ございません! 恥ずかしい事を…甘えた事を言いました…っ…! 鼻を摘ままれて嬉しい等と…っ…!!」
旦那様がお目覚めになられて、嬉しくて嬉しくて。また、旦那様の事を嫌っている等と云われて悲しくて。自分でも何を口走ってしまったのか、正直覚えていないのですが、鼻を摘まんで欲しいと言ったのは覚えています。
「…ん…?」
旦那様が疑問の声を上げますが、僕はそれに構わずにただ自分の言いたい事を口にします。
「どうか、お忘れに…っ…!!」
「あ、いや…それだけしか…覚えていないのか…?」
その言葉に、僕の頭は爆発しそうになりました。
「ふえっ!? ふわわわわ、も、もしかしましたら、頭を撫でられたいとかも、言いましたか!?」
もう、もう、頭の中はぐちゃぐちゃです。
その様な事まで口にしてしまっていただなんて。
「…は…?」
旦那様の呆けた様な声が聞こえましたが、僕の口から零れる言葉は止まりません。
「あああああああた、頭、撫でられるのは、うれ、嬉しいのですが、な、慣れてませんので、は、恥ずかしいので、出来ましたら事前に告知を戴けたら嬉し…あ、いえ、申し訳ございません! 僕なんかが、この様な事を…っ…!!」
「…あ、いや…。…頭…触られるのは…嫌では無い、のか?」
その戸惑った様な声は、何処か嬉しさも滲んでいる様に聞こえました。
「ふわっ!? 滅相もございませんっ! 仮にそうだとしたなら、髪を切って下さると言われて、あれ程浮かれたりは致しませんっ!!」
「そ、そうか…」
ふえええええっ!!
僕は、もう、何を言っているのでしょうか!?
もう、もう、心臓がばくばくと言っています。
このままでは、壊れてしまいます。
おかしいです。
これこそ、病です。
病と云えば、相楽様です。
助けて下さい、相楽様!!
「…まあ…それなら…」
ぽふっと、僕の頭に旦那様の手が置かれました。
「…落ち着け、な?」
ふっと、旦那様が苦笑されました。
「お前を責めている訳では無い。そんなに混乱しなくて良い」
「…は、い…」
そう言いながら、ゆっくりと頭を撫でてくれます。
何故だか、それが、気持ち良いです。
そのせいか、心臓の動悸が治まって来ました。
不思議です。
旦那様はお医者様でもあるのでしょうか?
気持ちが良くて、何故だか、くすぐったくもありまして。
それでも、まだ、そうしていて欲しくて。
…ああ、僕は何て欲張りなのでしょう。
自分が、こんなに欲張りだなんて知りませんでした。
「う~ん…。紫君のご飯持って来たんだけど~。僕、お邪魔かなあ~?」
「ふえええええぇぇえっ!?」
出入口の方から聞こえました相楽様の、何処か呆れた様な声に、文字通り僕は飛び上がりました。
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