旦那様と僕

三冬月マヨ

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向日葵―奇跡の時間―

向日葵の想い【十一】

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「…ふわ…」

 ゆき君が卓袱台に並べられた料理の数々を見て目を丸くしています。
 今日はゆき君のお誕生日です。頭を悩ませた結果、ゆき君には新しい草履を贈る事にしました。こちらへ来た時に新しい物を渡してありますけれど…物凄く遠慮されたけれど…日々使う物ですから、受け取ってくれるでしょう。ここに来た頃と比べて、身長も少し…本当に少し伸びた気がしますものね。ですから、それを理由に。
 ゆき君を驚かせる為に、柚子ゆず様にご協力をお願いして、ゆき君には今日一日、相楽治療院のお手伝いをして貰う事にしました。
 その間に、私は久しぶりにケーキを焼き、おたえさんにはお寿司を握って貰い、私は鶏肉の唐揚げや、ポテトサラダ等を作りました。
 ゆかり様には帰宅する前に、相楽治療院へと寄って貰い、ゆき君のお迎えを頼みました。
 そして、今、紫様と一緒に茶の間の入り口に立っているのですが…。

「な、何なのですか、これは!? はっ!? 今日は何かのお祭りですとか、記念の日でしたのでしょうか!? 勉強不足で申し訳ありませんっ!! はあっ、そんな日ですのに、僕は何をしていたのでしょ…ふが…?」

 …ゆき君…。
 と、思わず並んで座るお妙さんと額を押さえていたら、怒涛の様なゆき君の言葉が止まりました。見上げれば、紫様がゆき君の鼻を摘まんでいます。

「…今日はお前の誕生日だろうが。ほら、座れ。今日は特別だ。皆で飯を食うぞ」

 …お誕生日に鼻摘まみは無いと思うのだけれど…。
 ですけれど、それは効果があるのは間違いが無くて。慌てるゆき君も、本当に可愛らしいわね。

「そうよ。お誕生日おめでとう、ゆき君」

「はっ!? あ、いえ、僕はこの様に祝われる者ではありませんのでっ!! 僕なんかが、この様に豪華な物を食べてしまいましたら罰が当たりま、ふえっ!?」

 と、笑顔でお祝いの言葉を贈れば、ゆき君はまた慌て出して…まさか、これの繰り返しなのかしら…?

「こら、逃げるな!!」

 勢い良く踵を返したゆき君の襟首を紫様が掴みます。乱暴ですけれど、良い判断だと思いますわ。

雪緒ゆきお、ばばの隣においでな。ばば、腹が空いて空いて、背中と腹がくっつきそうで…雪緒が座らんと食べられん…」

「…ふわわ…」

 お妙さんが俯いてお腹に手をあててそう言えば、ゆき君は眉を思い切り下げて、可愛らしい声を出してしまいました。

「そら。お妙さんを困らせて楽しいのか? 楽しくないだろう? 大人しく座れ」

 ゆき君の襟首から手を離して、トンと紫様が軽くその小さな背中を押せば、ゆき君はとてとてと歩き出して、お妙さんの隣にある座布団に申し訳無さそうな顔をしてから座りました。一拍遅れて、紫様が私の正面に座ります。丸い卓袱台で大きさのある物です。私の右隣にお妙さん、その隣にゆき君、少し間を空けて紫様と云った並びになります。

「あ、ああああああの…僕なんかの為に、この様なお時間と労力を使わせてしまい、申し訳ありませんでした。このお詫びになるかどうかは解りませんが、お腹を捌く事しか僕には思い浮かばないのですが、それでお許し戴けるでしょうか?」

 ゆき君の言葉に、大人三人がガクリと肩を落とします。

「…お前な…」

 紫様が何とも苦虫を潰した様な顔をして、額を押さえて呻きます。
 ご両親が健在だった頃は、きっとお祝いをされていたと思うのだけれど…それは、ゆき君の心の奥底で眠っていて、そう簡単には掘り起こす事の出来ない物なのでしょう。もっと沢山の喜びを知って欲しい。この日を無事に迎えられた事、今日からの一年を、また笑顔で無事に過ごせる様になって欲しい。そんな願いから、お誕生日を祝うのだと、それを知って欲しい。私が紫様や叔父様、お妙さんから貰った暖かな想いをゆき君にも知って欲しい。

「そうですわ。お箸を付ける前に写真を撮りましょう」

 写真を見て、今日のこの日を思い出して、ゆき君が笑ってくれる様に。こんな日もあったのだと笑える様に。今は未だ無理だけれど、何時か家族となった時に、ゆき君が顔を赤くするくらいに、沢山の写真を撮りましょう。何年掛かっても良いの。こうした毎日を積み重ねて行きましょう。沢山の思い出を重ねて行きましょうね。ね、ゆき君?
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