没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

文字の大きさ
133 / 234
課外授業編

376

しおりを挟む

クルザナシュの岩山は傾斜がきつい。
木はほとんど生えておらず、見晴らしは良いものの、靴を通り越して伝わってくる硬い岩の感触は不快だった。

足元の状態は悪く、気をつけて歩かなければ小石を蹴飛ばして落石を作ってしまう。

コロコロとあらぬ方向へ転がり落ちて、しまいには大きな岩にぶつかって砕け散る小石の様はまるで「お前もこうなるぞ」と言っているようで背筋を凍らせる。

少年は心の中で舌打ちをした。
「なぜ僕がこんなことをしなければいけないんだ」と内心悪態をつく。


そして、自分の前を歩く四人の同級生を見て「こいつらはそう思わないのか? ……思わないんだろうな」とため息を吐いた。


少年の名前はロドリク・アルセオ。
南の街で最も地位の高い貴族家出身の男の子である。

アルセオ家にとってたった一人の子供であり、将来は家督を継ぐことを期待されているロドリクはそれはそれは甘やかされて育ってきた。

ロドリクが嫌と言えば夕食に出るメニューは変更されて、ロドリクが欲しいといえば何でもやらせて貰えた。

十二歳の誕生日を迎えるその日まで彼は「我慢」したことが無かった。

そんなロドリクにとってこの「鉱物探し」は耐えられないほどにやりたくないことだった。

何せ、こんな仕事は自分の街では平民がやるようなことだ。

魔法でもっと手軽に見つけられるのならば話は別だが、教えてもらった魔法を使ったとしても山道を歩いていかなくてはいけないことに変わりはない。


本来ならば学院側にこの不当性を訴えて、クルザナシュの領主に文句を言ってやりたいくらいである。


それでもロドリクがそうしないのには理由があった。


それは、ロドリクがまだ入学する前のことである。

かねてからロドリクに魔法の才能が発現したことを知り、大喜びしていたロドリクの両親達は学院の入学の日が近づいてくるにつれ暗い表情になっていった。

ロドリクにはその理由はわからなかったが、それはある日突然に父から言い渡される。


「いいかい、ロドリク。これからお前の通う学院には『マルクス・ハートフィリア』という男の子がいる……彼は厳密にいえば貴族ではないが、決して彼を怒らせるようなことはしてはいけないよ。この街で行なっていたような傲慢な行いは控えなさい」


ロドリクにとって父親から行動を諌めちたられたのも、険しい顔でこちらを睨む父親の顔を見たのも初めての経験であった。

件のマルクスという少年は入学すればすぐに誰かわかった。

見た目は凡庸な少年にしか見えないのに、学院内は彼の噂で持ちきりだったのだ。


「あのレオン・ハートフィリアの弟が入学しているらしい」


「あまり似てないのね。でも、どこか気品のある顔立ちだわ」


学院の先輩たちを中心に、その噂は新入生にもあっという間に広まった。

あまり他の街のことに詳しくないロドリクだったが、「レオン・ハートフィリア」という名前は聞いたことがあった。


魔法の天才で国を救った英雄。
平民の出身でありながらも、瞬く間に功績を上げて貴族になった男。


その噂を知ってロドリクは父親の言葉に納得した。

貴族としての位はアルセオ家の方が上だろうが、ロドリクの父親はこのレオン・ハートフィリアのことを恐れているのだ。


「マルクス・ハートフィリアの機嫌を損ねるな」というのは「レオン・ハートフィリアの機嫌を損ねるな」という意味と同義だったのである。


いくら我儘なロドリクといえど、実の父親で現領主の言葉には逆らいようがない。

さらに、「機嫌を損ねないように離れていなさい」という指示ならばまだ良かったのに、父親はロドリクに厄介な指示を出した。


「機嫌を損ねてもいけないが、疎遠になるのもいけない。同じ南に街を持つ者同士なのだから、仲良くしなさい」


とロドリクにとっては無理難題に近い注文をつけてきた。

おかげでロドリクは入学してから何か不平不満を言いたくなるようなことがあってもそれをグッと堪え、初めて周りに合わせるという術を実行しなくてはならなかったのである。
しおりを挟む
感想 193

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。