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出国準備編
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しおりを挟むエレオノアールから聖レイテリア神聖国へ行くにはまずクルザナシュの近くの港から船で数日かけて西の大陸へ行く必要がある。
そこからさらに陸路を五日間進まなければならないため、旅路はそれなりに長い方だと言える。
「それにしても、こんなに持っていく必要あるかな」
荷馬車に積み込んだ荷物の確認をして欲しいと頼まれ、一通り目を通したレオンはその量に口を開けて驚きの顔を見せた。
豪華な荷馬車にぎっちりと積み込まれた荷物の量は旅支度というよりも引越しの準備と言われた方がしっくりくる気がした。
「ダレン様とクエンティン様からレオン様の魔法に対する執着のご様子は伺っております。旅の途中、魔法の研究をしたいと思ったらすぐに取り組めるように準備しました」
荷馬車に積み込んだ荷物のリストをレオンに渡しながらイリファが捕捉する。
体裁を取り繕うために使用人の一人でも雇った方がいいと言い出したのはヒースクリフだが、実際にそれを手配したのは商売人のクエンティン・ウォルスだった。
それも、ダレンの屋敷からの引き抜きという形である。
その二人から事前にレオンのことを聞かされていたイリファはレオンの性格に合わせて旅の支度をしたらしい。
レオンが渡された書類に目を通すと着替えや予備の靴といった生活品のほかに魔道具や魔道具を作るためのインクとペンなども積み込まれているようだ。
「なるほど、助かるよ。イリファも来るんだよね?」
何気なしに聞いたレオンにイリファは表情を崩さずに「もちろんです」と答えた。
他国の人に貴族らしい姿を見せるために使用人を雇ったのだが当然である。
「マーク様、それからネメトリア様は明日ザオの街で合流する手筈となっております。それから、シミエール様も直接ザオの街を目指すとのことでした」
「シミエール様はヒースの叔父さんなんだっけ?」
予定を確認するイリファにレオンが尋ねる。
イリファは少し眉根をピクリと動かした後に頷いた。
「その通りです。国王様の叔父、つまり前国王様の弟君です」
ヒースクリフが聖レイテリア神聖国へレオン達を行かせるにあたり、神の国に王族なしで挨拶に向かわせるのは無礼当たると判断して同行を頼んだのがルシウス・シミエールである」
前国王の弟なのになぜ家名が違うのか、今までどこで何をしていたのかなどレオンには疑問が多々あったが、ヒースクリフからは
「叔父は父上や兄上とは違い温厚な人だから問題ない」
と言われているのみであった。
ヒースクリフのその言い方から察するに平民を嫌う前時代的な人間ではないと思われるが、会ってみるまでレオンは少しドキドキしていた。
「レオン様、くれぐれも気をつけていただきたいのですが聖レイテリア神聖国の国内やシミエール様の前で国王様のことを愛称で呼ぶのはどうかお控えください。不敬で無礼な貴族だと思われてしまいますので」
レオンはイリファにそう釘を刺される。
どうやらイリファの眉根が動いたのはレオンがヒースクリフのことを「ヒース」と呼んだことが原因だったようだ。
それでも、頑なに愛称を禁ずるのではなく時と場所を限定するあたりイリファの寛大な心が窺い知れる。
レオンも「それはそうだ」と思ったために笑いながら「気をつけるよ」と返答した。
それからイリファは再度積荷に不備がないかを確認した後、レオンに買い物に行く旨を伝えた上で屋敷を出ていった。
残されたレオンはといえば、家事を全てイリファが引き取ってくれたために手持ち無沙汰となり屋敷の地下室へと向かうのであった。
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