没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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入国編

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夜が少しずつ更けていくにつれ、レオン達の表情に明るさが戻っていった。

イリファが作った酸味のある果実のジュースが船酔いに効いてきたというのもあるのだろうが、何よりも大きかったのはシミエールの存在である。

「私は船には慣れっこだからね、遠慮なくいただくよ」

と前置きをしてから豪快に料理を口に運びましたシミエールにレオン達は始め呆気にとられた。

料理は確かに漁師飯と言えるような内容で気品のかけらもないが、シミエールの作法にもそれは微塵もなかった。

何の事情も知らない人が見れば、ただ漁師が豪快に食事をしているだけのように見えただろう。

ナイフなんてほとんど使わず、フォークで豪快に魚を刺して持ち上げ、時には素手で鷲掴みにして口まで運ぶシミエールの所作には所謂「貴族らしら」なんてものはなかった。

始めはただただ困惑するだけのレオン達だったが、その豪快さにいつしか気持ちの悪さなど忘れてしまい乱雑でありながらも心から美味しそうに食事をするシミエールを見て完全に心を許し始めたのである。

気づけばレオンもマークも食事に手をつけ始めていた。

誰からともなく、普段の行儀のいい作法なんて忘れてシミエールと同じように豪快に。

あのルイズでさえ、少し遠慮がちにではあるが確かに行儀を崩して魚を口に運んだのである。

当然シミエールもそれを咎めるようなことはなく、むしろ

「うん、それでこそ荒くれの海を乗り越える者たちの食べ方だ」

と機嫌をよくしたのである。


「シミエールさん……様はどうして他国で長い間暮らしていたんですか?」


食事のほとんどが四人によって無くなった頃、そんな質問したのはマークだった。

それは貴族に対してする質問としては不適切だったのかもしれない。

しかし、その頃には四人はすでにそこそこに酔っていたし、そもそもシミエールはそんなことは気にしなかった。

そんな質問が来ることは予想していたのか、待ってましたとばかりに足を豪快に開き、その両足の膝の上にそれぞれの手を乗せてからやや前のめりになって話し始めた。


「私の兄……つまりヒースの父であり、エレオノアールの前国王アドルフのことは知っているね」


その言葉にレオン達は頷いた。
レオンをあられもない罪に問い、辺境国のアルガンドに追いやった張本人である。

ヒースクリフが国王の座を継いだ今は、友好国にその身柄を預けられている。


「まぁ、君達なら知っているだろうが兄は魔法使いが嫌いでね。それもかなり個人的な理由……『私が魔法を使えないのになぜ使える者がいるのだ』的なものなんだけど。ただ、私は兄とは違う考え方を持っているんだよ。残念ながら私も魔法は使えない。私達が子供の頃は『不作の王族の年』なんて密かに囁かれたものだ……ただ、兄と違うのは私は魔法も、魔法使いも好きだということなんだよ」


シミエールが魔法と初めて出会ったのは彼が物心ついてすぐの頃だった。

その日、王宮には何かのパーティーで人が多く集まり、ご馳走が並んでいた。

アドルフは大いに喜んで楽しく過ごしていたが、シミエールは違った。

その頃から貴族同士のお堅い政治的な触れ合いを好ましく思っていなかったのである。

そんなわけでシミエールはパーティーを抜け出して、王宮の最上階のテラスから街に灯る灯りをただボーッと眺めていた。

正確にはその遥か遠くに見える海を眺めていた。

それまでのシミエールは海など間近で見たことはなかったが、教養として知ってはいた。

そして、その向こうに無数にあるという国々のことを考え、思いを馳せていたのである。

そんな時だった。

遠くに見える海の方から大きな火の手が上がった。

花火であった。

それは大きく、美しく、綺麗な赤色でシミエールの視線を釘付けにした。

海ですらうっすらと認識できないほどに小さく見えるのに、その花火はやけに鮮明で大きかったのだ。

誰が何の目的で打ち上げたのかもわからないその花火はまるで何かを祝うかのようにその後も何発か上がっていたのである。


「それが魔法だと知ったのはその少し後になってからだった。旅商人と共に流れてきた情報で、『隣国の姫の誕生日に魔法使いが盛大に花火を打ち上げた』っていう話を聞いたのさ。私はとても驚いた。何しろ、遠くに見える海と同じくらいの場所で打ち上がっているものかと思ったら、その遥か向こうで打ち上がったものだったんだから」


その話を聞いて、レオンはその花火の大きさを想像した。

王都の街から隣国で打ち上がった花火が見えるなどにわかには信じ難い話だが、シミエールが嘘を言っているとも思えない。

よほど大きな花火だったのか、それとも何か特別な魔法がかかっていたのか。

随分と昔の記憶であるが故にその時の感動がシミエールの中で勝手に大きくなっている可能性もある。

そのどれが本当のことなのかレオンにはわからなかったが、ただ一つ確実にわかることはこの話を始めてからシミエールの瞳がまるで夢を追い求める少年のようにキラキラと輝き出したということだけだった。
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