没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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入国編

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魔法具店からの帰り道、レオンはすっかり夕暮れに染まった空を眺めながら馴染みのない潮の匂いを嗅ぐ。

頭の中でクエンティンの顔が浮かび、それから先ほどの店の店主とその娘の顔が浮かぶ。

店主はクエンティンのことを「恨んでいない」と言っていたが娘の方は明らかに憤慨した様子を見せていた。

それにクエンティンの思惑も気になる。
イタズラに他国の産業を荒らすような人物ではないということはわかっている。

クエンティンがわざわざ自国を飛び出して、他国の魔法具店や魔法具師との関係を気づいたのには何かしらの理由があったのだろう。

例えば、そう。魔法具店の店主が言っていたように他国の魔法具師達の置かれた劣悪な環境の改善。

もしくは、エレオノアールという国に必要な何かが他国の魔法具にあったとか。

何となく気にはなるのだが、そこばかりは今考えてもよくわからなかった。

とにかく、ひょんなことから店主と関係を結べたことを今は喜ぶ方がいいかもしれない、とレオンは小さくホッと息を吐いた。

店主の話を聞いた後、レオンとマークは自分達とクエンティンの関係を店主に明かした。

店主の娘の目つきはさらに鋭くレオン達を睨んだが、店主の方は驚くのと同時に「これはいい機会だ」とレオン達に自分のことをクエンティンに紹介してくれと申し出たのである。

「やり手の商人に顔を売れば俺達もいい思いができる。それに、ウォルス商会もまだ他国の魔法具師達と関係を築いただけで販売店舗を拡大できていないはずだからな」


店主はクエンティンがもしも他国でも魔法具の製造・販売を本格的に行うのならば自分達が力になると申し出たのである。

正直レオンにはその店主に何ができるのか、クエンティンが彼らと手を組むのかどうかも何一つわからなかったが、紹介するくらいならばと了承した。

そして、小さな港町の魔法具店の店主エルセルフとその娘、レイニアの名前をしかと書き留めたのである。

その見返りにレオン達はエレオノアールでは見たことのない魔法具、箒の形状をした空を飛ぶ魔法具についてエルセルフに詳しく教えてもらったのである。

その魔法具の名前はブルームというらしい。
内部に組み込まれた魔石の魔力を使い「浮く」「進む」と言った簡単な魔法を使えるという。

仕組みとしては「飛行」の魔法と同じだが、レオンが興味深かったのはその形状とブルームが平民にまで広く普及した魔法具であるという点だった。


「この辺りには昔の魔法使いが箒を杖代わりにしていたという伝承があってな、そのなごりか今でも聖レイテリアやその周辺国では箒を魔法具の一種として扱うところが多いんだ」

店主の話によればブルームが箒の形をしているのもその影響だろうということだった。

レオンにとっての魔法具とは「魔法使いがより豊かになるための道具」という認識が強い。

それはエレオノアールではそうだったし、魔法具自体が高価な上に魔法使いにしか生み出せないものだからだ。

しかし、内部に魔石がありその魔石に十分に魔力が補充されていれば魔法を使えない者でも扱うことができるという魔法具のその特性は、本来魔法を使えない一般人にこそ必要なものであると今のレオンは感じていた。

実際、魔法具店に置かれていたブルームは確かに高価なものだったが平民でもお金を貯めれば手が届きそうな程度の値段であった。

エルセルフいわく、魔法を使えない貴族達も既に数本所持していて馬や船に代わる新しい乗り物として国中に認知され始めているという。


レオンはクエンティンが他国の魔法具師達にまで手を伸ばしていたということを知った衝撃よりもエレオノアールが魔法具という分野において他国に大きく遅れをとっていることに気づき、衝撃を受けたのであった。
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