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聖レイテリア神聖国編
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しおりを挟む翌朝。
叫び声ともとれる大きな声にレオンはハッと目を覚ました。
すぐに窓際に身を寄せて、顔を出しすぎないように注意しながら外の様子を伺う。
何ということはない。レオンが叫び声だと思ったそれは漁に繰り出す漁師達の活気のいい掛け声だった。
早朝から下手をすれば騒音とも取られかねないその声はどうやらこの町では普通のことらしく、怒号を上げながら一つの漁師達の集団が通り過ぎたかと思えば、その後からまた別の集団がやってくる。
とにかく、何か緊急的な事件が起きたのではないとわかりホッと胸を撫で下ろした後でレオンは魔法使い用のローブを見に纏った。
それど同時に部屋の扉がノックされる。
その後で
「レオン様、準備が整いました」
とイリファの声がしたのでレオンは部屋の扉を躊躇せずに開けた。
扉の前に立っていたのはイリファとレオン達が泊まった宿の使用人である。
「準備ができた」というのはどうやら「出立の準備ができた」ということらしく、レオンが二人の後について宿の入り口へ向かうとその前には豪華な馬車が複数台用意されていた。
前の方にある馬車にはシミエールが乗り、後方の馬車にはルイズが、真ん中の馬車にレオンが乗り込む手筈となっている。
その周囲を囲むのは船でエレオノアールから共に連れてきた馬にまたがる魔法騎士団の面々である。
その指揮をとるマークはどことなく緊張感の漂った表情で馬上から支持を飛ばしていた。
「朝から随分と騒がしい町だったが、よく寝れたかな」
不意に声をかけられレオンが振り返るとそこにはシミエールが立っていた。
魔法使いのローブとは違う、豪華な装飾が施されたローブは昨日とは別のものだ。
普段であればシミエールはそういった類の衣服を好まない。
衣服に関して執着がないというのもあり、着ている服が破けていようが気にしないような性格なのだ。
しかし、今回ばかりはそういうわけにもいかない。
エレオノアールからの正式な使者として聖レイテリア神聖国に赴くため、権威を表すといった意味で豪華な装飾の物を着せられているのだ。
それはレオンも同じで、魔法使い用のローブはレオンが普段使いしている物とはずいぶん質が違う。
高級そうな手触りの布地に金の刺繍が施されている特別製だった。
そのどれもがヒースクリフが用意させた物であり、レオンもシミエールもそういった物を半ば強引に、仕方なくといった気持ちで着ているのであった。
「私は快適に眠らせてもらったが、ゆっくりと眠れるのは昨晩が最後かもしれないね。ここから聖レイテリアまでは二、三日の旅路だと聞くし、到着を早めるためにはこの早朝からの出立もやむを得まい」
そう言いながらシミエールは自身の腰に手を当てて後ろに大きく逸らす。
「快適に眠れた」と口では言っているが、旅というのはそれなりに体力を使う物なのだろう。
特にシミエールは中々に年を重ねている。まだ若いレオン達とは勝手が違ったようだ。
「レオン君、腰の痛みを取る魔法はないかね。恥ずかしい話、長年の運動不足が祟ってね。柔らかすぎるベッドだとどうにも腰が痛いのだよ」
シミエールは腰を叩きながら冗談混じりにそう言い、レオンは苦笑した。
「残念ながらシミエール様、僕が知る魔法にそう言ったものはありません。いつか開発できるように精進します」
レオンがそう返すとシミエールはそれを冗談と受け取ったのかそれとも本気にしたのか
「おお、それはいい。それができれば魔法はさらに素晴らしい技術だと世に広められるだろう」
と大袈裟にはしゃいで見せるのだった。
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