【完結】鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~

はづも

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3章 新しい関係

5 絶好調の男と、挑んでは散っていく学生たち

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 その後、両者の合意もあったということで、婚約の話はとんとん拍子に進んだ。
 多くの者が「おそらくそうなるだろう」とは思っていたものの、正式に婚約が結ばれたことが判明すると、学院の者たちは男女問わず荒れた。

「あ、アーロン様が、婚約……!?」
「あああああ! 妖精姫があいつに持っていかれたあああああ!」
「グラセス嬢かコレットちゃんといい仲なんじゃなかったのか!?」

 女子は、憧れのアーロン様がついに手の届かない存在になってしまったことに。
 男子は、妖精姫が結局は「公爵家のあの男」に持っていかれたことに。
 ……一部の者は、マリアベルとクラリス、コレットの女子同士の関係に夢を見ていたのに、打ち砕かれたことに。
 アーロンとマリアベルに想いを寄せていた者たち……と、女子同士の組み合わせに盛り上がっていた者たちは、夢の終わりを突き付けられていた。


 学院入学後、多くの男子生徒にアピールされていたマリアベルであったが、婚約発表後は流石にそれもほとんどなくなった。
 元からマリアベルにベタ惚れだったアーロンが、正式に婚約者となったのだ。
 マリアベルに下手なことをすれば、彼の怒りに触れることになる。
 これまではあくまでも幼馴染だったから、アーロンは他の男子に口を出せる立場ではなかった。
 でも、もう違う。自分の婚約者に近づくな、とはっきり主張できるようになったのである。
 名門公爵家の嫡男……それも、婚約者を溺愛する男を敵にまわしてまで女子を口説こうとするほど、学院メンバーの頭もゆるくはなかった。
 以前なら、昼休みの始めには男子生徒に囲まれていたマリアベルであったが、婚約発表後はそれもない。アーロンは、彼女に群がる虫を追い払うことができたと一安心したものだった。
 だが、マリアベルに近づかなくなった代わりなのか――。

「勝者、アーロン・アークライト!」

 審判を務める男の声を聞き届け、アーロンは木剣をおろした。
 今の彼に、いつものような柔らかさはない。
 はちみつ色の双眸は、鋭く、冷たく。
 口元だって、笑顔なんてたたえてはいない。
 ぴりりと張り詰め、周囲の気温が下がりそうなその雰囲気は、武人としての彼が醸し出すものだ。

 アーロンの現在地は、学内の武術大会などでも使われる、王立学院の競技場。
 少し高い位置に客席もあり、今もそれなりの人数が観戦に訪れていた。
 剣の試合でアーロンに負けた男子生徒は、地面に四肢をついた状態で、「くそっ!」と悔し気に拳を振り下ろした。
 
 マリアベルとの婚約を発表したあとから、アーロンは男子生徒に試合を申し込まれることが増えた。
 彼の家柄や剣の腕前から、前々からチャレンジされることはあったのだが、最近は数が段違いだ。
 妖精姫への憧れを清算したい者、せめて剣技だけでもアーロンに勝ちたい者、VSアーロンブーム状態のこの機会に乗じて一戦交えたい者。
 理由は人それぞれだが、大半がマリアベル絡みだ。
 今日も軽々と一人叩きのめしたアーロンは、息を乱すこともなく、ゆっくりと客席を見回していた。

「……ベル!」

 客席に愛しい人の姿を見つけたアーロンは、先ほどまでのぴりっとした雰囲気が嘘のように、ぱあっと表情を輝かせる。
 都合のつく日は、マリアベルが試合を見に来てくれることもあるのだ。
 ちなみに、今日は試合終了後に気が付いたが、彼女がいると先にわかっている場合、アーロンの気迫はとんでもないことになる。
 後からわかったパターンだったから、今日の対戦相手はラッキーだ。
 
「勝ったよ!」

 アーロンが手を振ると、マリアベルもひらひらと手を振り返してくれた。

――このやりとり、婚約者っぽい!

 自分に挑んできた者に勝った男と、そんな男に、客席からにこやかに手を振る女性。
 婚約者っぽさあふれるやりとりに、アーロンは幸福感から口元を緩ませた。

 これらの試合でアーロンが勝とうが負けようが、二人の婚約にはなんの支障もない。
 ただただ、アーロンに妖精姫マリアベルをとられた男たちが、己の想いを清算するために挑んできているだけだ。
 だから、もしもアーロンが負けてしまっても、特に問題はないのだが……。
 当然、彼は負ける気などなかったし、実際、全勝していた。
 腕の立つものが繰り返し挑んできたりもしているが、やはり快勝。
 長年の片思いが実を結び、想い人との婚約を実現させたアーロン。あらゆる面で絶好調であった。

 まだ、本当の意味でマリアベルに気持ちが伝わっている様子はないが、婚約を拒まれることも、やっぱり解消したいと言われることもなく。
 アーロンは、これから彼女との仲をもっと深め、自分の好意も理解してもらうつもりで、気分良く過ごしていた。
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