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3章 新しい関係
6 あなたに報いる方法
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一方、客席からアーロンに手を振るマリアベルは。
「やっぱりお強いわ、アーロン様。魔法なしで戦ったら私が完敗するわね!」
「なによあの男。ベルお姉さまと婚約したからって、これみよがしに……」
「あはは……」
嬉しそうに笑いながら、彼の腕前に感心していた。
……マリアベルも戦闘タイプだから、強さを重視するところが、ちょっとあるのだ。
マリアベルの右隣に座るクラリスは、面白くなさそうに、ふんっとそっぽを向いた。
そんな二人の言葉を聞きながら苦笑するのが、マリアベルの左に座るコレットだ。
――マリアベル様は、魔法ありなら勝てそうなんですか……?
――クラリス様は、まだお二人の婚約を認めていらっしゃらないんですね……。
と、脳内で伯爵令嬢二人にツッコミを入れている。
コレットもアーロンの試合を見に来ることがあるが、武の名門の出というだけあって、やはりかなり強い。
この学院に、剣技で彼に勝てる者はいないのではと思う。
しかしその婚約者のマリアベルといえば、魔法ありなら勝機があるともとれる発言をするものだから、恐ろしい。
剣の名手と、魔法の名手。共闘の機会でもあったら、戦闘力が高すぎて大変なことになりそうだ。
二人がともに戦う姿を想像し、コレットは「最強夫婦なのでは……?」と思うなどした。
マリアベルとアーロンの婚約から、少しの時が経過していた。
ゆくゆくは学院の寮に入る予定だったマリアベルは、マニフィカ家からの通学を継続している。
「婚約者なんだから、遠慮する必要はないよ」
「今まで守ってきた土地から、無理に離れる必要はないんだ」
アーロンがそう言ってくれたからだ。
マニフィカ領の守備体制は整ってきたものの、守護神状態だったマリアベルが完全に離れることに不安があるのは事実だ。
以前なら、アーロンにそこまでさせるわけにはいかない、と寮に入っていただろうが、今は違う。
婚約者という肩書のおかげか、彼の気遣いを受け入れることができるようになっていた。
昼食だってそうだ。
最初は、婚約者となった彼に「これからは一緒に学食に行く?」と聞かれた。
もちろん、費用はアークライト家持ちだ。
「婚約したんだから、未来の妻の食事代を出すぐらいは当然だよ」
アーロンは、いい笑顔でそう語っていた。
しかし、友人たちとのお弁当タイムを気に入っていたマリアベルは、今から学食に変更するのは気が引けて。
伯爵家のクラリスならともかく、平民のコレットが学食を利用するのは難しいからだ。
その旨を伝えると、
「なら、うちできみの分もお弁当を用意するのはどうかな? どうせ僕の分を作っているのだから、それが二人分になったところで、なんの問題もないよ」
と返された。
少し悩んでから、マリアベルは、二日に一度はアークライト家のお世話になることにした。
毎日お願いします、と言わなかったのは、マリアベル自身、食材の調達や調理がそれなりに好きだったからである。
使用人は執事一人の貧乏伯爵家育ち、マリアベル。必要に駆られておこなっているうちに、家事や炊事が好きになっていた。
公爵家の妻としては必要のないスキルかもしれないが、使用人の気持ちや家事炊事の手順がなんとなくわかるのは、無駄なことではない……気がしている。
学校帰りの馬車の中。
アーロンとともに揺られながら、マリアベルはぼうっと窓の外を眺めた。
アークライト家から正式に婚約の話が来たときは、どうしたものかと思った。
なんとかして、アーロンのほうから取り下げてもらわないといけないのでは、とまで考えたほどだ。
けれど、実際に婚約をしてみれば、生活も気持ちも、変わったような、変わらないような。
アーロンもそうだ。婚約者だから、と色々と融通してくれるようになったが、彼は以前からそういうところがあったので、変わったけど変わっていない。
アーロンは、昔から本当によくしてくれる。
貰い手のなかったマリアベルを、妻にしてくれるとまで言うのだ。
マリアベルは、そんな彼に応えたいと思うようになっていた。
しかし、魔法の力以外で、彼やアークライト家に報いる方法が、思いつかない。
悩んだマリアベルは、本人に聞くのが速い! という考えに至る。
「……アーロン様」
「ん? なんだい、ベル」
今日は珍しく静かだったマリアベルが急に呼びかけても、彼はにこやかに対応してくれる。
ああ、本当にいい人だ、とマリアベルは思った。
「私はどうしたら、アーロン様のご厚意に報いることができるのでしょうか?」
「えっ……。報いる……はまあ、おいておくとして。僕としては、こうして二人きりで登下校できて、婚約もしてもらえた時点で、色々と叶ってるんだけど……。……欲を言えば、好きになって欲しいな、僕のことを」
「もう好きですが……?」
「んっ……んんっ……。アリガトウ……」
好き、の言葉にアーロンが頬を染め、口元を抑える。
手で隠れてはいるが、彼はかなりにやついていた。
にやつきが止まらないものの、彼は理解している。マリアベルの言う「好き」は、自分が望むものとはちょっと違うことを。
まあ、どんな種類であれ、好かれていないよりはずっとマシなのであるが。
アーロンの望みが、「マリアベルに好きになってもらうこと」なのであれば、それはもう達成されている。
マリアベルは、アーロンのことが好きだ。間違いない。信頼も尊敬もしている。
けれど、これでは彼の望みを叶えたことにはならないような気もして。
マリアベルは、うーん、と首を傾げた。
「やっぱりお強いわ、アーロン様。魔法なしで戦ったら私が完敗するわね!」
「なによあの男。ベルお姉さまと婚約したからって、これみよがしに……」
「あはは……」
嬉しそうに笑いながら、彼の腕前に感心していた。
……マリアベルも戦闘タイプだから、強さを重視するところが、ちょっとあるのだ。
マリアベルの右隣に座るクラリスは、面白くなさそうに、ふんっとそっぽを向いた。
そんな二人の言葉を聞きながら苦笑するのが、マリアベルの左に座るコレットだ。
――マリアベル様は、魔法ありなら勝てそうなんですか……?
――クラリス様は、まだお二人の婚約を認めていらっしゃらないんですね……。
と、脳内で伯爵令嬢二人にツッコミを入れている。
コレットもアーロンの試合を見に来ることがあるが、武の名門の出というだけあって、やはりかなり強い。
この学院に、剣技で彼に勝てる者はいないのではと思う。
しかしその婚約者のマリアベルといえば、魔法ありなら勝機があるともとれる発言をするものだから、恐ろしい。
剣の名手と、魔法の名手。共闘の機会でもあったら、戦闘力が高すぎて大変なことになりそうだ。
二人がともに戦う姿を想像し、コレットは「最強夫婦なのでは……?」と思うなどした。
マリアベルとアーロンの婚約から、少しの時が経過していた。
ゆくゆくは学院の寮に入る予定だったマリアベルは、マニフィカ家からの通学を継続している。
「婚約者なんだから、遠慮する必要はないよ」
「今まで守ってきた土地から、無理に離れる必要はないんだ」
アーロンがそう言ってくれたからだ。
マニフィカ領の守備体制は整ってきたものの、守護神状態だったマリアベルが完全に離れることに不安があるのは事実だ。
以前なら、アーロンにそこまでさせるわけにはいかない、と寮に入っていただろうが、今は違う。
婚約者という肩書のおかげか、彼の気遣いを受け入れることができるようになっていた。
昼食だってそうだ。
最初は、婚約者となった彼に「これからは一緒に学食に行く?」と聞かれた。
もちろん、費用はアークライト家持ちだ。
「婚約したんだから、未来の妻の食事代を出すぐらいは当然だよ」
アーロンは、いい笑顔でそう語っていた。
しかし、友人たちとのお弁当タイムを気に入っていたマリアベルは、今から学食に変更するのは気が引けて。
伯爵家のクラリスならともかく、平民のコレットが学食を利用するのは難しいからだ。
その旨を伝えると、
「なら、うちできみの分もお弁当を用意するのはどうかな? どうせ僕の分を作っているのだから、それが二人分になったところで、なんの問題もないよ」
と返された。
少し悩んでから、マリアベルは、二日に一度はアークライト家のお世話になることにした。
毎日お願いします、と言わなかったのは、マリアベル自身、食材の調達や調理がそれなりに好きだったからである。
使用人は執事一人の貧乏伯爵家育ち、マリアベル。必要に駆られておこなっているうちに、家事や炊事が好きになっていた。
公爵家の妻としては必要のないスキルかもしれないが、使用人の気持ちや家事炊事の手順がなんとなくわかるのは、無駄なことではない……気がしている。
学校帰りの馬車の中。
アーロンとともに揺られながら、マリアベルはぼうっと窓の外を眺めた。
アークライト家から正式に婚約の話が来たときは、どうしたものかと思った。
なんとかして、アーロンのほうから取り下げてもらわないといけないのでは、とまで考えたほどだ。
けれど、実際に婚約をしてみれば、生活も気持ちも、変わったような、変わらないような。
アーロンもそうだ。婚約者だから、と色々と融通してくれるようになったが、彼は以前からそういうところがあったので、変わったけど変わっていない。
アーロンは、昔から本当によくしてくれる。
貰い手のなかったマリアベルを、妻にしてくれるとまで言うのだ。
マリアベルは、そんな彼に応えたいと思うようになっていた。
しかし、魔法の力以外で、彼やアークライト家に報いる方法が、思いつかない。
悩んだマリアベルは、本人に聞くのが速い! という考えに至る。
「……アーロン様」
「ん? なんだい、ベル」
今日は珍しく静かだったマリアベルが急に呼びかけても、彼はにこやかに対応してくれる。
ああ、本当にいい人だ、とマリアベルは思った。
「私はどうしたら、アーロン様のご厚意に報いることができるのでしょうか?」
「えっ……。報いる……はまあ、おいておくとして。僕としては、こうして二人きりで登下校できて、婚約もしてもらえた時点で、色々と叶ってるんだけど……。……欲を言えば、好きになって欲しいな、僕のことを」
「もう好きですが……?」
「んっ……んんっ……。アリガトウ……」
好き、の言葉にアーロンが頬を染め、口元を抑える。
手で隠れてはいるが、彼はかなりにやついていた。
にやつきが止まらないものの、彼は理解している。マリアベルの言う「好き」は、自分が望むものとはちょっと違うことを。
まあ、どんな種類であれ、好かれていないよりはずっとマシなのであるが。
アーロンの望みが、「マリアベルに好きになってもらうこと」なのであれば、それはもう達成されている。
マリアベルは、アーロンのことが好きだ。間違いない。信頼も尊敬もしている。
けれど、これでは彼の望みを叶えたことにはならないような気もして。
マリアベルは、うーん、と首を傾げた。
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