【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう

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♯1

7. 戸惑いと流れる夜

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ホテルに着き、部屋のドアが閉まる音を聞く。後戻りはできない。

次の瞬間、桐生さんはオレを壁に押し付けた。

俺より少し背が高い、伊勢と同じくらいだろうか。


「んっ……!」


熱を帯びた口づけが唇を塞ぎ、深く、ねっとりとした熱が喉の奥まで流れ込んでくる。ウイスキーと香水の匂いが、オレの意識を痺れさせる。

ベッドに押し倒される。シーツの冷たさも、一瞬で桐生さんの体温に飲み込まれた。


ふと、視線が合う。


桐生さんの瞳に、オレが抱えるすべてが映し出されている気がした。


「オレは、伊勢のことが、好きなんです」


言った瞬間、胸の奥がふわっと軽くなるのを感じた。

恥ずかしさ、恐怖、そしてなにより、ずっと誰にも言えなかった孤独感。それが今、この熱の中で、桐生さんに受け止められた気がして、余計に鼓動が早くなる。


「友達としても、アイドルのメンバーとしても、大事で必要なんだ。でも、好きだって気持ちは止められなくて。湊さんが現れるまでは、隠そうと決めてたんです。静かに思っていればいい、近くにいられるだけでいいって」

言葉が止まらなかった。

「ずっと自分の心に押し込めて、笑ってやり過ごしてきたんです。でも、本当は、すごく苦しかった」


桐生さんは驚きもせず、包み込むように柔らかく微笑んだ。


「気持ちを言葉にできただけで、少しは楽になったんじゃない?」


その一言に、張りつめていた心がふっと緩み、涙が出そうになる。誰かにこの苦しみを共有してもらえただけで、こんなに心が落ち着くのか。


「湊さんのことも、好きだし、尊敬しています。それに、伊勢が幸せそうに笑うの、本当に嬉しい。嘘じゃないんです」

「そうだね。彼らはとても、いい関係なんだろう」


桐生さんはオレの視線をまっすぐに受け止め、そっと囁いた。


「君が、伊勢を好きなのは分かっていたよ。〈Dulcis〉のライブを見に行ったとき、伊勢を見る視線も歌声も、十分伝わったよ」


今年の夏、東京ドームのライブに招待したときだろう。楽屋に挨拶をしてくれた。たぶん、それがオレと桐生さんの初対面だった。


「自分の気持ちを、大事にしていいんだよ」


その眼差しは、演技ではない。

純粋な熱と優しさが混ざり合っていて、胸の奥に溶けていく。まるで、長く一人で立っていたオレを、初めて誰かが強く抱きとめてくれたような、圧倒的な安心感があった。


「こんなに素直に、抱きたいと思うのは久しぶりだな」


耳元に落ちる囁きに、心が焼き尽くされる。


「……桐生さん」

「どうせなら、下の名前が嬉しいな」

「しょ、翔さん」

「いいね、理久」


耳元ではじめて下の名前で呼ばれ、ゾクっとする。

桐生さんは、オレの頬を包む手をそのままに、真剣な眼差しで囁いた。


「理久が伊勢を好きなのは分かっている。そして、俺に抱かれることは、理久の意思じゃない。本意でないことも、理解している」


桐生さんの手が、オレの震える体を優しく抱きしめた。その手の力が、強烈な安心感をもたらす。


「伊勢に届かない、どうにもできない熱を抱えているだろう? 俺は役者だ。君が今、この熱に溺れることで、伊勢への痛みを一時的に忘れられるなら、俺がその役を演じよう」


彼は優しく、だが有無を言わせない力でオレを抱きしめた。

素肌を合わせることが、こんなに暖かいなんて。


「流されて抱かれるのも、いいんじゃないか?」


その言葉は、まるで悪魔の囁きだった。叶わない想いを、この熱に乗せてしまいたかった。


夜は深く、長かった。新しい熱が体に深く刻み込まれ、もう後戻りできないことだけを思い知った。

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