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28. さよなら初恋
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夜の事務所の屋上は、意外なほど静かだった。
下の通りを走る車の音が、遠くでかすかに響くだけ。金網越しに見えるビルの灯りが、都会の夜を点で描いている。
伊勢は柵のそばまで歩き、両手をポケットに入れたまま夜景を見下ろしていた。その背中を追って、オレも隣に立つ。
「やっぱり寒いね」
「ちょっと待ってろよ」
伊勢は屋上の隅にある自動販売機で飲み物を買ってきた。渡されたのは、ホットレモンだった。
「うわ、やっぱりここのホットレモンはすっぱい!」
「デビュー前からの思い出の味だよな」
オレたちは、ペットボトルの温かさを両手に感じながら、柵に寄りかかり夜の街を見下ろした。
「心配かけて、ごめん」
「片倉が残ってくれてよかった。本当は少し不安だったから」
伊勢は一口はちみつレモンを飲み、オレの目を見ずにポツリとつぶやいた。 そこには、レッスン室で見せた飄々とした態度はなく、ひとりの友人としての穏やかな表情があった。
「相談があるんだ。まだ、湊さんにも蒼真にも、話していないこと」
「なに?あらたまって、伊勢がオレに相談なんて」
「TOMARIGIに、新しいメンバーを入れようと思う」
その言葉に、オレの呼吸が一瞬止まった。
「え……、やっぱりオレは、いらないってこと?」
自然と口に出てしまった問い。 伊勢は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに首を振る。
「そうじゃない。むしろ逆だ」
その言葉は、夜風に消されないように低く、まっすぐに届く。
「TOMARIGIには片倉が絶対必要だ」
胸に落ちたその言葉に、驚きと安心が同時に押し寄せる。
必要とされる――その事実が、こんなにも力になるのかと、初めて知った。
「ただ、今回のことは、未来を考えるきっかけになった」
「未来?」
「俺たちはここまで、まっしぐらに走ってきた。でも、この先はやみくもに走るだけじゃダメだ。新しい風を入れる、転換期が必要だと思う」
「新しい風か」
「片倉が変わったように、俺もTOMARIGIも、もっと変わっていく。成長、進化、そんな感じ。新メンバーは、そういう意味だ。誰かを切るためじゃない」
オレは静かに聞いた。
伊勢の言葉の中に、リーダーとしての覚悟と、仲間への信頼が混ざっていた。 同時に、自分がこのグループの未来にどう関わるべきかを、はっきりと自覚させられる。
こんな男だかは、惹かれたんだよな。
――胸の奥で抱えていた想いは整理された。一緒に戦う仲間として、この人の隣に立ちたい。
安堵の入り混じる感覚が、夜風に溶けていく。
「わかった、オレは伊勢に賛成だ」
「本当に?」
「伊勢優を信頼してるから。これからも、ずっと」
「ああ、その信頼は裏切らないよ」
伊勢は月を見上げながらうなずいた。その横顔を見ていると、胸の奥が温かくなる。
「明日のファイナル、ぶちかまそう!」
「うん!」
ビルの谷間に見える東京の灯りは、ステージから眺める観客席のようだ。無数のペンライトがキラキラ輝く。
――伊勢の隣でアイドルとして輝く。
下の通りを走る車の音が、遠くでかすかに響くだけ。金網越しに見えるビルの灯りが、都会の夜を点で描いている。
伊勢は柵のそばまで歩き、両手をポケットに入れたまま夜景を見下ろしていた。その背中を追って、オレも隣に立つ。
「やっぱり寒いね」
「ちょっと待ってろよ」
伊勢は屋上の隅にある自動販売機で飲み物を買ってきた。渡されたのは、ホットレモンだった。
「うわ、やっぱりここのホットレモンはすっぱい!」
「デビュー前からの思い出の味だよな」
オレたちは、ペットボトルの温かさを両手に感じながら、柵に寄りかかり夜の街を見下ろした。
「心配かけて、ごめん」
「片倉が残ってくれてよかった。本当は少し不安だったから」
伊勢は一口はちみつレモンを飲み、オレの目を見ずにポツリとつぶやいた。 そこには、レッスン室で見せた飄々とした態度はなく、ひとりの友人としての穏やかな表情があった。
「相談があるんだ。まだ、湊さんにも蒼真にも、話していないこと」
「なに?あらたまって、伊勢がオレに相談なんて」
「TOMARIGIに、新しいメンバーを入れようと思う」
その言葉に、オレの呼吸が一瞬止まった。
「え……、やっぱりオレは、いらないってこと?」
自然と口に出てしまった問い。 伊勢は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに首を振る。
「そうじゃない。むしろ逆だ」
その言葉は、夜風に消されないように低く、まっすぐに届く。
「TOMARIGIには片倉が絶対必要だ」
胸に落ちたその言葉に、驚きと安心が同時に押し寄せる。
必要とされる――その事実が、こんなにも力になるのかと、初めて知った。
「ただ、今回のことは、未来を考えるきっかけになった」
「未来?」
「俺たちはここまで、まっしぐらに走ってきた。でも、この先はやみくもに走るだけじゃダメだ。新しい風を入れる、転換期が必要だと思う」
「新しい風か」
「片倉が変わったように、俺もTOMARIGIも、もっと変わっていく。成長、進化、そんな感じ。新メンバーは、そういう意味だ。誰かを切るためじゃない」
オレは静かに聞いた。
伊勢の言葉の中に、リーダーとしての覚悟と、仲間への信頼が混ざっていた。 同時に、自分がこのグループの未来にどう関わるべきかを、はっきりと自覚させられる。
こんな男だかは、惹かれたんだよな。
――胸の奥で抱えていた想いは整理された。一緒に戦う仲間として、この人の隣に立ちたい。
安堵の入り混じる感覚が、夜風に溶けていく。
「わかった、オレは伊勢に賛成だ」
「本当に?」
「伊勢優を信頼してるから。これからも、ずっと」
「ああ、その信頼は裏切らないよ」
伊勢は月を見上げながらうなずいた。その横顔を見ていると、胸の奥が温かくなる。
「明日のファイナル、ぶちかまそう!」
「うん!」
ビルの谷間に見える東京の灯りは、ステージから眺める観客席のようだ。無数のペンライトがキラキラ輝く。
――伊勢の隣でアイドルとして輝く。
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