【完結】ドジな新人マネージャー♂に振り回される、クールなアイドルの胸キュン現場 <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう

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13. 酔っちゃいました…

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駅から少し離れた、隠れ家のような小さなバーだった。
古びた木製の扉を開けると、薄暗い店内には心地よいジャズが静かに流れている。

まだ夕方だからか、客はまばらだ。


「いらっしゃいませ」


桐生さんはスタッフに笑顔で挨拶を交わすと、慣れた様子でカウンターへ腰を下ろした。


「さてと、何を飲む?」

「えっと、あまり詳しくなくて、弱めのカクテルでオススメがあれば」

「うん、わかったよ」


桐生さんは、バーテンダーに軽く合図を送った。


やがて目の前に置かれたのは、透き通るような瑠璃色のカクテル。


「チャイナブルー。君に似合うと思って」

「キレイな色ですね」


グラスの中には、青い海のように澄んだ液体が揺れ、照明を受けてきらめく。


――伊勢くんの色だ。


伊勢くんのメンバーカラー、胸の奥が、きゅっと締めつけられた。


「乾杯」


そっとグラスを傾ける。

ライチの甘い香りと、グレープフルーツの爽やかな酸味。
炭酸のシュワシュワが心地よく喉を通り過ぎていく。


「人事異動だって?伊勢くん、寂しがってたよ」

「え……、まさか。僕なんて、ミスして怒られてばかりでしたよ。新しいマネージャーは、経験豊富で頼りになる方だと聞いてます」

「いやいや、違う違う!」


桐生さんは肩をすくめ、いたずらっぽく笑った。


「キスシーンの撮影日、覚えてる?」

「はい」

「あの日の夜、すっごい怒られたからね、伊勢くんに」

「え?」

「悪い虫から遠ざけられたのはいいけど、自分まで会えなくなって、かなり落ち込んでたよ。まあ、ドラマの役作りにはぴったりな状況だけどね」

「まさか……」


アルコールが回ったのか、顔が熱くなるのを感じた。


「キミ、本当に可愛いなぁ」


桐生さんは、熱を帯びた僕の頬を優しく撫でた。突然のことに、僕は思わず息をのんだ。


「こんな風に二人で飲んでたら、また伊勢くんに怒られてしまうな」

「そ、そんなこと……!」


緊張を紛らわすように、僕はグラスを一気にあおってしまった。


「明日でドラマはクランクアップ」

「そうなんですか。あっという間ですね」

「そう、しかも、ベッドシーンの撮影」

「べ、ベッド……!?」


思わず声が裏返り、グラスを持つ手が小さく震える。桐生さんが、くすっと笑みを漏らした。


「顔まっ赤だよ。君、そういう話には弱いんだね」


耳まで熱くなり、視線を落としてしまう。

頭の中に浮かぶのは、カメラの前で演じる伊勢くんの姿。
その相手役の顔が自分に重なってしまい、慌てて首を振った。


「伊勢くんは、誰を思いながら、演技をするのかな?」

「だ、誰って?」

「答えは、君が一番わかってるんじゃないかな」


その言葉が、僕の思考を完全に停止させた。

視界がぐにゃりと歪む。目の前の桐生さんが、二人、三人と増えていくようだ。


「大丈夫?」

「すみません……僕、お酒弱いんです。ちょっと、酔ってしまったかもしれません」

「そんな可愛いこと言うと、連れて帰っちゃうよ?」


ああ、だめだ。視線が定まらない。


「伊勢くんに見せてやりたいね。彼も怒った顔は可愛いからな」


桐生さんは苦笑しながら、僕のスマホを手にした。そして――


「もしもし、伊勢くん?」


伊勢くん?


「君の大事な人が、ここで酔いつぶれてるけど、どうする?早く来ないと、食べちゃおうかなぁ」


遠くで伊勢くんの声が聞こえた気がする。また、ぼくのミスを怒っているのかも。それとも、呆れているのかなあ。


伊勢くんに、会いたいなぁ……。


僕の意識は、そこでふっと途切れた。
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