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14. 会いたい衝動 【伊勢の語り】
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≪注意 伊勢の視点です≫
今日の撮影は、どうにも集中できなかった。
何度も「カット!」がかかり、その度に「すみません」と返事をするが、心はここにない。
「明日はクランクアップ。それに、大事なシーンだ。ナーバスになっているんだろう」
監督は怒るでもなく、諭すように言う。
大事なシーン?桐生さんとのベッドシーンか。まったく考えてなかったな。心ない演技なら、どうにでもできる。上手くやれる自信はあった。
「俺がリードしてあげるから、安心してよ」
桐生さんは、いつも通り飄々としている。確かに、大人の余裕がいつもあり、男から見てもカッコいいと思える。尊敬している、兄のような存在。
だけどーー。
頭の中に、桐生さんの囁きが蘇る。
『俺は、狙った獲物は逃がさないよ。絶対にね』
湊さんを見て、そう言った。それも、ドラマの本場中、アドリブで俺を挑発してきた。
焦った。焦ったところに、まさかの、人事異動だ。
あの日、湊がマネージャーを辞めて広報部に戻り、当たり前だった存在が、日常からすっぽりと消えてしまった。
『伊勢が冷たくしたから、湊さん、嫌になったのかもよ?』
片倉がポツリと言ったのが、胸に突き刺さった。
―そうかもしれない。いや、そんなはずはない。
日が経つにつれ、寂しさは苛立ちに変わる。
――マネージャーでなくても、ドラマの様子を見に来るとか、連絡するとか、何かあってもいいじゃないか。
撮影が終わり、俺はなんとなく事務所へ戻る。気持ちを抑えきれず、広報部のフロアをのぞいた。
電話のベルや、プリンタの音、キーボードのカタカタという音がオフィスに静かに響く。
「すみません……、湊さん、いますか?」
近くにいた若いスタッフに声をかけると、
「え、TOMARIGIの伊勢くん…!」
その声に、周辺の視線が一気に集まる。芸能事務所で働いているんだ。珍しくもないだろうに。
小さくざわめきが起こり、作業を中断してチラチラとこちらを見ている。視線を感じながら湊の席を探すが、誰もいない。
「湊さん、不在ですか?」
「今日は外出で直帰するって、さっき連絡ありました」
「そうですか、ありがとうございます」
せっかく来たのに、会えないなんて。それに、会って何を言うんだろうか。
『明日のベッドシーン、練習させて欲しい』
なんて、言えたらいいのに。バカバカしい質問に自嘲する。
すると、ジャケットのポケットでスマホが揺れる。
桐生さんからの着信だ。数時間前まで、スタジオにいたのに、何の用だろうか。
「はい、もしもし」
『伊勢くん? 悪いけど今すぐ来てくれない?』
「え?」
『君の大事な人が、ここで酔いつぶれてるから』
俺の大事な人?
そんなの、たったりひとりしかいない。頭の中で怒りと嫉妬が一気に爆発する。
「…どこですか?」
『この前、飲んだお店だよ。恵比寿の路地裏にあるバーにいる」
桐生さんの行きつけの店だ。
「すぐ行くから、湊に手を出すなよ!」
先輩だというのも忘れ、思わず叫んでしまった。けれど、愉しげな声が返ってきた。
『早く来ないと、食べちゃおっかなあ』
俺はすぐに電話を切ると、反射的に走り出す。
雑踏をかき分け、路地裏へ。
心臓がドクドクと鳴り、怒り、焦り、不安が入り混じる。
今日の撮影は、どうにも集中できなかった。
何度も「カット!」がかかり、その度に「すみません」と返事をするが、心はここにない。
「明日はクランクアップ。それに、大事なシーンだ。ナーバスになっているんだろう」
監督は怒るでもなく、諭すように言う。
大事なシーン?桐生さんとのベッドシーンか。まったく考えてなかったな。心ない演技なら、どうにでもできる。上手くやれる自信はあった。
「俺がリードしてあげるから、安心してよ」
桐生さんは、いつも通り飄々としている。確かに、大人の余裕がいつもあり、男から見てもカッコいいと思える。尊敬している、兄のような存在。
だけどーー。
頭の中に、桐生さんの囁きが蘇る。
『俺は、狙った獲物は逃がさないよ。絶対にね』
湊さんを見て、そう言った。それも、ドラマの本場中、アドリブで俺を挑発してきた。
焦った。焦ったところに、まさかの、人事異動だ。
あの日、湊がマネージャーを辞めて広報部に戻り、当たり前だった存在が、日常からすっぽりと消えてしまった。
『伊勢が冷たくしたから、湊さん、嫌になったのかもよ?』
片倉がポツリと言ったのが、胸に突き刺さった。
―そうかもしれない。いや、そんなはずはない。
日が経つにつれ、寂しさは苛立ちに変わる。
――マネージャーでなくても、ドラマの様子を見に来るとか、連絡するとか、何かあってもいいじゃないか。
撮影が終わり、俺はなんとなく事務所へ戻る。気持ちを抑えきれず、広報部のフロアをのぞいた。
電話のベルや、プリンタの音、キーボードのカタカタという音がオフィスに静かに響く。
「すみません……、湊さん、いますか?」
近くにいた若いスタッフに声をかけると、
「え、TOMARIGIの伊勢くん…!」
その声に、周辺の視線が一気に集まる。芸能事務所で働いているんだ。珍しくもないだろうに。
小さくざわめきが起こり、作業を中断してチラチラとこちらを見ている。視線を感じながら湊の席を探すが、誰もいない。
「湊さん、不在ですか?」
「今日は外出で直帰するって、さっき連絡ありました」
「そうですか、ありがとうございます」
せっかく来たのに、会えないなんて。それに、会って何を言うんだろうか。
『明日のベッドシーン、練習させて欲しい』
なんて、言えたらいいのに。バカバカしい質問に自嘲する。
すると、ジャケットのポケットでスマホが揺れる。
桐生さんからの着信だ。数時間前まで、スタジオにいたのに、何の用だろうか。
「はい、もしもし」
『伊勢くん? 悪いけど今すぐ来てくれない?』
「え?」
『君の大事な人が、ここで酔いつぶれてるから』
俺の大事な人?
そんなの、たったりひとりしかいない。頭の中で怒りと嫉妬が一気に爆発する。
「…どこですか?」
『この前、飲んだお店だよ。恵比寿の路地裏にあるバーにいる」
桐生さんの行きつけの店だ。
「すぐ行くから、湊に手を出すなよ!」
先輩だというのも忘れ、思わず叫んでしまった。けれど、愉しげな声が返ってきた。
『早く来ないと、食べちゃおっかなあ』
俺はすぐに電話を切ると、反射的に走り出す。
雑踏をかき分け、路地裏へ。
心臓がドクドクと鳴り、怒り、焦り、不安が入り混じる。
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