16 / 20
#1
15. 会いたかった… 【伊勢の語り】
しおりを挟む
タクシーを降りてすぐ、荒い息を整えることも忘れ、古びた木製の扉を開けた。
薄暗い琥珀色の照明、微かにジャズが流れる店内。広くはない店だ。すぐにカウンターにいる桐生さんを見つけた。
そして、その桐生さんと肩をピタリと合わせている、小柄な後ろ姿。
「やぁ、早かったね」
声をかける前に、桐生さんは振り返り微笑んだ。
「ほえ?あれ、伊勢くんだぁ」
湊さんは顔を紅く染めている。
グラスの中身はほとんど空だ。酒に弱いことは知っていた。ビール一杯で酔うと言っていたから、打ち上げや食事の場で、湊さんが酒を飲むことはなかった。
「わぁい、本物だ!」
ケラケラと笑い出した。
「だいぶ酔ってるな。桐生さん、湊さんに変なこと、してないでしょうね」
俺は低い声で桐生さんに詰め寄った。桐生さんは肩をすくめ、わざとらしいほどに無邪気に笑う。
「チャイナブルーと、薄いハイボールを飲ませただけで、もうトロントロンだよ。かわいいね、彼。伊勢くんが来るまでガマンできたこと、褒めて欲しいよ」
やれやれと桐生さんは苦笑する。
噂は本当で、この人は年下のかわいい男が好きなんだよな。だから、湊さんが好みだということは、すぐに気づいた。
「伊勢くぅん」
聞いたこともないような甘えた声に、ハッとする。その声も視線も、俺の理性を刺激する。
「僕、ずっと会いたかったよ」
酒に弱いから、すぐ酔いつぶると思っていたが。実際は少し違った。甘えん坊化するらしい。
まるで、またたびで酔った猫のように、ゴロゴロと喉を鳴らす。
「湊さん、大丈夫?」
愛らしい表情を先に見せたのが、桐生さんだなんて。解せないな。
「伊勢くん、僕、お仕事ちゃんとできなくて、怒らせてばかりで、でも、嫌いにならないで……」
そう言って、湊は俺の胸にすり寄ってきた。その素直な言葉に、先ほどまでの怒りや焦りが一気に吹き飛んでいく。
「嫌ってないよ」
俺は湊の体を軽く抱き寄せた。華奢な身体が小さく震えている。
「もう、さっさと連れて帰りなよ」
桐生さんが、あきれたように促した。
「ついでに、明日のベッドシーン、しっかり予行練習しっておいで。君の役柄は、どちらかと言えば、湊くんの雰囲気に近いからさ」
「そうだな、勉強されせもらうよ」
もう、限界だ。
「感謝しろよ。こんなキューピッド役は、これっきりだからな」
桐生さんは、ご機嫌で笑っている。最初から、俺が湊さんに惹かれていることはバレていた。
「湊さん、出ようか」
「え、どこ行くの?桐生さんは?」
余計なひとことに、少しばかりカチンとくる。
「いいから!2人になれるところ、行こう」
すると、お酒だけとは思えないほど、顔を赤く染めた。
「うん、いく」
湊さんはコクンとうなずいた。
桐生さんの「またね」という声が背中に聞こえたが、振り返る気にはなれなかった。
店を出ると、外の冷たい風が吹いた。
「伊勢くん……」
湊の呟きが、俺の耳に届く。その言葉に、俺の心は温かくなった。
俺は、湊の肩を抱いた。この温かさを、二度と手放したくない。この夜、俺は改めて、湊への気持ちを自覚した。
薄暗い琥珀色の照明、微かにジャズが流れる店内。広くはない店だ。すぐにカウンターにいる桐生さんを見つけた。
そして、その桐生さんと肩をピタリと合わせている、小柄な後ろ姿。
「やぁ、早かったね」
声をかける前に、桐生さんは振り返り微笑んだ。
「ほえ?あれ、伊勢くんだぁ」
湊さんは顔を紅く染めている。
グラスの中身はほとんど空だ。酒に弱いことは知っていた。ビール一杯で酔うと言っていたから、打ち上げや食事の場で、湊さんが酒を飲むことはなかった。
「わぁい、本物だ!」
ケラケラと笑い出した。
「だいぶ酔ってるな。桐生さん、湊さんに変なこと、してないでしょうね」
俺は低い声で桐生さんに詰め寄った。桐生さんは肩をすくめ、わざとらしいほどに無邪気に笑う。
「チャイナブルーと、薄いハイボールを飲ませただけで、もうトロントロンだよ。かわいいね、彼。伊勢くんが来るまでガマンできたこと、褒めて欲しいよ」
やれやれと桐生さんは苦笑する。
噂は本当で、この人は年下のかわいい男が好きなんだよな。だから、湊さんが好みだということは、すぐに気づいた。
「伊勢くぅん」
聞いたこともないような甘えた声に、ハッとする。その声も視線も、俺の理性を刺激する。
「僕、ずっと会いたかったよ」
酒に弱いから、すぐ酔いつぶると思っていたが。実際は少し違った。甘えん坊化するらしい。
まるで、またたびで酔った猫のように、ゴロゴロと喉を鳴らす。
「湊さん、大丈夫?」
愛らしい表情を先に見せたのが、桐生さんだなんて。解せないな。
「伊勢くん、僕、お仕事ちゃんとできなくて、怒らせてばかりで、でも、嫌いにならないで……」
そう言って、湊は俺の胸にすり寄ってきた。その素直な言葉に、先ほどまでの怒りや焦りが一気に吹き飛んでいく。
「嫌ってないよ」
俺は湊の体を軽く抱き寄せた。華奢な身体が小さく震えている。
「もう、さっさと連れて帰りなよ」
桐生さんが、あきれたように促した。
「ついでに、明日のベッドシーン、しっかり予行練習しっておいで。君の役柄は、どちらかと言えば、湊くんの雰囲気に近いからさ」
「そうだな、勉強されせもらうよ」
もう、限界だ。
「感謝しろよ。こんなキューピッド役は、これっきりだからな」
桐生さんは、ご機嫌で笑っている。最初から、俺が湊さんに惹かれていることはバレていた。
「湊さん、出ようか」
「え、どこ行くの?桐生さんは?」
余計なひとことに、少しばかりカチンとくる。
「いいから!2人になれるところ、行こう」
すると、お酒だけとは思えないほど、顔を赤く染めた。
「うん、いく」
湊さんはコクンとうなずいた。
桐生さんの「またね」という声が背中に聞こえたが、振り返る気にはなれなかった。
店を出ると、外の冷たい風が吹いた。
「伊勢くん……」
湊の呟きが、俺の耳に届く。その言葉に、俺の心は温かくなった。
俺は、湊の肩を抱いた。この温かさを、二度と手放したくない。この夜、俺は改めて、湊への気持ちを自覚した。
21
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
オレンジの奇跡~夕と凪、僕らが交わる世界~
けいこ
BL
両親が営む小さな旅館『久我屋』を手伝いながら、BL小説を書いている僕。
穏やかにゆっくりと過ごす日常に満足していたある日、僕の前にとんでもなく魅力的な男性が現れた。
今まで1度も誰かを好きになったことがない僕にとっては、この感情が何なのか理解できない。
複雑に揺れ動く心に逆らえず、今までとは明らかに違う現実に戸惑いながら、僕の心はゆっくり溶かされていく……
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
前世で超有名だったBLゲーに転生してた
明瑠
BL
同性愛も異性愛も当たり前にある世界なのでチラチラとNLやGLも出てくる予定ですがBLメインのお話です
趣味に全振り
忙しい合間にちまちま書き進めていこうと思っています。たまに読み返しておかしな所があったらぼちぼち直していきます。
恋を知ってる青年と、まだ恋をした事がない彼らのお話
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
Nova | 大人気アイドル×男前マネージャー
むぎしま
BL
大人気アイドル・櫻井来夢が恋をしたのは、
ライバル事務所のマネージャー・本郷ルカだった。
強く、知的で、頼れる大人の男。
その背中に憧れ、来夢は彼を追いかける。
──仕事のできる色男・本郷ルカは、女にモテた。
「かっこいい」「頼りたい」「守ってほしい」
そんな言葉には、もう慣れていた。
けれど本当の心は、
守られたい。愛されたい。
そして、可愛いと思われたい。
その本心に気づいてしまった来夢は、
本郷を口説き、甘やかし、溺愛する。
これは、
愛されることを知った男と、
そのすべてを抱きしめたアイドルの、
とても幸せな恋の話。
独占欲強めな年下アイドル
(櫻井 来夢)
×
愛に飢えた有能マネージャー
(本郷 ルカ)
ーー
完結しました!
続編もよろしくお願いいたします〜〜!!
(櫻井×本郷要素もあります!!)
番外編も第二章も書きたい!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる