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16. 翌朝ベッドで目覚めたら
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見慣れない天井。いつもより柔らかいのシーツは、どこか懐かしい、シトラス系の柔軟剤の香りがする。
夢でも見ているのだろうか。隣に、伊勢くんが寝ているなんて。
ーーえ、伊勢くんが、裸で寝ている?
シーツを握りしめ、両目をこれでもかと開いてみる。
まだ眠っている伊勢くん。規則正しい寝息が聞こえる。柔らかく額に落ちる前髪。普段はクールで毒舌なのに、今の寝顔は驚くほどあどけない。
こんなに無防備できれいな寝顔、見とれない方が無理だ。そっと手を伸ばして彼の髪に触れた。
「……ん」
彼のまつ毛がわずかに震え、ゆっくりと目を開けた。
「……湊さん、起きてたの?」
「お、おはようございます」
ぎこちない声で挨拶すると、彼は目を細めて微笑んだ。その瞳が、僕の顔をじっと見つめている。
「ああ、久しぶりにぐっすり眠れたな」
伊勢くんが大きく伸びをすると、引き締まった上半身があらわになる。僕はお思わず布団をかぶる。顔が熱くて、息が苦しい。
「え、何?なんで隠れた?」
「だって、そんな、裸だから」
「そんなの今さらだろ、自分だって裸じゃないか」
僕は酒には弱い。ビール一杯で意識が朦朧とし、顔が真っ赤になってしまう。そして、プツリと思考回路が途切れてしまう。そのくせ、翌朝になると記憶は驚くほどクリアに戻ってくる。
忘れていれば「なかったこと」にできるのに、いつも飲んで後悔する。
「湊さん、すごい可愛かった」
「え、えええ!」
「甘えん坊なんだね、それに、普段は大人しいお坊ちゃんなのにさ、大胆だから驚いた」
段々とクリアになる頭の中。
数時間前のこのベッドの上。淫らな自分と伊勢くんの表情。まるで映画のリピート再生みたいに鮮明に蘇る――。
「言わないでください! 忘れてください!」
布団の中で、僕は全力でジタバタする。
昨夜のことを思い出すだけで心臓が爆発しそうなのに、彼はまるで何事もなかったかのように涼しい顔だ。
「忘れないよ。むしろ、一生覚えていたい」
その一言に、僕は心臓を鷲づかみにされた。恥ずかしさで布団に潜ったまま声を絞り出す。
「……ほんとに、恥ずかしいです」
「恥ずかしいのに、あんな可愛い声出すなよ」
「だ、誰のせいだと……!」
「ほら、もう布団から出て来てよ。ちゃんと顔見せて」
「わ!」
抱き寄せられて、間近に伊勢くんの顔。そして、そのままキスをされた。
「可愛い、すごく。乱れた顔も、そうやって恥ずかしがっている顔も」
「い、伊勢くん」
つい呼吸が乱れてしまう。身体は、まだ昨夜の熱を引きづっているようだ。
「ずっと、こうしていたい」
抱きしめられて、髪に何度も口づけされる。伊勢くんこそ、甘えん坊なんだと思う。僕なんかに、こんな風に接してくるなんて。やっぱり夢じゃないかと疑ってしまう。
「今日は、ドラマの撮影ですよね。それも、クランアップの日」
「んーー、そうだった」
「桐生さんとのベッドシーン、ですよね」
なんとなく、心がもやもやしてしまう。
「しっかり予行練習できたし。これなら本番もバッチリだな」
頭から水をかけられたように、スーーと心が沈んでいく。
「やっぱり僕は……、ドラマのための練習台なんですか?」
情けない声が震えて漏れた。
「なにそれ?」
「だ、だから、僕のことを、からかったり、だ、抱いたりするもの、役作りのためだったんですか?」
数秒の沈黙のあと、くすっと笑い声が降ってきた。
「役作りじゃない。俺がずっと欲しかったのは、湊さんだけだよ」
「え」
「最初はどんくさいなって思ったけど、小さな体で走り回って、俺やTOMARIGIのために一生懸命な姿を見て、気が付いたら好きになっていた。ほっとけない、そばにいたい」
頬に涙が伝う。泣き顔を見られるのが嫌で、僕は思わず寝返りで後ろを向いた。
「半年かかったな。手に入れるのに」
後ろからぎゅっと抱きしめられた。甘い香りがした。
「昨日は、桐生さんに奪われるかもって、すごい焦ったからな」
「そんなこと、あるわけないのに」
僕の方こそ、ずっと伊勢くんに惹かれていた。
自然に目が追ってしまう。アイドルだから人を引き付ける魅力があるのは当たり前。でも、僕が見ている伊勢くんは、アイドルではなく、仕事上の付き合いでもない、もっと特別なものだった。
「僕は……、伊勢くんを好きでいても、いいでしょうか」
「うん、いいよ」
拒まれたらどうしよう。気持ち悪いと言われたらどうしよう。
そう不安だった僕の心を、溶かしていくみたいで。だから僕は、布団に顔を埋めたまま、ぽつりと呟いた。
「ずっと、そばにいてください」
伊勢くんは、答えの代わりに、抱きしめる腕に力を込めた。
夢でも見ているのだろうか。隣に、伊勢くんが寝ているなんて。
ーーえ、伊勢くんが、裸で寝ている?
シーツを握りしめ、両目をこれでもかと開いてみる。
まだ眠っている伊勢くん。規則正しい寝息が聞こえる。柔らかく額に落ちる前髪。普段はクールで毒舌なのに、今の寝顔は驚くほどあどけない。
こんなに無防備できれいな寝顔、見とれない方が無理だ。そっと手を伸ばして彼の髪に触れた。
「……ん」
彼のまつ毛がわずかに震え、ゆっくりと目を開けた。
「……湊さん、起きてたの?」
「お、おはようございます」
ぎこちない声で挨拶すると、彼は目を細めて微笑んだ。その瞳が、僕の顔をじっと見つめている。
「ああ、久しぶりにぐっすり眠れたな」
伊勢くんが大きく伸びをすると、引き締まった上半身があらわになる。僕はお思わず布団をかぶる。顔が熱くて、息が苦しい。
「え、何?なんで隠れた?」
「だって、そんな、裸だから」
「そんなの今さらだろ、自分だって裸じゃないか」
僕は酒には弱い。ビール一杯で意識が朦朧とし、顔が真っ赤になってしまう。そして、プツリと思考回路が途切れてしまう。そのくせ、翌朝になると記憶は驚くほどクリアに戻ってくる。
忘れていれば「なかったこと」にできるのに、いつも飲んで後悔する。
「湊さん、すごい可愛かった」
「え、えええ!」
「甘えん坊なんだね、それに、普段は大人しいお坊ちゃんなのにさ、大胆だから驚いた」
段々とクリアになる頭の中。
数時間前のこのベッドの上。淫らな自分と伊勢くんの表情。まるで映画のリピート再生みたいに鮮明に蘇る――。
「言わないでください! 忘れてください!」
布団の中で、僕は全力でジタバタする。
昨夜のことを思い出すだけで心臓が爆発しそうなのに、彼はまるで何事もなかったかのように涼しい顔だ。
「忘れないよ。むしろ、一生覚えていたい」
その一言に、僕は心臓を鷲づかみにされた。恥ずかしさで布団に潜ったまま声を絞り出す。
「……ほんとに、恥ずかしいです」
「恥ずかしいのに、あんな可愛い声出すなよ」
「だ、誰のせいだと……!」
「ほら、もう布団から出て来てよ。ちゃんと顔見せて」
「わ!」
抱き寄せられて、間近に伊勢くんの顔。そして、そのままキスをされた。
「可愛い、すごく。乱れた顔も、そうやって恥ずかしがっている顔も」
「い、伊勢くん」
つい呼吸が乱れてしまう。身体は、まだ昨夜の熱を引きづっているようだ。
「ずっと、こうしていたい」
抱きしめられて、髪に何度も口づけされる。伊勢くんこそ、甘えん坊なんだと思う。僕なんかに、こんな風に接してくるなんて。やっぱり夢じゃないかと疑ってしまう。
「今日は、ドラマの撮影ですよね。それも、クランアップの日」
「んーー、そうだった」
「桐生さんとのベッドシーン、ですよね」
なんとなく、心がもやもやしてしまう。
「しっかり予行練習できたし。これなら本番もバッチリだな」
頭から水をかけられたように、スーーと心が沈んでいく。
「やっぱり僕は……、ドラマのための練習台なんですか?」
情けない声が震えて漏れた。
「なにそれ?」
「だ、だから、僕のことを、からかったり、だ、抱いたりするもの、役作りのためだったんですか?」
数秒の沈黙のあと、くすっと笑い声が降ってきた。
「役作りじゃない。俺がずっと欲しかったのは、湊さんだけだよ」
「え」
「最初はどんくさいなって思ったけど、小さな体で走り回って、俺やTOMARIGIのために一生懸命な姿を見て、気が付いたら好きになっていた。ほっとけない、そばにいたい」
頬に涙が伝う。泣き顔を見られるのが嫌で、僕は思わず寝返りで後ろを向いた。
「半年かかったな。手に入れるのに」
後ろからぎゅっと抱きしめられた。甘い香りがした。
「昨日は、桐生さんに奪われるかもって、すごい焦ったからな」
「そんなこと、あるわけないのに」
僕の方こそ、ずっと伊勢くんに惹かれていた。
自然に目が追ってしまう。アイドルだから人を引き付ける魅力があるのは当たり前。でも、僕が見ている伊勢くんは、アイドルではなく、仕事上の付き合いでもない、もっと特別なものだった。
「僕は……、伊勢くんを好きでいても、いいでしょうか」
「うん、いいよ」
拒まれたらどうしよう。気持ち悪いと言われたらどうしよう。
そう不安だった僕の心を、溶かしていくみたいで。だから僕は、布団に顔を埋めたまま、ぽつりと呟いた。
「ずっと、そばにいてください」
伊勢くんは、答えの代わりに、抱きしめる腕に力を込めた。
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