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ステージ 1 〈高校編〉
3. お気に入り?
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夏休みに入った。
8月末のTOMARIGIの野外ライブに向け、候補生たちは汗だくで踊り込む。
オレも小さな身体をフルに使ってステップを踏む。胸の奥に、小さな炎が灯るように熱い。
「ツバサ、いまのところ、もう一回」
蒼真先輩が端に立って観察している。その視線に、オレの胸は高鳴った。少し意識しすぎて、足のステップが乱れそうになる。
曲が切り替わると、蒼真先輩が手招きする。
「ここはこう、手の角度も意識して」
低く落ち着いた声での指摘。
「ほら、こんな感じ」
ふいに、手を取られた。汗ばんだ手がかり恥ずかしくて。思わず引っ込めてしまう。
「スミマセン」
「いや」
不快な顔をするでもなく、蒼真先輩は笑顔を向けてくれる。
耳元をくすぐるような距離感で、オレの胸はドキドキする。汗が額を伝い、Tシャツが肌に張り付く。視線、距離、すべてが心を熱くする。
そこへ、TOMARIGIのメンバー、片倉さんと、伊勢さんが、差し入れを持ってフロアに入ってきた。
「みんなおつかれ!アイス買ってきたから、一息入れよう」
候補生が歓声をあげる。
すると、片倉さんと伊勢さんが、オレと蒼真先輩の元へやってくる。
「おっ、噂のツバサ君だね」
「蒼真のお気に入りね」
伊勢さんがにやりと笑い、オレを見つめる。お気に入り?どういう意味だろう。
「うん、かわいいね」
「えっ……?」
褒められた、よね。
伊勢さんは、にこやかに微笑む。その顔には、一瞬にして周囲の視線を集めるような、アイドルならではの、華やかさがあった。
雑誌で見るよりもずっと綺麗で、思わず見とれてしまう。
「ツバサ、顔が赤い」
蒼真先輩の低い声。その視線は、オレに向けられたまま鋭くなる。
「蒼真は優しく教えてくれる?」
「は、はい!」
「ダンスじゃないよ、夜の方だよ。キミ、蒼真のお気に入りだろ?」
「ち、違います!先輩の……お気に入りなんかじゃないです!」
赤面しながら答えるオレ。
「伊勢。バカなことを言うな」
蒼真先輩の低く落ち着いた声。どこか嫉妬にも似た響きが混じる。
「……気にするな。ツバサ、レッスンを再開しよう」
「は、はい」
深呼吸して、オレは手を取り合いながらダンスを再開する。二人の距離が近づくたび、胸の奥がざわつく。片倉先輩の茶化す笑みと、蒼真先輩の熱い視線が交錯して、オレの心は揺れる。
時折、細かく動きを直してくれるその視線は、オレだけに向けられているようだ。
先輩の一言に、オレは息を整え、集中する。音楽が流れ始めると、体が自然に動き出す。ステップ、ターン、スピン……床に響く靴音も、呼吸も、すべてが一つのリズムになる。
曲の途中、伊勢さんの声が聞こえた。
「蒼真のお気に入り、ダントツで上手いじゃん」
「手を出すなよ」
蒼真先輩が低く呟いた。
嫉妬にも似た微妙な表情。オレの胸はぎゅっと締めつけられ、思わず顔が熱くなる。
踊り終えると、蒼真先輩は口元に笑みを浮かべたまま、軽く肩に触れる。そして、
「 着替えたら、地下の駐車場で待ってて。送っていく」
誰にも聞かれないように、耳元で囁かれた。
8月末のTOMARIGIの野外ライブに向け、候補生たちは汗だくで踊り込む。
オレも小さな身体をフルに使ってステップを踏む。胸の奥に、小さな炎が灯るように熱い。
「ツバサ、いまのところ、もう一回」
蒼真先輩が端に立って観察している。その視線に、オレの胸は高鳴った。少し意識しすぎて、足のステップが乱れそうになる。
曲が切り替わると、蒼真先輩が手招きする。
「ここはこう、手の角度も意識して」
低く落ち着いた声での指摘。
「ほら、こんな感じ」
ふいに、手を取られた。汗ばんだ手がかり恥ずかしくて。思わず引っ込めてしまう。
「スミマセン」
「いや」
不快な顔をするでもなく、蒼真先輩は笑顔を向けてくれる。
耳元をくすぐるような距離感で、オレの胸はドキドキする。汗が額を伝い、Tシャツが肌に張り付く。視線、距離、すべてが心を熱くする。
そこへ、TOMARIGIのメンバー、片倉さんと、伊勢さんが、差し入れを持ってフロアに入ってきた。
「みんなおつかれ!アイス買ってきたから、一息入れよう」
候補生が歓声をあげる。
すると、片倉さんと伊勢さんが、オレと蒼真先輩の元へやってくる。
「おっ、噂のツバサ君だね」
「蒼真のお気に入りね」
伊勢さんがにやりと笑い、オレを見つめる。お気に入り?どういう意味だろう。
「うん、かわいいね」
「えっ……?」
褒められた、よね。
伊勢さんは、にこやかに微笑む。その顔には、一瞬にして周囲の視線を集めるような、アイドルならではの、華やかさがあった。
雑誌で見るよりもずっと綺麗で、思わず見とれてしまう。
「ツバサ、顔が赤い」
蒼真先輩の低い声。その視線は、オレに向けられたまま鋭くなる。
「蒼真は優しく教えてくれる?」
「は、はい!」
「ダンスじゃないよ、夜の方だよ。キミ、蒼真のお気に入りだろ?」
「ち、違います!先輩の……お気に入りなんかじゃないです!」
赤面しながら答えるオレ。
「伊勢。バカなことを言うな」
蒼真先輩の低く落ち着いた声。どこか嫉妬にも似た響きが混じる。
「……気にするな。ツバサ、レッスンを再開しよう」
「は、はい」
深呼吸して、オレは手を取り合いながらダンスを再開する。二人の距離が近づくたび、胸の奥がざわつく。片倉先輩の茶化す笑みと、蒼真先輩の熱い視線が交錯して、オレの心は揺れる。
時折、細かく動きを直してくれるその視線は、オレだけに向けられているようだ。
先輩の一言に、オレは息を整え、集中する。音楽が流れ始めると、体が自然に動き出す。ステップ、ターン、スピン……床に響く靴音も、呼吸も、すべてが一つのリズムになる。
曲の途中、伊勢さんの声が聞こえた。
「蒼真のお気に入り、ダントツで上手いじゃん」
「手を出すなよ」
蒼真先輩が低く呟いた。
嫉妬にも似た微妙な表情。オレの胸はぎゅっと締めつけられ、思わず顔が熱くなる。
踊り終えると、蒼真先輩は口元に笑みを浮かべたまま、軽く肩に触れる。そして、
「 着替えたら、地下の駐車場で待ってて。送っていく」
誰にも聞かれないように、耳元で囁かれた。
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