先輩アイドルに溺愛されて、恋もステージもプロデュースされる件 <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう

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ステージ 1 〈高校編〉

2.出会い

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レッスンが終わり、カイリと一緒に駅前のファーストフード店に入る。ここで食べておかないと、自宅に帰るまでにはエネルギーがゼロになってしまうから。


「いやー、今日のレッスンもキツかったな」

「でもさ、ツバサが蒼真さんと知り合いだったなんて、驚いたよ」


2個目のハンバーガ―に手を伸ばすカイリ。


「黙っててごめん。高校の先輩なんだ」

「まじか!蒼真さんの高校時代の話、なんでもいいから聞かせてよ!」

「うん、でも、そんなに親しいってわけじゃないんだけどね……」


オレは軽く頷き、2年前の春を思い出した。


◆◆◆



高校1年生の入学直後。

伸び悩んでいた身長、その小さな身体に真新しい制服を纏い、初めてダンス部の練習室に足を踏み入れた。


「なんだ、小さいのが来たぞ」


数人の部員がこちらを見ている。お世辞にもガラが良いとは言えない雰囲気だ。ここは、進学校として認知されている高校なのに。


「入部希望か?」

「はい、1年3組の戸塚ツバサです」

「それなら、入部テストだ」


突然、身体の大きな上級生の一人に絡まれた。周囲がクスクスと笑いだす。


「おまえ、可愛い顔してんじゃん。腕も首も細くて、そんな身体でダンスできるのか?」

「はは、彼女にフラれたからって、男に手をだすのかよ」

「うるせ、黙って見てろよ」


腕を掴まれ壁に体を押し付けられた。頭が真っ白になる。


「いたっ!」


え?なに?男子校の悪ノリってこと?冗談でしょ、こんな展開。


「先輩、オレ、ダンスをしようと思って来ただけなんですけど」


力を込めて返すがビクともしない。せめて、キッと睨みつけてやるが、周囲からまた笑い声。


「踊ってみろよ、ただし、おれの腹の上で、みだらに泣きながら、な」


そのときだ。ガラッと音を立ててドアが開いた。

制服の着こなしも、顔つきも、他の誰とも違って見えた。周りの空気を一変させてしまうような、独特のオーラをまとっている。あの頃すでに、誰もが彼を「特別な存在」として認識していたのだろう。


「みっともないこと、やめろよ――」


「蒼真か」


ため息とともに、男は手を離した。


はじめて蒼真先輩と出会ったこのとき、オレの胸は高鳴った。息をするたび、心臓がぎゅっと締め付けられる。こんなことは初めてで、その理由も意味さえも分からなかった。


「ごめんね、怖かったね」


すぐ横に、蒼真先輩が立っていた。長身な彼は、オレを見下ろしながらやさしく微笑んだ。その視線は、とても暖かい。

でも、全身から出るオーラは、まるでステージ上のアイドルそのもの。

オレは無意識に一歩後ずさる。
視線の熱、距離感、オーラに圧倒される一方で、なんだか自分も舞台に立つような昂ぶりを感じていた。


「有望な新人を追い返す気なら、俺が許さないよ」


低く落ち着いた声に、場の空気は凍る。


「蒼真、デビューが決まったからって、偉そうだな」


ああ、そうだ。どこかで見た顔だと思ったんだ。


『――浅見蒼真、デビュー決定!』


そのニュースは、たちまち校内を駆け巡り、入学間もない1年生にも届いていた。大手芸能事務所と契約済みで、デビューに向けて準備が進められているという噂も聞いた。クールな佇まいとは裏腹に、ダンスはしなやかで鋭い。その姿は、観客全員の視線を奪い、心を掴んで離さない。

あの日の部活で見た先輩は、すでにアイドルの顔をしていた。



「ダンス部に入るっていうから、オーディションを受けてもらおうと思っただけだ」

「へぇ、そうなんだ。でも。彼はきっと、お前よりずっと上手だと思うよ」

「どうだか」

「じゃあ、踊ってもらったら?ね、なんか適当に曲流して」


蒼真先輩は、他の部員に指示を出した。事の成り行きを見守ていた部員は、「はい!」と素直な返事をして、スマホから曲を流した。


「やってみてよ」


熱い視線が刺さる――。


曲が鳴り響く

幼い頃から身につけた身体の動きが、音に合わせて自然と解き放たれていく。床を滑るように動き、空中で一瞬静止するようなジャンプ。周りの視線が、熱いエネルギーとなってオレの身体に流れ込んでくるようだった。


終盤、曲が盛り上がる手前、蒼真先輩の声が響いた。


「ツバサ、ぶちかませ!」


なぜ名前を知っているだろうか。その疑問よりも先に、心の奥で小さな炎が灯った。


オレは助走をつけ、バク転を決めた。

空中での回転、床を蹴る瞬間の衝撃、着地の瞬間のバランス――全てが完璧に決まった瞬間、静寂が広がり、
そして、静かに拍手が起こった。


蒼真先輩は、口元にかすかな笑みを浮かべた。


「すごいね、うちの事務所に入ったらいいのに」


息が切れて、肩で大きく呼吸を繰り返す。汗で張りついたTシャツが、肌に張り付いていた。


ダンスのステージは、それなりに経験があった。もっと緊張することがあったに、なのに。胸の高鳴りが収まらない。蒼真先輩に見られている、そのことが、なんでこんなにドキドキするんだろう。


「中学の県大会で優勝したチームにいた、戸塚ツバサ君だよね」


こうして、オレはダンス部に入り、ガラの悪かった先輩たちとも、蒼真先輩のフォローもあり、うまく付き合えるようになった。


廊下ですれ違うたび、意識するようになった。放課後が待ち遠しい。

蒼真先輩はクールで近寄りがたいけど、オレのことをちゃんと見てくれている――そんな気配を感じると、胸が高鳴った。

でも、そのすぐあと。

夏が始まるよりも早く、CDデビューをした蒼真先輩は、芸能活動が多忙となり、学校へはほとんど来なくなった。そして、芸能活動と学業を両立させるため、都内の私立高校へと転校してしまったのだ。

それきり、縁がないままだった。





「じゃあ、ツバサがこの事務所に入ったのって」

「うん、蒼真先輩に憧れて、かな」

「へぇ、そうだったんだ」


カイリは目を輝かせている。


「あの頃から、見てるだけで、息が止まりそうになったよ」



オレも自然と笑みが出る。あの時の緊張と興奮、そして先輩の圧倒的存在感――全部が心に残っている。



「一緒に過ごせたのは、たった2か月。覚えているなんて、思わなかったよ」


すごく嬉しかった。『ツバサ』って、名前を呼んでくれて。まさか、一緒に踊れるなんて。


蒼真先輩の視線、拍手の音――今でも思い出すだけで胸が熱くなる。

オレは無意識にドリンクを握りしめた。


あのときは先輩の前で、そして今日は、先輩と一緒に踊ることができた。胸の奥がざわつき、高鳴りは、一向に止む気配がしなかった。
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