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第6章 ◇問題発生⁉の 2nd WEEK
◆5 特別と日常と
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………考えたくない、けど。
いつもここで思考は止まってしまう。
それも仕方ないだろうと分かっている。まだ付き合い始めて1年にもならないし、当然といえば当然だ。先走ったことを考えているなと、自覚もある。
そう、あの夜に感じたこと――
泉水さんと俺の間に、しっかりとした絆が、何か証が欲しいと思ってしまう俺がいるのは確かなのだ。でも今は、形ばかりを追い求めるのは止めておこう、とも思う。
気を付けないと、とんでもない束縛男になってしまいそうだ。
はああ~と息を吐きながら、上半身を起こし、大きく伸びをした。
ここ数日、消すに消せないこの悩みを、何度も考えすぎている。それなのに、毎日が忙しすぎて泉水さんとゆっくり向き合える時間が無いのも良くないな、と思ってはいるのだが……
でもこの後、久しぶりに出勤前に『セレスタイト』に行くことになっていて、俺は少し嬉しかった。付き合う前の頃のようだ。
このイベント期間中ならではのことを何かやりたいなと考えた俺は、オーナーと泉水さんに無理を言って『セレスタイト』のコーヒーゼリーをうちの店で食べられるようにしてもらっていた。
委託販売というか、お取り寄せというか。この一カ月の間の期間限定デザートとして。
2人に相談したら、2人とも揃って「面白い」と言ってくれて。このアイデアが実現した。
俺はもともと自分のSNSで、コーヒーの美味しいお気に入りの店として『セレスタイト』を宣伝していたから、「今週から俺の店でもその味が楽しめますよ」と告知を始めている。
グルメ好きの俺のフォロワーさんがちょっとでも気にしてくれたら、ということが目的でもあるけど、本当は――
(自分で、泉水さんを手伝って手作りしたかったんだよなぁ)
『セレスタイト』で泉水さんのきちんとした指導の下、アルバイトとして自分もゼリー作りをして。それをお客様に食べてもらえたら嬉しいなと思って考えたアイデアだったのだ。そうすれば泉水さんへの負担も最小限で済むと思っていた。だけど、残念ながら事はそう上手くはいかなかった。
「うーん、お店に入ってもらう時間がね」と泉水さんを悩ませることになってしまったのだ。
あさイチは開店準備で忙しく、仕込み作業には泉水さんのお父さんも来ているので、そこに俺がお邪魔すると迷惑になる。
忙しいランチタイム後の14時から15時までの休憩時間中に、ウチ用の分を追加で作ってくれるという話しだったから、出来ればそこで手伝いに入りたかったが。
「その時間は、やっぱり父がお店にいて――その、気難しい人なんだよね」
と、状況を説明された。
泉水さんのお父さんは足を悪くしていて、朝の仕込みと、ランチタイムの時間だけお店にいるのだそうだ。そして昼食をお店でとってから近くにある家に帰る、というルーティーンになっているらしい。
「ごめん、会うのは全然構わないんだけど、厨房の中に君を入れるのは嫌がると思う」
本当にごめん、と泉水さんを謝らせてしまい、「いやいや!全部俺のわがままだから気にしないで!」と慌ててこっちも頭を下げて。
そんな訳で色々とあったが、とりあえず『オブリビオン』で自分なりの新しいことを始める、という願いは実現した。ウチへの配送は俺が引き受けるので、今日から出勤前に泉水さんの所へ寄っていく、という段取りになっていた。
……とにかく、今のこの状況に早くケリをつけたいなと思う。
幸い出だしは好調で、先週1週間でかなり数字は伸ばせた。このままの勢いでいけたら、高城さんに勝つことも全然夢じゃない。
ユキが頑張って、新しいお客を呼び込んでくれているのが大きい。
だけど順調な反面、俺はちょっと心配もしていた。
(SNSであれだけ有名になって、元々ホストの俺はともかく――大学生のユキは生活に支障が出て来てないか?)
ということだ。
ユキは自分からそういう話をしなさそうだから、余計に心配なのだった。
色々と、前途多難な予感も無くはないけど……
「――とりあえずメシ食うか」
お腹が減っていては戦もプロポーズもできない。寝室からリビングに移動し、コーヒーでも飲もうとキッチンへ向かう。
ふと見れば、テーブルには泉水さんお手製のスパニッシュオムレツが置かれていた。触れればお皿はまだ温かい。
「おおー?」
昨夜の晩ご飯とは別物だった。いつ作ったんだろう。
寝起きの悪い俺は、全く気付いていなかった。
支度している泉水さんの姿を想像して――ありがたいなぁと胸の奥がほこほこする。
パプリカの赤とピーマンの緑が、俺の胃袋を刺激して「くう」とちいさな音を立てた。
冷蔵庫には泉水さん特製の苦みの効いたアイスコーヒーも入っている。それにたっぷりのミルクを足してカフェオレにして。このオムレツと、少し前に自分で焼いた冷凍のパンを解凍して、朝ご飯にしよう。
こんなきちんとした食事、新宿で働いていた頃にはあり得なかった。
夏の朝の、普通の朝ご飯が俺を幸せにしてくれる。
その素晴らしさで、俺はすっかり元気になっていった……
いつもここで思考は止まってしまう。
それも仕方ないだろうと分かっている。まだ付き合い始めて1年にもならないし、当然といえば当然だ。先走ったことを考えているなと、自覚もある。
そう、あの夜に感じたこと――
泉水さんと俺の間に、しっかりとした絆が、何か証が欲しいと思ってしまう俺がいるのは確かなのだ。でも今は、形ばかりを追い求めるのは止めておこう、とも思う。
気を付けないと、とんでもない束縛男になってしまいそうだ。
はああ~と息を吐きながら、上半身を起こし、大きく伸びをした。
ここ数日、消すに消せないこの悩みを、何度も考えすぎている。それなのに、毎日が忙しすぎて泉水さんとゆっくり向き合える時間が無いのも良くないな、と思ってはいるのだが……
でもこの後、久しぶりに出勤前に『セレスタイト』に行くことになっていて、俺は少し嬉しかった。付き合う前の頃のようだ。
このイベント期間中ならではのことを何かやりたいなと考えた俺は、オーナーと泉水さんに無理を言って『セレスタイト』のコーヒーゼリーをうちの店で食べられるようにしてもらっていた。
委託販売というか、お取り寄せというか。この一カ月の間の期間限定デザートとして。
2人に相談したら、2人とも揃って「面白い」と言ってくれて。このアイデアが実現した。
俺はもともと自分のSNSで、コーヒーの美味しいお気に入りの店として『セレスタイト』を宣伝していたから、「今週から俺の店でもその味が楽しめますよ」と告知を始めている。
グルメ好きの俺のフォロワーさんがちょっとでも気にしてくれたら、ということが目的でもあるけど、本当は――
(自分で、泉水さんを手伝って手作りしたかったんだよなぁ)
『セレスタイト』で泉水さんのきちんとした指導の下、アルバイトとして自分もゼリー作りをして。それをお客様に食べてもらえたら嬉しいなと思って考えたアイデアだったのだ。そうすれば泉水さんへの負担も最小限で済むと思っていた。だけど、残念ながら事はそう上手くはいかなかった。
「うーん、お店に入ってもらう時間がね」と泉水さんを悩ませることになってしまったのだ。
あさイチは開店準備で忙しく、仕込み作業には泉水さんのお父さんも来ているので、そこに俺がお邪魔すると迷惑になる。
忙しいランチタイム後の14時から15時までの休憩時間中に、ウチ用の分を追加で作ってくれるという話しだったから、出来ればそこで手伝いに入りたかったが。
「その時間は、やっぱり父がお店にいて――その、気難しい人なんだよね」
と、状況を説明された。
泉水さんのお父さんは足を悪くしていて、朝の仕込みと、ランチタイムの時間だけお店にいるのだそうだ。そして昼食をお店でとってから近くにある家に帰る、というルーティーンになっているらしい。
「ごめん、会うのは全然構わないんだけど、厨房の中に君を入れるのは嫌がると思う」
本当にごめん、と泉水さんを謝らせてしまい、「いやいや!全部俺のわがままだから気にしないで!」と慌ててこっちも頭を下げて。
そんな訳で色々とあったが、とりあえず『オブリビオン』で自分なりの新しいことを始める、という願いは実現した。ウチへの配送は俺が引き受けるので、今日から出勤前に泉水さんの所へ寄っていく、という段取りになっていた。
……とにかく、今のこの状況に早くケリをつけたいなと思う。
幸い出だしは好調で、先週1週間でかなり数字は伸ばせた。このままの勢いでいけたら、高城さんに勝つことも全然夢じゃない。
ユキが頑張って、新しいお客を呼び込んでくれているのが大きい。
だけど順調な反面、俺はちょっと心配もしていた。
(SNSであれだけ有名になって、元々ホストの俺はともかく――大学生のユキは生活に支障が出て来てないか?)
ということだ。
ユキは自分からそういう話をしなさそうだから、余計に心配なのだった。
色々と、前途多難な予感も無くはないけど……
「――とりあえずメシ食うか」
お腹が減っていては戦もプロポーズもできない。寝室からリビングに移動し、コーヒーでも飲もうとキッチンへ向かう。
ふと見れば、テーブルには泉水さんお手製のスパニッシュオムレツが置かれていた。触れればお皿はまだ温かい。
「おおー?」
昨夜の晩ご飯とは別物だった。いつ作ったんだろう。
寝起きの悪い俺は、全く気付いていなかった。
支度している泉水さんの姿を想像して――ありがたいなぁと胸の奥がほこほこする。
パプリカの赤とピーマンの緑が、俺の胃袋を刺激して「くう」とちいさな音を立てた。
冷蔵庫には泉水さん特製の苦みの効いたアイスコーヒーも入っている。それにたっぷりのミルクを足してカフェオレにして。このオムレツと、少し前に自分で焼いた冷凍のパンを解凍して、朝ご飯にしよう。
こんなきちんとした食事、新宿で働いていた頃にはあり得なかった。
夏の朝の、普通の朝ご飯が俺を幸せにしてくれる。
その素晴らしさで、俺はすっかり元気になっていった……
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