【第二部完結】恋するホストと溺れる人魚と、多分、愛の話

凍星

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第8章 ◇波乱の 3rd WEEK

◆19 ユキSide:特別な人の領域の中で①

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「ここに水のペットボトル、置いておくな。あと、俺は隣りのリビングで寝てるから、何かあったら声掛けろよ?」

心の中で、めちゃくちゃ慌てている僕の感情など知りもせず、先輩はそれ以外の選択肢を与えてくれない。
そうして、僕の頭をクシャクシャと撫でて――これもいつものクセ、で。だから慣れている筈なんだけど、今はやけに心臓に悪い。
じゃあなと、最後にひと言。そして僕のいる寝室の扉を閉めた。

……しん、と静かになった部屋。

独りになって機械的に着替えを済ませて、ようやく思考がはっきりしてきた。改めて落ち着いて考えてみると……今の状況は全く予想もしていなかった事態な訳で。

(うん……僕、いま先輩の家にいるんだ?しかも、抱き抱えられて運ばれてきて……先輩の寝室で、先輩の部屋着を着て、先輩のベッドに横たわってる……んだよね??)

誰かに訊いて「うん、そうだよ」と言われないと、現実だと思えない気がした。

枕にも、シーツにも。
どことなく先輩の使っている香水の匂いがする。
寝巻きはダブルガーゼのパジャマ。
肌触りが優しくて、良い物なんじゃないかなと思う。

――先輩の日常に、その気配に囲まれている。この現実が、じわじわと僕の心を侵蝕する。

現実?
先輩のベッドの中にいて、先輩のパジャマを着ている、これが?
この状況が?

(僕たちの写真撮ってた女の子が、供給過多って言ってた気持ちが、もの凄く分かってきた……かも)

急に、恥ずかしいのと嬉しいのと、何とも言えない――ベッド上をゴロゴロと転がって悶えたい感情が爆発する。

(いや、この状況で落ち着いて寝ろとか、ムリだと思う……!!)

両手で口許を抑え、叫びたいのをぐっと堪えた。身体の熱が上がるのを止められない。

(どうしよう!?他人の部屋でこんなに興奮してるとか、もうアブない奴以外の何者でもないよ……!)

――部屋の中、結構スッキリしててオシャレだ。もっと趣味の物とかいっぱい置いているようなのを想像をしてた。
良い匂いもするし……アロマとかもやるんだ?ベッドも大きくて、リネンが肌触り良くて、スゴく寝心地良い。パジャマ派だとは思わなかったな。下着とか、むしろ裸でワイルドに寝ていそうなイメージだった……

色々な感情が溢れてくる。
先輩に近付いて、香水の匂いにドキドキした時にも思ったけど――

(やっぱり僕って、先輩オタク……??)

特別な「好き」という感情があることは、さすがにもう自覚していた。
でも自分のこれは、推しに憧れるみたいな、そういう部分が強いのかもしれないと、そんな気もしてくる。

大きなベッド……
ダブルベッドだから、2人で寝る用だよね。
そっか、泉水さんもここで寝てるんだよね……

…………

…………………


(……って、何考えてるんだ、僕は……!?)


不埒な妄想を展開してしまったことに、少なからず動揺する。自分自身の性的な行為にも興味がないのに、他人のそういう事に思いを馳せたのは人生初だ。
この動揺は、何から来ているんだろう。
知っている人のセックスを想像してしまった気まずさか、それとも。


泉水さんへの「嫉妬」なのか――……


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