【第二部完結】恋するホストと溺れる人魚と、多分、愛の話

凍星

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第8章 ◇波乱の 3rd WEEK

◆20 ユキSide:特別な人の領域の中で②

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…………寝よう。


考えることを放棄して、とりあえず僕は眠ることにした。お酒でぼんやりした頭では、おかしなことばかり考えてしまいそうだった。
ドサリと、大きくて柔らかなベッドに身体を預けると、雲の上にいるみたいな心地良さに包まれる。

(羊が一匹、羊が二匹……)

超古典的な、だが連綿と受け継がれているメジャーな方法で、僕は眠りに入ろうと努力してみた。だがそれは、中々効果を発揮してくれなくて。
頭の中を大量の羊が埋め尽くしていくばかりだった……

***

――しばらくして、ふと目が覚めた。

どうやら大量の羊が効力を発揮して、いつの間にか眠っていたらしい。
時計を見ると、2:40。
変なタイミングで起きてしまったのは、口の中が甘くベタついて、喉が渇いていたからだろう。

サイドテーブルに置かれたペットボトルに手を伸ばし、水を飲む。……何だかやけに美味しく感じた。
ふぅとひと息吐いて。

見慣れない風景にも、少しずつ目が馴染んできた。
特別に想っている人の日常に、うっかり紛れ込んでしまった気まずさは消えないけれど。
自分がいま、彼のテリトリーの中にいることを許されている――その言葉に出来ない喜びは、まだ胸の奥で熱をもって燻っていて。

きしりと小さな音を立てて、ベッドから降りた。スタンドの明かりをつけ寝室のドアへと歩き扉を開け、リビングへと恐る恐る出てみる。

……暗がりの中に、先輩の姿があった。
簡易ベッドにできるソファーが置かれていて、その狭いベッドの上、薄い布団を一枚掛けて先輩は眠っていた。
今日はお天気があまり良くなかったせいで気温もそこまで上がらず、エアコンが無くても何とか過ごせる暑さで。
ここがマンションの何階なのかは分からないけど、先輩は窓を少し開けた状態にしていた。
そこから流れ込む風が薄地のカーテンを揺らし、窓から差し込む光の形を変える。

「…………」

眠っている先輩を、僕は黙って見詰めた。
夜の街の薄明かりが、その横顔の輪郭をぼんやりと照らし出している。
綺麗なライン。
もっと近くで見たくなって。
寝ている場所に近付いて、傍に跪く。
その顔を覗き込んだ。
気の抜けた、どこか可愛い寝顔。
思わず笑ってしまった。
その寝顔に問いかけてみる。


…………先輩。

僕のこのきもちは「恋」――なのか、どうか。

そう訊いたら、どうしますか?

キスしたいって言ったら?

頬じゃなくて、貴方のその唇に。

今だけ。

いまこの一瞬だけ、貴方のことが欲しいって言ったら――

なんて、答えます……?


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