獣王の花嫁─ときは縁を結ぶ

しろがね はな

文字の大きさ
6 / 12

4.襲撃から

しおりを挟む

 王は夢うつつでみた場所を思い出して獣に乗る。
 偵察の1人が告げた場所も一致していた。
 ヒューイとグラウスに場所を告げるとともに精鋭を引き連れ風のように城を後にした。
 (あの場所には覚えがある─)
 逃げ場の無い地形。



 ───見知った者たちがあちらこちらに血塗れで倒れていた。
 (……この数を)
 よく知る人物がニンゲン相手に吠えていた。
 見ると2人の若いオスと1人のメス─ボロボロだが恐らく花嫁だろう─が傷だらけになりながらも、隙のない佇まいで老獣人と対峙していた。
 (この数を3人で?)
 深く考えるのは今じゃない。
 逃げ出そうとする醜き獣に立ちはだかる。
 ビクリとした老獣人は臆しながらも怒号のような悲鳴のような声を腹から響かせた。
「お、王!ニンゲンなんぞと手を組むなぞ!愚の骨頂でありますぞ!!!」
 ─愚、か。
 冷ややかな目をやる。それ以上、やるものは無い。
 微かに動かした目に反応し、グラウスが数人部下を連れその間にサッとニンゲン達の方へ行く。
 静かにヒューイは臨戦体勢をとっている。

「他には」
 口を開いたのち、老獣人はありったけの罵詈雑言を叫び始めた。
 もういい。

 一瞬で静寂がおとずれた。

 ニンゲンの双子が、それを見ていた。
 表情もなく。
 (……このモノらは)
 何かに気づく、がそれよりも花嫁の方に向かった。

 泡を吹いて気絶しているニンゲン─手負いなのか分からない。それらを介抱して回る最初に見たメス─恐らく花嫁。ボロボロになりながらそれについて回る─恐らく侍女。

 王はそれを物珍しく見ていた。
 獣人族は繋がりが強い為、このような行為は当たり前だ。
 ニンゲンについては、階級やら偏見やらで上の者が下の者に直に触れたり何かをしたりする事は滅多に無いのだと文献などで教わった。
 現に、ついて回る侍女は彼女を何とか止めようとしているし手当される側も遠慮がちだったりする。
 (妙な生き物だな)
 王は前に歩を出した。
 それに気付いたのは侍女で、慌ててボロボロの花嫁に告げる。彼女は顔を上げ。

 パチリ、と目が合った。

 ─瞬間、2人はどこかで嗅いだ香りがした、ような気がした。

 花嫁は落ち着いて身だしなみを整え、立ち上がりニンゲン式の礼をした。
「─初めまして、誇り高き獣人の国の王さま」
 一定の距離で立ち止まり、彼は花嫁を見た。
 なんと小柄なのだろう。
 ドレスは恐らく破ったのだろう、動きやすくしてあり顔や腕、脚には軽い傷がある。まさか、戦ったと。いや、最初に見たのは3人だった。あの双子をいれると……。しばし考え込んでしまった。
 まじまじと見られているので、メティアナは流石に不思議に思い楽な姿勢に変えた。
「なにか?」
 声をかけられハッとする王。ツッコミどころは山ほどある。ありすぎる。
 が、肖像画よりも濃い琥珀色の双眸がみつめてきた。
 ─この方、アイスブルーの瞳だ……どこかで……?考えていると、王が口を開いた。
「……失礼、バルファルクから遥々来られた花嫁、よ」
 詰まってしまった。花嫁、という割には合わない身なりについ。
 気づいた彼女は照れも怒りもせず平然と身なりを改めて確かめていた。侍女は少し仏頂面だ。
「ああ、これでは私、花嫁とは言い難いですね!」
 そう言って彼女は笑った。
「どうしましょう。遅くなってしまって。恐らく皆様を待たせてしまっていますね」
 ドレスだったものをクルクルしながら、さほど心配でもなさそうに彼女は言った。
 (……なんなんだこの娘は)
 獣人であろうが、きらびやかに着飾る令嬢は多くこんな姿になれば泣き叫びもするだろうに……。
 呆れていると、侍女が倒れた馬車から力一杯大きなトランクを引っ張り出して引きずってきた。それを見た花嫁はウヘェとした顔をしているからまた不可思議だ。
「大丈夫です!!これを!持ってっ!どうかっ、教会へお急ぎくださいっ!」
 侍女はふふん!と満面の笑みだ。会場では到着を待つ客人で溢れているだろう。
 グラウスに目をやる。彼は怯えさせないように侍女の方へ近づき、一言二言交わしトランクを持った。
「ヒューイ!」
 正確に投げる。ヒューイはちゃんとキャッチしたが、何か文句を言っている。
「グラウス、この場は任せる。花嫁、こちらへ」
 王はメティアナの手を引き見た事のない獣─おそらく馬のようなものだろう─に連れて行き、乗せた。
「ヒューイ!急ぐぞ!」
 自分も乗り言い終わらないうちに走らせた。
「捕まっていろ、急ぐ」
 あ、も、うも言う間もなくメティアナはぎゅうと王にしがみついた。



 他の兵─と呼べばいいのだろうか─は獣人から獣になる者もいて、王を守るように走っている。馬よりもずっとずっと疾く静かでメティアナは目を輝かせた。好奇心がうずく悪い癖だ。
王は時折彼女をチラと観察していたが、本当に不思議な娘だと思った。何を見ても驚かず、逆にキラキラとした目で眺め叫び声ひとつ上げない。無意識に捕まっているであろう自分に対しても、なんの嫌悪も示していない。
(……妙なニンゲンだ)
悟られずにフ、と微笑う。

教会までもうすぐだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...