獣王の花嫁─ときは縁を結ぶ

しろがね はな

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3.輿入れと不穏

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 メティアナの輿入れの日も決まり、日々は早くも遅くも進んでいた。
 式は両国の国境付近にある聖堂でとりおこなわれる事になった。
 司祭は長らく大きな催しが無かった為か、内容が内容なだけに驚きつつも歴史の一端になるのならば!と誇らしげに引き受けてくれた。

 当の本人はというと、式のドレスの採寸やら宝飾品選びやらでぐったりしていた。着飾ることは慣れていないのとあまり好きでは無いため、できる限りシンプルなデザインの物を意地でとおしたのだがその為に飾り物を少しでも多く!と侍女たちや父母弟妹総出でゴリ押しされたのである。

 ─彼女の為の万が一の宝飾品なのだが、メティアナは持っていくくらいならその分を他の必要経費に回してくれとげんなりしていた。

 ひとしきり色々と終わり侍女たちも全て部屋から出して1人になった時、コンコン、と窓から軽くノックされた。
 返事を待たずに音もなくスッと2つの人影が中に入る。ぐったりした彼女を見て1人はニヤニヤ、1人は苦笑した。
「……おかえり。アイア、ギアヌ」
 むーっとしながら人影に声をかける。
 この2人。背格好、髪型、細身の体型、顔も声も殆ど区別がつかないくらい同じ。そしてほんの僅かな違いのある声音でやっと分かる中性的な見た目の少年の双子であった。
 メティアナは、はぁあああ……と長い溜息を吐き2人をうらめしそうに見る。
「ただいま~」
 ニヤニヤしていた少年アイアが明るく返す。
「おつかれさま、お茶でもいれようか?」
 苦笑していた少年ギアヌは彼女をいたわった。
「あっ、お前自分だけ良い子するなよ!ホントはクスクス笑ってたんだからな!」
 言いながらアイアは早足でティーポットの方へゆく。
「可愛らしかったから笑ってしまっただけだけど?いけない?」
 にこにこしながらギアヌも同じ方へ。
 ティーポットに手が届いたのは同時で取り合いをしている。
 そんな様子をメティアナは小さく笑いながら見ていた。

 明るい小さなティーパーティー(?)。
 2人は彼女と3人の時は敬語も使わなければ、好きなように口を聞いた。
 メティアナもそれを望んでいたので特に気にしたりはしていない。2人の存在にホッとしていた。
「それで、輿入れの時に連れてく人員は決まったの?」
 ギアヌがメティアナを見る。
 彼女は苦笑して首を振る。
「お国がお国だから、怖がってしまって。侍女長は付いてきてくれると言ったけれど、彼女も御家族がいるから断ったわ。遠い国だもの。まだ小さなお子さんと離れ離れにしたくない。護衛については数名いるけど……」
 サク、と小さなクッキーをかじる。
「別にいいじゃん、俺達が行くんだから」
 アイアが何ともなく言いながら幾つかクッキーを頬張った。
「同感。まあー……獣人て鼻が利くし隠しても無駄だから、女装くらいして堂々と行った方がいいよね」
 ギアヌはお茶をすする。
「2人とも……来てくれるの?」
 嬉しそうなメティアナに2人は破顔した。
「あったり前じゃん」
「なんの為に僕らがいるのさ」
 言い終わらないうちに、彼女は2人に抱きついた。
「ありがとう」

 この双子については後述するが、メティアナには大層な恩義があった。
 勿論、それだけではなく彼女に純粋に好感を持っている。
 2人で彼女を守る、というのは至極当然の事だった。普段は殆ど人前に出ない、所謂隠密役をかっている。
 これを知っているのは亡き母、実父のみとなる。
 継母にはどうも話してはいないらしい。
 念には念を、ということなのかもしれない。
 ただ、当の本人達は城の中や外をそのままの姿だったり、変装したりして平然と行き来していたのだ。主と同じく奔放な双子である。




 そして駆け足に日々が過ぎ、とうとう輿入れの日となった。
 シンプルめなドレスに身を包み、髪も華やかに纏め頭の半分くらいから柔らかな天鵞絨の白布を軽く留める。
 派手すぎず薄くない化粧を施され、本人はなんだか顔がむず痒い。
 アクセサリーもあちこち手馴れた様子で侍女たちが嬉しそうにパパッとつけてゆく。普段着飾らない主のため、今まで数少ない着飾りの時も我慢していたようだ。こんな事はもう出来なくなってしまう。輝かしいお祝いの─相手国の事なんて頭から抜け落ちているようだ─彼女らは目をキラキラさせて、もう二度とお世話を出来ない主に心からの幸せを込めひとつひとつの作業を丁寧に丁寧におこなってゆく。
 メティアナにとっては堅苦しい衣装ではあるが、皆の気持ちがひしひしと伝わるので有難くされるがままになって想いを受け取っていた。

「ねえさま!」
 全ての準備が終わると父と継母、弟妹そしてそれを押しのけ正装した義妹が1番に花のように可愛らしい笑顔で向かってきた。
「ねえさま、綺麗」
 ほんの少し遅れてきた弟妹達もメティアナを囲む。義妹は身だしなみを整え、天使のように祈りの形をとる。
「義姉上のご多幸を心より、ずっと願っています」
 エリシアの1つ下のおとうと・ロレンスがほんのりはにかみながら言った。
「ねーさま、にーさまホントは昨日めちゃくちゃ心配してた」
「そうそう。なんか叫んでた!」
 幼い双子の弟妹がニヤリとしながらメティアナにちくる。慌てる弟。笑う姉妹。
 (─こんなときも、もうこれが最後なのね)
 父母は温かく見守っていた。




 ********



 ぽたり、と温かいものが落ちた気がした。顔があやふやで見えない少女─背格好から─から不意に落ちたらしい。
 いつものように獣の姿で彼女を見る。
 いつしか触れられるくらい近くなった距離に、戸惑いながらもただ、様子を見ていた。
 声もあやふやだが、なぜだか穏やかになれる時間だった。
 (─悲しいのか?)
 じっと見つめるが顔は定まらないので表情が分からない。
 (泣くな)
 なぜそう思ったかは分からないが、寄り添った頭をさらに擦り寄せた。
 少女は優しく優しく彼を撫でる。
 ─わらった気がした。
 が。

 ─タスケテ

 急に声が響き、とある場所が一面に映し出された。


 と。

 そこで微睡みから急速に引き上げられる。
 胸騒ぎがする。
 急いで時計を見るとそろそろ花嫁が着く時間である。
「王!!」
 ノックも無しにアルヴェが走り込んできた。
「大変です!花嫁がまだ到着せず、偵察に行かせたところ……」

 どくん、と鼓動が嫌な音を立てる。
 王は立ち上がり、自らの剣をとる。
「反対派が花嫁の馬車だけ連れ出し、襲撃しているとの事!」
 分かっていたかのように手早く準備をする王に少し驚くが、自らも鎧と武器は身につけていた。
「ヒューイとグラウスは!」
 足早に部屋を出る。
「先に外に待機させています」
 まどろっこしい、と廊下より近くの窓から下へ飛び降りる。今は叱っている場合ではないので、アルヴェも続いた。
「場所は……」
 言いかけたところで王は頷き駆け出した。ヒューイとグラウスも獣人騎士たちを率いて続く。
「お前は先に教会へ!頼むぞ!」
 アルヴェはスっとお辞儀した。

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