獣王の花嫁─ときは縁を結ぶ

しろがね はな

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4.襲撃から

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 王は夢うつつでみた場所を思い出して獣に乗る。
 偵察の1人が告げた場所も一致していた。
 ヒューイとグラウスに場所を告げるとともに精鋭を引き連れ風のように城を後にした。
 (あの場所には覚えがある─)
 逃げ場の無い地形。



 ───見知った者たちがあちらこちらに血塗れで倒れていた。
 (……この数を)
 よく知る人物がニンゲン相手に吠えていた。
 見ると2人の若いオスと1人のメス─ボロボロだが恐らく花嫁だろう─が傷だらけになりながらも、隙のない佇まいで老獣人と対峙していた。
 (この数を3人で?)
 深く考えるのは今じゃない。
 逃げ出そうとする醜き獣に立ちはだかる。
 ビクリとした老獣人は臆しながらも怒号のような悲鳴のような声を腹から響かせた。
「お、王!ニンゲンなんぞと手を組むなぞ!愚の骨頂でありますぞ!!!」
 ─愚、か。
 冷ややかな目をやる。それ以上、やるものは無い。
 微かに動かした目に反応し、グラウスが数人部下を連れその間にサッとニンゲン達の方へ行く。
 静かにヒューイは臨戦体勢をとっている。

「他には」
 口を開いたのち、老獣人はありったけの罵詈雑言を叫び始めた。
 もういい。

 一瞬で静寂がおとずれた。

 ニンゲンの双子が、それを見ていた。
 表情もなく。
 (……このモノらは)
 何かに気づく、がそれよりも花嫁の方に向かった。

 泡を吹いて気絶しているニンゲン─手負いなのか分からない。それらを介抱して回る最初に見たメス─恐らく花嫁。ボロボロになりながらそれについて回る─恐らく侍女。

 王はそれを物珍しく見ていた。
 獣人族は繋がりが強い為、このような行為は当たり前だ。
 ニンゲンについては、階級やら偏見やらで上の者が下の者に直に触れたり何かをしたりする事は滅多に無いのだと文献などで教わった。
 現に、ついて回る侍女は彼女を何とか止めようとしているし手当される側も遠慮がちだったりする。
 (妙な生き物だな)
 王は前に歩を出した。
 それに気付いたのは侍女で、慌ててボロボロの花嫁に告げる。彼女は顔を上げ。

 パチリ、と目が合った。

 ─瞬間、2人はどこかで嗅いだ香りがした、ような気がした。

 花嫁は落ち着いて身だしなみを整え、立ち上がりニンゲン式の礼をした。
「─初めまして、誇り高き獣人の国の王さま」
 一定の距離で立ち止まり、彼は花嫁を見た。
 なんと小柄なのだろう。
 ドレスは恐らく破ったのだろう、動きやすくしてあり顔や腕、脚には軽い傷がある。まさか、戦ったと。いや、最初に見たのは3人だった。あの双子をいれると……。しばし考え込んでしまった。
 まじまじと見られているので、メティアナは流石に不思議に思い楽な姿勢に変えた。
「なにか?」
 声をかけられハッとする王。ツッコミどころは山ほどある。ありすぎる。
 が、肖像画よりも濃い琥珀色の双眸がみつめてきた。
 ─この方、アイスブルーの瞳だ……どこかで……?考えていると、王が口を開いた。
「……失礼、バルファルクから遥々来られた花嫁、よ」
 詰まってしまった。花嫁、という割には合わない身なりについ。
 気づいた彼女は照れも怒りもせず平然と身なりを改めて確かめていた。侍女は少し仏頂面だ。
「ああ、これでは私、花嫁とは言い難いですね!」
 そう言って彼女は笑った。
「どうしましょう。遅くなってしまって。恐らく皆様を待たせてしまっていますね」
 ドレスだったものをクルクルしながら、さほど心配でもなさそうに彼女は言った。
 (……なんなんだこの娘は)
 獣人であろうが、きらびやかに着飾る令嬢は多くこんな姿になれば泣き叫びもするだろうに……。
 呆れていると、侍女が倒れた馬車から力一杯大きなトランクを引っ張り出して引きずってきた。それを見た花嫁はウヘェとした顔をしているからまた不可思議だ。
「大丈夫です!!これを!持ってっ!どうかっ、教会へお急ぎくださいっ!」
 侍女はふふん!と満面の笑みだ。会場では到着を待つ客人で溢れているだろう。
 グラウスに目をやる。彼は怯えさせないように侍女の方へ近づき、一言二言交わしトランクを持った。
「ヒューイ!」
 正確に投げる。ヒューイはちゃんとキャッチしたが、何か文句を言っている。
「グラウス、この場は任せる。花嫁、こちらへ」
 王はメティアナの手を引き見た事のない獣─おそらく馬のようなものだろう─に連れて行き、乗せた。
「ヒューイ!急ぐぞ!」
 自分も乗り言い終わらないうちに走らせた。
「捕まっていろ、急ぐ」
 あ、も、うも言う間もなくメティアナはぎゅうと王にしがみついた。



 他の兵─と呼べばいいのだろうか─は獣人から獣になる者もいて、王を守るように走っている。馬よりもずっとずっと疾く静かでメティアナは目を輝かせた。好奇心がうずく悪い癖だ。
王は時折彼女をチラと観察していたが、本当に不思議な娘だと思った。何を見ても驚かず、逆にキラキラとした目で眺め叫び声ひとつ上げない。無意識に捕まっているであろう自分に対しても、なんの嫌悪も示していない。
(……妙なニンゲンだ)
悟られずにフ、と微笑う。

教会までもうすぐだ。
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