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王と王妃の為の食事部屋……というのか、やはりヴォルス特有の造りであったり飾りだったりとメティアナの興味─好奇心は尽きなかったが、お付きの獣人の侍女ファスカに窘められ大人しく座っていた。
「遅くなってすまない」
と言いながら来た王とグラウスは若干驚いた。
此処に来た時とまるで雰囲気の違う王妃の事もあるが、ニンゲン嫌いのファスカを従えしかも他に付き添いは無い。
「いいえ、少し早く来てしまっただけですので」
メティアナは椅子から立ち、軽く礼をしてにこっとした。ファスカは礼の姿勢をしたままだ。
「─では、食事を」
グラウスが王を椅子に座らせ、ファスカには楽に、と告げる。
料理が次々と運ばれる。ファスカに分からない事は素直に聞き、教えている姿も王達には内心驚いていた。
今度は小細工無しになっていた為(そのくらい気にするメティアナでもないが)何の問題もなく淡々と食事は終わった。
2人に私室まで送ってもらい、別れを告げ王と共に部屋に入った。
「ゆっくりしていてくれ。すまないが、湯を浴びてくる」
食事前までずっと執務室で話し合いをしていた為、身綺麗にする暇がなかった。
メティアナはあの後なんやかんや世話を焼かれ湯浴みもさせられたので快く返事をし、差し支えなければ部屋にあった書物を読んでもいいか聞いた。
この辺りの伝承や種族について簡単に書かれたものだったので、王は好きにすればいいと答え浴室へと向かった。
─この時点で、2人はやはり肝心なことをサラッとわすれている。
メティアナはカウチに座り込み、面白そうに頁をめくりながらバルファルク帝に言われたことをいつ話そうか……と思案していた。
ややゆっくり湯浴みをし、夜着を纏う王。
ん?と何かに気付いた……ような気がした。
部屋に戻ると、開かれた本とカウチでうたた寝している王妃がいた。
(─無理もない。今日は大変な日だったからな)
本をしまい、メティアナを抱き上げ天蓋付きの寝台へと運ぶ。
ニンゲンとは何と華奢で軽いことか。
そっとおろしたところで、メティアナが目を覚ます。
「あ、すみません、ありがとうござ……」
言いかけて目が合う。
そして、ふと。
ふと。
─というか、やっと。
2人にとってこの部屋が。
夜が。
今宵が。
何を意味するか、急速に理解した(非常に遅い)。
しばし動けない2人。ヒューイがいたら確実に笑っている。
さすがのメティアナも余裕は無い。
(だから、脱ぎ着し易い服だったのね!)
カァーッと顔が真っ赤になる。
なぜだかつられて王も真っ赤になっていた。
王は寝台に座り直し、顔を手で覆った。落ち着くようにはぁ、と息を吐く。
「……メティアナ」
初めて名を呼ばれ、そちらにも驚き返事の声が上ずった。少しずつ体を起こし、ちょこんと座り込む。
「その……私で、いや─俺でよいか」
寝台に腰掛けた王が、問いかける。
理解するまでにしばし時間がかかった。
そして理解し彼女らしくないやっと出た小さな声で
「……お、王は私で、人間でいいのですか」
逆に返した。
─確かに。妹の為、家の為、国の為……様々な覚悟をしてこの国に、この方に嫁いだ。漠然と。
それが今、急に現実的な感覚が彼女を包んでいた。
「……ヴァロム」
ボソリと王が呟く。
「俺の名だ」
ゆっくりとメティアナを見つめた。
メティアナはどきりとして、彼の目─どこかで見たアイスブルーから視線を外せなくなってしまった。
人に近い獣人の姿ではあったが、彼が何の獣人なのかはまだ分からなかった。
「……えと、あの、私のことは……お好きにお呼びください……」
「国ではなんと?」
「ぇ……家族には、ティア、とあと……」
この名で呼んでくれたのは世界でたった一人しかいなかった。
「メーテ」
先に王・ヴァロムが言った。
ハッとして目をみはる。
「え……」
何故、それを知っているのか。
王が少し笑った。
「嫌か」
聞かれ、首を横に振る。
ギッ。寝台が軽く音を立てた。
ヴァロムが彼女の方に体を向ける。
「─俺の名は、かなりの近親者と王妃のみしか知らない。昔の名もあったが」
幼名、というものだろうか。
考えようとした時に、メティアナの手に温かく大きな手が重ねられた。それはどこか緊張しているようだった。
そして、頬にもう片方の手が添えられた。
「……メーテ」
ゆっくりと2人の顔は再び、近づき契りを交わしたのだった─。
明け方も近く、ヴァロムの腕の中でうとうとしそうになっていたメティアナ。
ふと思い出した。
─そうだ。
幸福感の余韻に浸っている場合ではない。
「─ヴァロム」
モゾモゾと起き上がる。
名を呼ばれた王は目を開ける。真剣な眼差しが此方を見ていた。
「どうした」
満足な気怠げに身を預けているようだったが、メティアナは続けた。
「内密に、お話があります」
声のトーンが違う為、ヴァロムは上半身を起こし妻を見た。
「─バルファルク帝に、お気をつけ下さい」
メティアナは出発前にあった出来事を話した。恐らく、帝も話すことは百も承知だったろう。むしろそれが狙いだったとも思える。
「─帝は……この国の内乱と、王の暗殺を狙っています。私が拒否したので、これからどんな手を使ってくるか分かりません。くれぐれも油断されませんよう」
王は静かに分かった、と答えた。
やっと告げるべき事を告げられたのでホッとしていると、ヴァロムの腕が伸びてきて再び布団の中─彼の胸へと誘われた。
「……あの、聞いてました?」
メティアナはびっくりしながらも怪訝そうに聞く。
「ああ、聞いた」
夫は目を閉じ鼻先で彼女の髪を嗅ぐ。
渋い顔をしてもう一度聞いた。
「王は、ちゃんと聞いた。俺は今ヴァロムだ」
─へりくつだ。
腕に抱かれながら、ムッとはしたもののやっと伝えられた安堵で充足した気怠い眠気が襲ってくる。ああ、もう少し詳しく話さなきゃ……そう思いながらも温かな腕と体温に包まれ眠りに落ちた─。
ゆめをみた。
白い獣が少女と寄り添い合い、お互いに微笑んでいるゆめを─
「遅くなってすまない」
と言いながら来た王とグラウスは若干驚いた。
此処に来た時とまるで雰囲気の違う王妃の事もあるが、ニンゲン嫌いのファスカを従えしかも他に付き添いは無い。
「いいえ、少し早く来てしまっただけですので」
メティアナは椅子から立ち、軽く礼をしてにこっとした。ファスカは礼の姿勢をしたままだ。
「─では、食事を」
グラウスが王を椅子に座らせ、ファスカには楽に、と告げる。
料理が次々と運ばれる。ファスカに分からない事は素直に聞き、教えている姿も王達には内心驚いていた。
今度は小細工無しになっていた為(そのくらい気にするメティアナでもないが)何の問題もなく淡々と食事は終わった。
2人に私室まで送ってもらい、別れを告げ王と共に部屋に入った。
「ゆっくりしていてくれ。すまないが、湯を浴びてくる」
食事前までずっと執務室で話し合いをしていた為、身綺麗にする暇がなかった。
メティアナはあの後なんやかんや世話を焼かれ湯浴みもさせられたので快く返事をし、差し支えなければ部屋にあった書物を読んでもいいか聞いた。
この辺りの伝承や種族について簡単に書かれたものだったので、王は好きにすればいいと答え浴室へと向かった。
─この時点で、2人はやはり肝心なことをサラッとわすれている。
メティアナはカウチに座り込み、面白そうに頁をめくりながらバルファルク帝に言われたことをいつ話そうか……と思案していた。
ややゆっくり湯浴みをし、夜着を纏う王。
ん?と何かに気付いた……ような気がした。
部屋に戻ると、開かれた本とカウチでうたた寝している王妃がいた。
(─無理もない。今日は大変な日だったからな)
本をしまい、メティアナを抱き上げ天蓋付きの寝台へと運ぶ。
ニンゲンとは何と華奢で軽いことか。
そっとおろしたところで、メティアナが目を覚ます。
「あ、すみません、ありがとうござ……」
言いかけて目が合う。
そして、ふと。
ふと。
─というか、やっと。
2人にとってこの部屋が。
夜が。
今宵が。
何を意味するか、急速に理解した(非常に遅い)。
しばし動けない2人。ヒューイがいたら確実に笑っている。
さすがのメティアナも余裕は無い。
(だから、脱ぎ着し易い服だったのね!)
カァーッと顔が真っ赤になる。
なぜだかつられて王も真っ赤になっていた。
王は寝台に座り直し、顔を手で覆った。落ち着くようにはぁ、と息を吐く。
「……メティアナ」
初めて名を呼ばれ、そちらにも驚き返事の声が上ずった。少しずつ体を起こし、ちょこんと座り込む。
「その……私で、いや─俺でよいか」
寝台に腰掛けた王が、問いかける。
理解するまでにしばし時間がかかった。
そして理解し彼女らしくないやっと出た小さな声で
「……お、王は私で、人間でいいのですか」
逆に返した。
─確かに。妹の為、家の為、国の為……様々な覚悟をしてこの国に、この方に嫁いだ。漠然と。
それが今、急に現実的な感覚が彼女を包んでいた。
「……ヴァロム」
ボソリと王が呟く。
「俺の名だ」
ゆっくりとメティアナを見つめた。
メティアナはどきりとして、彼の目─どこかで見たアイスブルーから視線を外せなくなってしまった。
人に近い獣人の姿ではあったが、彼が何の獣人なのかはまだ分からなかった。
「……えと、あの、私のことは……お好きにお呼びください……」
「国ではなんと?」
「ぇ……家族には、ティア、とあと……」
この名で呼んでくれたのは世界でたった一人しかいなかった。
「メーテ」
先に王・ヴァロムが言った。
ハッとして目をみはる。
「え……」
何故、それを知っているのか。
王が少し笑った。
「嫌か」
聞かれ、首を横に振る。
ギッ。寝台が軽く音を立てた。
ヴァロムが彼女の方に体を向ける。
「─俺の名は、かなりの近親者と王妃のみしか知らない。昔の名もあったが」
幼名、というものだろうか。
考えようとした時に、メティアナの手に温かく大きな手が重ねられた。それはどこか緊張しているようだった。
そして、頬にもう片方の手が添えられた。
「……メーテ」
ゆっくりと2人の顔は再び、近づき契りを交わしたのだった─。
明け方も近く、ヴァロムの腕の中でうとうとしそうになっていたメティアナ。
ふと思い出した。
─そうだ。
幸福感の余韻に浸っている場合ではない。
「─ヴァロム」
モゾモゾと起き上がる。
名を呼ばれた王は目を開ける。真剣な眼差しが此方を見ていた。
「どうした」
満足な気怠げに身を預けているようだったが、メティアナは続けた。
「内密に、お話があります」
声のトーンが違う為、ヴァロムは上半身を起こし妻を見た。
「─バルファルク帝に、お気をつけ下さい」
メティアナは出発前にあった出来事を話した。恐らく、帝も話すことは百も承知だったろう。むしろそれが狙いだったとも思える。
「─帝は……この国の内乱と、王の暗殺を狙っています。私が拒否したので、これからどんな手を使ってくるか分かりません。くれぐれも油断されませんよう」
王は静かに分かった、と答えた。
やっと告げるべき事を告げられたのでホッとしていると、ヴァロムの腕が伸びてきて再び布団の中─彼の胸へと誘われた。
「……あの、聞いてました?」
メティアナはびっくりしながらも怪訝そうに聞く。
「ああ、聞いた」
夫は目を閉じ鼻先で彼女の髪を嗅ぐ。
渋い顔をしてもう一度聞いた。
「王は、ちゃんと聞いた。俺は今ヴァロムだ」
─へりくつだ。
腕に抱かれながら、ムッとはしたもののやっと伝えられた安堵で充足した気怠い眠気が襲ってくる。ああ、もう少し詳しく話さなきゃ……そう思いながらも温かな腕と体温に包まれ眠りに落ちた─。
ゆめをみた。
白い獣が少女と寄り添い合い、お互いに微笑んでいるゆめを─
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