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8.王と緊急会議と
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あの後、呆気にとられたままの獣人達ひとりひとりに近寄り、名前を聞いてまわったメティアナ。
褐色肌でお茶を淹れるのが上手いファスカ、髪結が好きなシハラ、流行に敏感なタリヤ、同じくお洒落に敏感なギニィ、中でも小柄で少し臆病なウェリタ。
自分の侍女も紹介し、よろしくね!と軽い軽い。
頬の傷をファスカは謝る。気にしないで、とメティアナは明るく答えた。彼女は部屋の散策を始め、侍女たちは改めて挨拶をし合って女主人の話をポソポソと質問されたり答えたりしていた。
皆には背を向け、バルコニーから景色を見ていた。
─王に早く話さなければ。必ず。
先程の表情とはうってかわり、じっと遠くを見つめていた。
物凄く肝心なことを忘れてはいたが。
*****
城に着いた早々、王は執務室で婚姻の義の前にあった事を信のおける側近達に報告をしていた。
アルヴァや王都に残した者達は駆けつけられない為、魔術を使った映像越しのやりとりとなった。
グラウスにいつの間にか戻ってきたヒューイもいた。
王は椅子に座り目を閉じて腕を組んだ。
『まさかとは思いましたが……』
『よりによってこの日、花嫁本人を……』
映像の向こうもざわついていた。
反対派がいる事は皆知っていたし、心からの賛成派がいるかといわれたら何ともいえない状況ではあった。
この婚姻自体が異例であることも、どちらかというと世界の均衡を保つ為のものであることという認識の方が強いのは、ヴォルスでも変わらなかった。
『─正直、違う方法をとられてもよかったのでは、と』
ハッキリした口調で、アルヴェの声が響いた。王はじっと耳を傾ける。
『元々、我々と違う種族。大規模に世界、を考えるより国内が納得する締結案を優先していればこのような問題はおきなかったのでは。─象徴といえど我らが誇り高き種族の王になぜニンゲンのような者と婚姻関係を結ばねばならないのか、理解しかねます!』
映像のアルヴェが言った瞬間に王が口を開いた。
「アルヴェ」
控えめな賛同の声やざわめきがどちらからも消える。
「いま、私情は聞いていない」
アルヴェは唇を少し噛み、それから失礼しました、と頭を下げた。
「─お前や、皆の言いたい事はよく分かっているつもりだ。反発が出ることも、それを納得させられなかった俺の力量不足もある。それはすまないと思っている」
皆は静かに聞いていた。
「確かに、他の方法も探した。皆にも幾つか……話を挙げた。ただ、いずれの締結案にも反対派は必ず付き物ではあった。中には過激派もいたな、我々がこの世界を支配すればよい、と」
組んでいた腕を今度は椅子の肘掛に置いて手を組む。
「─俺は、私は歴史を繰り返すつもりは無い」
少なくとも、自分が王の間は。
国内だけでなく、やる事は多い。それを少しでも減らしたかった。他種族に協力を求めるなら、大きな国を築いている人間が最も最適だと思った。この話は、自分を支持してくれている近しいもの達にはきちんと話し、時間をかけ納得させていった。
「今回の首謀者は処刑した。だが、また新たに現れるだろう」
短く息を吐く。
「それと─」
政略結婚は、自分から提案した
と王が言ったので、その場にいた者や映像の向こうのアルヴェ達は目を丸くしたまま一言も発せなかった。
「申し訳ない」
王は頭を垂れた。
『……お、王……なぜ……』
アルヴェは動揺している。
強硬策とも、速攻策ともとれる方法。
暗愚と言われかねない。
「……」
王は黙ったまま、頭を垂れている。
「まあ、いいんじゃない?」
口を開いたのはヒューイだった。
「俺らの王が浅はかに物事決める訳ないしさ」
「そうだな」
グラウスも頷いた。
2人の言葉に、周囲はやっと時が動き出し口々にそうか、そうだよな……と言い合った。
ただ1人、アルヴェだけは納得しながらも渋い顔をしていたが。
口数が少ない王の意を汲み取るのが上手く、代わりに和ませたりするのがヒューイの得意なことだった。それはアルヴェもグラウスも認めている。
『──とりあえずは、その事についてまたお話を。こちらはこちらで、反乱分子を再度改め探りを入れ、様子を窺います』
1度咳払いをしてから、アルヴェは通常に戻った。
「─助かる」
王も礼をいう。
『それから、其方もまだ警戒を怠らないようお願いします』
これには代表してグラウスが返事をした。共に居たもの達も、身を引きしめ顔を見合い頷いた。
外はいつの間にか日が落ちていた。
「ねー、グラウス……」
ヒューイがグラウスに耳打ちをする。表情は大きく変えないが、何かに気付いたグラウス。─そして、察しのいいアルヴェ。その他大勢。
『では、本日報告はこのあたりで。よろしいですね。王』
アルヴェの言葉に、王は顔をあげる。
『今回の件はきちんと、話して頂きますからね。あと、その情けない顔を戻してください!では!!!』
半ば強引に映像を切られ、面くらう王。グラウスの背でくっくっと笑うヒューイ。なぜか落ち着かない周囲。
状況が整理出来ず、ぱちくりしている王にグラウスは夕餉を促した。勿論、皆にも。
皆はどこか取り繕うような、なんだかぎこちないような浮き足立つような感じで、グラウスの許可により足早に執務室から我先にと出ていった。
「……」
呆気に取られている王に、グラウスは言った。
「花嫁をおひとりでお食事させるのですか?」
王はやっと思い出したようにハッとした。
「お部屋まで」
そう言って、王とグラウスは執務室を出ていったのだった。
それをずっと見ていたヒューイはもう堪えきれずブハーッと吹き出して床に転げるくらい笑った。
『……ヒューイ…』
小さな映像が再び繋がる。今度は向こうにアルヴェしかいない。
「いやぁ!だって……ね?アルヴェもわかるでしょ」
『……ええ』
どうやら溜め息をついている。
「あ、そうだ!アルヴェに話しておこうと思って」
少し落ち着いたヒューイは、面白そうに今日きいていた花嫁の様子のことを伝えだしたのだった。
*****
褐色肌でお茶を淹れるのが上手いファスカ、髪結が好きなシハラ、流行に敏感なタリヤ、同じくお洒落に敏感なギニィ、中でも小柄で少し臆病なウェリタ。
自分の侍女も紹介し、よろしくね!と軽い軽い。
頬の傷をファスカは謝る。気にしないで、とメティアナは明るく答えた。彼女は部屋の散策を始め、侍女たちは改めて挨拶をし合って女主人の話をポソポソと質問されたり答えたりしていた。
皆には背を向け、バルコニーから景色を見ていた。
─王に早く話さなければ。必ず。
先程の表情とはうってかわり、じっと遠くを見つめていた。
物凄く肝心なことを忘れてはいたが。
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城に着いた早々、王は執務室で婚姻の義の前にあった事を信のおける側近達に報告をしていた。
アルヴァや王都に残した者達は駆けつけられない為、魔術を使った映像越しのやりとりとなった。
グラウスにいつの間にか戻ってきたヒューイもいた。
王は椅子に座り目を閉じて腕を組んだ。
『まさかとは思いましたが……』
『よりによってこの日、花嫁本人を……』
映像の向こうもざわついていた。
反対派がいる事は皆知っていたし、心からの賛成派がいるかといわれたら何ともいえない状況ではあった。
この婚姻自体が異例であることも、どちらかというと世界の均衡を保つ為のものであることという認識の方が強いのは、ヴォルスでも変わらなかった。
『─正直、違う方法をとられてもよかったのでは、と』
ハッキリした口調で、アルヴェの声が響いた。王はじっと耳を傾ける。
『元々、我々と違う種族。大規模に世界、を考えるより国内が納得する締結案を優先していればこのような問題はおきなかったのでは。─象徴といえど我らが誇り高き種族の王になぜニンゲンのような者と婚姻関係を結ばねばならないのか、理解しかねます!』
映像のアルヴェが言った瞬間に王が口を開いた。
「アルヴェ」
控えめな賛同の声やざわめきがどちらからも消える。
「いま、私情は聞いていない」
アルヴェは唇を少し噛み、それから失礼しました、と頭を下げた。
「─お前や、皆の言いたい事はよく分かっているつもりだ。反発が出ることも、それを納得させられなかった俺の力量不足もある。それはすまないと思っている」
皆は静かに聞いていた。
「確かに、他の方法も探した。皆にも幾つか……話を挙げた。ただ、いずれの締結案にも反対派は必ず付き物ではあった。中には過激派もいたな、我々がこの世界を支配すればよい、と」
組んでいた腕を今度は椅子の肘掛に置いて手を組む。
「─俺は、私は歴史を繰り返すつもりは無い」
少なくとも、自分が王の間は。
国内だけでなく、やる事は多い。それを少しでも減らしたかった。他種族に協力を求めるなら、大きな国を築いている人間が最も最適だと思った。この話は、自分を支持してくれている近しいもの達にはきちんと話し、時間をかけ納得させていった。
「今回の首謀者は処刑した。だが、また新たに現れるだろう」
短く息を吐く。
「それと─」
政略結婚は、自分から提案した
と王が言ったので、その場にいた者や映像の向こうのアルヴェ達は目を丸くしたまま一言も発せなかった。
「申し訳ない」
王は頭を垂れた。
『……お、王……なぜ……』
アルヴェは動揺している。
強硬策とも、速攻策ともとれる方法。
暗愚と言われかねない。
「……」
王は黙ったまま、頭を垂れている。
「まあ、いいんじゃない?」
口を開いたのはヒューイだった。
「俺らの王が浅はかに物事決める訳ないしさ」
「そうだな」
グラウスも頷いた。
2人の言葉に、周囲はやっと時が動き出し口々にそうか、そうだよな……と言い合った。
ただ1人、アルヴェだけは納得しながらも渋い顔をしていたが。
口数が少ない王の意を汲み取るのが上手く、代わりに和ませたりするのがヒューイの得意なことだった。それはアルヴェもグラウスも認めている。
『──とりあえずは、その事についてまたお話を。こちらはこちらで、反乱分子を再度改め探りを入れ、様子を窺います』
1度咳払いをしてから、アルヴェは通常に戻った。
「─助かる」
王も礼をいう。
『それから、其方もまだ警戒を怠らないようお願いします』
これには代表してグラウスが返事をした。共に居たもの達も、身を引きしめ顔を見合い頷いた。
外はいつの間にか日が落ちていた。
「ねー、グラウス……」
ヒューイがグラウスに耳打ちをする。表情は大きく変えないが、何かに気付いたグラウス。─そして、察しのいいアルヴェ。その他大勢。
『では、本日報告はこのあたりで。よろしいですね。王』
アルヴェの言葉に、王は顔をあげる。
『今回の件はきちんと、話して頂きますからね。あと、その情けない顔を戻してください!では!!!』
半ば強引に映像を切られ、面くらう王。グラウスの背でくっくっと笑うヒューイ。なぜか落ち着かない周囲。
状況が整理出来ず、ぱちくりしている王にグラウスは夕餉を促した。勿論、皆にも。
皆はどこか取り繕うような、なんだかぎこちないような浮き足立つような感じで、グラウスの許可により足早に執務室から我先にと出ていった。
「……」
呆気に取られている王に、グラウスは言った。
「花嫁をおひとりでお食事させるのですか?」
王はやっと思い出したようにハッとした。
「お部屋まで」
そう言って、王とグラウスは執務室を出ていったのだった。
それをずっと見ていたヒューイはもう堪えきれずブハーッと吹き出して床に転げるくらい笑った。
『……ヒューイ…』
小さな映像が再び繋がる。今度は向こうにアルヴェしかいない。
「いやぁ!だって……ね?アルヴェもわかるでしょ」
『……ええ』
どうやら溜め息をついている。
「あ、そうだ!アルヴェに話しておこうと思って」
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