獣王の花嫁─ときは縁を結ぶ

しろがね はな

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7.ニンゲン王妃

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 私は、ヴォルス王に話すわ─

 たとえこの身がどうなろうと、せっかくの平和を壊させる訳にはいかない。

 少々遅れて聖堂を出たのでヴォルスの者達が冷ややかな目をしていた。が、そんな程度にはビクともしないメティアナである。申し訳ありません、気持ちを落ち着けるのに時間がかかりましてと顔をつくり謝る。護衛や侍女達はハラハラしながら荷物を載せたり移動する生き物に恐る恐る乗っていた。
 メティアナは王の元へと真っ直ぐに向かった。

 王は当たり前のように手を差し出し、メティアナを自らの獣に誘った。
「ゆくぞ」
 王の声と共に、一行はヴォルス領の聖堂から1番近くにある城(兼砦)に向かった。
 静かに疾い獣はやはりメティアナを好奇心でいっぱいにした。
 ─と。
「なにか、あったか」
 低い囁きがメティアナを引き戻す。何ともない表情をして、ただにこ、と微笑んだ。王はそれ以上追及せず、獣をはしらせた。




 半刻もしないうちに、目的地へ辿り着く。石造りの立派な建物だ。デザインで競う人間と違い、砦でもあるらしいので動線を意識したのではないかという城だった。
 王はメティアナの手を取り、城内に入る。やはり、といえばそうなのだがあまり歓迎ムードは無く奇異の目で見られているのを体全体で感じた。
 (まあ、そんなもんよね)
 想定内……というか、本人はあまり気にしない性質たちなので平然としているが、出来るだけ少なくした護衛や侍女たちはビクビクしていた。

 頭を垂れ腰を低くしている数人(?)の獣人たちが現れた。
「お待ちしておりました、王……と王妃」
 その間はなんだと吹き出しそうになったメティアナだったが、何とか堪える。
 王の側近、ヒューイはそれを見逃さずにやりとしていた。
 全く気づかない王は、獣人達を紹介し始める。
「……この者たちは、そなたの世話係をつとめる。─ケリヤ」
 名を呼ばれた者が返事をし、前に出る。
「初めまして、ケリヤと申します。こちらの国でのお世話のお手伝いをさせていただきます」
 大根役者よろしくの感情のこもらない言い方に、付いてきた侍女達は怒りをあらわにしたがメティアナが制す。
「よろしく頼みます、ケリヤ。此方の作法は学びましたが万が一失礼があったらごめんなさいね」
 軽やかに返す王妃。目は笑っていない。
 ケリヤと残りの世話係たちは、どこか悔しさを匂わせた。
 (へーぇ、やるじゃーん)
 ヒューイは相変わらず面白そうに見ていた。同じく側近のグラウスは少々驚いたようだった。

 その後、王に導かれ世話係と共に専用の居室に向かった。

「しばらく此処に滞在する。なにか要望があれば世話係に言ってくれ。私は少し外す。夜には戻る」
 そう言って王と護衛たちは部屋を出て行った。


 ─と。
 確実に王が耳に入らない距離になったのを見計らって、獣人の世話係たちはあからさまな態度をとり始めた。
「あぁ、此処は何だか臭いわぁ、この国で流行っている香料を焚きましょうか」
 そうね、とお香なのか何なのかを用意している間にティーセットを持った褐色肌の獣人の侍女がスタスタ歩いてくる。無論、メティアナの侍女は険しい顔をしている。
 慣れた手つきでカップに茶を注ぐ。毒味無しで差し出そうとするものだから、侍女長が慌て間に入る。
「?なにか?こちらを王妃に。ひと息疲れては、と思い」
「毒味を!先に毒味をするのが基本です!」
 侍女長もこればかりは譲れない。
「あら、まさかワタシが毒を盛ったとでも?あぁ、ニンゲン様はか弱いから」
 クスクス侍女達がわらっている。
 メティアナはというと軽装に変え、わあーこれが女の争いかあと感心してみている。
 香が焚かれたようで、酷く不快な匂いが漂う。獣人の侍女達とメティアナの侍女達がまたも言い争っている。
 メティアナはやれやれといった感じで立ち上がり、まずティーカップを手にとる。
「!いけません!」
 気にせず適温なのを確かめクッと飲んだ。これには獣人の侍女も目を丸くしている。侍女は真っ青だ。
「─グリアリとサパのお茶かしら?疲れを取るっていう」
 ふむ、とまた口をつけ飲み干した。
「ご馳走様。あなた、お茶をいれるのが上手いのね。とても飲みやすかったわ、ありがとう。で、あなたの名前は?」
 メティアナが言うと、獣人の侍女はたじろいだ。何故ならこのお茶はかなり野性的な苦味のする物だからだ。それを平然と飲み干したこのニンゲン……。
「ファ、ファスカ……です……」
「ファスカ、ね」
 頭からつま先までサッと見る。
「ファスカ、あなた本当に侍女?勇敢なる戦士にも見えるのだけど」
 図星だったようで、ファスカは視線を逸らした。
「護衛でも居てくれるのね、ありがとう。しかもお茶をいれるのも上手いなんて羨ましいわ」
 ─バン!
 トレイを叩きつけたファスカは、わなわなとしてメティアナを睨んだ。
「─馬鹿にしてるのか!」
 敬語もないが、言葉にきょとんとするニンゲンの王妃。侍女達はヒッと身をすくめた。
「馬鹿に?何故?私があなたを馬鹿にしなくてはならないの?」
 やや微笑んだメティアナは真っ直ぐに相手を見た。

 念の為扉の外に控えていたヒューイは少しハラハラして聞き耳を立てていた。気配は消している。

「~~~~っ!!」
 言葉にならない憤りと興奮で一気に獣へと姿を変え、メティアナへと鋭い爪の付いた腕を振った。
 流石に他の獣人の世話係達も止めに入る。
 ぽたり、と赤い雫が垂れる。
 それを見たファスカも含めた全員が、ハッとする。
 メティアナは微動だにせず、ファスカを見ていた。
 ─片頬に細く短い線が付いて、そこからじわり、とまた赤いものが滲んでくる。
「……誇りを持って生きていらっしゃるのでしょう?ヴォルスの方々は皆、そう在ると学びました。たとえどんな身分であろうと身の回りの事はご自分でなさるのが常。素晴らしいと思います。
 ……非力な人間を王妃に迎えるという前代未聞の困った政略結婚……納得出来ないのは当たり前でしょう」
 はぁ、とため息をつく。
「私も散々失礼では無いのかと思いました。けれど、この国、しいては世界の民の為に平和が保たれるのなら。貧困や暗いことが無くなるのなら。そう覚悟を決めて私もこの場に立っています」
 しん……となる空間。獣人の侍女達も動けずにいた。
「─まあ、なんてのは大義名分、いえ、事実ではありますが、どのような方々がいらっしゃるのか!どのような思想なのか!どのような暮らしをなさっているのか!どのような文化なのか……それを知りたい気持ちの方が大きいですね!文書では分かりませんから……百聞は一見にしかず!どんな日々が待っているのか大変に楽しみにしてまいりました!」

 ぱん、と軽く手を叩きキラキラの目でにっこりとした。
 拍子抜けする獣人の侍女たち。
 それとは反対に頭を抱える侍女たち。
「それに、獣人の方々は皆、美しいのですね!」
相変わらずよく分からないこのニンゲンの王妃に、思わず口を開いたのは獣より人に近い姿に戻ったファスカ。想像だにしなかったのだろう。
「う、うつくしい……?」
他の獣人たちも呆気にとられていた。

扉向こうの身を潜めているヒューイも、目を丸くしていたのだった。

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