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30話 何も知らない無垢なる聖女は
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アバローナ王国後宮。
その一角、朝日が差し込む聖堂内に聳え立つ星の女神『ステッラ』の女神像の膝元に、両手を組んで跪く姿が一人。
純白に金刺繍で縁取られた聖衣を纏い、――他の人間と比べてもやや黄色を帯びた肌に、艶やかな黒髪は短く整えられていると言う、他に類を見ない容姿。
「――星の女神ステッラよ、聖女『カナコ・ホシノ』の名において祈りを捧ぐ。息吹け微風、咲き誇れ生命、慈しみを以て、この地に愛をもたらしたまえ――」
謳い、真摯に祈りを捧げるその姿は、差し込まれる朝日が後光となり、まるで女神に祝福を受けているかのように輝く。
祈りを終えて、聖女――カナコは女神像に一礼してから、静かに聖堂を後にしていく。
「……ふぅ」
聖堂を出て、カナコは息を吐いた。
――ブラック企業で心身共に使い潰されるだけの、社畜以下の何かだった自分は、飲み会にも合コンにもいけず、自宅と会社と閉店間際のスーパーを行き来するだけの毎日。
そんな自分の唯一の楽しみは、寝る前に投稿小説サイト『小説屋になろう』に投稿されている小説を読むことだった。
ヒロインとイケメン王子のやり取りを読み、脳内アニメを脳内再生して、甘酸っぱい気持ちになって尊みを感じたりすることで、生きる原動力……と言うより、精神安定剤のようなものにしていた。
が、例によって例のごとく暴走したタクシーに跳ね飛ばされて死亡……いやブラック企業で過労死?いやもしかしたら通り魔に刺殺された?とにかく死因はよく覚えていないままに人生終了のお知らせですしたと思いきや、例によって例のごとく異世界転生し、例によって例のごとく王国の聖女として召喚された。
小説屋になろう、それも"イセコイ“ジャンルを好き好んで読んでいた世界に酷似しているこれは、例によって例のごとく完全にテンプレだった。
例によって例のごとくテンプレ通りのイセコイの異世界転生なら、聖女として転生したら、"真の聖女“を自称する悪役聖女が自分を陥れて、第一王子から婚約破棄されたところをイケメンの隣国王子や公爵令息にプロポーズされたり、あるいは龍人や鬼人と言った亜人から運命の番として見初められたりして溺愛される日々を送る中で才能開花して、凋落していく悪役聖女と第一王子を"ざまぁ“してハッピーエンド、二人は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。ありがとおございました。……と、思っていたのだが。
"真の聖女“を自称する悪役聖女はおらず、"フルス“第一王子の婚約者は自分ではなく、"アイリス“と言うアッシュブロンドのお嬢様結びが美しい、公爵令嬢だった。
アイリスは心優しく聡明かつ品行方正と言う、ハーレム系ラノベやアニメならメインヒロインとしてタイトルの中心を飾りそうな、正統派美少女。
しかも御家は清廉潔白かつ実直な家柄だと言う、まさに絵に描いたような"お嬢様“で、異世界人である自分にも良くしてもらった。
どうやらこの世界は、なろう系のテンプレ通りの展開では無さそうだが、しかし聖女としてのお役目は真面目にこなしていく日々を過ごす中で、ある日いきなりのことだった。
『アイリス公爵令嬢は、常日頃から自らの爵位をひけらかし、他の貴族達や市民への嫌がらせや理不尽な押収を繰り返し、いつもそれを隠蔽していたが、とうとうそれが明るみになり、その責を問われて追放処分となった』……と、フルス殿下から聞かされた。
その関係からフルス殿下はアイリスに婚約破棄を言い渡し、それ以降彼女の行方を知る者はいない。
果たして本当にそうなのだろうか。
自分はアイリスに嫌がらせを受けたことなど一度も無かったし、自分の前では爵位をひけらかすような真似などしていなかった。
何かの間違いでは無いのか、と一度は疑問に思ったし、自分なりに真偽を確かめようともした。
けれどそれから時を置かずして、またしても事件は起きた。
『アイリスの御家たる"エイルブルー“公爵家もまた、隠蔽していた数々の汚職が白日の元に晒され、当主『ベルナルド・エイルブルー』と関係者らの身柄も拘束されたことで、エイルブルー公爵家及びそれら分家も取り潰しとなった』……と、フルス殿下から聞かされた。
二回ともフルス殿下から又聞きしただけなので、本当にそうなのかと自分でも確かめようとしたものの、後宮内ではエイルブルー公爵家に関する事柄に対して箝口令が敷かれているのか、宮仕えの侍女達からこっそり聞いた内容も、エイルブルー公爵家は取り潰しになったと言う結果しか聞けなかった。
何かおかしい。
そう思いはしたものの、自分ではそれを調べるための術も伝手も無い。
溺愛してくれるフルス殿下に、それとなくアイリスのことを訊こうとしても、のらりくらり躱されるばかり。
まさか王国は、エイルブルー公爵家が存在していたことすら無かったことにして、歴史の闇に葬るつもりなのか?
そうでなければ、こうまで徹底的に隠匿しようとは思わないだろう。
だとしたら、何故そこまでする必要があるのか?
謎や疑問は絶えないが、とにもかくにも聖女としてのお役目を果たすことは怠ってはならない。
だから今日も女神像の前で祈りを捧げる。
少しでもこの王国が豊かで美しい国になりますようにと――。
その一角、朝日が差し込む聖堂内に聳え立つ星の女神『ステッラ』の女神像の膝元に、両手を組んで跪く姿が一人。
純白に金刺繍で縁取られた聖衣を纏い、――他の人間と比べてもやや黄色を帯びた肌に、艶やかな黒髪は短く整えられていると言う、他に類を見ない容姿。
「――星の女神ステッラよ、聖女『カナコ・ホシノ』の名において祈りを捧ぐ。息吹け微風、咲き誇れ生命、慈しみを以て、この地に愛をもたらしたまえ――」
謳い、真摯に祈りを捧げるその姿は、差し込まれる朝日が後光となり、まるで女神に祝福を受けているかのように輝く。
祈りを終えて、聖女――カナコは女神像に一礼してから、静かに聖堂を後にしていく。
「……ふぅ」
聖堂を出て、カナコは息を吐いた。
――ブラック企業で心身共に使い潰されるだけの、社畜以下の何かだった自分は、飲み会にも合コンにもいけず、自宅と会社と閉店間際のスーパーを行き来するだけの毎日。
そんな自分の唯一の楽しみは、寝る前に投稿小説サイト『小説屋になろう』に投稿されている小説を読むことだった。
ヒロインとイケメン王子のやり取りを読み、脳内アニメを脳内再生して、甘酸っぱい気持ちになって尊みを感じたりすることで、生きる原動力……と言うより、精神安定剤のようなものにしていた。
が、例によって例のごとく暴走したタクシーに跳ね飛ばされて死亡……いやブラック企業で過労死?いやもしかしたら通り魔に刺殺された?とにかく死因はよく覚えていないままに人生終了のお知らせですしたと思いきや、例によって例のごとく異世界転生し、例によって例のごとく王国の聖女として召喚された。
小説屋になろう、それも"イセコイ“ジャンルを好き好んで読んでいた世界に酷似しているこれは、例によって例のごとく完全にテンプレだった。
例によって例のごとくテンプレ通りのイセコイの異世界転生なら、聖女として転生したら、"真の聖女“を自称する悪役聖女が自分を陥れて、第一王子から婚約破棄されたところをイケメンの隣国王子や公爵令息にプロポーズされたり、あるいは龍人や鬼人と言った亜人から運命の番として見初められたりして溺愛される日々を送る中で才能開花して、凋落していく悪役聖女と第一王子を"ざまぁ“してハッピーエンド、二人は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。ありがとおございました。……と、思っていたのだが。
"真の聖女“を自称する悪役聖女はおらず、"フルス“第一王子の婚約者は自分ではなく、"アイリス“と言うアッシュブロンドのお嬢様結びが美しい、公爵令嬢だった。
アイリスは心優しく聡明かつ品行方正と言う、ハーレム系ラノベやアニメならメインヒロインとしてタイトルの中心を飾りそうな、正統派美少女。
しかも御家は清廉潔白かつ実直な家柄だと言う、まさに絵に描いたような"お嬢様“で、異世界人である自分にも良くしてもらった。
どうやらこの世界は、なろう系のテンプレ通りの展開では無さそうだが、しかし聖女としてのお役目は真面目にこなしていく日々を過ごす中で、ある日いきなりのことだった。
『アイリス公爵令嬢は、常日頃から自らの爵位をひけらかし、他の貴族達や市民への嫌がらせや理不尽な押収を繰り返し、いつもそれを隠蔽していたが、とうとうそれが明るみになり、その責を問われて追放処分となった』……と、フルス殿下から聞かされた。
その関係からフルス殿下はアイリスに婚約破棄を言い渡し、それ以降彼女の行方を知る者はいない。
果たして本当にそうなのだろうか。
自分はアイリスに嫌がらせを受けたことなど一度も無かったし、自分の前では爵位をひけらかすような真似などしていなかった。
何かの間違いでは無いのか、と一度は疑問に思ったし、自分なりに真偽を確かめようともした。
けれどそれから時を置かずして、またしても事件は起きた。
『アイリスの御家たる"エイルブルー“公爵家もまた、隠蔽していた数々の汚職が白日の元に晒され、当主『ベルナルド・エイルブルー』と関係者らの身柄も拘束されたことで、エイルブルー公爵家及びそれら分家も取り潰しとなった』……と、フルス殿下から聞かされた。
二回ともフルス殿下から又聞きしただけなので、本当にそうなのかと自分でも確かめようとしたものの、後宮内ではエイルブルー公爵家に関する事柄に対して箝口令が敷かれているのか、宮仕えの侍女達からこっそり聞いた内容も、エイルブルー公爵家は取り潰しになったと言う結果しか聞けなかった。
何かおかしい。
そう思いはしたものの、自分ではそれを調べるための術も伝手も無い。
溺愛してくれるフルス殿下に、それとなくアイリスのことを訊こうとしても、のらりくらり躱されるばかり。
まさか王国は、エイルブルー公爵家が存在していたことすら無かったことにして、歴史の闇に葬るつもりなのか?
そうでなければ、こうまで徹底的に隠匿しようとは思わないだろう。
だとしたら、何故そこまでする必要があるのか?
謎や疑問は絶えないが、とにもかくにも聖女としてのお役目を果たすことは怠ってはならない。
だから今日も女神像の前で祈りを捧げる。
少しでもこの王国が豊かで美しい国になりますようにと――。
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