81 / 1,197
第四節「慢心 先立つ思い 力の拠り所」
~変容と魔剣~
しおりを挟む
栃木県南部にて出現した、『あちら側』の人間の国である【フェノーダラ王国】。
その存在を知った勇達は急遽赴く事になったのだが……
幸か不幸か、フェノーダラ王に気に入られた勇は日本政府との交渉役に任命される事に。
同時に、勇は現地に展開していた自衛隊を率いる福留という老人とも知り合う事となる。
勇を間に据えた事で、日本政府とフェノーダラ王国の交渉は順調に終わりを遂げ。
勇達は剣聖と別れた後、福留に送られて一旦の帰宅を果たす。
こうしてフェノーダラ王国出現という問題は、日本政府の後ろ盾の下で一時収束を迎えたのだった。
勇達がフェノーダラ王達や福留と出会った日の翌日。
関東中の空を僅かな湿り気を纏った雲が覆い包む。
六月中旬ともなれば梅雨の真っ最中ともあり、そんな天気も珍しくは無い。
ただ先日がまるで勇達を誘ったかの様に偶然晴れ間を覗かせていただけに過ぎなかったのだから。
そんな曇り空の下、東京の中心区。
その一角に、背は低くともひと際目立つ建屋が存在する。
周囲をガラスの壁で覆い、鏡の様に磨かれ外装は空の景色を克明に映し出し。
建物の周囲は堅牢な外壁で囲まれ、常に警官と思しき青の制服を纏う者達が敷地を守る様に辺りを伺っていた。
そんな建屋の中、とある一室―――
「―――以上が、先日分の報告書になります」
格式を感じさせる様相を誇る部屋の中央に、あの福留の姿があった。
物腰こそ低いが語る姿は堂々としたもので。
胸を張って事に挑み、先日にも見せていた笑顔を浮かべ、緩やかながら自信を含んだ迷いの無い口調で言葉を連ねる。
「ご苦労様です、福留さん」
そんな彼の前には、堅牢そうな机を挟んで高価な皮製のワークチェアに腰を降ろす一人の人物の姿が。
体付きは僅かに丸みを帯びるが、節々の動きには独特の機敏さが見られ。
スーツを着こなす様はシワ一つ一つに意識を向けているかのようにしなやか。
それでいて福留にそう返す声は同等の緩やかさを誇り。
体付きと打って変わり、面立ちはシワこそあれど引き締まりを感じさせてならない。
その姿は、テレビなどのメディアを日々賑わせる程に露出を見せる人物そのもの。
彼の名は鷹峰 雄造。
日本国総理大臣の肩書を持つ、この国の代表者たる存在である。
「それで福留さん、実際に現地に赴いてみてどうでしたか?」
「ええ、実に不可解そのものでした。 先ずは渋谷・目黒ですが、その一帯を覆う植物はまず間違いなく現代のそれと全く異なる種です。 主要な個体は形から見て恐らくシダ植物系が進化を遂げた種かと。 専門家ではないのでハッキリとは言い切れませんが」
しかしそう語る口調にも戸惑いは見られない。
そう言い切れたのは確証に近い情報を得ているから故の発言なのだろう。
「既に動物や昆虫類が外部に拡散している様ですので、早急な対策が必要かと思われます。 それと最も際立って不可解な事が一つ……」
鷹峰が「ふぅむ」と鼻を鳴らして机に肘を突く中、福留が手に持った鞄から一枚の資料用紙を取り出してはそっと差し出した。
「これは現地調査時に撮った写真です」
資料に印刷されていたのは電線の切断面。
でもただの電線ではない。
植物と混ざり合い、内部までもが溶けあう様にして一体化した電線である。
「ご覧になればわかると思いますが、電線と植物が見事に融合しています。 しかも送電には一切の影響を及ぼさず、水分もしっかり吸い込みます。 まるで生体電線へと進化したかの様に」
「これはなんと……」
これにはさすがの鷹峰も驚きを隠せない。
目の前に出された資料が余りにも非現実的過ぎて。
創作物の設定資料を出されているのではないか……そうとしか思えぬ程に異様だったのだから。
電気とは、流れやすい性質を持った物質に向けて流れていく特性を有している。
まるで坂道に向けて流した水の様に。
しかし流した水はたちまち坂一杯に広がって勢いは止まってしまうだろう。
それを防ぐ為にはどうするか。
答えは簡単、容器を通して流せばいい。
電線もそれと同じだ。
絶縁体の皮膜チューブ、つまり電気を通さない物質で覆っているのである。
そうする事で電線を通して各施設に多量の電気を送り続ける事が出来るのだ。
だが植物はそれと異なり、非常に電気を通しやすい性質を持っている。
中には通さない植物もあるだろうが、少なくとも福留達が知る範囲では存在していない。
水ともなればもはや言わずとも知れた事だろう。
そういった性質を持ったものに覆われてしまったのにも拘らず、送電は滞るどころかなお続けられ。
しかも漏電する事無く、変容する前と状況はほぼ変わってはいない。
それが明らかに科学的根拠も物理法則をも無視した現象だからこそ、二人はただただ頭を悩ます他無かったのだ。
これは科学者でなければ理解すら不可能な出来事なのだから。
「サンプルは既に研究機関へ搬送、現在調査中との事ですが……恐らくまともな答えは返ってこないでしょうな」
福留の言う〝まとも〟とは詰まる所〝現実的な答え〟の事。
魔者から始まり、フェノーダラ王国や魔剣といった事実を知ったから。
今の彼にはその結果を予期する事など、考える必要も無い程に容易い。
鷹峰も福留の事を信用しているのだろう、深くを訊く事も無く。
目の前に提出された非現実的な資料を前に頭を抱える様を見せる。
「今回の事件は正直に言えば何もかもが非現実的。 ありとあらゆる物理法則を無視した現象が起きたと言わざるを得ません。 これを解決するには現代の科学知識でもどれだけ膨大な時間が掛かるか計り知れないでしょう」
「つまり、変容が起きた地区は当面このままという訳ですか。 いやはや、これは大変な問題ですねぇ」
「ええ。 幸いエネルギーインフラは維持出来ていますので、再利用という形であれば復旧に時間は掛からないかもしれません。 こうポジティブに捉えていくしかないでしょうなぁ」
例え魔者が居なくなろうとも、青々しく茂った渋谷が元の姿に戻る訳でも無く。
むしろ問題は解決には遠く山積み、それらを克明に記載した報告書類も山積み。
国のトップたる鷹峰からしてみれば、非現実的な事象も目の前の現実も、恐ろしい余りに顔を背けたくなる程だ。
しかしそうもいかない立場だからこそ、嫌でも手を付けなければならず。
福留から提出された報告書の一部を手に取り、連なる文字に頭を悩ませていた。
「それと先日手に入れました魔剣の処遇ですが、然るべき研究機関への調査を依頼しました」
「ふむ。 それで何かわかりましたか?」
魔剣の存在は、数多い問題の中に並ぶ数少ない朗報の一つ。
気落ちしていた鷹峰もその事に興味を示し、書類を置いて福留を見上げる。
「それがですね……報告書曰く『刀身の殆どが黄銅で構成され、刃部のみ粗鉄。 外装部も黄銅と一部金が使用されています。 また一部炭素系鉱石を使用。 製造年代不明の古い飾太刀』だそうです。 ちなみに放射線等の観測は見られずという話でした」
福留が報告書のコピーを鞄から取り出し提示すると、それを総理が受け取り興味深く目を通していく。
だが彼の言った通りのデータが羅列するのみで目ぼしい情報は見られず。
思わず鷹峰の口元が「へ」の字を描いていて。
「つまり〝彼等〟が言う程の力を持つ様な武器ではない、そういう事なのかな?」
「そうかもしれません。 ですが、我々には観測出来ないスピリチュアル的な力が掛かっている可能性もありますし、一概にもそうとは言い切れませんがねぇ」
非現実的な世界の人間が持つ武器なのだから、火を吹いたり電撃を放つなどといった特殊な武器などとでも予想していたのだろう。
実際、ちゃなが光球を放った所も証拠映像として残っており、実際にそういう事が出来る武器なのではないかという認識があるからこそ。
しかしその結果は〝ただの飾太刀〟。
報告書の山にまた一つ新しい書類を積むだけとなった残念な結果に、期待を裏切られた鷹峰の落胆は計り知れない。
分析の結果は確かに残念とも言えるだろう。
それでも福留はフェノーダラ王や勇達が嘘を付いているとは欠片も思っていない。
彼等と直接対話を行った事で、信用に足る存在であると認識したからだ。
『あちら側』の人間が『こちら側』の人間と同じ思考パターンを有しているとは限らない。
世界も違えば文化も違い、物事の価値観も大きく異なる。
人生経験を多く積んで来たであろう福留が読み切れぬ程に違うかもしれない。
でも何故あの様に会話を交わし、互いに納得する事が出来たのか。
そこにはきっと文化も考え方も関係は無かったのだろう。
それが言葉の通じないはずの相手と会話が出来る命力という力の成せる業。
勇を通して彼等の心の在り方を知る事が出来たからこそ、福留は自然と信じる事が出来たのだ。
「そこで、サンプルを直接使用して少し試したい事がありまして。 その為の許可を頂きたいのです」
「わかりました。 その件に関しては福留さんに一任しておりますので……どうかよろしくお願いいたします」
総理の丁寧な口調から滲み出るのは、福留に向けられた深い信頼。
まるで馴染みの様な、そんな雰囲気すら漂わせる。
互いが微笑みを向け合う様は、政治仲間というよりはむしろ友人同士と言った方が近いだろう。
福留の抱える鞄にはもう書類は残っていない。
全ての報告を終えた福留が一礼を送り、そっと踵を返す。
するとその時、福留の背後からゆるりとした声が不意に上がった。
「そうだ、今夜一杯如何ですか?」
その声に気付いた福留が振り返ると、そこにはお猪口を持った風の手を口に当てる鷹峰の姿が。
顎を「クイッ」と上げて見せる姿は、期待の返答を希うかのよう。
「いいですねぇ~……ですが今日は孫が会いに来いとしつこいもので。 申し訳ありません」
しかしその期待すらも水泡に帰し。
鷹峰も残念そうに「そうかぁ」と唸り声を上げる。
とはいえこれは予想していた事なのだろう、残念な割には口元の緩みはそのままだ。
「お孫さん、もう随分大きくなられてるでしょう?」
「ええもう、元気ばかり大きくなるものでしてねぇ~……おっと、では失礼いたします」
福留も孫の事となれば話したくもなるのだろう。
圧した時間を取り戻さんと踵を返す姿は何処か寂しげだ。
そんな哀愁漂う背中を鷹峰が見送る。
気苦労を知る者らしく、その頭はゆるりと縦に揺れていた。
二人が話していた場所―――そこは総理官邸。
相応しい要人だけが使う事を許された公人専用のオフィスである。
福留が一人、その建屋から離れ歩く。
スマートフォンを耳元に充て、通話先の相手と会話を交わしながら。
「―――えぇ、彼にアポを取っておいて頂けますか。 後程『福留が直接伺う』と」
たったその一言だけを返し、スマートフォンを懐へと収める。
素っ気の無い応対にも見えるが、これが福留流の通話術。
時間を有効に使う彼らしい一面である。
通話を終えれば目の前には高級感溢れるシルバーのセダン車が。
空かさず車内へ乗り込むと、間も無くスマートなエンジン音を鳴り響かせる。
そのまま軽快な走りで官邸から離れ……次の目的地へと向け、街の中へと消えていったのだった。
その存在を知った勇達は急遽赴く事になったのだが……
幸か不幸か、フェノーダラ王に気に入られた勇は日本政府との交渉役に任命される事に。
同時に、勇は現地に展開していた自衛隊を率いる福留という老人とも知り合う事となる。
勇を間に据えた事で、日本政府とフェノーダラ王国の交渉は順調に終わりを遂げ。
勇達は剣聖と別れた後、福留に送られて一旦の帰宅を果たす。
こうしてフェノーダラ王国出現という問題は、日本政府の後ろ盾の下で一時収束を迎えたのだった。
勇達がフェノーダラ王達や福留と出会った日の翌日。
関東中の空を僅かな湿り気を纏った雲が覆い包む。
六月中旬ともなれば梅雨の真っ最中ともあり、そんな天気も珍しくは無い。
ただ先日がまるで勇達を誘ったかの様に偶然晴れ間を覗かせていただけに過ぎなかったのだから。
そんな曇り空の下、東京の中心区。
その一角に、背は低くともひと際目立つ建屋が存在する。
周囲をガラスの壁で覆い、鏡の様に磨かれ外装は空の景色を克明に映し出し。
建物の周囲は堅牢な外壁で囲まれ、常に警官と思しき青の制服を纏う者達が敷地を守る様に辺りを伺っていた。
そんな建屋の中、とある一室―――
「―――以上が、先日分の報告書になります」
格式を感じさせる様相を誇る部屋の中央に、あの福留の姿があった。
物腰こそ低いが語る姿は堂々としたもので。
胸を張って事に挑み、先日にも見せていた笑顔を浮かべ、緩やかながら自信を含んだ迷いの無い口調で言葉を連ねる。
「ご苦労様です、福留さん」
そんな彼の前には、堅牢そうな机を挟んで高価な皮製のワークチェアに腰を降ろす一人の人物の姿が。
体付きは僅かに丸みを帯びるが、節々の動きには独特の機敏さが見られ。
スーツを着こなす様はシワ一つ一つに意識を向けているかのようにしなやか。
それでいて福留にそう返す声は同等の緩やかさを誇り。
体付きと打って変わり、面立ちはシワこそあれど引き締まりを感じさせてならない。
その姿は、テレビなどのメディアを日々賑わせる程に露出を見せる人物そのもの。
彼の名は鷹峰 雄造。
日本国総理大臣の肩書を持つ、この国の代表者たる存在である。
「それで福留さん、実際に現地に赴いてみてどうでしたか?」
「ええ、実に不可解そのものでした。 先ずは渋谷・目黒ですが、その一帯を覆う植物はまず間違いなく現代のそれと全く異なる種です。 主要な個体は形から見て恐らくシダ植物系が進化を遂げた種かと。 専門家ではないのでハッキリとは言い切れませんが」
しかしそう語る口調にも戸惑いは見られない。
そう言い切れたのは確証に近い情報を得ているから故の発言なのだろう。
「既に動物や昆虫類が外部に拡散している様ですので、早急な対策が必要かと思われます。 それと最も際立って不可解な事が一つ……」
鷹峰が「ふぅむ」と鼻を鳴らして机に肘を突く中、福留が手に持った鞄から一枚の資料用紙を取り出してはそっと差し出した。
「これは現地調査時に撮った写真です」
資料に印刷されていたのは電線の切断面。
でもただの電線ではない。
植物と混ざり合い、内部までもが溶けあう様にして一体化した電線である。
「ご覧になればわかると思いますが、電線と植物が見事に融合しています。 しかも送電には一切の影響を及ぼさず、水分もしっかり吸い込みます。 まるで生体電線へと進化したかの様に」
「これはなんと……」
これにはさすがの鷹峰も驚きを隠せない。
目の前に出された資料が余りにも非現実的過ぎて。
創作物の設定資料を出されているのではないか……そうとしか思えぬ程に異様だったのだから。
電気とは、流れやすい性質を持った物質に向けて流れていく特性を有している。
まるで坂道に向けて流した水の様に。
しかし流した水はたちまち坂一杯に広がって勢いは止まってしまうだろう。
それを防ぐ為にはどうするか。
答えは簡単、容器を通して流せばいい。
電線もそれと同じだ。
絶縁体の皮膜チューブ、つまり電気を通さない物質で覆っているのである。
そうする事で電線を通して各施設に多量の電気を送り続ける事が出来るのだ。
だが植物はそれと異なり、非常に電気を通しやすい性質を持っている。
中には通さない植物もあるだろうが、少なくとも福留達が知る範囲では存在していない。
水ともなればもはや言わずとも知れた事だろう。
そういった性質を持ったものに覆われてしまったのにも拘らず、送電は滞るどころかなお続けられ。
しかも漏電する事無く、変容する前と状況はほぼ変わってはいない。
それが明らかに科学的根拠も物理法則をも無視した現象だからこそ、二人はただただ頭を悩ます他無かったのだ。
これは科学者でなければ理解すら不可能な出来事なのだから。
「サンプルは既に研究機関へ搬送、現在調査中との事ですが……恐らくまともな答えは返ってこないでしょうな」
福留の言う〝まとも〟とは詰まる所〝現実的な答え〟の事。
魔者から始まり、フェノーダラ王国や魔剣といった事実を知ったから。
今の彼にはその結果を予期する事など、考える必要も無い程に容易い。
鷹峰も福留の事を信用しているのだろう、深くを訊く事も無く。
目の前に提出された非現実的な資料を前に頭を抱える様を見せる。
「今回の事件は正直に言えば何もかもが非現実的。 ありとあらゆる物理法則を無視した現象が起きたと言わざるを得ません。 これを解決するには現代の科学知識でもどれだけ膨大な時間が掛かるか計り知れないでしょう」
「つまり、変容が起きた地区は当面このままという訳ですか。 いやはや、これは大変な問題ですねぇ」
「ええ。 幸いエネルギーインフラは維持出来ていますので、再利用という形であれば復旧に時間は掛からないかもしれません。 こうポジティブに捉えていくしかないでしょうなぁ」
例え魔者が居なくなろうとも、青々しく茂った渋谷が元の姿に戻る訳でも無く。
むしろ問題は解決には遠く山積み、それらを克明に記載した報告書類も山積み。
国のトップたる鷹峰からしてみれば、非現実的な事象も目の前の現実も、恐ろしい余りに顔を背けたくなる程だ。
しかしそうもいかない立場だからこそ、嫌でも手を付けなければならず。
福留から提出された報告書の一部を手に取り、連なる文字に頭を悩ませていた。
「それと先日手に入れました魔剣の処遇ですが、然るべき研究機関への調査を依頼しました」
「ふむ。 それで何かわかりましたか?」
魔剣の存在は、数多い問題の中に並ぶ数少ない朗報の一つ。
気落ちしていた鷹峰もその事に興味を示し、書類を置いて福留を見上げる。
「それがですね……報告書曰く『刀身の殆どが黄銅で構成され、刃部のみ粗鉄。 外装部も黄銅と一部金が使用されています。 また一部炭素系鉱石を使用。 製造年代不明の古い飾太刀』だそうです。 ちなみに放射線等の観測は見られずという話でした」
福留が報告書のコピーを鞄から取り出し提示すると、それを総理が受け取り興味深く目を通していく。
だが彼の言った通りのデータが羅列するのみで目ぼしい情報は見られず。
思わず鷹峰の口元が「へ」の字を描いていて。
「つまり〝彼等〟が言う程の力を持つ様な武器ではない、そういう事なのかな?」
「そうかもしれません。 ですが、我々には観測出来ないスピリチュアル的な力が掛かっている可能性もありますし、一概にもそうとは言い切れませんがねぇ」
非現実的な世界の人間が持つ武器なのだから、火を吹いたり電撃を放つなどといった特殊な武器などとでも予想していたのだろう。
実際、ちゃなが光球を放った所も証拠映像として残っており、実際にそういう事が出来る武器なのではないかという認識があるからこそ。
しかしその結果は〝ただの飾太刀〟。
報告書の山にまた一つ新しい書類を積むだけとなった残念な結果に、期待を裏切られた鷹峰の落胆は計り知れない。
分析の結果は確かに残念とも言えるだろう。
それでも福留はフェノーダラ王や勇達が嘘を付いているとは欠片も思っていない。
彼等と直接対話を行った事で、信用に足る存在であると認識したからだ。
『あちら側』の人間が『こちら側』の人間と同じ思考パターンを有しているとは限らない。
世界も違えば文化も違い、物事の価値観も大きく異なる。
人生経験を多く積んで来たであろう福留が読み切れぬ程に違うかもしれない。
でも何故あの様に会話を交わし、互いに納得する事が出来たのか。
そこにはきっと文化も考え方も関係は無かったのだろう。
それが言葉の通じないはずの相手と会話が出来る命力という力の成せる業。
勇を通して彼等の心の在り方を知る事が出来たからこそ、福留は自然と信じる事が出来たのだ。
「そこで、サンプルを直接使用して少し試したい事がありまして。 その為の許可を頂きたいのです」
「わかりました。 その件に関しては福留さんに一任しておりますので……どうかよろしくお願いいたします」
総理の丁寧な口調から滲み出るのは、福留に向けられた深い信頼。
まるで馴染みの様な、そんな雰囲気すら漂わせる。
互いが微笑みを向け合う様は、政治仲間というよりはむしろ友人同士と言った方が近いだろう。
福留の抱える鞄にはもう書類は残っていない。
全ての報告を終えた福留が一礼を送り、そっと踵を返す。
するとその時、福留の背後からゆるりとした声が不意に上がった。
「そうだ、今夜一杯如何ですか?」
その声に気付いた福留が振り返ると、そこにはお猪口を持った風の手を口に当てる鷹峰の姿が。
顎を「クイッ」と上げて見せる姿は、期待の返答を希うかのよう。
「いいですねぇ~……ですが今日は孫が会いに来いとしつこいもので。 申し訳ありません」
しかしその期待すらも水泡に帰し。
鷹峰も残念そうに「そうかぁ」と唸り声を上げる。
とはいえこれは予想していた事なのだろう、残念な割には口元の緩みはそのままだ。
「お孫さん、もう随分大きくなられてるでしょう?」
「ええもう、元気ばかり大きくなるものでしてねぇ~……おっと、では失礼いたします」
福留も孫の事となれば話したくもなるのだろう。
圧した時間を取り戻さんと踵を返す姿は何処か寂しげだ。
そんな哀愁漂う背中を鷹峰が見送る。
気苦労を知る者らしく、その頭はゆるりと縦に揺れていた。
二人が話していた場所―――そこは総理官邸。
相応しい要人だけが使う事を許された公人専用のオフィスである。
福留が一人、その建屋から離れ歩く。
スマートフォンを耳元に充て、通話先の相手と会話を交わしながら。
「―――えぇ、彼にアポを取っておいて頂けますか。 後程『福留が直接伺う』と」
たったその一言だけを返し、スマートフォンを懐へと収める。
素っ気の無い応対にも見えるが、これが福留流の通話術。
時間を有効に使う彼らしい一面である。
通話を終えれば目の前には高級感溢れるシルバーのセダン車が。
空かさず車内へ乗り込むと、間も無くスマートなエンジン音を鳴り響かせる。
そのまま軽快な走りで官邸から離れ……次の目的地へと向け、街の中へと消えていったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる