時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第六節「人と獣 明と暗が 合間むる世にて」

~そのジェスチャーの意味とは~

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 勇達はザサブ族との壮絶な戦いで辛くも勝利を収めた。
 だが、その代償は決して小さくはなく。

 勇は全身を焼かれる程の強力な攻撃を受けて負傷。
 戦場から帰還後、即座に指定の国立病院へと搬送される事となる。
 手厚いサポートというのも伊達ではなく、対応が素早かった事は言うまでも無い。

 とはいえ負傷の原因が原因ともあって精密検査や処置を執り行う事に。
 日を跨ぐ程の長時間対応が必要ともあり、ちゃなを始め、心輝達三人は一旦の帰路へ就く。
 後ろ髪を引かれる想いに苛まれながら。

 この日体験した出来事から生まれたそれぞれの苦悩を胸に。



 
 決してフィクションではない、死を伴うリアルな戦場を肌で感じて。
 そんな事とは無縁だったはずの心輝達は何を読み取り、何を想ったのだろうか。

 切望―――

 無力―――

 期待―――

 でも各々が想うカタチは未だ曖昧で―――





◇◇◇





 そしてあの戦いから三日後、水曜日。
 勇はもう既に自宅へ帰還していた。

 それというのも、この短期間の精密検査でこれといった異常が見受けられなかったからだ。

 ザサブ王が放った雷撃は意識を奪う程に強烈だった。
 おまけに勇の表皮全体を焼き焦がし、スマートフォンを跡形も無く消し飛ばす程に。

 その電圧が命を奪う程では無かったのか。
 それとも勇の体がそれ程強靭だったのか。

 その原因はともあれ、度重なる精密検査の結果は「各部器官に異常無し」。
 病院に搬送された翌日には普通に起きて普通に食事を摂るなど、ケロッとした姿を見せていたもので。
 これには、経過観察しにきた福留もさすがに感服したのだという。

 「魔剣使いとはここまで頑丈になるのものなのか」と。

 その診断結果は経過後も変わらず。
 むしろ病院食が物足りないと不満を露わにする程だ。
 やはり年頃の勇にとってはカロリーバランスなど二の次なのだろう。

 という事もあって、入院治療を早々切り上げる事に。
 特別入院という事もあって両親の承諾も別段必要無く。
 逃げる様にして一人で帰ったのだという。
 
 それで現在自宅療養中という訳なのだが……
 内面的なダメージこそ平気でも、外面的な部分はそうもいかない。

 そう、火傷の事だ。

 体の至る箇所の皮膚が今もただれていて、処置も切り上げただけに中途半端なまま。
 顔などの頭皮は特に顕著で、頬周りの皮が浮いて焦げるなど見た目も痛々しい。
 そのまま人前に出れば間違いなく驚かれるくらいには。

 退院した以上、その治療は勇自身に委ねられる。
 福留からは一週間の外出禁止を通達され、加えてその間治療に専念する様にとも。

 だが一週間で治療など普通に考えて不可能な事だと言えるだろう。



 ただ、福留が引き留めずにこう言い切った事にはとあるがある。
 勇が承知した上での理由が。



 そんな勇が居る家に歩み行く人影が四人。
 時刻は既に夕刻……となればやってくるのは当然彼等だ。

「しっかし、あんな大怪我負ったのにもう家に居るとか。 どんだけ身体つぇーんだよ……」

「そういうもんなんでしょ。 もう驚くのも疲れたわ」

「さすが勇君、無敵だー!!」

 そう、それは心輝達。
 ちゃなも連れ、帰宅ついでにこうして訪れた訳である。

 それというのも、福留から退院後の勇の経過観察をするようにと指示を受けていたから。
 そもそもが心配だったという事もあって、見舞いも兼ねてこうしてやってきたのだ。

「勇君、心輝君達来たわよ。 上がってもらうわね」

 母親も勇の面倒を見るという事で半日帰宅。
 ちゃなの帰宅と心輝達の来訪を嬉々として受け入れる。

 もちろん勇の両親も事後に心輝達が真実を知った事を聞いていて。
 こうして訪れてくれた事に感謝を隠し切れない様子。
 「来てくれてありがとうね」というお礼の言葉に、心輝達も嬉しそうな笑顔を返さずにはいられない。

 今、勇は自室に居るとの事。
 しかし母親は何故か静かに指を差すだけで。
 その妙な様子に首を傾げつつも、四人が揃って階段を昇っていく。

ミシッミシッ

 階段を軋ませながらゆっくりと。

 心輝も既に何度か家に呼ばれた事もあって、勇の部屋がどこにあるかなどは既に周知済み。
 ちゃなではなく彼が先頭に立ち、部屋の扉を惜しげも無く押し開く。

「おっす勇―――」

 だが部屋を覗き込んだ途端、異様な光景を前に思わずその身を固まらせていて。
 後に続く瀬玲達も同様に、「へっ?」と困惑の表情を浮かべるばかりだ。



 それと言うのも、勇がベッドの上で座禅を組んでいたのだから。



 ただその様子は不慣れと言わんばかりに形が崩れていて。
 一生懸命その形を維持しようと時折「ピクリ」と体を揺すらせている。

 そんな余りにも不自然な姿が心輝達に呆れ呼び込んでいた様で。

「なんで座禅なんだよ……」

「ん、すると言ったら座禅かなぁって思い立ってさ」

 これには心輝もツッコミを入れざるを得ない。
 まるで突っ込んで欲しいのかと言われる様な姿だっただけに。

 とはいえ目を瞑りながらもしっかりそう返す所はやはりいつもの勇。
 体調が戻ったとわかる程にいつも通りの声が迎え、四人の笑みを再び呼び込む。

「皆来てるんだろ? 足音でなんとなくわかった。 入っていいよ」

「ああ。 んじゃお邪魔するわ」

 お得意の鋭感覚か、それともただ足音が煩かっただけか。
 姿勢はともかく、正確に読み取れる程にはしっかり集中出来ていた様で。
 心輝達も「何の心配もなさそうだな」等とぼやきながら勇の部屋へと足を踏み入れた。





 やはり八畳スペースの部屋に五人は多かったのだろう。
 ベッドの上の勇は別としても、床に座る心輝達はどこか狭そうだ。
 ちゃなに至っては妙な気遣いを見せ、扉の枠の所でちょこんと座る始末である。

 さすがに仲のいい親友達ともあって遠慮するのもわかる様な賑わった雰囲気ではあるが。

「で、アンタまたなんかやらかすつもりなの?」

「何だよ唐突に」

「だってほら、座禅なんて見せられたらさ」

「あぁこれかぁ。 ちょっと試してみたい事があってね」

 瀬玲が疑惑の視線を向ける中で放たれた勇の答えはゆるりとしたもので。
 そっと座禅を解くと、「シシシ」と歯を浮かせた様な笑いを返す。

 その様子はまるで怪我を負った事に全く何の不安も示していないかの様で。

 それと言うのも―――





 勇は別に宗教信者でも無ければ、悟りを見出した訳でも無い。
 当然、れっきとした目的があって行っていた事だ。

 これは先日の帰還時に勇がぽつりと零した一言が起因となっている。

 火傷の痕の事で心配していた福留に、勇はこう返していた。
 「考えがあるので後で話を」と。

 そんな事もあって福留はその翌日に勇の下へと訪れ。
 そしてそこで驚くべき話を勇の口から聴かされる事となる。

 それはなんと「剣聖に命力での傷の治癒方法を聴いてきて欲しい」という事だった。

 勇は気付いていたのだ。
 かつて剣聖が骨折した際、僅か数日で歩ける程に治癒させていて。
 その常人ではあり得ない治癒速度には何か命力に通じた秘密があるのではないか、と。

 その方法がわかれば全身は無理でも顔の皮くらいは治せるかもしれない。
 勇はそう踏んで福留に頼む事にしたのだ。

 もちろん、そう頼んだ事にも理由がある。
 実のところ命力での会話は電子機器を通すと全く通じない様で。
 電話での会話は勇でもわからないという事態に。
 しかし直接会おうにも勇は現在入院中。

 という訳で、福留が単身フェノーダラ王国へと走っては剣聖から話を聴く事となったのである。
 


――――――
――――
――




 それはザサブとの戦いを終えた後日、月曜日での出来事。

 福留は朝早くに勇から話を伺い、その足で一路フェノーダラ城へ。
 目的はあくまで剣聖に命力による治癒方法を尋ねる事。
 話の通じる剣聖が相手ならばと、なんと単身で乗り込む事に。

 着いてからというものの紆余曲折こそあったが、なんとか剣聖に取り次ぐ事が叶い。
 ちょっとしたお土産と引き換えに話を聞ける事となったのだった。



「―――という訳でして。 剣聖さんに是非、命力の自己治癒能力に関わるヒントの様なものを教えて頂きたく」

「ったくあのガキ、まだそんな無茶してやがんのかよ。 ザサブをやったってぇのは大したもんだが、死に掛けちゃ何の意味も無いぜ」

「なっ……あのザサブをもか!?」

 剣聖が呆れ顔で厄介事を払う様に手を振っているが、フェノーダラ王は驚きを隠せない。

 なんでもザサブ族は『あちら側』では相当な勢力を誇っていたのだそうな。
 彼等を悩ませていたダッゾ族が居たからこそ勢力の広がりは届かず、関係こそ殆ど無かったらしいが。

 しかし話が通じない以上、フェノーダラ王としては語りたくても語る事が出来ずに若干不満そう。
 それどころか奥の物陰から目を光らせるエウリィを前に物怖じする始末だ。
 何故そこまで怖れているのかは後ほど語るとして。

「しゃあねぇなぁったく。 めんどくせぇが貰うもん貰ったし、橋掛けて助けてやっかぁ」

 そんな事を宣う剣聖の手に下げられたのはビニール袋。
 その中に入っているのは、この間勇に貰ったゲーム機【ジョイステージ】用の中古ゲームソフト数点と換えの充電ケーブルだ。
 「それを用意すれば剣聖さんは食い付きます」という勇からの入れ知恵で用意した物である。

「まぁアイツの考えてるこたぁあながち間違いじゃねぇ。 この方法はいわゆる、人間の身体が持つ再生能力を活性化させるってぇ手段だ。 ただちょいと癖があってな……んまぁ要は集中だぁよ集中。 自分がこうなりてぇって気持ちとイメージを自分の頭に思い浮かべてだなぁ。 今の自分とイメージの自分をすり合わせて―――」

 すると剣聖が両手を自身の顔の横で広げ、うねうねとうねらせる。
 その様子はまるで軟体生物の如く。
 あるいは海流に揺れる昆布の如く。

 その動きは一体関節がどうなってるのか不思議に思える程に奇妙で。
 フェノーダラ王が吹き出してしまうくらいに妖しい。

「命力をそこの間に刷り込むようなイメージで、こ~う、やんだぁよ」

 しかも遂にはその奇妙な動きが全身に行き渡るまでに。

「そんなとこかなぁ。 ま、時間は掛かるだろうけどな。 あいつの経験と命力程度じゃそんなもんよ」

 という訳で剣聖の説明タイムはあっという間に終わりを告げ。

 でもその動きのインパクトが強すぎたのと、具体性に欠く説明ばかりで。
 フェノーダラ王のみならず、エウリィまでもが呆れの据わった目を向けている。

 つまり、何もかも意味不明だという事だ。
 本人は至って真面目なのだが。

 しかしそれでも福留はその一挙一動を見逃さない。

 剣聖が見せた渾身の昆布ダンスにもきっと意味があるのだろう。
 命力を扱える者にしかわからない何かがそこにあるのだろう。

 ただひたすらそう信じ、白髪だらけの頭に全てを叩き込む。

「成程、わかりました。 勇君には教えられた全てを伝えておきます。 ご指南ありがとうございました」




――
――――
――――――



 ……という事もあって福留は伝えられた全てを即日持ち帰り、勇へと伝えた。
 その一挙一動を余す事無く福留自身がして見せる事によって。

 ジェスチャーの意味は勇にも当然理解出来ないままだ。
 でもたった一言、「集中する」という所にヒントを感じた様で。

 それを聞いて閃いた勇が早速実践する事を決め。
 一番集中出来る実家を選び、こうして今に至るという訳である。


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