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第七節「絆と絆 その信念 引けぬ想い」
~Peace <平和>~
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交流会翌日。
澄みきった青空の下、勇達がアルライ族達と別れを告げる。
先日までは不安を抱いていたアルライ族達も、今となってはすっかり信じてくれて。
こうして総出で勇達を見送ってくれる程に。
そんな彼等の見送りは、勇達に名残惜しささえもたらした様だ。
その姿が見えなくなるまで、車の中からずっと手を振り続けていた。
そして別れはアルライ族達とだけではない。
ここまで付き合ってくれた御味も京都駅でお別れとなる。
でも彼等は決してもう二度と会えなくなる訳ではない。
むしろこれから何度も会いに来る事になるはずだから。
だからこの別れは決して寂しくない。
それがわかれば、彼等に浮かぶのは笑顔だけだ。
この日、勇達はまた一つ成長する。
人間と魔者、二つの世界が入り混じるその最中で。
彼等にだけに与えられた出会いは、それ程までに特別だったから。
この出会いに恵まれた事に感謝を込めて。
◇◇◇
それから数日後。
雨気盛んなこの時期に珍しく、青空覗く天気がこの日を彩る。
こんな天気の下、北へと走る車が一台。
福留が勇を連れてフェノーダラへと向かっていたのだ。
その用事はと言えば当然、京都での出来事の報告。
あくまでも『あちら側』の理に関する話なので、伝える必要があると判断されたのである。
もちろん、危険は無いという事実も一緒に。
『あちら側』の国であるフェノーダラ王国でも、隠れ里に関する情報は殆ど無いに等しい。
だからこそ、正しい知識と認識をもし伝える事が出来れば。
きっと今までの妙な誤解も解ける事だろう。
もしかしたらそのお陰で、共存する世界が訪れるかもしれない。
今はこうして平和な現代と一つの世界になったからこそ。
互いに憎しみ合う様な蟠りなど、失くすに越した事はないのだから。
こうして二人の乗った車は走り続け。
ようやくフェノーダラ王国へと辿り着く。
そうすれば案の定、城門上から二人を出迎える彼女の姿が。
そう、エウリィである。
「改めて聞きますけど、フェノーダラ側に俺達が来る事は伝えてないですよね?」
「ええ、もちろんです」
こんな事に福留が嘘を付く理由も無く。
そうもなれば、アルライの里で聞いた事が現実味を帯びる。
【心の色を見る力】。
それをエウリィも持ち合わせているのではないか、と。
その力でこうして勇の存在を察知し、先回しているのではないかと。
「例の力の件、後でそれとなくエウリィさんに訊いてみましょうか」
「はい。 でも出来れば俺から伝えたいかなって思います」
力を持っているかどうか。
この事を一番気にしているのは他でもない勇本人だから。
ここまで自分を慕ってくれている理由が知りたかったから。
そんな想いが今の一言に籠る。
ただその一言は、福留には別の意味にも捉えられた様であるが。
「……そうですねぇ。 ではエウリィさんとのお話は勇君にお任せするとしましょう」
福留は人の付き合いに口を挟むほど野暮では無い。
だからこそ、こうハッキリと物を言われれば引くのは当然か。
勇自身にそんなつもりは無かったのだろうが。
そして鈍い勇が福留の意図に気付く訳も無く。
大手を振って迎えるエウリィに、感謝と喜びで手を振り返す姿がそこにあった。
フェノーダラ城内、大広間。
辿り着いた勇達を待っていたのは、当然彼等だ。
フェノーダラ王を筆頭に、レンネィとエウリィ、おまけに珍しく剣聖の姿も。
加えて王の側近達という、いつもの面々が揃い踏みである。
「まるでいつもここに居るのではないか」と思える周到さに、勇も頭の下がる想いだ。
というのもほぼ毎回アポ無しでの突撃で。
その度に「あ、この人達急いでここに集まったのかな」と想像が膨らむのだから。
その証拠に、王と側近の着る服は着替え忘れたのだろう現代のシャツ。
誰がチョイスして渡したのか、勇の嫌いな「うさシリーズ」のTシャツである。
王様達の様な屈強な男が着ると、その深淵の闇が更に増幅されている様に見えてならない。
何故着れるサイズのキャラTシャツがあるのかは定かでは無いが。
とてもシュールな光景を前に、勇の心情はどうにも複雑。
「よく来てくれた福留殿と勇殿。 それで、今日は何用かな?」
そんな風に思われている事も露知らず、フェノーダラ王の爽やかな笑顔と言葉が二人を迎える。
キャラTシャツを纏う筋骨隆々の男がこうだと、別の意味で心が穏やかになれそうだ。
「実はですね、例の隠れ里がもう一つ遠方に見つかりまして」
「なんと!?」
しかし福留の突然の話を聴いた途端、その鼻息は収まるどころか勢いを増す事となる。
隠れ里という存在は彼等にとってそれだけ希有な存在なのだから。
「でも、やっぱり隠れ里に住んでいた魔者はグゥさんと同じで、ほとんど敵意を持たない人達だったんです。 アルライ族っていう方々なんですが、俺達はそんな彼等と交流して、仲良く話し合ったり出来たんですよ」
「おお、なんと信じ難い……」
これにはフェノーダラ王達も驚愕するばかりだ。
グゥの話は当然レンネィから聞いている。
隠れ里が危険な存在ではないという事も。
ただそれだけでは魔者という種に対する価値観を拭えず。
例え勇達からの話だとしても、一概に信じ切る事は出来ない。
〝信じたい〟と思う気持ちは少なからず有る様だが。
とはいえ、今やそんな反応を見せるのもフェノーダラ王とその側近達だけ。
精々レンネィが「またそんな壮大な事やらかしてぇ」と鼻で笑うくらいか。
エウリィはと言えば、とても嬉しそうな笑顔を浮かべていて。
剣聖に至っては壁に背を預けながら、静かに睨みを利かせているだけだ。
「魔者と相容れるなど、今まで考えた事すら無かったのだが……こうも立て続けに聞くと、何が真実なのかもはやわからんな」
こうして生まれた悩みは遂にフェノーダラ王達が揃えて頭を抱えるまでに。
例え良い話であっても、常識の根底が覆されれば悩みもしよう。
それに、この様に思うのは決して不思議な事ではない。
今まで当然の常識だと思い込んでいた事を突然覆されれば、虚実・真実に拘らず不信が纏い始める。
人という信念を持った生物だから起きうる、脳の錯覚現象だ。
もっとも、『あちら側』の人間にその知識が当てはまるとは言い難いが。
「ずっと昔から争い続けてきたんですから仕方ないですよ。 それにその常識を簡単に覆せる訳がないって事もわかってるつもりです。 ただ、そういう魔者も居るって事だけわかってくれればそれだけで十分ですから」
「そうか……優しいのだな、勇殿は。 誰に対しても、理に対しても」
気付けば翻訳の役目も忘れ、自分の言葉で語る勇が居て。
その言葉をフェノーダラ王が耳を傾け、その想いに心を寄せる。
こう語れてしまうくらいに、勇はこの数日でハッキリと成長を果たしていたのだ。
そんな勇を前に福留はただ微笑み、その動向だけを見守るのみ。
もはや二人の間に自身の言葉など必要無い。
野暮な事など要らないのだと十分に理解したから。
「だがもし勇殿の行いが魔者との戦いを止めるキッカケとなるならば、かつて【創世の女神】が招いたとされる災厄に終止符を打つ事が出来るかもしれんな」
そしてその成長こそ、フェノーダラ王国にとっても希望の光となるかもしれない。
そんな願いがフェノーダラ王の脳裏を過る。
彼もまた、勇の成長に驚いている一人だからこそ。
しかしそんな時、勇が思わず首を傾げさせる。
またしても聞いた事のないキーワードがその耳に触れたからだ。
翻訳されていた事には間違いないのだが、どうにも心に引っ掛かった模様。
「【創世の女神】ってなんです?」
「そうか、勇殿は知らないのだったな―――」
「―――世界を、人間と魔者が争う様に仕向けた神様の事よぉ」
そんな疑問に真っ先に答えたのは他でもない、剣聖。
彼等の言う【創世の女神】とは……
何でも、遥か古代において世界を混乱に陥れた元凶なのだとか。
人間と魔者が争う様になった最初のきっかけを生み。
その恨み辛みが後世まで続く様にと呪いを残した存在なのだという。
もちろんそれは幾百億もの時の彼方での話という事で、ただの伝説・神話に過ぎないとも言われている。
その語りを語り継いだ書物は少なく、脚色もされている所から真実とはとても言い難い。
だがそれでも今の理があり、その〝呪い〟とやらが今まで続いてきたのも確かで。
もしかしたら世界がこんな形になってしまったのも〝呪い〟の所為なのかもしれない。
【創世の女神】などと言えば聞こえはいいが、恐らくは邪神の類という事なのだろう。
でもその呪いを、本来何の関係も無い世界の人間が解き放とうとしている。
そんな希望とも言える少年に期待を抱かない訳が無い。
「いつか人間と魔者が手を取り合い、争いの無い世界が来る―――そんな時代をいつか見てみたいものだ」
そしてその希望は『あちら側』の常識さえも塗り潰し、人の心さえ動かしたのだ。
フェノーダラ王国の者達も、アルライ族の者達も。
夢幻でも妄想でもなく、今こうして現実に。
フェノーダラ王が背もたれに体を預け、何も無い天井を見上げて想いを馳せる。
たった今、年甲斐も無く手に入れてしまった一つの夢を。
「平和な世の中が訪れるといいですね。 いや、そうなる様に頑張りますから……応援しててください」
その夢は勇にとっても一緒だから。
皆で手に取って生きていく事が勇の目標だから。
目の前の大人の夢さえも支えたいと想わずにはいられない。
だがその時、勇の視界には首を傾げるフェノーダラ王の姿が映り込んでいて。
「すまない、【ヘイワ】とは一体どういう意味なのだろうか?」
そんなフェノーダラ王から放たれた一言は、余りにも意外過ぎた。
『あちら側』にはどうやら、【平和】という単語が存在しないらしい。
途端の思っても見なかった返事に、勇は戸惑いを隠せず。
その一言が片言でもあったから、福留もすぐに気付いた様だ。
これには勇もどう説明したらいいかわからない。
唐突だったという事と、曖昧な意味ともあって答えられる自信が無いのだろう。
「えっと……福留さん、平和ってどう説明すればいいですかね?」
「そうですねぇ、平たく言えば平穏和睦。 誰もが争う事無く、助け合える世界……といったトコですかねぇ」
しかしそこはさすがの福留か。
突然のヘルプにもこうして即答してみせる。
いざ福留の言ったままに説明をしてみれば、今度はしっかりと伝わった様で。
相変わらずの正確な助け舟っぷりに、勇も感謝を隠せない。
「なるほど、【平和】か……その言葉、しかと胸に刻むとしよう」
「とても素敵な言葉だと思います!」
でもこれも一つの文化交流の形なのだろう。
なまじ言葉が伝わるから忘れていただけに過ぎない。
互いが知らない言葉を教え合い、知識の空白を埋めていく。
それが埋まりきった時、きっとこの国の人々ともっと仲良くなる事が出来るだろう。
それに何より、【平和】という言葉こそ王達が抱き始めた夢でもあるのだから。
この一言を得ただけでも、彼等を取り巻く世界はずっと優しくなれそうだ。
フェノーダラ王が感心を寄せ、エウリィが嬉しそうな万遍の笑顔を返す。
そんな二人の姿がどうにも眩しくて、喜ばしくて。
気付けば彼等同様に、万遍の笑みを返す勇がそこに居た。
澄みきった青空の下、勇達がアルライ族達と別れを告げる。
先日までは不安を抱いていたアルライ族達も、今となってはすっかり信じてくれて。
こうして総出で勇達を見送ってくれる程に。
そんな彼等の見送りは、勇達に名残惜しささえもたらした様だ。
その姿が見えなくなるまで、車の中からずっと手を振り続けていた。
そして別れはアルライ族達とだけではない。
ここまで付き合ってくれた御味も京都駅でお別れとなる。
でも彼等は決してもう二度と会えなくなる訳ではない。
むしろこれから何度も会いに来る事になるはずだから。
だからこの別れは決して寂しくない。
それがわかれば、彼等に浮かぶのは笑顔だけだ。
この日、勇達はまた一つ成長する。
人間と魔者、二つの世界が入り混じるその最中で。
彼等にだけに与えられた出会いは、それ程までに特別だったから。
この出会いに恵まれた事に感謝を込めて。
◇◇◇
それから数日後。
雨気盛んなこの時期に珍しく、青空覗く天気がこの日を彩る。
こんな天気の下、北へと走る車が一台。
福留が勇を連れてフェノーダラへと向かっていたのだ。
その用事はと言えば当然、京都での出来事の報告。
あくまでも『あちら側』の理に関する話なので、伝える必要があると判断されたのである。
もちろん、危険は無いという事実も一緒に。
『あちら側』の国であるフェノーダラ王国でも、隠れ里に関する情報は殆ど無いに等しい。
だからこそ、正しい知識と認識をもし伝える事が出来れば。
きっと今までの妙な誤解も解ける事だろう。
もしかしたらそのお陰で、共存する世界が訪れるかもしれない。
今はこうして平和な現代と一つの世界になったからこそ。
互いに憎しみ合う様な蟠りなど、失くすに越した事はないのだから。
こうして二人の乗った車は走り続け。
ようやくフェノーダラ王国へと辿り着く。
そうすれば案の定、城門上から二人を出迎える彼女の姿が。
そう、エウリィである。
「改めて聞きますけど、フェノーダラ側に俺達が来る事は伝えてないですよね?」
「ええ、もちろんです」
こんな事に福留が嘘を付く理由も無く。
そうもなれば、アルライの里で聞いた事が現実味を帯びる。
【心の色を見る力】。
それをエウリィも持ち合わせているのではないか、と。
その力でこうして勇の存在を察知し、先回しているのではないかと。
「例の力の件、後でそれとなくエウリィさんに訊いてみましょうか」
「はい。 でも出来れば俺から伝えたいかなって思います」
力を持っているかどうか。
この事を一番気にしているのは他でもない勇本人だから。
ここまで自分を慕ってくれている理由が知りたかったから。
そんな想いが今の一言に籠る。
ただその一言は、福留には別の意味にも捉えられた様であるが。
「……そうですねぇ。 ではエウリィさんとのお話は勇君にお任せするとしましょう」
福留は人の付き合いに口を挟むほど野暮では無い。
だからこそ、こうハッキリと物を言われれば引くのは当然か。
勇自身にそんなつもりは無かったのだろうが。
そして鈍い勇が福留の意図に気付く訳も無く。
大手を振って迎えるエウリィに、感謝と喜びで手を振り返す姿がそこにあった。
フェノーダラ城内、大広間。
辿り着いた勇達を待っていたのは、当然彼等だ。
フェノーダラ王を筆頭に、レンネィとエウリィ、おまけに珍しく剣聖の姿も。
加えて王の側近達という、いつもの面々が揃い踏みである。
「まるでいつもここに居るのではないか」と思える周到さに、勇も頭の下がる想いだ。
というのもほぼ毎回アポ無しでの突撃で。
その度に「あ、この人達急いでここに集まったのかな」と想像が膨らむのだから。
その証拠に、王と側近の着る服は着替え忘れたのだろう現代のシャツ。
誰がチョイスして渡したのか、勇の嫌いな「うさシリーズ」のTシャツである。
王様達の様な屈強な男が着ると、その深淵の闇が更に増幅されている様に見えてならない。
何故着れるサイズのキャラTシャツがあるのかは定かでは無いが。
とてもシュールな光景を前に、勇の心情はどうにも複雑。
「よく来てくれた福留殿と勇殿。 それで、今日は何用かな?」
そんな風に思われている事も露知らず、フェノーダラ王の爽やかな笑顔と言葉が二人を迎える。
キャラTシャツを纏う筋骨隆々の男がこうだと、別の意味で心が穏やかになれそうだ。
「実はですね、例の隠れ里がもう一つ遠方に見つかりまして」
「なんと!?」
しかし福留の突然の話を聴いた途端、その鼻息は収まるどころか勢いを増す事となる。
隠れ里という存在は彼等にとってそれだけ希有な存在なのだから。
「でも、やっぱり隠れ里に住んでいた魔者はグゥさんと同じで、ほとんど敵意を持たない人達だったんです。 アルライ族っていう方々なんですが、俺達はそんな彼等と交流して、仲良く話し合ったり出来たんですよ」
「おお、なんと信じ難い……」
これにはフェノーダラ王達も驚愕するばかりだ。
グゥの話は当然レンネィから聞いている。
隠れ里が危険な存在ではないという事も。
ただそれだけでは魔者という種に対する価値観を拭えず。
例え勇達からの話だとしても、一概に信じ切る事は出来ない。
〝信じたい〟と思う気持ちは少なからず有る様だが。
とはいえ、今やそんな反応を見せるのもフェノーダラ王とその側近達だけ。
精々レンネィが「またそんな壮大な事やらかしてぇ」と鼻で笑うくらいか。
エウリィはと言えば、とても嬉しそうな笑顔を浮かべていて。
剣聖に至っては壁に背を預けながら、静かに睨みを利かせているだけだ。
「魔者と相容れるなど、今まで考えた事すら無かったのだが……こうも立て続けに聞くと、何が真実なのかもはやわからんな」
こうして生まれた悩みは遂にフェノーダラ王達が揃えて頭を抱えるまでに。
例え良い話であっても、常識の根底が覆されれば悩みもしよう。
それに、この様に思うのは決して不思議な事ではない。
今まで当然の常識だと思い込んでいた事を突然覆されれば、虚実・真実に拘らず不信が纏い始める。
人という信念を持った生物だから起きうる、脳の錯覚現象だ。
もっとも、『あちら側』の人間にその知識が当てはまるとは言い難いが。
「ずっと昔から争い続けてきたんですから仕方ないですよ。 それにその常識を簡単に覆せる訳がないって事もわかってるつもりです。 ただ、そういう魔者も居るって事だけわかってくれればそれだけで十分ですから」
「そうか……優しいのだな、勇殿は。 誰に対しても、理に対しても」
気付けば翻訳の役目も忘れ、自分の言葉で語る勇が居て。
その言葉をフェノーダラ王が耳を傾け、その想いに心を寄せる。
こう語れてしまうくらいに、勇はこの数日でハッキリと成長を果たしていたのだ。
そんな勇を前に福留はただ微笑み、その動向だけを見守るのみ。
もはや二人の間に自身の言葉など必要無い。
野暮な事など要らないのだと十分に理解したから。
「だがもし勇殿の行いが魔者との戦いを止めるキッカケとなるならば、かつて【創世の女神】が招いたとされる災厄に終止符を打つ事が出来るかもしれんな」
そしてその成長こそ、フェノーダラ王国にとっても希望の光となるかもしれない。
そんな願いがフェノーダラ王の脳裏を過る。
彼もまた、勇の成長に驚いている一人だからこそ。
しかしそんな時、勇が思わず首を傾げさせる。
またしても聞いた事のないキーワードがその耳に触れたからだ。
翻訳されていた事には間違いないのだが、どうにも心に引っ掛かった模様。
「【創世の女神】ってなんです?」
「そうか、勇殿は知らないのだったな―――」
「―――世界を、人間と魔者が争う様に仕向けた神様の事よぉ」
そんな疑問に真っ先に答えたのは他でもない、剣聖。
彼等の言う【創世の女神】とは……
何でも、遥か古代において世界を混乱に陥れた元凶なのだとか。
人間と魔者が争う様になった最初のきっかけを生み。
その恨み辛みが後世まで続く様にと呪いを残した存在なのだという。
もちろんそれは幾百億もの時の彼方での話という事で、ただの伝説・神話に過ぎないとも言われている。
その語りを語り継いだ書物は少なく、脚色もされている所から真実とはとても言い難い。
だがそれでも今の理があり、その〝呪い〟とやらが今まで続いてきたのも確かで。
もしかしたら世界がこんな形になってしまったのも〝呪い〟の所為なのかもしれない。
【創世の女神】などと言えば聞こえはいいが、恐らくは邪神の類という事なのだろう。
でもその呪いを、本来何の関係も無い世界の人間が解き放とうとしている。
そんな希望とも言える少年に期待を抱かない訳が無い。
「いつか人間と魔者が手を取り合い、争いの無い世界が来る―――そんな時代をいつか見てみたいものだ」
そしてその希望は『あちら側』の常識さえも塗り潰し、人の心さえ動かしたのだ。
フェノーダラ王国の者達も、アルライ族の者達も。
夢幻でも妄想でもなく、今こうして現実に。
フェノーダラ王が背もたれに体を預け、何も無い天井を見上げて想いを馳せる。
たった今、年甲斐も無く手に入れてしまった一つの夢を。
「平和な世の中が訪れるといいですね。 いや、そうなる様に頑張りますから……応援しててください」
その夢は勇にとっても一緒だから。
皆で手に取って生きていく事が勇の目標だから。
目の前の大人の夢さえも支えたいと想わずにはいられない。
だがその時、勇の視界には首を傾げるフェノーダラ王の姿が映り込んでいて。
「すまない、【ヘイワ】とは一体どういう意味なのだろうか?」
そんなフェノーダラ王から放たれた一言は、余りにも意外過ぎた。
『あちら側』にはどうやら、【平和】という単語が存在しないらしい。
途端の思っても見なかった返事に、勇は戸惑いを隠せず。
その一言が片言でもあったから、福留もすぐに気付いた様だ。
これには勇もどう説明したらいいかわからない。
唐突だったという事と、曖昧な意味ともあって答えられる自信が無いのだろう。
「えっと……福留さん、平和ってどう説明すればいいですかね?」
「そうですねぇ、平たく言えば平穏和睦。 誰もが争う事無く、助け合える世界……といったトコですかねぇ」
しかしそこはさすがの福留か。
突然のヘルプにもこうして即答してみせる。
いざ福留の言ったままに説明をしてみれば、今度はしっかりと伝わった様で。
相変わらずの正確な助け舟っぷりに、勇も感謝を隠せない。
「なるほど、【平和】か……その言葉、しかと胸に刻むとしよう」
「とても素敵な言葉だと思います!」
でもこれも一つの文化交流の形なのだろう。
なまじ言葉が伝わるから忘れていただけに過ぎない。
互いが知らない言葉を教え合い、知識の空白を埋めていく。
それが埋まりきった時、きっとこの国の人々ともっと仲良くなる事が出来るだろう。
それに何より、【平和】という言葉こそ王達が抱き始めた夢でもあるのだから。
この一言を得ただけでも、彼等を取り巻く世界はずっと優しくなれそうだ。
フェノーダラ王が感心を寄せ、エウリィが嬉しそうな万遍の笑顔を返す。
そんな二人の姿がどうにも眩しくて、喜ばしくて。
気付けば彼等同様に、万遍の笑みを返す勇がそこに居た。
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