333 / 1,197
第十一節「心拠りし所 平の願い その光の道標」
~私なりに、少し頑張ってみよ~
しおりを挟む
パーフェクトガール・エウリィ。
彼女は出会った時から勇にとっての目上な存在だった。
初対面の時では不動のパワーに一切通用せず。
その二ヶ月後にもデス・ハグを振り解く事さえ出来なかった。
しかしその後、命力に目覚めてから勇の力の成長は著しい。
それこそ、エウリィに勝てるのではないかという想いさえ抱く程に。
だけど確証が無い。
なにせ彼女は魔剣使いでも無ければ力を見せられた事も無かったから。
なので本気で戦ったらまだ勝てないのではないか、という疑念さえ過る。
だから、内心はずっと試してみたかったのだ。
自分が今、どれだけ強くなったのかを。
目上の存在に追い付けているのか、追い越せるのかを証明したくて。
そして今日この日、突如としてその機会がやって来た。
「とりあえず二人が居るし、今日は軽く流すか」
吐き出す息が白い。
それくらい寒い中でトントンと身を跳ねさせ、冷えて硬い体を解す。
ストレッチも軽くこなし、走る準備を整えて。
今日は珍しくちゃなも同伴するという。
でも普段から鍛えていない彼女が付いてくるのは到底不可能だ。
だから競歩くらいの走りで済ませればいい。
勇はそう思っていたのだけれど。
「あ、ありがとうござ―――」
「いいえ勇様。全力で、お願い致します! わたくしはお二人の足枷になるつもりはありません」
「――ええっ!?」
まさかのエウリィ奮起である。
きっと彼女は知らないのだろう。
ちゃながどれだけ非力で、かつ普段もロードワークしていない事に。
それでも一緒に戦えているから、勇と同じくらいに走れるとさえ思っているに違いない。
そんな中で加減を提言されれば火も付くだろう。
エウリィらしい反骨精神だ。
「え、いいの!? 田中さんは?」
「わ、私は……あ、はい、いいです……」
その気に当てられたのか、ちゃなも半ばガッカリで頷く事に。
元より乗り気ではなかったのかもしれない。
ただ勢いでこうなってしまっただけで。
「お願いいたしますッ!!」
「わ、わかった。ならいつも通りでいくよ」
しかもこんな乗り気を見せつけられたらもう二人とも断れない。
それだけエウリィはやる気なのだ。
エウリィもまた勇に負けたくない気持ちがあるのだろう。
勇が内心で彼女を越したいと願うのと同様に。
だから二人の気持ちはもうフルスロットル。
アクセルを踏み込んで、ローギアのスタンバイ一歩手前だ。
気持ちは既にちゃなを置き去りである。
「基本はダッシュ。一定距離を走ったら通常の走りに戻って、同じくらい走ったらまたダッシュする。その繰り返しだから。追い越してもいいけど、迷ったりしないでね」
「わかりました」
「それじゃあ行くよッ!!」
その気持ちももう抑えられない。
だから今、二人は駆け出していた。
まさしくちゃなを一瞬にして置き去りとする程の速さで。
とはいえ、これは普通のダッシュだ。
常人でも叶う程の。
エウリィも普通に付いて行ける、なんて事の無い走りで。
だからこそ今、エウリィは命力機動で難なく食らいつく。
それでも勇へと注視を逸らさないままに。
まだ始まったばかりだからこそ、油断は出来ないのだと。
「二人共はやすぎ……はぁ、はぁ」
そんな二人の背を追って、ちゃなが必死に走り行く。
歩の纏まらない不規則な足取りで。
そもそも走り馴れていないのだから仕方ない事か。
そうやってちゃなが必死に走っていると、道の先にて二人の姿が見えて来る。
ちゃなを待っているのだろう。
ただし普通に待っているのではない。
素早く足を動かし、足踏みしながら待っていたのだ。
それも高く強く膝を蹴り上げる様にして。
「フッ、フッ……大丈夫、田中さん?」
エウリィも不格好ながら真似をして蹴り上げている。
ただ、もうこの時点でどこか顔を強張らせていて。
「だ、大丈夫じゃないでぇす。もう、無理です~……」
「はは……じゃあ無理せず途中で帰って平気だよ。俺も丁度いい所までやって帰るから」
「はぁい、はぁ~……」
間も無くちゃなが項垂れる様に崩れ落ちるが、その事にさえ気が向けられない。
エウリィには既に周りへ気を配る余裕が無い様だ。
一挙一動真似しなければならないからか。
それとも、それだけ勇のトレーニングが激しいからか。
しかし本気でやると言った以上は勇も止まらない。
そのまま再びダッシュを始め、エウリィと共に走り去っていく。
ここはまだまだ近所、ちゃなが帰るには何の問題も無いから。
「だめだなぁ、私。もっと体力付けたいなぁ……」
小さくなっていく二人の背中を前に、ちゃなのガッカリが止まらない。
元より体力が少ないのに、普段からも動いていないから辛くてならなくて。
ほんの少し、ゆっくり走るくらいならまだいいのだけれど。
さすがにいきなり勇と同じペースは無理があったらしい。
「私なりに、少し頑張ってみよ」
でも、そんなちゃなでも今は少しだけ向上心がある。
この間の城前での特訓で少し胆力が身に着いたから。
だから今、ちゃなは勇達が向かった方向に走っていた。
ゆっくりとマイペースに、それでいて前向きに。
今はこれだけでいい。
少しだけでも、二人の背中に置いて行かれない様に、と。
彼女は出会った時から勇にとっての目上な存在だった。
初対面の時では不動のパワーに一切通用せず。
その二ヶ月後にもデス・ハグを振り解く事さえ出来なかった。
しかしその後、命力に目覚めてから勇の力の成長は著しい。
それこそ、エウリィに勝てるのではないかという想いさえ抱く程に。
だけど確証が無い。
なにせ彼女は魔剣使いでも無ければ力を見せられた事も無かったから。
なので本気で戦ったらまだ勝てないのではないか、という疑念さえ過る。
だから、内心はずっと試してみたかったのだ。
自分が今、どれだけ強くなったのかを。
目上の存在に追い付けているのか、追い越せるのかを証明したくて。
そして今日この日、突如としてその機会がやって来た。
「とりあえず二人が居るし、今日は軽く流すか」
吐き出す息が白い。
それくらい寒い中でトントンと身を跳ねさせ、冷えて硬い体を解す。
ストレッチも軽くこなし、走る準備を整えて。
今日は珍しくちゃなも同伴するという。
でも普段から鍛えていない彼女が付いてくるのは到底不可能だ。
だから競歩くらいの走りで済ませればいい。
勇はそう思っていたのだけれど。
「あ、ありがとうござ―――」
「いいえ勇様。全力で、お願い致します! わたくしはお二人の足枷になるつもりはありません」
「――ええっ!?」
まさかのエウリィ奮起である。
きっと彼女は知らないのだろう。
ちゃながどれだけ非力で、かつ普段もロードワークしていない事に。
それでも一緒に戦えているから、勇と同じくらいに走れるとさえ思っているに違いない。
そんな中で加減を提言されれば火も付くだろう。
エウリィらしい反骨精神だ。
「え、いいの!? 田中さんは?」
「わ、私は……あ、はい、いいです……」
その気に当てられたのか、ちゃなも半ばガッカリで頷く事に。
元より乗り気ではなかったのかもしれない。
ただ勢いでこうなってしまっただけで。
「お願いいたしますッ!!」
「わ、わかった。ならいつも通りでいくよ」
しかもこんな乗り気を見せつけられたらもう二人とも断れない。
それだけエウリィはやる気なのだ。
エウリィもまた勇に負けたくない気持ちがあるのだろう。
勇が内心で彼女を越したいと願うのと同様に。
だから二人の気持ちはもうフルスロットル。
アクセルを踏み込んで、ローギアのスタンバイ一歩手前だ。
気持ちは既にちゃなを置き去りである。
「基本はダッシュ。一定距離を走ったら通常の走りに戻って、同じくらい走ったらまたダッシュする。その繰り返しだから。追い越してもいいけど、迷ったりしないでね」
「わかりました」
「それじゃあ行くよッ!!」
その気持ちももう抑えられない。
だから今、二人は駆け出していた。
まさしくちゃなを一瞬にして置き去りとする程の速さで。
とはいえ、これは普通のダッシュだ。
常人でも叶う程の。
エウリィも普通に付いて行ける、なんて事の無い走りで。
だからこそ今、エウリィは命力機動で難なく食らいつく。
それでも勇へと注視を逸らさないままに。
まだ始まったばかりだからこそ、油断は出来ないのだと。
「二人共はやすぎ……はぁ、はぁ」
そんな二人の背を追って、ちゃなが必死に走り行く。
歩の纏まらない不規則な足取りで。
そもそも走り馴れていないのだから仕方ない事か。
そうやってちゃなが必死に走っていると、道の先にて二人の姿が見えて来る。
ちゃなを待っているのだろう。
ただし普通に待っているのではない。
素早く足を動かし、足踏みしながら待っていたのだ。
それも高く強く膝を蹴り上げる様にして。
「フッ、フッ……大丈夫、田中さん?」
エウリィも不格好ながら真似をして蹴り上げている。
ただ、もうこの時点でどこか顔を強張らせていて。
「だ、大丈夫じゃないでぇす。もう、無理です~……」
「はは……じゃあ無理せず途中で帰って平気だよ。俺も丁度いい所までやって帰るから」
「はぁい、はぁ~……」
間も無くちゃなが項垂れる様に崩れ落ちるが、その事にさえ気が向けられない。
エウリィには既に周りへ気を配る余裕が無い様だ。
一挙一動真似しなければならないからか。
それとも、それだけ勇のトレーニングが激しいからか。
しかし本気でやると言った以上は勇も止まらない。
そのまま再びダッシュを始め、エウリィと共に走り去っていく。
ここはまだまだ近所、ちゃなが帰るには何の問題も無いから。
「だめだなぁ、私。もっと体力付けたいなぁ……」
小さくなっていく二人の背中を前に、ちゃなのガッカリが止まらない。
元より体力が少ないのに、普段からも動いていないから辛くてならなくて。
ほんの少し、ゆっくり走るくらいならまだいいのだけれど。
さすがにいきなり勇と同じペースは無理があったらしい。
「私なりに、少し頑張ってみよ」
でも、そんなちゃなでも今は少しだけ向上心がある。
この間の城前での特訓で少し胆力が身に着いたから。
だから今、ちゃなは勇達が向かった方向に走っていた。
ゆっくりとマイペースに、それでいて前向きに。
今はこれだけでいい。
少しだけでも、二人の背中に置いて行かれない様に、と。
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】病弱な幼馴染が大事だと婚約破棄されましたが、彼女は他の方と結婚するみたいですよ
冬月光輝
恋愛
婚約者である伯爵家の嫡男のマルサスには病弱な幼馴染がいる。
親同士が決めた結婚に最初から乗り気ではなかった彼は突然、私に土下座した。
「すまない。健康で強い君よりも俺は病弱なエリナの側に居たい。頼むから婚約を破棄してくれ」
あまりの勢いに押された私は婚約破棄を受け入れる。
ショックで暫く放心していた私だが父から新たな縁談を持ちかけられて、立ち直ろうと一歩を踏み出した。
「エリナのやつが、他の男と婚約していた!」
そんな中、幼馴染が既に婚約していることを知ったとマルサスが泣きついてくる。
さらに彼は私に復縁を迫ってくるも、私は既に第三王子と婚約していて……。
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる