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第十三節「想い遠く 心の信 彼方へ放て」
~心に響く声~
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人と獣
明と暗が 合間むる世にて
分かつ理 産みしは天の定めか
願わくば 永久の其であれ
時き継幻想 フララジカ……
建造物内……そこで勇は操られた仲間達の度重なる攻撃の嵐を掻い潜る姿が在った。
だが、アージとレンネィの猛攻、ちゃなの援護射撃、そして時折見せる剣聖の追い打ちは、彼の体だけでなく心までをも痛め付けていく。
絶え間無い連続攻撃を凌ぐも……もはや勇の体力や命力は底が見え、今にも倒れそうな程に疲弊しきっていた。
「ハァッ……ハァッ……!!」
勇が地に突いた翠星剣にもたれ掛かる事で何とか姿勢を保たせる。
その足は僅かに震え、自力で立つ事すら困難な様を見せつけていた。
それに対し……獅堂に操られた4人は疲れた表情すら見せず、彼の前でなお壁の様に立ち塞がる。
「粘るねぇ……思ったより君が根性有る事に驚きを隠せないよ……もっと早く討たれてくれる事を予想してたんだけどさ」
「フゥッ……フゥッ……!!」
しかし未だ勇の目は諦めを知らず、獅堂を睨み付ける瞳はなお力強く。
「獅堂なんかに負ける訳にはいかない、倒れる訳にはいかない」……そんな感情が彼の心を支え、なお奮い立たせる。
今にも倒れそうな勇を前に……獅堂は面を上げ、見下す様に下目遣いで「ヘラヘラ」と余裕の笑みを浮かばせていた。
「もういい加減死んでくれないと、僕も安心して次の計画を立てられないからさ……そろそろ終わってくれよ?」
「馬鹿……言えよ……終わってたまるか……!!」
勇が感情のままに翠星剣にもたれ掛かった重い体を起こし、再び剣を持ち上げる。
だがそんな威勢とは裏腹に、勇にはもはや戦う力など僅かしか残っていなかった。
全身の至る場所に纏わり付くのは、戦闘の応酬によって流した血と汗が混じり合った土埃。
既に血や汗は枯れ、泥と成っていた土埃が茶こけて乾き、肌や服を汚す。
赤や茶が混じり、所々が解れ破れた衣服が激しかった戦いを物語るよう。
再びアージとレンネィが少しづつ彼との距離を縮めながら囲む様に近づいていく。
次の攻撃を凌げる確証は無い……もはや万事休すと言える状況。
だが……そう思われた時、勇の背後から彼を呼ぶ声が聞こえ始めた。
「勇ぅー!!」
「勇ッ!!大丈夫ッ!?」
「勇君追いついたよー!!」
「勇殿ッ!!」
突然、心輝達が雪崩れ込む様に姿を現し、弱りきった勇の下へと駆け寄っていく。
既に限界をありのままにする彼の姿に、心輝達が思わずその顔を引きつらせていた。
「皆……来てくれたのか……」
「あったり前だよっ!!」
「ボロッボロじゃねぇか!! 大丈夫かよッ!?」
心配の余り大声を張り上げる心輝を他所に……咄嗟に瀬玲が勇に肩を貸し、彼の腰に腕を回して体を支える。
柔らかな彼女の体がクッションとなり、勇の体と心に僅かな浮遊感を与えた。
「ありがとう……セリ」
「うん……でも、この状況……最悪じゃん……」
瀬玲がそう声を上げた時……そこで初めて心輝とあずーが気付く。
ちゃなを筆頭に、アージ、レンネィ、剣聖が勇へ向けて魔剣を構えていた事に。
「なんだってんだこりゃあ……!?」
「なんでみんなこっち向いてるの……?」
「見たまんまじゃん……皆術中って事でしょ」
駆け付けて間も無く焦りの表情を浮かべる心輝達。
だが、それはちゃな達もまた同様であった。
「え、なんで皆そっちに……!?」
「お前達……そっちは!!」
「どういう事なの!?」
彼女達が心輝達の行動を前に驚き、思わずその足を止める。
操られた側の3人は動揺していたのだ。
彼女達は心の一部を書き換えられただけで決して心輝達の事を忘れた訳ではない。
「何故彼等が獅堂の側に立つのか」……そう見えている彼女達には心輝達の行動が理解出来なかったのである。
その状況を前に、ちゃな達が後ずさる様に獅堂の前に戻っていく。
そうする様に仕向けたのは獅堂……彼もまた心輝達の登場に多少なりに驚き、警戒していた故の指示だった。
「おいおい……何かと思えば雑魚共が今更登場かよ……」
だがその顔に浮かべるのは相変わらずの余裕の笑み。
心輝達が魔剣を手に取って間も無い事は獅堂の知る所。
そんな者達が遅れて来た所で戦況を変える事など出来る筈も無い……だから獅堂は彼等を求めなかった。
戦力にすら数える事すらおこがましい存在……そう思っているのである。
だが、そんな見下した視線の先に見知った顔が映り込む。
「ん、あれはジョゾウか……おいジョゾウ!! 早くそいつらを片付けろよ!!」
ジョゾウに気付き、高らかと声を上げて指示を送る。
だが途端、ジョゾウは「キッ」と獅堂を睨み付け、小さな嘴から細かい牙を覗かせた。
「黙れ下郎!!」
「なッ……!?」
静かになった宮殿内にジョゾウの怒号が木霊する。
獅堂に背く様に言い放った言葉を前に、獅堂は思わず怯む様を見せた。
「こ度に続く愚行の数々……既にこの耳に入っておるわ……それは決して許せぬ事ぞ獅堂よォ!!」
怒りに打ち震え、ジョゾウが怒声を上げ続ける。
恩師であるロゴウや里を守る長老たる賢人を陥れた事。
そして先程も仲間であるボウジを操っていた事。
彼にとってそれは、里にとって裏切り以外の何物でも無い……許されざるべき事だったのだから。
「ロゴウやその他の仲間達の無念……今ここで晴らしてくれよう!!」
「チッ……余計な知恵を付けやがって鳥頭が……!! もういいや、ジョゾウも要らない!! 皆、あいつらは敵だ……全部倒すしかないよ!!」
ジョゾウが自分の手から離れたと知るや……獅堂は掌を返し、彼を含めた全員を討てと、4人へ指示を出す。
アージとレンネィが逆らう事無く「止むを得ない」と呟き前進していく。
だが……ちゃなだけは身を震わせてその場に立ち尽くしていた。
「あ? おい、お前何してるんだよ……さっさと行けよ」
獅堂がその拳でちゃなの頭を「ガンガン」と軽く殴りつけ、彼女を焚き付ける。
だがちゃなの手は震え、しきりに獅堂と勇達の方へ視線を行き来させていた。
「で、でも……皆が居るのに……出来ないよ……」
勇だけは獅堂に見えるが、他の皆は仲良くしていた人達そのもの……そんな彼等を攻撃する度胸は無い。
そんな彼女の狼狽える様に……獅堂がイラつきの余り口元をピクピクと震わせる。
すると何を思ったのか……獅堂がちゃなの耳元へその口を運び、ぼそっと呟いた。
「彼等はもう操られて元には戻らないんだ……彼等はもう敵、殺さなきゃいけない敵なんだ……君がやらなきゃいけないんだ……」
「ううー……!!」
ちゃなが苦しみ、涙を目に浮かべながら両手に掴んだドゥルムエーヴェの先端を勇達に向ける。
なお小刻みに震え、その方位は定まらない……彼女の戸惑う心を写す様に……。
「そうだ……それでいいんだ……ヒヒッ」
それを目前にした獅堂がニヤァと歪んだ笑みを浮かべる。
彼女の迷いなど、彼に判る筈も無い。
ただ一発、それを放てばいい……獅堂にとってはその程度の事だったのだ。
獅堂とちゃながそうやり取りをしている間……勇は瀬玲に肩を借りながらも翠星剣を再び構えて前を見据える。
心輝達もまた各々の魔剣を構えて対峙する中……勇が小さく声を上げた。
「ごめん皆……俺、田中さん達をむざむざ操らさせてしまった……」
枯れた声から発せられた言葉は力無く……その気落ちした心をも乗る。
それを感じ取った瀬玲がそっと彼へ振り向き、心を撫でる様に優しく返した。
「仕方ないわよ……貴方の所為じゃないんだからさ?」
「うんうん……でもこの状況さすがにヤバいよねー」
彼等の前に立つのは手練れの二人、そして膨大な命力を持つちゃな。
一人でさえ心輝達4人が束に成っても敵うか判らない相手に、不安は拭えようもない。
「私達だけじゃレンネィさんはともかくアージさんを止められる気がしないわ……」
「ぬう……拙僧にもっと力があれば……!!」
「おまけに田中ちゃんは一撃必殺……ってお、おい!!」
その時突然、心輝が声を上げて慌て始める。
彼が慌てて指を差し示す先には……ドゥルムエーヴェを構えるちゃなの姿があった。
「ヤ、ヤバいってーーー!!」
「お、おい田中ちゃん!! やめろってぇ!!」
堪らず心輝がちゃなに向かって叫び声を上げると、それに続く様に瀬玲やあずーも声を高らかに上げる。
「止めて田中さん!! 貴方は操られているだけなのよ!!」
「ちゃなちゃん!!ちゃんと見てぇ!!」
そしてジョゾウもまた……。
「ちゃな殿!! 己の見る者を思い出すのだ!! この場に居る者は皆、其方の友なるぞ!!」
彼等の大声でのちゃなへの呼び掛けに反応し……ちゃなのドゥルムエーヴェの持つ手が更に震え、その杖先が大きく揺れ動く。
その顔からは汗が流れ落ち、ちゃなの焦りがその表情に滲み出ていた。
「う……うぅ……」
「さぁ、撃て、撃つんだちゃな……君がやらなきゃ世界が終わるよ……?」
心輝達の叫びも虚しく、その杖の先に光が集まりその力が収束されていく。
徐々に杖の先端に力が集約されると……たちまち巨大な炎弾が形成され、激しい轟音と共に蠢く様をありありと見せつけた。
それは彼女が初めて放ったのと同じ……数百の魔者を焼き払った、純粋にして圧倒的な……破壊の炎。
その強大な力を前に、最後まで希望を棄てず……心輝達が力の限りに大声を張り上げる。
「田中ちゃあーーーーーーんッ!!」
「田中さぁーーーーーーん!!」
「ちゃなちゃーーーーーーん!!」
「ちゃな殿ォーーーーーー!!」
だが……その叫び空しく、炎弾が急激に絞られ、弾丸として体を成した。
「あ……ううぅーー!!!」
「いけっ!! いっちまえ!!」
出来上がった弾丸が急速な回転を始め……体を支える両足が床を滑り、大きく広げて踏みしめられる。
遂に弾丸が発射されようとした時……ちゃなの顔が大きく持ち上がり、その目元から雫が跳ね上がった。
途端ふわりと持ち上がった髪が彼女の視界を遮り、髪の合間から外の光が溢れ、白の世界を映し込む。
その瞬間……宮殿内を、勇の声が一杯に包んだ。
「ちゃなぁあーーーーーーーーーーッ!!!」
明と暗が 合間むる世にて
分かつ理 産みしは天の定めか
願わくば 永久の其であれ
時き継幻想 フララジカ……
建造物内……そこで勇は操られた仲間達の度重なる攻撃の嵐を掻い潜る姿が在った。
だが、アージとレンネィの猛攻、ちゃなの援護射撃、そして時折見せる剣聖の追い打ちは、彼の体だけでなく心までをも痛め付けていく。
絶え間無い連続攻撃を凌ぐも……もはや勇の体力や命力は底が見え、今にも倒れそうな程に疲弊しきっていた。
「ハァッ……ハァッ……!!」
勇が地に突いた翠星剣にもたれ掛かる事で何とか姿勢を保たせる。
その足は僅かに震え、自力で立つ事すら困難な様を見せつけていた。
それに対し……獅堂に操られた4人は疲れた表情すら見せず、彼の前でなお壁の様に立ち塞がる。
「粘るねぇ……思ったより君が根性有る事に驚きを隠せないよ……もっと早く討たれてくれる事を予想してたんだけどさ」
「フゥッ……フゥッ……!!」
しかし未だ勇の目は諦めを知らず、獅堂を睨み付ける瞳はなお力強く。
「獅堂なんかに負ける訳にはいかない、倒れる訳にはいかない」……そんな感情が彼の心を支え、なお奮い立たせる。
今にも倒れそうな勇を前に……獅堂は面を上げ、見下す様に下目遣いで「ヘラヘラ」と余裕の笑みを浮かばせていた。
「もういい加減死んでくれないと、僕も安心して次の計画を立てられないからさ……そろそろ終わってくれよ?」
「馬鹿……言えよ……終わってたまるか……!!」
勇が感情のままに翠星剣にもたれ掛かった重い体を起こし、再び剣を持ち上げる。
だがそんな威勢とは裏腹に、勇にはもはや戦う力など僅かしか残っていなかった。
全身の至る場所に纏わり付くのは、戦闘の応酬によって流した血と汗が混じり合った土埃。
既に血や汗は枯れ、泥と成っていた土埃が茶こけて乾き、肌や服を汚す。
赤や茶が混じり、所々が解れ破れた衣服が激しかった戦いを物語るよう。
再びアージとレンネィが少しづつ彼との距離を縮めながら囲む様に近づいていく。
次の攻撃を凌げる確証は無い……もはや万事休すと言える状況。
だが……そう思われた時、勇の背後から彼を呼ぶ声が聞こえ始めた。
「勇ぅー!!」
「勇ッ!!大丈夫ッ!?」
「勇君追いついたよー!!」
「勇殿ッ!!」
突然、心輝達が雪崩れ込む様に姿を現し、弱りきった勇の下へと駆け寄っていく。
既に限界をありのままにする彼の姿に、心輝達が思わずその顔を引きつらせていた。
「皆……来てくれたのか……」
「あったり前だよっ!!」
「ボロッボロじゃねぇか!! 大丈夫かよッ!?」
心配の余り大声を張り上げる心輝を他所に……咄嗟に瀬玲が勇に肩を貸し、彼の腰に腕を回して体を支える。
柔らかな彼女の体がクッションとなり、勇の体と心に僅かな浮遊感を与えた。
「ありがとう……セリ」
「うん……でも、この状況……最悪じゃん……」
瀬玲がそう声を上げた時……そこで初めて心輝とあずーが気付く。
ちゃなを筆頭に、アージ、レンネィ、剣聖が勇へ向けて魔剣を構えていた事に。
「なんだってんだこりゃあ……!?」
「なんでみんなこっち向いてるの……?」
「見たまんまじゃん……皆術中って事でしょ」
駆け付けて間も無く焦りの表情を浮かべる心輝達。
だが、それはちゃな達もまた同様であった。
「え、なんで皆そっちに……!?」
「お前達……そっちは!!」
「どういう事なの!?」
彼女達が心輝達の行動を前に驚き、思わずその足を止める。
操られた側の3人は動揺していたのだ。
彼女達は心の一部を書き換えられただけで決して心輝達の事を忘れた訳ではない。
「何故彼等が獅堂の側に立つのか」……そう見えている彼女達には心輝達の行動が理解出来なかったのである。
その状況を前に、ちゃな達が後ずさる様に獅堂の前に戻っていく。
そうする様に仕向けたのは獅堂……彼もまた心輝達の登場に多少なりに驚き、警戒していた故の指示だった。
「おいおい……何かと思えば雑魚共が今更登場かよ……」
だがその顔に浮かべるのは相変わらずの余裕の笑み。
心輝達が魔剣を手に取って間も無い事は獅堂の知る所。
そんな者達が遅れて来た所で戦況を変える事など出来る筈も無い……だから獅堂は彼等を求めなかった。
戦力にすら数える事すらおこがましい存在……そう思っているのである。
だが、そんな見下した視線の先に見知った顔が映り込む。
「ん、あれはジョゾウか……おいジョゾウ!! 早くそいつらを片付けろよ!!」
ジョゾウに気付き、高らかと声を上げて指示を送る。
だが途端、ジョゾウは「キッ」と獅堂を睨み付け、小さな嘴から細かい牙を覗かせた。
「黙れ下郎!!」
「なッ……!?」
静かになった宮殿内にジョゾウの怒号が木霊する。
獅堂に背く様に言い放った言葉を前に、獅堂は思わず怯む様を見せた。
「こ度に続く愚行の数々……既にこの耳に入っておるわ……それは決して許せぬ事ぞ獅堂よォ!!」
怒りに打ち震え、ジョゾウが怒声を上げ続ける。
恩師であるロゴウや里を守る長老たる賢人を陥れた事。
そして先程も仲間であるボウジを操っていた事。
彼にとってそれは、里にとって裏切り以外の何物でも無い……許されざるべき事だったのだから。
「ロゴウやその他の仲間達の無念……今ここで晴らしてくれよう!!」
「チッ……余計な知恵を付けやがって鳥頭が……!! もういいや、ジョゾウも要らない!! 皆、あいつらは敵だ……全部倒すしかないよ!!」
ジョゾウが自分の手から離れたと知るや……獅堂は掌を返し、彼を含めた全員を討てと、4人へ指示を出す。
アージとレンネィが逆らう事無く「止むを得ない」と呟き前進していく。
だが……ちゃなだけは身を震わせてその場に立ち尽くしていた。
「あ? おい、お前何してるんだよ……さっさと行けよ」
獅堂がその拳でちゃなの頭を「ガンガン」と軽く殴りつけ、彼女を焚き付ける。
だがちゃなの手は震え、しきりに獅堂と勇達の方へ視線を行き来させていた。
「で、でも……皆が居るのに……出来ないよ……」
勇だけは獅堂に見えるが、他の皆は仲良くしていた人達そのもの……そんな彼等を攻撃する度胸は無い。
そんな彼女の狼狽える様に……獅堂がイラつきの余り口元をピクピクと震わせる。
すると何を思ったのか……獅堂がちゃなの耳元へその口を運び、ぼそっと呟いた。
「彼等はもう操られて元には戻らないんだ……彼等はもう敵、殺さなきゃいけない敵なんだ……君がやらなきゃいけないんだ……」
「ううー……!!」
ちゃなが苦しみ、涙を目に浮かべながら両手に掴んだドゥルムエーヴェの先端を勇達に向ける。
なお小刻みに震え、その方位は定まらない……彼女の戸惑う心を写す様に……。
「そうだ……それでいいんだ……ヒヒッ」
それを目前にした獅堂がニヤァと歪んだ笑みを浮かべる。
彼女の迷いなど、彼に判る筈も無い。
ただ一発、それを放てばいい……獅堂にとってはその程度の事だったのだ。
獅堂とちゃながそうやり取りをしている間……勇は瀬玲に肩を借りながらも翠星剣を再び構えて前を見据える。
心輝達もまた各々の魔剣を構えて対峙する中……勇が小さく声を上げた。
「ごめん皆……俺、田中さん達をむざむざ操らさせてしまった……」
枯れた声から発せられた言葉は力無く……その気落ちした心をも乗る。
それを感じ取った瀬玲がそっと彼へ振り向き、心を撫でる様に優しく返した。
「仕方ないわよ……貴方の所為じゃないんだからさ?」
「うんうん……でもこの状況さすがにヤバいよねー」
彼等の前に立つのは手練れの二人、そして膨大な命力を持つちゃな。
一人でさえ心輝達4人が束に成っても敵うか判らない相手に、不安は拭えようもない。
「私達だけじゃレンネィさんはともかくアージさんを止められる気がしないわ……」
「ぬう……拙僧にもっと力があれば……!!」
「おまけに田中ちゃんは一撃必殺……ってお、おい!!」
その時突然、心輝が声を上げて慌て始める。
彼が慌てて指を差し示す先には……ドゥルムエーヴェを構えるちゃなの姿があった。
「ヤ、ヤバいってーーー!!」
「お、おい田中ちゃん!! やめろってぇ!!」
堪らず心輝がちゃなに向かって叫び声を上げると、それに続く様に瀬玲やあずーも声を高らかに上げる。
「止めて田中さん!! 貴方は操られているだけなのよ!!」
「ちゃなちゃん!!ちゃんと見てぇ!!」
そしてジョゾウもまた……。
「ちゃな殿!! 己の見る者を思い出すのだ!! この場に居る者は皆、其方の友なるぞ!!」
彼等の大声でのちゃなへの呼び掛けに反応し……ちゃなのドゥルムエーヴェの持つ手が更に震え、その杖先が大きく揺れ動く。
その顔からは汗が流れ落ち、ちゃなの焦りがその表情に滲み出ていた。
「う……うぅ……」
「さぁ、撃て、撃つんだちゃな……君がやらなきゃ世界が終わるよ……?」
心輝達の叫びも虚しく、その杖の先に光が集まりその力が収束されていく。
徐々に杖の先端に力が集約されると……たちまち巨大な炎弾が形成され、激しい轟音と共に蠢く様をありありと見せつけた。
それは彼女が初めて放ったのと同じ……数百の魔者を焼き払った、純粋にして圧倒的な……破壊の炎。
その強大な力を前に、最後まで希望を棄てず……心輝達が力の限りに大声を張り上げる。
「田中ちゃあーーーーーーんッ!!」
「田中さぁーーーーーーん!!」
「ちゃなちゃーーーーーーん!!」
「ちゃな殿ォーーーーーー!!」
だが……その叫び空しく、炎弾が急激に絞られ、弾丸として体を成した。
「あ……ううぅーー!!!」
「いけっ!! いっちまえ!!」
出来上がった弾丸が急速な回転を始め……体を支える両足が床を滑り、大きく広げて踏みしめられる。
遂に弾丸が発射されようとした時……ちゃなの顔が大きく持ち上がり、その目元から雫が跳ね上がった。
途端ふわりと持ち上がった髪が彼女の視界を遮り、髪の合間から外の光が溢れ、白の世界を映し込む。
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