時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
457 / 1,197
第十五節「戦士達の道標 巡る想い 集いし絆」

~戦人、恩に報いて願い受け申す~

しおりを挟む
 某日、カラクラの里―――
 東北、秋田県のとある山中に存在する、カラクラ族と呼ばれる鳥型の魔者の住処。

 そこに一人訪れた人の影……その男、笠本と同じ魔特隊本部に務める事務員『平野ひらの 英司えいじ』。

 四角いレンズの眼鏡を身に付け、整った短髪黒髪といった清潔感溢れる顔立ちは、笠本と同じ物静かな雰囲気でありながらも真面目さを際立たせた風貌。
 紺のスーツを着こなし、ビジネスケースを持ちながら……山間を切り抜き作り上げられた険しい道のりを持つカラクラの里の坂道を何の表情を変えずに登っていく。

 各々の部屋から覗き込むカラクラの民の視線にも躊躇する事無く歩み続け、その足は遂に里中央部の大広間へと辿り着いたのだった。

「合い待て」
「……?」

 広場へ着くや否や、彼に声を掛けてきたのは……鳩の様な顔付きと大きな羽根を有する腕を持ったカラクラ族の戦士ムベイ。

「其方、確か藤咲勇殿が同志の……そぉう、ササモトというたか」
「いいえ、平野です」

 無表情からのツッコミを入れる平野。
 すると、ムベイは5秒ほど口を開けたまま硬直し……再び声を漏らす。

「して、何用か」
「ジョゾウさんに相談がありまして……」



 ジョゾウとは現カラクラ族の王にして、ムベイ達カラクラ精鋭を率いた人情厚き者。
 かつて勇と茶奈と共に大空へと舞い上がり、死闘を生き抜いた……もはや彼等の仲間と言っても過言ではない存在だ。
 魔特隊を理解する数少ない者の一人でもある。

 カラクラ族とは1年程前に勇達と一度敵対した事もあったが、その後和解し今や協力関係にある。
 現代の道具や物資の供給をする見返りとして、彼等の知識の提供や戦い以外の力添えを行うなど、アルライ族程ではないが交流も行われていた。
 住処が山奥という事もあり、簡単に会いに行く事が出来ないのが難点と言えるだろうか。

 彼等とのやり取りは基本アポイントメント無しでの直接交渉が基本である。
 何故なら、『あちら側』と呼ばれる異世界の生命体とは基本言語が異なり、電話等では会話をする事が出来ないのだ。

 しかし直接会話となれば命力による心の会話が可能だ。
 勇達がボノゴ族達と普通に会話していたのも、今まで交渉を行う事が出来たのも、全ては命力という力があったからこそ。
 どちらか片方が命力を有する魔剣使いか魔者である事が前提であるが、このお陰で世界が必要以上に混乱しなかったと言えば納得も行くものだろう。



「ふぅむ……分かり申した。 ビゾよ、ジョゾウ殿に伝えて参れ」

 ムベイが同じくその場に居たビゾと呼ばれるカラクラ族の若者へ指示を出す。
 ビゾは「ははっ!!」と威勢の良い大声を上げ、駆け足で大広間の先……長い階段の向こうにある宮殿へと走り去っていった。
 鳥型と言えど常に飛んでいる訳ではないのが彼等の在り方である。

「ササモト殿よ、暫し待たれよ」
「平野です」

 再び5秒ほど口を開けたまま硬直するムベイ。

 人が外見だけで動物の雌雄の判別が分からない様に、魔者もまた人間の雌雄の判別がつかない。
 それ故に……こういう間違いは多いのだろう。
 ムベイに関してはただ記憶力が薄いだけであろうが。

 すると、間もなくして宮殿から駆け戻るビゾの姿が二人の目に映り込んだ。
 息一つ上げる事無く戻ったビゾが背筋を伸ばして伝令を述べる。

「お通しせよと」
「ウム、あいわかった」

 ムベイやビゾ、その他のカラクラ族達は平野の進路を開ける様に左右に別れて後ずさる。
 たちまち彼の前には邪魔一つ無い宮殿への道が露わと成った。

 平野はムベイ達に見送られながら宮殿まで続く坂道を一歩づつ踏みしめて歩く。
 その先にある宮殿の様相が徐々にハッキリとしていき、岩をくり抜いて作られた人工的な建造物がその存在感をありありと見せつけ始めた。

 頂点部は大きな穴が開き、そこを中心にひび割れた個所が目立つ。
 それは決してデザインでは無く、勇達が戦いの折に残した傷跡である。

 一年前のカラクラの里での戦闘の際、衛星軌道に存在した巨大魔剣【ベリュム】を撃ち抜いた茶奈の力の一端がありありと傷跡として今も残っているのだ。



 その傷を修復しないのは……ひとえにその事件を永劫えいごう忘れぬため。



 平野が宮殿へ辿り着くと、そこには王座へと座る者とその横に立つ者……二人のカラクラ族の姿が在った。

「おお平野殿、お久しぅ」

 そう言い王座から立ち上がった者こそジョゾウその人であった。
 そしてその隣に立っている者……ジョゾウの友にして側近のボウジ。

 ジョゾウは王座から立ち上がると、そのまま近づいてくる平野の下へ歩み寄る。

「ジョゾウ様もお変わりない様で」
「ハハハ、もはや変わる余地など御座らぬよ」

 明るい表情で平野と会話を交わし、フレンドリーさを醸し出すジョゾウ。
 彼もまた勇達と同じ『平和』を志す一人だ。

「して、何用で御座ろうか……?」
「実は福留司令から要請がありまして……」
「ほぉ……」

 平野は手に持ったビジネスケースを開き中から一枚の書類を取り出した。
 そこには彼等の言語で書かれた文が長々と綴られていた。

「どうぞ」
「うむぅ、戴こう」

 ジョゾウがその書類を受け取り、文に目を通し始める。
 ボウジも横から書類へ目を向け、静かに読み取りだした。

「フム……つまり、我々に『たいまとくせんたい』への協力を願いたいという事であろうか」
「はい。 今、魔特隊は人員増強を考えており……もし宜しければ協力願えないかと思いまして」

 現在、魔特隊の戦闘要員は勇を筆頭に、茶奈、心輝、瀬玲、レンネィ、そして非常要因としてあずー……合計で6人しか居ない。
 日を追う事に各国からオファーが来るが、それに対応する為には人数がとても足りない。

 戦闘要員の確保は魔特隊にとって急務とも言える事案なのである。

「ウゥム……左様であったか……」
「ジョゾウよ、もしや其方……行く気ではあるまいな?」

 興味ありそうな雰囲気を醸し出すジョゾウにボウジが釘を刺す。

「ヌ……しかし勇殿が願いぞ……」
「勇殿では無く福留殿が願いに御座る」

 ボウジの冷静なツッコミに、ジョゾウの丸く小さい目が僅かに陰る。
 そんなボウジにジョゾウの不意な平手打ちが飛んだ。

 嘴に当たり「ペチッ」と軽い音が鳴るが……ボウジは何の表情も変えず。

「しかしボウジよ、福留殿が願いは勇殿が願いよ。 拙僧にはこの願い、ないがしろには出来ぬ」
「なれば王の責務も蔑ろにせぬよう心掛けよ」

 再び反対側からジョゾウの平手打ちが飛ぶ。
 「ペチッ」という音が虚しく響くが、ボウジはなお無表情のままだ。

 そんなやり取りが続くが……ボウジのツッコミにどうにも勝てないジョゾウ。
 有情の平手打ちは無情に流され虚しさだけが響き渡るのみ。

 そんな二人のやり取りを前に平野は思う。
 「この人は凄い行きたいんだろうな」……と。

 そう思うと自然に笑みも出るものだ。

 引き下がろうともしないジョゾウを前にボウジが「ハァ」と溜息を洩らすと、細めた瞳をジョゾウの視線に合わせる。

「ジョゾウよ……気持ちは判る。 だが王が仮に逝ねば我らとて虚空に消えようぞ……」

 『あちら側』から来た者達はどのような原理か……それぞれの集団の王と呼ばれる者が死ぬと、その下部に居る者達も全て光に消えて天に還る。
 これは勇達が戦いを通して知った事実であり、彼等にもその情報は既に伝わっている。
 消えた者達がどうなるかは定かでは無いが……死んだ、と思えば恐れるのも当然だ。

 そんな心配を向けるボウジ……だが、それに対してジョゾウは臆する事無く彼へと言葉を返した。

「……然らば……ボウジよ、貴殿が次の王ぞ」
「ぬな……ジョゾウそれは……」

 突然の宣言に、先程まで冷静だった筈のボウジが驚きの顔を隠せない。
 しかしジョゾウは真剣な面持ちでボウジを見つめ、その肩へと両手を添えた。

「貴殿は賢く頭が回る……それに対し拙僧はやはり戦人いくさびとよ……主君が為に戦いに身を投じる事こそ歓びぞ。 本来であれば其方こそが王に相応しいのだ、ボウジよ」

 ボウジは昔からジョゾウをその知恵で支えてきた。
 真面目ゆえに人柄で劣る彼はまさか自分が王に成れなどと言われるとは思っても居なかったのだろう。

 余りの衝撃に、思わずその足が後ずさり、唖然とした表情を浮かべる。

 だが、そこはさすがのボウジか……ジョゾウの言葉を飲み込むと、崩れていた表情は再び落ち着きを取り戻し始めた。

「ヌゥ……合い分かったジョゾウよ……なれば次が王として其方に命ずる……生きて帰れ」
「応」

 お互いが片手を肩に乗せ合い友情とも主従とも取れる誓いを交わし頷く。
 そこに映るのはまさしく戦士と王の姿。
 友である二人にとって、主従の逆転など何の意も介さぬ小事なのだ。

「では平野殿、拙僧が参ろう……暫し時を頂きとう御座る」
「分かりました」

 そう平野に伝えると、ジョゾウはおもむろに懐をまさぐり……スマートフォンを取り出した。
 そして器用に通話ボタンを押すと―――



「あ、ヨメ、あ、うんうん、ボクこれから出張行くから。 暫く留守にするけどムチュコ頼むわ。 ボウジ手伝ってくれるし多分、あ、うん、ヘイヘイ、うぇーい」



 そしてスマートフォンの終了ボタンを押すジョゾウ。

「後は賢人達に小見通おみどおしを済ませるのみに御座る……平野殿、先に行っててくだされ」
「え、あ……わ、わかりました」

 戸惑いを隠せない平野ではあったが、そう言われると再び顔をキリッと元に戻し宮殿を後にした。

 心で会話し翻訳される言葉も……文化が変われば妙な形に翻訳されるものだ。
 武士の様な会話をするカラクラ族の隠れた秘密を目の当たりにした平野の心中は穏やかではない。



―――今のは……聞かなかった事にしよう……―――



 そう心に誓う平野であった。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...