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第二十二節「戦列の条件 託されし絆の真実 目覚めの胎動」
~願いを交わし躱されセンチメンタル~
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幾日の後、夜が過ぎ去り、再び朝が訪れた―――
橙色の日の光が微かに差す時間帯……視界の先を白の空間が覆い隠す程の霧が周囲を包みこむ。
人気すら感じる事の無い冷たい空気の中……波紋一つ無い水辺に一人の女性が歩く……。
自身の踵にも届きそうな程に長く伸びた髪をふわりふわりと揺らし、体に光を遮られて細かく目立たない影をその背に落としていく。
一歩一歩ゆっくりと、すらりと伸びた脚を優雅にも感じる迷い無き動きで踏み出しながら……そっと水面へとそのつま先を伸ばした。
思ったよりも底は浅かったのだろう……膝下まで沈んだ所で足が底を突き、思わぬ抵抗にその足を止めると……ひんやりとした感覚がその足から全身へじわりと伝わっていく。
再び足を動かし……一歩一歩、波紋を呼びながら水場の中へと歩を進ませ……その中心へと彼女の体が辿り着くと不意に足を止めた。
立ち止まった足が横に揃い、すらりとした裸体を垂直に伸ばすと……つま先でその体を持ち上げ、顎に至るまでの筋を張る様に顎を上げる。
その時……太陽の光が射し込み、彼女の体を余す事無く照らす。
その瞬間を待っていたかの様に……女性は恥ずかしげも無くその肢体を晒すが如くその長い髪を腕で撫で上げ、跳ねる様にその髪先を舞い上がらせた。
柔らかく澄んだ髪が光に照らされ吸い込み、幾多もの輝きを放つ。
その隙間から見え隠れする女性の顔……それは瀬玲であった。
「……やはり君は美しい……」
不意に声が聞こえ、それに気付いた彼女は大きく片腕を振り上げると……体をしならせる様に弧を描いて振り下ろし、素早く指で水面を掬う様に叩く。
途端、凄まじい勢いで水滴が飛び出し……声の主へと向けて飛び掛かった。
霧に隠れた先に居た声の主……石段に座るイシュライトへと目掛けて水滴が襲い掛かる。
パァンッ!!
だがイシュライトは瞑っていた目を開ける事も無く、軽々と片手で水滴を弾き飛ばし……余裕の笑みを浮かべる。
命力を帯びた水滴が弾かれた先にある岩壁へと突き刺さるが……そんな事にも目も暮れず、彼は薄っすらと開けた目で彼女の肢体をうっとりと見つめ続けていた。
「イシュ……覗き見なんて趣味が悪いわよ」
「言っても誘ってくれないと思いましてね……申し訳ありません」
「まったく……」
彼等が繰り広げた激戦から……六日が経っていた。
彼女の体の治療も一定の落ち着きを見せ、ようやく外出する事を許されていた。
命力による治療により活発化した身体機能が新陳代謝と成育を活発化させ、彼女の髪はその影響で伸びに伸び今の様相を持つに至る。
イシュライトから幾度と無く彼の命力を送り込まれた所為か……彼女の髪は末端以外の生え際に至るまでを淡い翡翠色へと変化させていた。
日の光を浴びる事でその色合いは更に深みと透明度を増し……彼女をまるで別人へと仕立て上げる様であった。
イシュライトを前に、恥ずかしがるような素振りも見せずその肢体を晒し……瀬玲が彼へと近づく。
「久しぶりの水浴びなのだから、ゆっくり浴びたいのだけど?」
「そうでしたか……本当であれば我等が一族が使う滝へと誘ったのですが……そこはとても綺麗な場所でしてね……今はもうありませんが」
「へぇ……それは残念」
「仕方ありませんね……ではお背中を御流ししましょうか」
「……ありがとう」
そこに以前の様な嫌味を吐く瀬玲の姿は無かった。
数日に渡り己の心に潜む醜い膿を流しきったのだろう……清々しい笑顔を浮かべ、彼の優しさを受け入れる彼女はまるで本当の恋人同士の様に自然な姿であった。
何よりずっと彼女は彼の前で痴態を晒してきたからこそ、諦めもあったのかもしれない。
イシュライトは彼女が思っていた以上に頑なで、彼は自分が思った事をひたすらに押し通そうとする。
それをこの数日で知ったからこそ……彼女は最早彼を否定する事に意味を感じず、ありのままを受け入れるようにしていた。
もちろん、受け入れがたい事に関してのみはぐらかす事で事なきを得る訳ではあるが。
言わずと知れた『裸の付き合い』があったからこそ、二人はそうやって受け入れ合う。
水面に沈む女に寄り添い、何度も何度もその体を拭う男の姿が日の下に晒される。
こうして彼女達が共に過ごす日々の最後の一日が始まった。
―――
久しぶりとも言える水浴びを終え、心身ともに清められた瀬玲は再び診療所へと戻っていた。
自身が寝ていたベッドへ腰を掛けながら、瀬玲が前に座るイシュライトの両手と額を合わせて目を瞑る。
その間からは淡く光る黄色と青色の命力がそっと漏れていた。
コォォォォ……
共鳴音……だが不思議と優しさを感じるその音は、落ち着いた二人の心を表す様にただ静かに波打つ事無く一定を保ち続ける。
どれだけの長い時間をそのままで居たのだろうか。
そうも思える程に二人はただ静かにその体勢を維持し、互いの命力を混ぜ合わせ続けていた。
「―――そろそろ、終いにしましょうか……」
不意にイシュライトから声が漏れ、それに合わせる様に瀬玲が目を開く。
その視界に映るのは、同様に目を開き彼女を見つめる彼の顔。
そっとお互いが組み合った手を離すと……互いに見つめ合ったまま微笑みを向け合う。
「さすがセリ……まさかこの短期間で連鎖命力陣を会得するとは夢にも思いませんでした……」
「そうかな……やってみると意外と簡単かもよ?」
そんな事をすらっと述べる瀬玲にイシュライトも苦笑を浮かべるが……すぐに優しく笑みへと戻すと、じっと彼女の瞳を見つめた。
「本来この秘術は鍛錬した者でも習得に最低で十年は要します……それをたった四日間で習得出来たのですから、貴女は間違いなく天才ですよ。 私が保証致します」
自信満々に答えるイシュライト……そうも言われれば彼女も照れ臭さを隠しきれない。
「……これで治療は終わりです。 長い間ご苦労様でした……本当に色々と申し訳ありませんでした」
「ううん、いいのよ……最初はちょっとアレだったけど……慣れたら心地よいって凄く実感出来たから」
長い治療を経て、心をありのままに晒し続けて来たからだろう……彼女の心は今までに無く清々しく、高揚に満ち溢れていた。
「ありがとうセリ……やはり貴女は最高です」
「ちょっとイシュ……」
すると突然イシュライトが瀬玲の手を掴み……彼女を自身の体へと手繰り寄せる。
それに抵抗する事も無く……しなやかな体が彼の体に寄せられると……不意に互いの目が上下で見つめ合った。
「私はとても欲張りなのです……今までこの小さな都の中から出る事叶わず、それでも多く居る都の女性達と見合い、想いを重ねてまいりました……。 しかしいずれの女性も私の欲を満たせる者は居らず……半ば諦めていました」
瀬玲が静かに彼の語りに耳を傾ける中……それに甘んじて高揚する心に従うままにイシュライトが語り続ける。
「そこに貴女が現れた……才能、実力、優美さ……そしてその心を持ち合わせた貴女を超える女性など他に居ようか……いや、居るはずもありません」
普段なら「持ち上げすぎ」と突っ込むであろう瀬玲もその口を塞ぎ……次に訪れるであろう言葉を待ち続ける。
「―――貴女を愛しています……どうか、この想いを受け取ってください……」
彼の想いが瀬玲の心に響く。
命力を通して知ってきた彼の心が。
その心に触れて……彼女はそっと微笑みを返した。
「……お断りします」
緩やかな声で放たれた一言。
途端……唖然とするイシュライト。
だがそんな彼の想いなどに構う事無く……開かれた彼の手から解き放たれ自由になると、彼女が再び口を開いた。
「私は人間で、貴方は魔者……私達は相容れない。 心は通じ合えても体は通じ合えない。 だから―――」
「心は通じ合っています!! 例え子供を作る事が出来なくとも……私達は……!!」
するとそっと……彼の口へ彼女の白く柔らかい指先が触れ……思わず声が止まる。
「ごめんねイシュ、私は欲張りでね……面食いなんだ……イケメン以外お断り……ってさ」
「セリ……」
その言葉を最後に……イシュライトは俯き、項垂れる様に椅子へと腰を落として膝を抱えた。
そんな彼を尻目に、瀬玲はゆっくりと立ち上がり……部屋の外へと足を踏み出す。
ちらりと……うずくまる彼の背を見つめながら、進めた脚を止めて彼へ向けて優しく呟いた。
「今までありがとう……さようなら」
その一言を放ち終えたと共に再び足を踏み出し……彼女はそのままその場を後にしたのだった。
女の心は時には偽りを写す……長い髪をふわりと巻き上げながら廊下を歩く彼女の瞳には、言い得ない理由から生まれた涙が一滴、浮かび上がっていた。
それは彼女が今秘める想いを露わにしない為に。
橙色の日の光が微かに差す時間帯……視界の先を白の空間が覆い隠す程の霧が周囲を包みこむ。
人気すら感じる事の無い冷たい空気の中……波紋一つ無い水辺に一人の女性が歩く……。
自身の踵にも届きそうな程に長く伸びた髪をふわりふわりと揺らし、体に光を遮られて細かく目立たない影をその背に落としていく。
一歩一歩ゆっくりと、すらりと伸びた脚を優雅にも感じる迷い無き動きで踏み出しながら……そっと水面へとそのつま先を伸ばした。
思ったよりも底は浅かったのだろう……膝下まで沈んだ所で足が底を突き、思わぬ抵抗にその足を止めると……ひんやりとした感覚がその足から全身へじわりと伝わっていく。
再び足を動かし……一歩一歩、波紋を呼びながら水場の中へと歩を進ませ……その中心へと彼女の体が辿り着くと不意に足を止めた。
立ち止まった足が横に揃い、すらりとした裸体を垂直に伸ばすと……つま先でその体を持ち上げ、顎に至るまでの筋を張る様に顎を上げる。
その時……太陽の光が射し込み、彼女の体を余す事無く照らす。
その瞬間を待っていたかの様に……女性は恥ずかしげも無くその肢体を晒すが如くその長い髪を腕で撫で上げ、跳ねる様にその髪先を舞い上がらせた。
柔らかく澄んだ髪が光に照らされ吸い込み、幾多もの輝きを放つ。
その隙間から見え隠れする女性の顔……それは瀬玲であった。
「……やはり君は美しい……」
不意に声が聞こえ、それに気付いた彼女は大きく片腕を振り上げると……体をしならせる様に弧を描いて振り下ろし、素早く指で水面を掬う様に叩く。
途端、凄まじい勢いで水滴が飛び出し……声の主へと向けて飛び掛かった。
霧に隠れた先に居た声の主……石段に座るイシュライトへと目掛けて水滴が襲い掛かる。
パァンッ!!
だがイシュライトは瞑っていた目を開ける事も無く、軽々と片手で水滴を弾き飛ばし……余裕の笑みを浮かべる。
命力を帯びた水滴が弾かれた先にある岩壁へと突き刺さるが……そんな事にも目も暮れず、彼は薄っすらと開けた目で彼女の肢体をうっとりと見つめ続けていた。
「イシュ……覗き見なんて趣味が悪いわよ」
「言っても誘ってくれないと思いましてね……申し訳ありません」
「まったく……」
彼等が繰り広げた激戦から……六日が経っていた。
彼女の体の治療も一定の落ち着きを見せ、ようやく外出する事を許されていた。
命力による治療により活発化した身体機能が新陳代謝と成育を活発化させ、彼女の髪はその影響で伸びに伸び今の様相を持つに至る。
イシュライトから幾度と無く彼の命力を送り込まれた所為か……彼女の髪は末端以外の生え際に至るまでを淡い翡翠色へと変化させていた。
日の光を浴びる事でその色合いは更に深みと透明度を増し……彼女をまるで別人へと仕立て上げる様であった。
イシュライトを前に、恥ずかしがるような素振りも見せずその肢体を晒し……瀬玲が彼へと近づく。
「久しぶりの水浴びなのだから、ゆっくり浴びたいのだけど?」
「そうでしたか……本当であれば我等が一族が使う滝へと誘ったのですが……そこはとても綺麗な場所でしてね……今はもうありませんが」
「へぇ……それは残念」
「仕方ありませんね……ではお背中を御流ししましょうか」
「……ありがとう」
そこに以前の様な嫌味を吐く瀬玲の姿は無かった。
数日に渡り己の心に潜む醜い膿を流しきったのだろう……清々しい笑顔を浮かべ、彼の優しさを受け入れる彼女はまるで本当の恋人同士の様に自然な姿であった。
何よりずっと彼女は彼の前で痴態を晒してきたからこそ、諦めもあったのかもしれない。
イシュライトは彼女が思っていた以上に頑なで、彼は自分が思った事をひたすらに押し通そうとする。
それをこの数日で知ったからこそ……彼女は最早彼を否定する事に意味を感じず、ありのままを受け入れるようにしていた。
もちろん、受け入れがたい事に関してのみはぐらかす事で事なきを得る訳ではあるが。
言わずと知れた『裸の付き合い』があったからこそ、二人はそうやって受け入れ合う。
水面に沈む女に寄り添い、何度も何度もその体を拭う男の姿が日の下に晒される。
こうして彼女達が共に過ごす日々の最後の一日が始まった。
―――
久しぶりとも言える水浴びを終え、心身ともに清められた瀬玲は再び診療所へと戻っていた。
自身が寝ていたベッドへ腰を掛けながら、瀬玲が前に座るイシュライトの両手と額を合わせて目を瞑る。
その間からは淡く光る黄色と青色の命力がそっと漏れていた。
コォォォォ……
共鳴音……だが不思議と優しさを感じるその音は、落ち着いた二人の心を表す様にただ静かに波打つ事無く一定を保ち続ける。
どれだけの長い時間をそのままで居たのだろうか。
そうも思える程に二人はただ静かにその体勢を維持し、互いの命力を混ぜ合わせ続けていた。
「―――そろそろ、終いにしましょうか……」
不意にイシュライトから声が漏れ、それに合わせる様に瀬玲が目を開く。
その視界に映るのは、同様に目を開き彼女を見つめる彼の顔。
そっとお互いが組み合った手を離すと……互いに見つめ合ったまま微笑みを向け合う。
「さすがセリ……まさかこの短期間で連鎖命力陣を会得するとは夢にも思いませんでした……」
「そうかな……やってみると意外と簡単かもよ?」
そんな事をすらっと述べる瀬玲にイシュライトも苦笑を浮かべるが……すぐに優しく笑みへと戻すと、じっと彼女の瞳を見つめた。
「本来この秘術は鍛錬した者でも習得に最低で十年は要します……それをたった四日間で習得出来たのですから、貴女は間違いなく天才ですよ。 私が保証致します」
自信満々に答えるイシュライト……そうも言われれば彼女も照れ臭さを隠しきれない。
「……これで治療は終わりです。 長い間ご苦労様でした……本当に色々と申し訳ありませんでした」
「ううん、いいのよ……最初はちょっとアレだったけど……慣れたら心地よいって凄く実感出来たから」
長い治療を経て、心をありのままに晒し続けて来たからだろう……彼女の心は今までに無く清々しく、高揚に満ち溢れていた。
「ありがとうセリ……やはり貴女は最高です」
「ちょっとイシュ……」
すると突然イシュライトが瀬玲の手を掴み……彼女を自身の体へと手繰り寄せる。
それに抵抗する事も無く……しなやかな体が彼の体に寄せられると……不意に互いの目が上下で見つめ合った。
「私はとても欲張りなのです……今までこの小さな都の中から出る事叶わず、それでも多く居る都の女性達と見合い、想いを重ねてまいりました……。 しかしいずれの女性も私の欲を満たせる者は居らず……半ば諦めていました」
瀬玲が静かに彼の語りに耳を傾ける中……それに甘んじて高揚する心に従うままにイシュライトが語り続ける。
「そこに貴女が現れた……才能、実力、優美さ……そしてその心を持ち合わせた貴女を超える女性など他に居ようか……いや、居るはずもありません」
普段なら「持ち上げすぎ」と突っ込むであろう瀬玲もその口を塞ぎ……次に訪れるであろう言葉を待ち続ける。
「―――貴女を愛しています……どうか、この想いを受け取ってください……」
彼の想いが瀬玲の心に響く。
命力を通して知ってきた彼の心が。
その心に触れて……彼女はそっと微笑みを返した。
「……お断りします」
緩やかな声で放たれた一言。
途端……唖然とするイシュライト。
だがそんな彼の想いなどに構う事無く……開かれた彼の手から解き放たれ自由になると、彼女が再び口を開いた。
「私は人間で、貴方は魔者……私達は相容れない。 心は通じ合えても体は通じ合えない。 だから―――」
「心は通じ合っています!! 例え子供を作る事が出来なくとも……私達は……!!」
するとそっと……彼の口へ彼女の白く柔らかい指先が触れ……思わず声が止まる。
「ごめんねイシュ、私は欲張りでね……面食いなんだ……イケメン以外お断り……ってさ」
「セリ……」
その言葉を最後に……イシュライトは俯き、項垂れる様に椅子へと腰を落として膝を抱えた。
そんな彼を尻目に、瀬玲はゆっくりと立ち上がり……部屋の外へと足を踏み出す。
ちらりと……うずくまる彼の背を見つめながら、進めた脚を止めて彼へ向けて優しく呟いた。
「今までありがとう……さようなら」
その一言を放ち終えたと共に再び足を踏み出し……彼女はそのままその場を後にしたのだった。
女の心は時には偽りを写す……長い髪をふわりと巻き上げながら廊下を歩く彼女の瞳には、言い得ない理由から生まれた涙が一滴、浮かび上がっていた。
それは彼女が今秘める想いを露わにしない為に。
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