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第二十三節「驚異襲来 過ち識りて 誓いの再決闘」
~宿 敵 来 訪~
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緊急発進したヘリコプターが轟音を立てて一直線に目的地へと向かっていく。
幾つもの住宅街や都市部を通り抜けて高速で移動する機体。
その中で心輝達がインカムとタブレットを使い、福留から状況の説明を受けていた。
『今日の朝頃、埼玉西部の高地に突然出現した魔者達はそのまま麓へと直進して近隣の住宅街を襲い始めました。 相当な進行速度の為、確認と状況把握が遅れて事態はどんどん悪化しています。 確認映像をタブレットへ送付しますので確認を』
間も無くタブレットに送信される幾つかの写真。
そこに映し出されたのは、まるで騎士の様に甲冑、盾、そして5メートルはあろうかという程の長い突槍を携え、嘴を有した四本足の獣に跨り走る魔者の姿であった。
その魔者を見た途端……レンネィが顔に陰りを落とす。
真剣な面持ちを構え、画像を睨み付ける様に見据えた彼女には……既に昂りから来る命力の迸りが僅かに感じられた。
「……クラカッゾ……ッ!!」
「くらかっぞ……?」
レンネィの口から漏れた一言……それに反応し、周囲の者達が彼女に目を向けた。
彼女の異様な雰囲気を前に、誰しもが途端声を殺し唾を飲む。
「奴等がこの世界に来たなんて……ね……来ていないと思っていたから、安心していたのだけど……」
『……知っているのですね?』
「えぇ、忘れようもない相手よ……宿敵と言っても過言ではない程にね……!」
その声色は先程までとは打って違ってとても低く……憎悪や怒りといった負の感情に満ちた声質。
彼女の雰囲気を察した皆は、彼女とクラカッゾと呼ばれた魔者との間に並々ならぬ大きな因縁がある事を察させた。
『よろしければ、情報を教えて頂いても?』
「えぇ……奴等クラカッゾ族は、いわゆる少数精鋭から成る騎馬民族よ。 『嘴馬犬』と呼ばれる騎乗用の家畜に跨って戦う事に重点を置いていて、突進力を使った戦法で一気に人間の集落を襲撃する事が多い好戦的な魔者達なの」
彼女の言う通り、写真に載った魔者達はいずれも獣に乗っている。
数こそ四人程度しか見えないが、いずれもが似た格好の所が彼女の証言の信憑性を色濃くさせていた。
彼等が跨った獣は言うなれば神話などに出て来るヒポグリフと呼ばれる生物が近いと言える姿。
短く太い脚がその力強さを物語る様であった。
「奴等は……特に王のヴィジャールーは人を殺す事に悦びを感じる程の戦闘狂……それだけには留まらず自分の生き死にすら遊びの様に扱い、仲間も騎乗する獣すらも勝つ為の道具にしか思っていない狂気染みた相手よ……!!」
そう言い終えると……レンネィが「ギリリ」と歯を食いしばり、更に命力を昂らせる。
『なるほど……彼等と戦った経験は?』
「えぇ、あります……あれは絶対に忘れられない戦いだったわ……」
そう漏らすと……静かに何度も画像をスクロールさせ、映された数少ない画像を繰り返し繰り返し確認し始めた。
画像に映る光景の隅々までに目をやり、些細な情報を集める。
そんな様子を前に、気に成った心輝が彼女へと話し掛けた。
「何か画像に気に成る事でもあるんスか?」
レンネィはタブレットを突く指を止めると……視線を向ける事無く静かに口を開く。
「奴は狡猾なの……もしかしたら何かしら罠を用意してるかもしれない。 少しでも状況を把握して完膚なきまでに叩き潰す、それが大事な事よ」
「ウ……ウス……」
彼女は既に戦闘態勢へと移行されており、厳しい口調が心輝を委縮させる。
彼の言葉で踏ん切りがついたのだろう……彼へそう答えると、顔をタブレットから離して仲間達へと向けた。
「福留さんの話から察するに、奴等は今二手に分かれて行動しているわ……王1、雑兵3の別行動ね。 だから今回、私達も二手に分かれて行動しようと思う」
「了解だぜ……一刻も早く鎮静化しないといけないしな……」
アンディとナターシャも彼の声に静かに頷く。
まだ半月にも満たない期間しか共に過ごしていない彼等ではあったが……勇という象徴に同調するかの様に、行動理念は既に魔特隊の理念のそれへと準じていた。
「アンディとナターシャは雑兵三匹をお願い。 私と心輝が王を叩く」
「っしゃ、背中は任せてくれ!!」
レンネィの提案に俄然やる気を見せる心輝。
だが彼とは逆に……雑兵退治を割り当てられた二人はどこか不満そうだ。
「ちぇ……オイラ達も王って奴と戦ってみたいなぁ」
「四人ならきっと楽勝―――」
そう言いかけた時……レンネィの拳が強く握りしめられ、口元が大きく歪んだ。
「調子に乗るなッ!!」
突如レンネィの怒号が機内に響き、心輝達が驚き身動きをすら止める。
ヘリコプターを操縦していた操縦士までもが彼女の声に驚き、戸惑いを見せていた。
「これは死闘よ……如何な相手だろうと最善策を尽くさねばならない……お前達は自分の役目を果たせ!!」
今までに見せた事の無い程のレンネィの怒号。
彼女をそう揺り動かせる程までの相手だという事なのだろう。
彼女の怒りの剣幕を前に……いつも調子に乗る二人が声も上げられず、ただその口をぱっくりと開けたまま怯えの表情を浮かべて彼女を見続けていた。
「二人共、返事はッ!?」
「あっ……は、はいっ!!」
「はい……」
しおらしく答えた二人は思わず互いの手を繋ぎ……そのまま静かに顔を俯かせる。
そんな二人を前にしたレンネィは……「フゥ」と溜息を一息吐くと、その顔を落ち着いたシワ一つ無い表情へと戻していった。
「……私達の目的はあくまで緊急事態への対処……その事を忘れてはいけないわ。 シンもいいわね?」
「……ウス」
心輝もまた彼女の気に充てられたのだろう……体に命力を漂わせ、備えた魔剣を熱くさせていた。
「……現場までまだ時間がある……少し、話をしましょうか……」
全員の意思統一が出来たと感じた彼女はそう呟くと……そっとシートの背もたれに背を預け、口を開く。
そして静かに語り始めた……かつて彼女が経験した、宿敵との戦いの出来事を。
幾つもの住宅街や都市部を通り抜けて高速で移動する機体。
その中で心輝達がインカムとタブレットを使い、福留から状況の説明を受けていた。
『今日の朝頃、埼玉西部の高地に突然出現した魔者達はそのまま麓へと直進して近隣の住宅街を襲い始めました。 相当な進行速度の為、確認と状況把握が遅れて事態はどんどん悪化しています。 確認映像をタブレットへ送付しますので確認を』
間も無くタブレットに送信される幾つかの写真。
そこに映し出されたのは、まるで騎士の様に甲冑、盾、そして5メートルはあろうかという程の長い突槍を携え、嘴を有した四本足の獣に跨り走る魔者の姿であった。
その魔者を見た途端……レンネィが顔に陰りを落とす。
真剣な面持ちを構え、画像を睨み付ける様に見据えた彼女には……既に昂りから来る命力の迸りが僅かに感じられた。
「……クラカッゾ……ッ!!」
「くらかっぞ……?」
レンネィの口から漏れた一言……それに反応し、周囲の者達が彼女に目を向けた。
彼女の異様な雰囲気を前に、誰しもが途端声を殺し唾を飲む。
「奴等がこの世界に来たなんて……ね……来ていないと思っていたから、安心していたのだけど……」
『……知っているのですね?』
「えぇ、忘れようもない相手よ……宿敵と言っても過言ではない程にね……!」
その声色は先程までとは打って違ってとても低く……憎悪や怒りといった負の感情に満ちた声質。
彼女の雰囲気を察した皆は、彼女とクラカッゾと呼ばれた魔者との間に並々ならぬ大きな因縁がある事を察させた。
『よろしければ、情報を教えて頂いても?』
「えぇ……奴等クラカッゾ族は、いわゆる少数精鋭から成る騎馬民族よ。 『嘴馬犬』と呼ばれる騎乗用の家畜に跨って戦う事に重点を置いていて、突進力を使った戦法で一気に人間の集落を襲撃する事が多い好戦的な魔者達なの」
彼女の言う通り、写真に載った魔者達はいずれも獣に乗っている。
数こそ四人程度しか見えないが、いずれもが似た格好の所が彼女の証言の信憑性を色濃くさせていた。
彼等が跨った獣は言うなれば神話などに出て来るヒポグリフと呼ばれる生物が近いと言える姿。
短く太い脚がその力強さを物語る様であった。
「奴等は……特に王のヴィジャールーは人を殺す事に悦びを感じる程の戦闘狂……それだけには留まらず自分の生き死にすら遊びの様に扱い、仲間も騎乗する獣すらも勝つ為の道具にしか思っていない狂気染みた相手よ……!!」
そう言い終えると……レンネィが「ギリリ」と歯を食いしばり、更に命力を昂らせる。
『なるほど……彼等と戦った経験は?』
「えぇ、あります……あれは絶対に忘れられない戦いだったわ……」
そう漏らすと……静かに何度も画像をスクロールさせ、映された数少ない画像を繰り返し繰り返し確認し始めた。
画像に映る光景の隅々までに目をやり、些細な情報を集める。
そんな様子を前に、気に成った心輝が彼女へと話し掛けた。
「何か画像に気に成る事でもあるんスか?」
レンネィはタブレットを突く指を止めると……視線を向ける事無く静かに口を開く。
「奴は狡猾なの……もしかしたら何かしら罠を用意してるかもしれない。 少しでも状況を把握して完膚なきまでに叩き潰す、それが大事な事よ」
「ウ……ウス……」
彼女は既に戦闘態勢へと移行されており、厳しい口調が心輝を委縮させる。
彼の言葉で踏ん切りがついたのだろう……彼へそう答えると、顔をタブレットから離して仲間達へと向けた。
「福留さんの話から察するに、奴等は今二手に分かれて行動しているわ……王1、雑兵3の別行動ね。 だから今回、私達も二手に分かれて行動しようと思う」
「了解だぜ……一刻も早く鎮静化しないといけないしな……」
アンディとナターシャも彼の声に静かに頷く。
まだ半月にも満たない期間しか共に過ごしていない彼等ではあったが……勇という象徴に同調するかの様に、行動理念は既に魔特隊の理念のそれへと準じていた。
「アンディとナターシャは雑兵三匹をお願い。 私と心輝が王を叩く」
「っしゃ、背中は任せてくれ!!」
レンネィの提案に俄然やる気を見せる心輝。
だが彼とは逆に……雑兵退治を割り当てられた二人はどこか不満そうだ。
「ちぇ……オイラ達も王って奴と戦ってみたいなぁ」
「四人ならきっと楽勝―――」
そう言いかけた時……レンネィの拳が強く握りしめられ、口元が大きく歪んだ。
「調子に乗るなッ!!」
突如レンネィの怒号が機内に響き、心輝達が驚き身動きをすら止める。
ヘリコプターを操縦していた操縦士までもが彼女の声に驚き、戸惑いを見せていた。
「これは死闘よ……如何な相手だろうと最善策を尽くさねばならない……お前達は自分の役目を果たせ!!」
今までに見せた事の無い程のレンネィの怒号。
彼女をそう揺り動かせる程までの相手だという事なのだろう。
彼女の怒りの剣幕を前に……いつも調子に乗る二人が声も上げられず、ただその口をぱっくりと開けたまま怯えの表情を浮かべて彼女を見続けていた。
「二人共、返事はッ!?」
「あっ……は、はいっ!!」
「はい……」
しおらしく答えた二人は思わず互いの手を繋ぎ……そのまま静かに顔を俯かせる。
そんな二人を前にしたレンネィは……「フゥ」と溜息を一息吐くと、その顔を落ち着いたシワ一つ無い表情へと戻していった。
「……私達の目的はあくまで緊急事態への対処……その事を忘れてはいけないわ。 シンもいいわね?」
「……ウス」
心輝もまた彼女の気に充てられたのだろう……体に命力を漂わせ、備えた魔剣を熱くさせていた。
「……現場までまだ時間がある……少し、話をしましょうか……」
全員の意思統一が出来たと感じた彼女はそう呟くと……そっとシートの背もたれに背を預け、口を開く。
そして静かに語り始めた……かつて彼女が経験した、宿敵との戦いの出来事を。
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