時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
700 / 1,197
第二十五節「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」

~二人で、生きていく~

しおりを挟む
「アニキィーーーーーー!!」

 怒涛の猛攻も虚しく、アンディがアンドルルゴーゼの凶行によって地に伏した。
 左腕を潰され、床へと叩き付けられ、その体は横たわったまま動かない。
 ただおびただしい血を流し、衣服を、床をも朱に染め上げるだけで。

 ナターシャの必死の叫びにも、反応を見せる事も無く。

「ハァ、ハァ、調子に乗りやがってぇ……!!」

 一方のアンドルルゴーゼも、もう既に余裕は一切無い様だ。
 先程の連撃を防ぎきれず、無数の傷跡が刻まれてのだから当然か。

 でも、その脅威はこうして叩き伏せた。
 ならばもう、恐れるものは何も無い。

「フヒヒッ!! だぁがぁ~!! こうして肉団子にしちまえば関係無いってなぁ~!!」

 後は残る一人ナターシャを同様に叩き潰せば、アンドルルゴーゼの勝ち。
 どうやらそれも、難しい事では無いのかもしれない。

 それはナターシャが唖然と立ち尽くすだけだったから。
 アンディが倒されたショックで思考が止まってしまったからだ。

 元々ナターシャは自分自身で考えて動く様な人間ではない。
 いつもアンディと共に動き、考えを同調させて一緒に動いているだけで。
 魔剣の【共感覚】が拍車を掛け、アンディの心に同調トレースして動いているだけだ。 

 その同調元が倒れた今、自分で何がしたらいいのかがわからない。
 だから立ち尽くす事しか出来なかったのである。

 そうなればもはや、敵にとっては格好の的というもので。

ドッガァ!!

 間も無く、巨大な拳がナターシャの体を殴りつけ。
 たちまち小さな体がまるでピンボールの様に床を跳ね飛んでいく。

「がっ!?」

 でもその勢いは言う程激しくは無い。
 止まった直後にもナターシャが立ち上がろうとする事が出来るくらいには。

 そう、アンドルルゴーゼは手を抜いているのだ。
 ナターシャにはもう抵抗する意思さえ感じなかったからこそ。
 後はいたぶりながらゆっくりと殺すだけ―――そう考えたが故に。

「予想以上に苦戦したがぁ~もうこれで終わりだぁ!! 後はゆっくりじっくりコトコトと料理してやろぉう!! 俺は丹念に仕込む方が大好きだからねぇ~!!」

「あ、ああ……」

 そこにもう慈悲は無い。
 口調こそ戻ってはいるが、内心では煮えくり返ったままで。
 二人に刻まれた鬱憤をナターシャで晴らそうとしているのだから。

 〝弱者をいたぶる事こそが悦び〟
 その様な考えを是とする者がここで立ち止まる理由など、ありはしない。

 故に立つ。
 ナターシャの目前に。
 その鬼気滲む笑みを露わにしながら。

 彼女の身体をその影で覆い尽くして。



 だがその時―――



 声が聴こえた。
 音にもならない囁きが。

 心に訴える様な強い想いと共に。
 
―――止まるな―――

「えっ?」

 ナターシャだけに聴こえていた。
 魔剣を通して、聴こえていた。

―――止まるんじゃねぇ―――

「アニキ……?」

 アンディの声が届いていたのだ。
 耳からでも骨からでもなく、心へと直接に。

―――止まったら、オイラ達は……―――

 止まるなと、訴える。
 諦めるなと、訴える。

 二人はまだ、加速し続けているから。
 今なお止まった訳ではないから。

 だから心が訴える。



 〝まだまだ俺達は先に進める〟のだと。



「だから……止まるんじゃ……ねぇ!!」

 そしてこの声は、耳にも聴こえていた。
 ナターシャにも、アンドルルゴーゼにさえも。

「なぁにぃ~!?」

 そう気付いて振り向いて見れば、景色の先で蠢く影が。
 なんとアンディが立ち上がっていたのである。

 その潰れた左腕をぶらりと下げ。
 利き腕ではない右手で魔剣を掴みながら。
 真っ赤な鮮血を流そうとも。

 それでもなお力強く、両足でしっかりと地を突いて。

「アニキ、なんで……」

「オイラ達が、止まったら……それだけ、救えなくなる……!! 守れた人だって、家族だってぇ……!!」

「ッ!!」

 例え体が震えようとも。
 例え目が霞もうとも。

 もう後悔したくないから。
 守りたいと思える人を守り抜きたいから。

 その想いに応え、ナターシャも立ち上がる。
 それはその声に導かれたからではない。
 アンディが立ったからでもない。

 彼女もまた同じ想いを強く抱いていたからこそ。



 だから二人は再び、魔剣に力を灯す。
 通じ合った心を一つに、【共感覚】を加速させる為に。
 


「だから進むんだナターシャ……オイラ達は……止まっちゃダメなんだあーーー!!」
「アニキィーーー!!」



 その想いが、その願いが二人に力をもたらす事となる。
 心の力を糧とする命力と、二つの心を繋ぎ巡らせ合う能力があるからこそ。

 故にこうなる事は必然だった。
 その時、二人には未来が見えていたのだ。

 己が刻むべき軌跡と、その結末が。

 それは二本の魔剣が見せた幻影か、幻想か。
 それとも、二人の心が導き出した奇跡なのか。

 その全てが見えた時、二人は踏み出していた。
 今はただ、見えた未来に従うままに。

「うおおーーーーーー!?」

 アンドルルゴーゼが吼える。
 二人の世界は彼には見えないから。

 これから刻まれる未来いまを眺める事しか出来ないのだから。



 無数に分身した二人の成す未来を。



 それは奇跡の所業か。
 それとも必然の結果か。
 二人の姿はもはやアンドルルゴーゼさえも捉える事は叶わない。

 これぞまさに神速、まさに越界。
 肉体限界すら超え、物理法則すら超え、刻む軌跡は地さえ付かず。
 生まれた輝きの繭は、まさしくの球体と化す。

 銀と紅の交錯球。
 更に幾重にも残光を重ね、その色合いを深めていく。
 場一杯に響き渡る程の凄まじい鳴音を掻き鳴らしながら。

 これこそが二人の究極。
 これこそが目指していた形。

 加速し加速した至極の到達点。



 それこそが【越界共感覚ニェクトーヴァ】。
 【レイデッター】と【ウェイグル】がもたらした進化の可能性である。



 全ては一瞬だった。
 二人が着地を果たした時、何もかもが終わっていたのだ。

 光の繭に包まれていたアンドルルゴーゼは、もう原型すら留めてはいない。
 魔剣ごと、その肉体ごと、隙間も無い程に切り刻まれていたから。
 あの達者だった口も、語るどころか―――もう動かす事さえ不可能。

 皮も筋も骨も、意思さえもが二人の技によって刻まれ尽くしていたのだから。

 こうなればもう血飛沫さえ舞いはしない。
 まるで溶けるかの如く、大量の体液と共に肉体ごと床へと転がるのみ。
 巨体が崩れ落ちたのにも拘らず、地響きさえ立てない程にべしゃりと。

 アンディとナターシャの勝利である。

「ウゥ……」

「アニキッ!?」

 ただ、完全勝利とはとても言い難いが。

 アンディも相応に重傷であるが故に。
 勝利を確信する間も無く、途端に崩れ落ちる。
 とはいえ、しっかりと膝肘で堪えて意識は保ったままに。

 そんなアンディの下にナターシャが空かさず駆け寄っていて。

「アニキ待ってて、今命力送るよ」

「ああ……」

 苦痛もなにもかも共有しているからこそ、どれだけ辛いかわかっているのだろう。
 傷を確認する間も無く、応急処置の為に命力を送り始める。

 そのお陰か、僅かにだがアンディの苦痛が和らいだ様だ。
 しかめていた表情に僅かな緩みが。
 過呼吸気味の息遣いも通常呼吸のリズムへと戻っていく。

 出血は酷いが、意識はまだハッキリとしている。
 つまり重傷ではあるが重体ではない。
 ならば手当をすれば助かる望みが充分にあるという事だ。

「アニキ、上にいこ! 皆の所に―――」

「わりぃナターシャ……オイラ多分もう歩けねぇ……」

「アニキ……」

 だからと言って、上にホイホイと行けるほど元気という訳でもない。
 あのアンディが柄にも無く弱音を吐いているのが何よりもの証拠だ。
 それをよく知るナターシャだからこそ、心配を拭えない。

 けれどそんな時アンディが浮かべていたのは―――微笑みで。
 
「でも……お前はまだ戦えるだろ。 多分皆まだ……戦ってる」

 地上では今なお魔者がひしめいている。
 地下に降りてこない理由こそわからないが、上に昇れば戦いになる事は必至。

 こんな状況であろうとも、アンディは探っていたのだろう。
 上で何が起きているのか、という事を。
 そして何が起きているのか、それとなく察したからかもしれない。

 それを見越して、こうナターシャに伝えたのだ。
 〝お前ならこの窮地を乗り越える事が出来る〟と。

「だから戦うんだ……お前が家を、守るんだ……」

「アニキ……わかった、アタイ戦うよ」

 魔特隊本部という二人の家を守る為にも。
 安息の地をこれ以上踏み躙られない為にも。
 アンディはナターシャに託したのだ。

 自分の代わりに戦う事を。

 その意思を受け、ナターシャが【レイデッター】をその手に掴む。
 家を、安息を―――そしてアンディを守る為に。

 だから代わりに【ウェイグル】を鞘へと納め、ひょいっとアンディを担ぐ。
 何が起きたのかわからず慌てようとも構わずに。

「お、おま、何して―――」

「アニキも一緒に行くの。 一緒に戦う!!」

「ナターシャ……仕方ねぇなぁ、へへ」

 そして二人は行く。
 自分達に出来る事を成す為に。
 例えその先にどんな相手が待ち受けていようとも、立ち止まるつもりはないから。

 二人の加速いきざまは―――まだ終わらない。





 二人はいつも一緒だった。
 出会った時から一緒だった。

 そして今でも一緒だ。

 きっと死ぬ時も一緒かも知れない。
 でも、それをも叶えたいから、二人はこれからも一緒に行く。



 二人で、生きていく。
 仲間達と一緒に、生きていく。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...