時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
949 / 1,197
第三十三節「二つ世の理 相対せし二人の意思 正しき風となれ」

~贖罪と否定 無責任の死に憤る~

しおりを挟む
「あのぅ……ユウ=フジサキさん、リッダが大変失礼いたしましたぁ」

「いや、彼女の気持ちもわかりますから」

 立ち上がったアネットが大きな体でしきりに謝りながら頭を落とす。
 勇の背丈すら越す彼女の礼を前に、勇すらどこか引き気味だ。
 茶奈にしてみれば、もはやリッダと変わらず見上げる様に顎を上げて唖然としていた。

「だ、だが責任はとってもらう。 何があろうと私の両親を殺した事には変わりない」

「リッダちゃん!!」

 相変わらずの強情な態度に、アネットも堪らず怒声を浴びせかける。
 しかしリッダは引かぬ顧みぬの姿勢を貫き、アネットにすらそっぽを向く始末だ。

 そんな二人を前に、勇は何を想ったのか……軽く「スゥ」と息を吸い込んだ。



「わかった……なら、俺の命を奪えばいい」



 途端、衝撃の一言に茶奈とアネットが驚愕する。
 リッダもまた、勇が一瞬何を言ったのか理解出来ず……唖然と目を見開かせていた。

「何を言ってるんですか勇さん!!」

「俺は本気だよ茶奈。 俺はここまでに、多くの人を殺し過ぎたんだ」

 その時勇が茶奈に向けたのは、全てを悟った穏やかな瞳。



 勇はそう覚悟する時が来るのだろうと思っていた。
 いつか自分が犯してきた罪を償う時が来るのだろうと。

 それは仕方のない事だった。
 殺さなければ、殺されていたから。
 生きる為に必死だったから。

 でもいつしか殺すだけの側になった時、彼は同時に思い始めていた。
 これは一方的な殺戮と何ら変わらないのだと。
 そこで彼は罪の意識を憶えたのだ。

 そして今、こうして罪を問われた。
 だから彼は覚悟を決めて、こう言い切ったのだ。

 自身の命で全てが償えるなら。
 茶奈や仲間達が犯した罪を共に償えるなら。



 もはやこの命は、惜しくは無い。



「―――でも、今はダメだ。 世界を救い、全てが正しい形に戻るまで俺は死ねない。 だからそれまで待って欲しい。 必ず俺が救ってみせるから」

「フジサキユウ……貴様は―――」

 その時勇がリッダに見せたのは微笑み。
 一切の恐怖や哀しみをも感じさせない、慈しみを交えた穏やかな笑顔。

 死を恐れる事無く、皆の生の為に自身を投げ打つ。
 リッダにはその姿が……今は亡き父の姿と重なって見えていた。

 自身が愛した……誇り高き父の姿と。



「そんなの、絶対にダメですッ!!」



 そんな中、突如として茶奈が叫び声を上げた。
 突然の事に勇が驚き、その身ごと振り向かせる。

 その時彼の眼に映ったのは……悲しみの余り涙を零す茶奈の素顔だった。

「茶奈……」

「勇さんは勝手なんです!! そうやって自分だけで決めて、自分だけで命を粗末にして!! なんでいつも皆の事を考えてる様で考えてないんですか!! 皆、勇さんが死なない様にこれだけ頑張ってるのにッ!!」

 その場に響き渡る程の叫びが彼女の口から絶えず放たれる。

 茶奈がここまでに感情を見せる事はあまり無い。
 感情表現が豊かになった今でも。
 特に怒りや悲しみの感情をここまで強く押し出す事はほとんど無いと言って等しい。

 それ程までに彼女は憤っているのだ。

 それ程までに……勇の事を想っているから。

「それなのに勇さんが自分から死んだら、もう誰も止められないじゃないですか!! そんなのダメです、許さない……!! 例え皆が許しても……私が絶対に許さないッ!!」

 リッダやアネットが怯む程の怒号。
 それを吐き散らした時、たちまち空気が静寂を迎える。

 それは茶奈が己の内に秘めた想いを固める為の間。
 想いのままに、願うままに……訴える為の。





「―――それでも勇さんが死ぬと言うなら……私も死にます!!」





 その一言は……震えていた。

 覚悟など出来ている訳も無かったのだろう。
 死ぬ事が怖くない訳は無いのだ。

 今までに、一杯人の死を見て来た。
 いつか自分も同じ様に戦場の中で死を迎えるかもしれない。
 そう思った事は数知れない。

 それでもこう言わしめたのは、勇と共に生きる事を選んだから。

 彼の愛を受け入れて、彼に愛を打ち明けて。
 こうして二人で歩もうとしたから。
 彼の居ない世界に、自分の生きる理由は無いのだと。

 そう伝えたかったのだ。

 彼女は不器用だから、そうとしか言えなかった。



 でもその一言は……どう言い換えるよりも強く、勇の心を激しく撃ち貫いた。



「茶奈、それは―――」
「否定はさせません。 貴方が死ねば私が死ぬ事も止められません。 もう決めましたから。 私は何があっても勇さんと生きるんです。 生きて未来を見届けるんです!! だから死ぬなんて言わないで……生き続けるって言ってください……お願いだから……っ!!」

 その時、勇の胸に「トスン」と軽い衝撃が響く。
 茶奈が彼の胸に飛び込んだのだ。
 悲しみの余りに啜り泣きながら。

 例え世界の命運を握る二人であろうと、ここに居るのはただの人間、ただの男女、愛する者同士。
 でも互いが納得出来なければ、そこで二人は終わる。
 そして戦う理由は無くなり、世界が終わるだろう。

 勇もまた、それを望まない。
 彼女の想いに応える事が、彼が最も望む願いだから。

 

「ごめん茶奈。 俺、浅はかだったよ……本当にごめん」



 その一言と共に……勇は茶奈をそっと抱き込むのだった。



 その時、二人を見つめるリッダが何を想うのか。
 父親の面影を感じる勇と、その彼に寄り添いながら共に生きる事を誓う茶奈。

 それが彼女には……父と母の懐かしき姿と重なって見えていた。

 ずっと昔にもらった愛情とぬくもり。
 それらを全て与えてくれた、敬愛する父と母。



 そう見えた時、自然と彼女の口元に……優しい笑みが戻っていた。 



「あ、あのな、良い雰囲気の中で悪いのだが―――」

 勇と茶奈のムード溢れる雰囲気の中に突如としてリッダが小さな声で割り込んだ。
 それはもう、まるで障子に大きな穴を開けて覗き込むが如く。
 堪らずアネットが背後で「ああもう……」と頭を抱える中で。

「べ、別に命まで取ろうなんて思いはしないんだからっ……そのな―――」

 勇と茶奈が抱き合いながらも「ポカン」としていると、リッダがバツが悪そうに視線を外しながら落ち着かない様を見せる。

「何て言うかその……せ、世界を救うんだろ? ならそれをすれば……許してやらないでもない」

「リッダちゃあん……っ」

 赤面……もとい紫面しめんを見せながらそう答えるリッダに、アネットは感無量だ。
 思わず彼女に抱き着き、巨大な腕で潰さんばかりに締め上げる。
 そんな障壁の働かない殺人ハグを喰らい、リッダが破裂せんばかりに膨れた面を見せつけていた。

「フフッ……リッダさんの顔、面白いですね」

「じょ、じょうだんではああ お おっぎょごおおお!!」

 突如として訪れた緩やかな空気が勇と茶奈の悲しみを跳ね退ける。
 決して意図した事では無いが、少なくともリッダが望んでいた形に戻った事には変わりはないのだろう。

 そう、彼女がここに居る事こそがその理由とたり得るのだから。

 例え一時的に本能に負けたとしても、平和を望むという願いは変わらない。
 今こうしてそれも克服出来たのだから。
 誤解も晴れたのだから。

 もはや彼女に、勇を責める理由などありはしなかったのだ。





 こうして、世界の真実を伝える前の些細な出来事は終わりを告げた。
 リッダとアネット……珍妙なコンビの二人は最終的に勇の伝えようとしている事実をしっかりと聴き遂げる事を誓い、その場を後にしたのだった。

 二人の賛同を得たにも足る出来事を経た事で勇達は更に自信を付け、来たるべき会場に臨む。
 世界に認められ、その上で真実の救世を実現する為に。



 世界中の要人達が集まる中で……遂にその時が訪れる。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...